高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)

目次

  1. 前身は写真現像 高度経済成長を背景に急成長を果たす しかしフィルム市場縮小を見据え、いちはやく業種転換、温泉事業参入で再度成長路線へ
  2. 「豊洲 千客万来」は、当初計画より5年遅れて開業も、想定上回る来場者
  3. 施設内の温浴施設は、魔法瓶型の保温大型トレーラーで毎日湯河原の天然温泉の湯を運ぶ 館内は一日中ゆったりと過ごせるサービスが用意されている
  4. インカム機能搭載アプリで館内スタッフの通話網を確立 Wi-Fiと電話を併用 柔軟な通話範囲設定と多様な機能を使いこなす
  5. 館内に50台のデジタルサイネージでいざという時に緊急速報や防災情報を表示 上質なサービスと自動化ニーズの兼ね合いを模索 先進システムは積極的に導入する伝統
  6. 事業の根幹にSDGs意識 国連採択前からグループ一丸で環境配慮型経営を推進 スマートフォン画面で電力や水道使用量をモニタリングし即座に原因究明
  7. インバウンドや国内観光客、近隣住民など多様な客層の集客力が強み 大型バス27台分の駐車スペースを確保し団体客の受け入れ態勢も整える
  8. 自由でチャレンジが出来る社風 自律型社員が育つ仕組も
中小企業応援サイト 編集部
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高級温泉旅館のくつろぎとおいしい食事を都会で気軽に楽しめる――。万葉倶楽部株式会社が運営する宿泊や休憩ができる温浴施設は、良質な天然温泉と手軽な日帰り温泉の良いところ取りをしたワンランク上のおもてなしが好評だ。

全国に10施設(2024年9月1日現在)を展開しているが、なかでも2024年2月にオープンした「豊洲 千客万来」は箱根・湯河原の天然温泉の湯が毎日運び込まれる温浴施設「東京豊洲 万葉倶楽部」を併設し、多くの来館者が訪れている。最大の魅力は湯河原と箱根の上質の温泉を魔法瓶型の20トントレーラーで毎日運び、湯河原と箱根の温泉と同じ天然温泉が楽しめることだ。同社はここで、スマートフォン利用の館内連絡網や緊急表示機能を備えたデジタルサイネージ(電子看板)など、先端ICT機器活用と上質なサービスの融合を目指している。(TOP写真:東京湾を一望できる足湯庭園は来場者が自由に利用できる人気スポット。「東京豊洲 万葉倶楽部」の最上階には入館者専用の展望足湯庭園もある)

前身は写真現像 高度経済成長を背景に急成長を果たす しかしフィルム市場縮小を見据え、いちはやく業種転換、温泉事業参入で再度成長路線へ

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
フィルムカメラ市場の転換期に温泉事業に参入

神奈川県小田原市に本社を置く万葉倶楽部の前身は、高橋理代表取締役社長の父、取締役会長高橋弘氏が1957年に創業した町の写真館だ。1960年には友人の出資を募ってDPE事業を分離し日本ジャンボー株式会社を設立。高度経済成長期という時代背景もあり、カメラや写真現像の需要増とともに事業は拡大。全国各地に事業拠点を増やし独立系では最大手のDPE事業者に成長して1991年に株式上場した。

しかし、富士写真フイルム株式会社(現富士フイルム株式会社)が1990年にデジタルカメラを世界で初めて発売。1995年には国内カメラメーカーが軒並みデジカメを製品化して大ブームになるなど、写真フィルム需要の先行きに陰りが見え始めた。

熱海で生まれ育った弘社長(現代表取締役会長)が温泉事業参入を考え始めたのもその頃だった。メインバンクの紹介で東京・町田市に土地を購入したのを機に、熱海や湯河原から運んだ良質の温泉を満たした日帰り温浴施設で高級旅館に来たようなくつろぎを楽しんでもらう、という万葉倶楽部の事業の骨格が固まった。

予想を上回る勢いでデジカメ需要が拡大し、国内のフィルム出荷量は1997年をピークに急減。日本ジャンボーが万葉倶楽部を設立して温浴施設の第1号となる「東京・湯河原温泉 万葉の湯」が町田市にオープンしたのはくしくも1997年。上質な温泉を気軽に楽しめるコンセプトが人気を博し、温浴施設はその後全国に拡大した。DPE事業に代わって万葉倶楽部がグループ事業の屋台骨に急成長することになる。その後、2001年には万葉倶楽部はホテル事業にも参入した。

「豊洲 千客万来」は、当初計画より5年遅れて開業も、想定上回る来場者

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
「豊洲 千客万来」の夜の全景。 右奥のビル、温浴施設「東京豊洲 万葉倶楽部」では豊洲にいながら天然温泉を楽しめる。

