元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)

目次

  1. 民間の災害救援隊育成を狙いに、たった一人で雑木林を開拓
  2. キャンプ場運営に乗り出し、宿泊施設など整備
  3. 四輪バギー、フィッシングなど野外活動メニューも豊富
  4. ホームページ作成ソフトを契約、使い勝手の良さを評価
  5. 顧客管理機能を備えたクラウド型宿泊者受付システムも活用
  6. ICTの活用と従業員の増加による業務効率化を実感
  7. シニアをターゲットに「ウェルネス」がテーマの複合的な滞在型宿泊施設目指す
中小企業応援サイト 編集部
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報は中小企業応援サイトてお知らせいたします。

「上州武尊(ほたか)」と呼ばれる武尊山を背にした中山間地域に広がるキャンプ場「星の降る森」(群馬県沼田市)。テントサイトのほかにコテージやバンガローなどを備えており、四輪バギーなど多彩なアウトドアスポーツも楽しめる施設で、その名の通り満天の星を仰ぐことができる豊かな自然環境が魅力だ。それでもまだ発展段階にあり、今後は「ウェルネス」をテーマに大型サウナや農場なども新設・運営し、キャンパーだけでなくシニアらも楽しめる複合的な滞在型宿泊施設に育て上げていくのだという。ホームページを刷新し、集客力アップにも力を入れている。(写真:天然の谷地形で満天の星を仰げるテントサイト)

民間の災害救援隊育成を狙いに、たった一人で雑木林を開拓

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
たった一人でキャンプ場を開拓した齋藤周一会長

星の降る森の敷地は長辺が約1,000メートル、短辺が約600メートルと実に広大だ。それをたった一人の男が雑木林を切り開いて造成してきたというから驚きだ。有限会社星の降る森会長で、地元の人たちに「隊長」の愛称で親しまれている齋藤周一氏がその人だ。陸上自衛隊唯一の落下傘部隊である第1空挺団で特殊任務の訓練を重ね、極限状況下で生き抜くための体力とノウハウを習得。退官後の1989年、42歳の時に生まれ故郷であるこの地に「横穴を掘って住み着いた」(齋藤会長)のだという。

まず道を造り、次にフィンランドから輸入したロッジを建てた。当初の狙いは民間組織による災害救援隊の設立・育成だった。「首都直下型地震などの大災害が発生すれば、とても自衛隊や警察、消防団だけでは手に負えません。特殊な訓練を受けた民間の専門組織が必要になるのです」(齋藤会長)。必要な資金を稼ぐため、サバイバル術を教える塾やパラグライダー操縦を教えるクラブを運営。資金が貯まるたびに地主の一人ひとりと粘り強く交渉して土地を買い増していった。これまでに土地を譲り受けた地主は数十人にも上るそうだ。

キャンプ場運営に乗り出し、宿泊施設など整備

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
キャンプ場運営に乗り出した経緯を話す齋藤佳江代表取締役

1999年4月に有限会社星の降る森を設立したことを機に、同地をキャンプ場として本格的に整備した。「会社を設立したのは結婚した翌年でした。(齋藤会長には)不本意だったかもしれませんが、キャンプ場として運営することでコンスタントにお金を稼げるようにしたほうがいいのではないかと提案したのです」。こう語るのは齋藤会長の妻で、現在、星の降る森代表取締役を務める齋藤佳江さんだ。オートキャンプ場からスタートし、バンガローやコテージなどの宿泊施設を順に建てていった。

もっとも、災害救援隊を育成するという目標は温存しており、設立から二十数年後の2023年8月に株式会社Team StarDustを新設、目標達成に向けて新たに活動を始めた。それまで星の降る森の代表取締役だった齋藤会長が新会社の代表取締役に就任し、佳江さんが星の降る森の後を継いで代表取締役になった。

四輪バギー、フィッシングなど野外活動メニューも豊富

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
ログコテージ「シグナス」の外観
元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
ログコテージ「シグナス」の内観

星の降る森には現在、自動車の横にテントを張れるオートキャンプサイトを中心に、キャンピングカーやバイク用なども含めたテントサイトが全部で76あるのをはじめ、バンガロー8棟、トレーラーキャビン、ログハウス、ログコテージ、ロッジ各1棟を配置。そのほかに売店やトイレ、シャワー、ランドリーなどからなる管理棟と受付棟があり、ドッグランやポニー2頭のいる馬場も備えている。湯の出る炊事場やトイレも随所に設置されている。

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
ホームページではアウトドア体験活動を詳しく紹介している

宿泊以外で楽しめるアウトドア体験活動として、自社で運営している四輪バギーをはじめ、近隣の施設と連携したフィッシング、ラフティング、カヌー、シャワークライミング、パラグライダー、乗馬を用意。顧客は宿泊とセットで予約する仕組みだ。手ぶらでキャンプを楽しめるように、キャンプ用品一式をレンタルするほか、齋藤会長が自ら施術する足つぼマッサージも受けられる。天然の谷地形を生かして、どこからでもプラネタリウムのように星を眺められるし、運が良ければムーンレインボーも見られる。

コロナ禍によるアウトドア人気とインスタグラムなどのSNS人気の高まりを背景にキャンプブームが盛り上がり、同社の収益も伸びてきたが、2020年、2021年でピークを打ち、その後は次第に落ち着いてきたという。佳江社長は「猫も杓子(しゃくし)も、というブームの時に比べ、キャンプする人も落ち着いて楽しめている感じです。長年にわたりキャンプを楽しんできた本来のキャンパーは、このブームの終わりを歓迎しているのではないでしょうか」と話す。

