受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)

目次

  1. 重度心身障害児に対応する多機能型放課後等デイサービスと児童発達支援事業所からスタートし、現在は3拠点を運営。重症児の利用者からは今も問い合わせが絶えない
  2. 福祉業界の縦割り制度への違和感。利用者のためには大きなくくりで包括的にサービスを提供できるほうがいいはず
  3. コロナ禍の状況を逆手に積極的に事業を拡大。軽度から重症児まで幅広く対応できる強みで「アソビバさんに相談すればなんとかしてくれる」と口コミで認知度が上がる
  4. 紙ベースの書類作成業務が多く、印鑑の押印など手作業もあって煩雑。児童発達支援管理責任者の負担感が大きく、人材確保の妨げにも
  5. セキュリティ対策のためVPNで接続し、データはNASで共有 出先からの情報チェックも可能となった
  6. 今後はプログラミングやeスポーツなど、子どもの成長に関わるICTのコンテンツを積極的に取り入れていきたい
  7. 「ゆりかごから墓場まで」トータルな支援を目指し、福祉サービスの新たなビジネスモデルの実現を目指す
中小企業応援サイト 編集部
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厚生労働省の「令和5年障害者白書」によると、障害を持つ人(身体障害者、知的障害者、精神障害者の三区分に分類される)の総数は1160万2千人。人口一千人あたりの人数で見ると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は49人となっており、国民のおよそ9.2%がなんらかの障害を持つと報告されている。この中には高齢期に障害を抱える状態となった人も含まれるため、急速に進む高齢化とも連動する。つまり、われわれの多くが高齢期に「障害者」になる可能性を示唆しているといえるだろう。

そうした意味では「障害者」と「健常者」は地続きともいえるが、行政における福祉窓口は細分化されており、サービス事業者もそれぞれの制度の中で運営されているため、当事者や家族は煩雑な手続きを強いられているのが実情だ。こうした状況に対して「『福祉』をもっと大きなくくりで捉え、包括的にサービスを提供したい」という目標を掲げる福祉事業体が株式会社アソビバだ。そこには、障害による社会障壁を取り除き、共生社会の実現に向かう理念があった。(TOP写真:利用者たちが集まる放課後等デイサービスのレクリエーションの一コマ)

重度心身障害児に対応する多機能型放課後等デイサービスと児童発達支援事業所からスタートし、現在は3拠点を運営。重症児の利用者からは今も問い合わせが絶えない

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
株式会社アソビバ 代表取締役の田島圭氏。縦割りの福祉業界に対して疑問を抱き、横断的な事業展開を志している

6歳〜18歳までの障害児を預かる放課後等デイサービスと、未就学児を対象とする児童発達支援を運営する株式会社アソビバは2018年に5月に設立。同年9月に重症心身障害者を対象とする放課後デイサービス「asoviva」と児童発達支援「asoviva2」を開所した。2020年4月には同所を桐生市仲町に移転し、2023年にはみどり市に軽症児童向けの事業所を新たに開所、さらに2024年4月に桐生市本町に事業所を開所し、桐生市仲町で手掛けていた重度心身障害者対応を本町に移している。

施設のオープンに際しては他社の施設と同様、行政の相談支援窓口や地域の学校に開所通知を伝えたそうだが、SNSでの告知にも力を注いだことも功を奏してか、開所して8ヶ月後には利用者が定員に達し、いまだに問い合わせが絶えないという。

「ニーズがあることは予想していましたが、重症児の放課後等デイサービス自体普及が進んでおらず、制度上の決め事が少なかったことも重症児の放課後等デイサービスに取り組む判断になりました」そう話すのはアソビバ代表取締役の田島圭氏。前職で介護施設に勤め、広報等の業務を担当していた。

福祉業界の縦割り制度への違和感。利用者のためには大きなくくりで包括的にサービスを提供できるほうがいいはず

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
みどり市にある同社の放課後等デイサービス「asoviva3」で子どもたちを待つスタッフ

田島社長は、以前から福祉のありかたにずっと違和感を抱いていたという。「私は以前、複数の施設を持つ介護福祉を手掛ける法人に勤めていましたが、その当時『福祉』という業界が全て縦割りであることに、なにか気持ちの悪さのようなものを感じていました。だって高齢者の介護も障害者も同じ『福祉』ですよね。もっと大きなジャンルでくくるべきなんじゃないかと思って」(田島社長)

事実、行政サービスにおいて福祉制度は縦割りだ。高齢者を例にとってみよう。医療は後期高齢者医療制度、介護は介護保険制度と別々の窓口のため、親を介護する家族は別々の窓口での対応を迫られ、毎月のように送られてくる通知を見ては混乱することもしばしばだ。その上、高齢者の福祉サービスは多岐にわたり、ケアマネジャーなくしては情報収集も利用計画もままならない。しかし、そのケアマネジャーも管轄エリアの情報しか持っていないため、地域外の施設を希望する家族は自力で探すしかない。障害者・児でも同じことだ。しかも障害福祉には高齢者のように地域包括支援センターがないため、初動のコーディネートが難しい状況にあるという。制度上管轄が分かれるのは仕方がないにしても、福祉サービスは申請主義のため、当事者へのフォローは必要だろう。