豊洲 千客万来は、単純な温浴施設とは異なり、同社初の都市開発事業といえる大掛かりなプロジェクトだった。しかし、東京都の豊洲市場移転延期や新型コロナ感染拡大など曲折を繰り返す中、予定よりも5年遅れてのオープンとなった。事業の先行きを不安視されながらもオープンにこぎつけたが、ふたを開けてみれば、予想を上回る盛況ぶりだ。

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
豊洲市場の新鮮な食材を使った店舗が人気を集める「豊洲 千客万来」の目利き横丁

施設内の温浴施設は、魔法瓶型の保温大型トレーラーで毎日湯河原の天然温泉の湯を運ぶ 館内は一日中ゆったりと過ごせるサービスが用意されている

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
館内は1日では利用しきれないほど様々な施設が用意されている(ホームページより)

同社のほかの都市部の温浴施設と同様、熱海や湯河原から積載量20トンの巨大魔法瓶のような大型トレーラーで毎日温泉の湯を運ぶのが特徴だ。都会にいながら天然温泉を満喫できるのがスーパー銭湯などと差別化する最大の売りでもある。

温泉も露天風呂・大浴場・水風呂・寝湯・ドライサウナ・塩サウナ・ナノミストサウナ・炭酸泉などバリエーション豊富。展望足湯庭園やリラックスルーム、レストラン、家族風呂、ウエルネス、岩盤浴、休憩ルーム、宿泊施設も用意され、来場者の様々なニーズに応えている。宿泊施設は、大型テレビのある絶景の部屋や、窓から江戸の街並みを再現した通りを眺められる部屋など趣向を凝らした。プレミアム会員向けの高級ラウンジも用意されている。

東京湾を一望できる無料の展望足湯「千客万来足湯庭園」(TOP写真参照)は、地域住民からの要望もあり、夜景も楽しめる時間帯に利用時間を延長した。地域に根差した施設として存在感を高めつつあるようだ。

インカム機能搭載アプリで館内スタッフの通話網を確立 Wi-Fiと電話を併用 柔軟な通話範囲設定と多様な機能を使いこなす

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
目黒部長は、「スマートフォンベースのインカムは、通話グループなどを柔軟に設定できるし緊急通報もすぐできる。通常のインカムより使い勝手はいい」と満足そうだ

開業に当たって、高品質なサービス提供のために重視したのが、広大な館内でスタッフ間の連絡をいかにスムーズに確保するかだった。業務推進本部施設管理部の目黒部長を中心にプロジェクトチームが検討を続けた結果、インカム用アプリを搭載したスマートフォンを導入することにした。

目黒部長は「隣の豊洲市場で多く使われているため通常のインカムでは混信するのがわかって導入を断念した。Wi-Fiと通信事業者の電波が併用できるスマホでインカム機能を利用することにした」と導入経緯を説明する。

アプリによるインカム機能なので、フロント、ホール、各施設で容易に通話範囲が選択できる柔軟性があり、忙しく動き回る業務環境でも必要な通話を漏らすことなくやり取りできるメリットがある。また、Wi-Fiがつながりにくい場所では電波による通話も選べるのは、通常のインカムにはない特徴だ。館内には約50人の外国人技能実習生が働いており、通常の日本語は理解できていても、いざというときに多言語翻訳機能は安心できる機能だ。

ただ、スタッフに配布した約160台のスマートフォンで、連絡がすぐにスムーズに行えるようになったわけではない。「すぐに使いこなす人もいたが、不平不満も多かった。操作をよく理解しないまま使って起きる不具合も頻発した」(目黒部長)

2023年9月の竣工から開業までの5ヶ月間、多様な機能の選択や利用環境に応じた適切な使い方の指導など一つ一つ分析して問題点をつぶし、現在はほぼ全員が使いこなしているという。同社の各施設では通常、スタッフの連絡はインカムを利用しているが、東京豊洲 万葉倶楽部のスマートフォン版インカムの導入効果が評価されれば、他の施設に展開する可能性もありそうだ。

館内に50台のデジタルサイネージでいざという時に緊急速報や防災情報を表示 上質なサービスと自動化ニーズの兼ね合いを模索 先進システムは積極的に導入する伝統

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
館内約50ヶ所に設置されているデジタルサイネージは施設の案内のほか必要に応じて緊急速報や防災関連情報も表示される
高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
東京豊洲 万葉倶楽部の入口のエレベーターの天井には巨大なデジタルサイネージが迎える。温泉を楽しむためのトンネルのような設えだ

館内のいたるところに設置されているデジタルサイネージは合計50台。エレベーターホールの天井には幅3,250mm・縦2,000mmの大型LED画面が設置されている。各サイネージには施設内やイベントの案内だけでなく、災害情報などを自動配信できる情報混合表示システム「アラートマーカー」機能を装備。必要に応じて緊急速報や防災関連情報を画面に表示することができる。

