やる気
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

経営者にとって、社員の能力を最大限に発揮させることは大命題です。実は、一見やる気のない社員であっても、経営者が少し発想を転換して接することによって、モチベーションを上げて能力を開花させられるケースもあるのです。

有名とは言えない大学から、多くの教え子の就活を成功させてきた大学教授が、今いる社員を「やる気」にさせて戦力化する極意を伝授します。

急速な変化で世代間ギャップが拡大

東京未来大学モチベーション行動科学部の篠崎雅春教授は、これまで2つの大学でマーケティング戦略を教える一方、学生たちの就活支援を行ってきました。

「その中で特に最近感じるのは、学生と親世代との意識、価値観の違いです。高度経済成長期やバブル期を経験している親の世代は、いまだに『できれば地元の銀行に就職してほしい』と言ってくるケースも多く、学生たちは現実とのギャップを感じているようです」

今やビジネスのあらゆる現場でICT化が進み、AIが急速に導入されている時代です。銀行員は「AIに取って代わられる職業」の上位にランクインし、銀行自体、このままだと収益確保が困難になると予測され、新たな道を模索しているというのが現状です。

「AIにその座を奪われる職種はかなりの数に及ぶと推定され、税理士などの専門職ですら生き残りに危機感を募らせています。そうした現状を把握せず、昔の価値観のままで地銀を勧め、ネットベンチャーに難色を示す親たちに、学生たちは頭を抱えています」

古い価値観を押し付けないことが大事

職場においても、やたらと「以前はこうだった」「昔はよかった」などと連発する経営者や年配社員が、若手社員の士気をそぐケースが見受けられます。昨今の「コンプライアンス重視」「働き方改革」など、職場でのルールや行動基準も大きく変わりつつあります。この先、量子コンピュータの活用が進めば、さらにドラスティックな動きも予想されます。

「そうした変化に目を向けず、いつまでも昔ながらの価値観を振りかざしていては、若い世代はついてきません。下手をすれば、見切りをつけて流出してしまう可能性もあります。まずは時代の流れや現状を把握し、認識を共有することが先決です」

社外との交流から新たなアイデアも

昔は「会社は一つ」「社員は家族」などの考え方が根強く、会社への帰属意識が高かったかもしれません。しかし、今どきは終身雇用制度が崩れ、兼業を容認する動きも出ており、その意識は薄れつつあります。経営者としても、社員を会社に縛りつけることはできません。

「でも、これはむしろいいことで、社員にはどんどん社外に出て外部と交流してもらった方が会社のためにもなります。社内だけで議論していても、なかなかいいアイデアは出てきません。社外、とりわけ異業種や異なる世界の人たちと交流することで、社内では気づかなかったようなニーズやアイデアに触れ、新たなビジネスチャンスにつながることもあります」

外部からの評価が自信を育てる

「私は学生にも学外で活動するよう勧めていて、企業や行政との連携による学生プロジェクトを多数仕掛け、参加させています。学内ではできない体験をし、学ぶことができるからです。

私の教え子で社会心理学の学者を目指している卒業生がいるのですが、彼は在学中から大学院生に交じって研究発表をしたり、地域の人たちに取材して紹介するウェブサイトの記事を書いたりして、学外での活動に積極的に取り組みました。そうして外部からの評価を積み重ね、就活の成功につなげたのです」

こうした外部コミュニティとの交流は、人を成長させます。特に、身内ではなく外部の人からほめられ、評価されたという経験は自信につながり、成長のきっかけとなります。

「前編で紹介した学生も、プロバスケチーム発足の立役者として、他の有名大学の学生から一目置かれる存在となり、メディアで取り上げられ、自信を深めていきました。もし社員が異業種のセミナーや交流会に行きたいと言ったら、ぜひ快く送り出してあげてください。それが本人のモチベーションをアップさせ、パフォーマンスを上げることにつながるのです」

今どきは離職者も武器になる!

今や転職者が増え、人材の流動化が進んでいます。経営者としては、自ら辞めていく社員に対して、「去る者は追わず」で一刻も早く忘れたいところかもしれませんが、実はこの離職者すら武器にしようという動きが出ています。

「これは『アルムナイ(=卒業生)』といって、『元リク(元リクルート社員)』の活躍に代表されるように、元社員が転職先や起業した会社で、元いた会社と取引したり、協働したりすることを指します」

一昔前では考えられなかったことですが、優秀な人材の持つ人的ネットワークはたとえ退社したとしても断ち切るのではなく、活用できるならしてしまおう、というわけです。

「前述の学者志望の学生は、当初大学院に進学予定でしたが、昨今の『ポスドク問題(博士課程取得者の就職難)』に鑑み、軌道修正して大手人材企業のシンクタンクに就職しました。その際、内定をもらったものの最終的に入社しなかった企業の担当者といまだに連絡を取り合い、時には仕事上で協力しているそうです。

このように、これからは退社する人間も気持ちよく送り出し、いずれ活用していくといった柔軟な発想が必要なのではないでしょうか」

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