考えてみれば、自分や家族が病気や事故によって障害者になることは、高齢でなくても実際に起こりうる。そんな時、一つの窓口で福祉サービスの相談に乗ってもらえれば、どんなに心強いことだろう。 「福祉を大きなくくりでまとめた業態があればと思っていましたが、自分のやりたいことはサラリーマンではできないでしょう。だから経営者になるしかないと思って事業を立ち上げました」(田島社長) 制度を変えることは難しい。けれど、新たなビジネスモデルを作ることはできる。元々独立願望や経営者になりたいという気持ちはなかった田島社長だったが、腹をくくることにした。

コロナ禍の状況を逆手に積極的に事業を拡大。軽度から重症児まで幅広く対応できる強みで「アソビバさんに相談すればなんとかしてくれる」と口コミで認知度が上がる

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
放課後等デイサービスには児童発達支援管理責任者(児発管)、保育士、児童指導員の常駐が定められており、スタッフ間で連携しながら児発管が個別の支援計画の作成にあたる

2018年に開所した事業所を桐生市の町なかに移転したのは2020年4月のこと。折しも新型コロナウイルス感染症の拡大により、緊急事態宣言が発出された時期である。しかし、田島社長は社会活動が止まっている状況を好機と捉えたという。

「世の中も人も動かないからこそ、今動くしかないと思いました。当時は密集回避のため、利用者の通所ができない状況でしたが、自宅で過ごす利用者の状況を電話で確認することをもってサービス提供とみなされましたので、スタッフの手も空きました」。田島社長はこの状況をプラスに捉え、事業所の移転オープンに向けて積極的に動いた。
「利用者が来所しないこの期間に、広い事業所に移転しました。そうすれば感染リスクも下がります。それに、コロナ融資を受けられたことも資金繰りの面でプラスでした」(田島社長)

軽症から重症の子どもまで引き受ける拠点の整備が進むにつれ、地域では口コミで「アソビバさんに相談すればなんとかしてくれる」という評判が広まっていった。田島社長は「桐生あたりでは、うちみたいに軽度から重度の子までまとめてお引き受けしている事業所は、ほぼないから」とみる一方で「アソビバでよかった、と思っていただける事業所であることが重要」と断言する。実際、「重度」と認定されたからこそ適切な受け皿につながる子もいる一方で、診断がついていないグレーゾーンの子どもは、適切な受け入れ先を見つけにくい。そんなグレーゾーンの子どもも含めて「まとめて面倒を見る」という同社の方針が、「アソビバさんならなんとかしてくれる」という親の切実な悩みにフィットしたといえるだろう。

紙ベースの書類作成業務が多く、印鑑の押印など手作業もあって煩雑。児童発達支援管理責任者の負担感が大きく、人材確保の妨げにも

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
サービス提供記録やアセスメント表、実績記録票、業務日誌など、制度上作成する書類は数多く、子どものいない時間帯に行われている

各地で目にするようになった放課後等デイサービス・児童発達支援事業所だが、2024年4月の法改正に伴い、転換期を迎えている。そもそも児童発達支援事業所と放課後等デイサービスは、2012年4月に児童福祉法の改正により誕生した通所型支援だが、障害のある子どもの増加に伴いさまざまな事業主体が参入し、その数は激増した。しかしながら、中には報酬の不正請求をする事業者や、ずさんな管理による質の低下などが一部にみられるようになり、厚労省は2024年4月に法改正を実施。指定基準を満たさない事業所は公費の対象外となる。

田島社長は「参入障壁が低かったので放課後等デイサービスは一気に増えましたが、今後は淘汰が進むでしょう。理念を持たない事業者は消えていくと思います」と予想する。また、規模拡大ができない事業者は収益の確保が難しくなり、経営が厳しくなるだろうと見ている。

前職で事業運営に携わっていた田島社長は「福祉事業であっても経営という視点を欠いてはならない」という信念から事業所の拡大と稼働率の高さによって安定的な経営体制を築いている。その鍵となるのは稼働率の「見える化」と各事業所との情報共有だったという。しかし、これを実現するには、利用者の支援計画を作成する児童発達支援管理責任者(児発管)の業務負荷を軽減する必要があった。

「本来はマイナンバー制度がもっと使える状況になっていれば、こうした仕事が楽になるはずなんですけれどね」と田島社長は苦笑する。

制度上、提出が必要な書類作成業務の膨大さ、煩雑さは多くの事業所の悩みの種だ。しかも、いまだに紙ベースの提出物も数多い。しかも個別支援計画の作成は児発管が行わねばならず、煩雑かつ膨大な作業は人材獲得のネックになっていた。こうした状況に大いに貢献したのがICTの活用だった。