ただ設置して終わりではなく、来客数の多い大規模施設だけに、緊急速報の表示時間の問題や、パニック誘発を回避する有効な表示方法など、きめ細かなコントロールが求められるため日々検討を続けている。

「万葉倶楽部は上質なサービスが売りなので、機械化によって味気なくなることは避けたい。ただ一方で自動化の要望も無視できない」と目黒部長は語る。利用客からの入退館管理の自動化を求める声に応じて、自動入退館管理端末の設置にも取り組んでいる。

会長は業務効率化を進めるために1968年、世に出始めたばかりのオフコンや汎用コンピューターを購入。その後も先進機器を積極的に導入してきた。時代や立地環境による変化に対応して新システム導入を躊躇しない柔軟性は、会長、社長と引き継がれてきた伝統といえそうだ。

事業の根幹にSDGs意識 国連採択前からグループ一丸で環境配慮型経営を推進 スマートフォン画面で電力や水道使用量をモニタリングし即座に原因究明

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
館内の電力や水道の使用状況をスマートフォンの画面でモニタリング。異常があればすぐに原因を特定できる

温浴施設やホテルといった電力と水を大量に使う事業だけに、節電や節水などSDGsに通じる省エネ対策や環境配慮は収益に直結する重要な施策ともいえる。万葉倶楽部グループとしてのSDGsへの取り組みは温浴事業参入から本格的に始まった。

井戸水をろ過して使用したり、湧水の近隣施設への提供、省エネ型ボイラー導入、太陽光発電事業の取り組み、温泉の熱交換システム利用や排水のろ過使用など、環境配慮とコスト削減を両立させる施策は枚挙にいとまがない。

目黒部長のスマートフォンには、館内全体の電力使用状況や水道使用量などをリアルタイムで画面表示できるモニタリング機能がある。「例えば、水道使用量が跳ね上がっていたらこの画面でどこか場所を特定して、その原因をすぐ調べることができる」(目黒部長)。施設全体の省エネ対策を1台のスマートフォンで監視しているわけだ。

2015年に国連サミットで「SDGs」が採択される前から万葉倶楽部グループの事業の根幹にはSDGs的意識が浸透していたといえる。プラスチック資源循環促進法に対応した使い捨て備品は再利用、リサイクル可能備品に転換しつつあり、プラスチック製会員証からスマートフォンによるデジタル登録への移行も促進している。

インバウンドや国内観光客、近隣住民など多様な客層の集客力が強み 大型バス27台分の駐車スペースを確保し団体客の受け入れ態勢も整える

高級温泉旅館をイメージしたワンランク上のおもてなし 「豊洲 千客万来」内の天然温泉「東京豊洲 万葉倶楽部」 おもてなし充実のため先端ICTを装備 万葉倶楽部(東京都)
豊洲界隈では唯一、大型バスが27台収容できる駐車場を整備。団体客の受け入れ態勢も万全だ

豊洲 千客万来は、豊洲市場という東京の台所に隣接し、市場からの新鮮な食材が売りの店舗群と良質な温泉が強力な集客パワーとなっており、それだけメディアの注目度も高い。当初は1万円もする高価な海鮮丼が話題になることもあったが、「高級なものも値段相応のクオリティーだし、お値打ちなものもある。それぞれ評価されている」(目黒部長)。インバウンドだけでなく国内観光客や近隣住民など多様な客層を取り込んでいるのも豊洲 千客万来の強みだ。1階には大型観光バス27台が停められる駐車場もあり、団体客の受け入れ態勢も整っている。

自由でチャレンジが出来る社風 自律型社員が育つ仕組も

目黒部長は、中途入社だが「自由でいろんなことにチャレンジできる良い会社」と語った。万葉倶楽部の10施設も様々なタイプがありそれぞれ独自で運営をしているが、温泉担当責任者や食堂担当責任者等の同じ職種の責任者同士でのコミュニケーションにより、切磋琢磨してサービスの向上を常に行っている。

このことは一般の社員も同じで、常に提案や新たなチャレンジへの門戸は開かれている。もちろん自らが提案したことに対する実現プロセスがしっかり検証されていないと強烈なダメ出しが行われる。良い意味で社員が育つ仕組みだ。これからも注目したい。

企業概要

会社名万葉倶楽部株式会社
住所神奈川県小田原市栄町1-14-48 ジャンボーナックビル8階
HPhttps://www.manyo.co.jp/
電話0465-22-6665
設立1997年2月
従業員数1,477人(2023年9月末)
事業内容 旅館業、公衆浴場経営、旅行業、ホテルおよび保養所並びに研修所の経営、レストラン・飲食店の経営ほか