ホームページ作成ソフトを契約、使い勝手の良さを評価

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
星の降る森のホームページ

星の降る森は集客力を高めるため、2017年頃にシステム支援会社と契約してホームページを刷新。写真をふんだんに使って各種の提供サービスをわかりやすく伝えるようにし、動画による施設案内も掲載。適宜、新着情報も載せられるようにした。「それまではホームページを自分たちで作っていたんですけど、やはり素人なので限界があって無理でした。もっと見栄えの良い、頻繁に更新できるホームページにしたいと思い、新たに契約したのです」と佳江社長。更新作業などを担当している佐藤公治経営企画室長は「更新後の画面をお客様に見せる前に自分で確認しながら作れるので安心ですね」と、このホームページ作成ソフトの使い勝手の良さを評価する。

ユニークなのはホームページに掲載されている「動画deチェックイン」だ。利用する施設ごとに施設の場所や使い方、禁止事項などを説明する動画があり、予約を済ませた顧客はこの動画を見た上で、禁止事項などに関する質問に答え、すべて正解すると最後に「確認画面」が表示される。実際にチェックインする際に受付棟でこの「確認画面」を見せれば、通常10分程度かかるチェックイン時の説明を省略できる仕組みだ。受付棟の前にある看板のQRコードからも「動画deチェックイン」を使うことができる。

顧客管理機能を備えたクラウド型宿泊者受付システムも活用

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
宿泊者受付システムの画面で予約客をチェック

同社は顧客管理機能を備えたクラウド型の宿泊者受付システムも活用している。かつては予約サイトからメールで送られてくる顧客と施設利用の情報を同システムに手作業で入力していたが、システムに詳しい従業員が自動入力できるようにした。毎日の受付日報に始まり、空室状況や施設ごとの利用明細、顧客ごとの利用履歴などが管理できる。

クラウド型で、キャンプ場から離れた自宅のパソコンでチェックもできるので、佳江社長にとっても重宝しているという。ただ、「ちょっと細かい話ですけど」と佳江社長は前置きした上で、複数の顧客を代表して1人が予約すると、チェックアウトする時には1人の氏名で複数の顧客データができてしまうので、重複データを削除するなどが課題との事。

この宿泊者受付システムは売上推移をグラフ化することもできるが、佐藤経営企画室長は「売上データに他の指標も混ぜたいので、自分でエクセルを使ってグラフや表を作っています」と話す。特に宿泊業界で重視されるADR(客室平均単価)は毎日チェック、翌月の状況を推測し、SNSの発信量を増やすなど必要な手立てを打つようにしているのだという。

ICTの活用と従業員の増加による業務効率化を実感

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
顧客が最初に訪れる受付棟
元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
各種ICT機器が設置されている受付棟の内部

これらICTの活用と従業員の増加により、キャンプ場としての経営は軌道に乗った。「かつては連休の時など受付の仕事だけでも四苦八苦していました。私など朝、電話で起こされたら夜の食事まで、一切何も口に入れられないぐらいの激務でした」と佳江社長は振り返る。そして、「彼が来てくれてからスタッフのまとまりも良くなり、助かっています」と佳江社長が評価するのが、2017年に入社したというキャンプ場支配人の長谷川雅樹氏だ。

その長谷川支配人は星の降る森の魅力について、「隊長の個性的なところと、この場所の雰囲気ですね。首都圏から1時間半で来られる立地で、北には上州武尊がそびえ、インターチェンジから15分とは思えないほど自然が豊か。それに何といっても星がきれいです」と話す。若い頃にはキャンプをしながらバイクで米国を一周したというアウトドア派で、星の降る森では四輪バギーの体験指導も担当している。

シニアをターゲットに「ウェルネス」がテーマの複合的な滞在型宿泊施設目指す

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
今後の計画について語る齋藤会長(左)と佳江社長

今後の星の降る森について、佳江社長は「キャンプという枠にとらわれず、複合的な癒やしの場を提供するのが私たちの使命かなと考えています。少子化で人口も減っていきますから、お客様も若いファミリー層だけでなく、アクティブなシニアの方を取り込むことを念頭に置いています」と語る。齋藤会長が言葉を継いで、「ウェルネスを主体にした施設にしていこうと思っています。日本は世界一の長寿国と言われていますが、寝たきりで生かされても仕方がない。ウェルネスというのはそうではなくて、死ぬまで健康に過ごせることです」と強調する。いわば「健康増進のための滞在型宿泊施設」(佳江社長)を目指そうとしている。

すでに着手し始めている具体策として、農業体験ができる畑やホースセラピーがある。畑ではビール醸造用の大麦や、鑑賞と搾油を兼ねたヒマワリの作付けを始めた。動物に触れることにより得られる癒し効果をウェルネスに生かすため、今いるポニー2頭以外に引退競走馬を導入しホースセラピーを本格的に稼働させる。また日本の古式弓馬術「流鏑馬(やぶさめ)」の教室やイベントを常設することも検討している。沼田市内に城跡が残る沼田城は、真田十勇士で有名な真田家が歴代城主を務めた。流鏑馬を通じて、そうした史実をもっと多くの人に知ってもらい、町おこしにも役立てようとの考えだ。

これらの事業はTeam StarDustと連携して取り組む計画だ。Team StarDustの本来の目的である民間災害救援隊の育成も同時並行で進めていくことになる。齋藤会長は「私はあと50年頑張ります」と言葉に力を込めたあと、ニコッと笑った。

元自衛隊空挺隊員が始めたキャンプ場 複合型宿泊施設へ進化目指す ホームぺージ刷新で集客力アップへ 星の降る森(群馬県)
星の降る森の入口の看板

企業概要

会社名有限会社星の降る森
住所群馬県沼田市上発知町2543
HPhttp://www.star-forest.com
電話0278-23-7213
設立1999年4月
従業員数パートを含め約10人
事業内容キャンプ場の運営