セキュリティ対策のためVPNで接続し、データはNASで共有 出先からの情報チェックも可能となった

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
各事業所間はVPNで接続しデータはNASで共有されている。管理者は各事業所の稼働率も把握できる

同社がまず手がけたのは、各拠点で記録される個別支援計画や実施記録などの利用者情報を管理者が共有することだった。事業所間は近距離にあるとはいえ、移動は煩雑だ。また、田島社長は外出先からでもリアルタイムで管理者と情報を共有したかった。そこで各事業所間をVPN(仮想専用線)のネットワークでつなぎ、データはNAS(外部のネットワークに繋がるサーバー)に保管して管理者が共有できるようにした。

情報をオンラインで共有するようになったことで、管理責任者はそれぞれの事業所間を行き来する必要がなくなり、職員の配置や利用状況も共有できるようになった。そして、何より大きな成果となったのは、管理者が稼働率の数字を意識していることだという。

「管理者に対しては稼働率の数字はオープンにしたほうがいいと思いました。利用者さんの利用枠を埋めていくのも管理者の仕事ですし、数字の『見える化』は働く意識が高まることにもつながります。福祉の仕事であっても経営を意識することは重要です」(田島社長)

今後はプログラミングやeスポーツなど、子どもの成長に関わるICTのコンテンツを積極的に取り入れていきたい

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群馬県みどり市にある放課後等デイサービス「asoviva3」は2023年8月に開所した

紙ベースの書類の多い福祉業界だが、同社ではペーパーレス化も進め、情報共有のみならず、煩雑な書類作業の業務効率化にもICTが貢献しつつある。今後はさらに事業所の開設を図りつつ、提供する支援として「子どもたちの成長に必要なICTのコンテンツを導入していきたい」と田島社長は構想する。

「プログラミングやパソコンに関わるツールのほか、eスポーツも取り入れてみたいですね。中にはゲームのことになると話が止まらない子もいますし、eスポーツを目指せる子を育成できるかもしれないですね」とデジタルコンテンツの活用に意欲を示している。

さらに田島社長は「ICTは5年、10年後は全く予想がつかない世の中になっていると思いますが、少なくともここ数年で『今までのあれはなんだったの?』ということが増えている。特に福祉業界はそうです。人間でなくてもいい作業は絶対にあるわけですから」と指摘し、働きやすい環境づくりへのICTの貢献に期待を寄せる。

実際、同社ではICTの導入によって省力化と業務効率化を進めており、残業や持ち帰り仕事はさせず、プライベートと仕事の双方が充実するよう努めている。「プライベートがうまくいかないと仕事だってうまくいかないはずです。そこの線引きは必要で、スタッフには徹底させています」(田島社長)

「ゆりかごから墓場まで」トータルな支援を目指し、福祉サービスの新たなビジネスモデルの実現を目指す

受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
受け皿の少ない重症心身障害児を預かる放課後等デイサービス ICTによる情報共有を行い職員の負担軽減とサービス充実を実践 アソビバ(群馬県)
放課後等デイサービスの風景

2024年4月に改正された「障害者差別禁止法」では、障害者への「合理的配慮」が努力義務から義務へと変わった。それは、障害者の社会的障壁を取り除き、共生社会を実現するという役割をこれまで以上に社会が果たすことを求めている。しかし、道はまだ途上である。

「ゆりかごから墓場までの支援」を理念に、将来的には「障害者も高齢者もトータルに支援する」という目標を掲げる田島社長。そのためには、現在放課後等デイサービスの支援を受けられる18歳以降のフォローが社会に必要だと訴える。

「放課後等デイサービスを卒業した後の受け皿作りが必要です。普通以上に敏感な子どもたちが、新しい場所に慣れていくのは大きなストレスになるでしょう。その受け皿を現状ではまだ持てていないことに、ジレンマを感じています」と心情を吐露する田島社長。ゆくゆくは生活介護や就労支援にも手を拡げ、さらに異業種の経営者同士でタッグを組んで事業体を構築し、新たなサービスを提供する構想も膨らませつつある。

「たとえ障害を持って生まれてきても『なぜうちの子は障害を持っているんだろう』と親が思わなくてもすむ社会、『なぜ?』と思わなくてすむ場を作っていきたいんです」と理想を掲げる田島社長。その熱い思いは、福祉サービスの新たなビジネスモデルという形で着実に実現していくことだろう。

企業概要

会社名株式会社アソビバ
住所群馬県桐生市仲町2丁目768-13
HPhttps://www.asoviva59.com
電話0277-46-9021
設立2018年5月9日
従業員数34人
事業内容障害福祉事業(放課後等デイサービス、児童発達支援)