なぜクラウドファンディングがこれまでの金融の仕組みに地殻変動をもたらすのか、その理由と可能性について述べていく。
普及のきっかけは被災地復興の“思い”
大手シンクタンクのリサーチによると、日本国内のクラウドファンディング(以下CF)による新規プロジェクトの市場規模は2014年度は220億円程度だったのに対し、2018年度は2000億円を突破した(支援額ベース)。つまり、CFはわずか4年で規模を10倍近くまで拡大させていることになる。間接金融(第三者を介したお金の貸し借り)の主役である銀行の貸出金残高の総額約500兆円(2019年3月末時点)に比べるとCF市場は微々たるものではあるが、市場規模、知名度ともに急拡大しているのは事実だ。
CFと銀行融資における最大の違いは、融資(支援)する側とされる側の「距離」にある。CFでは個人が応援したいと思える個人やプロジェクトに、直接支援を行うことが可能だ。株式投資の考え方の一つに「自分が応援したい企業の株を買うべき」というものもあるが、CFではさらに一歩踏み込みんだ支援や応援ができるのである。
日本のCF普及には、2011年の東日本大震災の復興を支援するために「寄付型CF」の活用が広がったことが大きく影響している。現在CF運営会社は、国内企業として初めてCFのサービスを立ち上げたREADYFOR(レディーフォー)や、2019年11月に東証マザーズ市場に上場したMAKUAKE(マクアケ)、国内最大のプロジェクト掲載件数を誇るCAMPFIRE(キャンプファイアー)のほか、融資型のCFクラウドファンディングに特化したMANEO(マネオ)、ふるさと納税に特化したふるさとチョイスなど多く存在する。実は、CFサービスの走りであるREADYFORやCAMPFIREが本格的なサービスを立ち上げたのも2011年である。「被災地の人々を直接支援したい」という思いが、日本国内にCFを浸透させたのかもしれない。
マーケティングやPR活動の効果も
CF活用のメリットを見れば、CFが金融の仕組みや産業の構造を変え得る可能性が浮かび上がってくる。CF活用のメリットは、まず低コスト、低リスクでマーケティングができる点だ。企業は新商品や新サービスを市場に展開する時、顧客のニーズをとらえるためのマーケティングが必須である。通常ならマーケティング会社やシンクタンクに調査を依頼するといった手間やコストが発生する。しかし、CFを活用することで似たような効果が得られる。またCFではあらかじめ必要な支援額や商品の個数を設定できるため、企業側が余計な在庫を抱える心配はない。
さらに、商品やサービスを不特定多数にPRできるという「PR効果」も見込める。本特集1回目で紹介した「YASHICA」や、アパレルブランドの「ALLYOURS」のケースでも、発案者がCFをPR活動の一環として利用している。ALLYOURSの原康人代表は、「24カ月連続クラウドファンディングプロジェクト」を立ち上げ、2ヵ月に1回、2年間にわたって新商品を出し続けた。このプロジェクトによって、同ブランドの顧客やファンが増えただけでなく、ビジネスのすそ野が大きく広がったという。
クラウドファンディングの“手軽さ”が金融の仕組みを変える
中小企業が融資を受けるには、金融機関の厳しい審査を受けなければならない。しかし、CFによって人々の共感、支援を得ることができれば、銀行融資に頼らずとも資金を調達することが可能となる。もちろん、人々の共感を得られなければCFによる資金調達も失敗に終わる。ただCFによって資金調達の手段が増えるのは確かだ。これまで金融機関の審査という高いハードルを越えられずにビジネスチャンスを逃していた企業も、群衆から「なんかいいかも」という“軽めの共感”を受けることができさえすれば、プロジェクトに必要な資金を集めることができるのである。
CF運営会社大手の一角であるCAMPFIREの大東洋克取締役COO(最高執行責任者)は、「旧来型の銀行融資では、企業の資金ニーズをきちんと捉らえられているとは思えない」と指摘。また、「中小企業の資金調達は非常に厳しい状況が続いているが、クラウドファンディングにはその状況を変える可能性を持つ」とも話す。
もちろん、企業に限らず個人でも「こんなモノやサービスを作りたい」「社会の問題を解決したい」といったアイデアや思いを持っていれば、CFを通してそれらを実現することが可能だ。さらに、発案者のプロジェクトや思いに共感し、「応援したい」「買ってみたい」と考えた人は誰でも支援者になることができるのだ。こうした金融機関の審査とは違った“手軽さ”が、これまでの金融の仕組みを大きく変える可能性につながるだろう。
では融資の審査を通ることと、人々の共感を得ることではどちらが難しいのだろうか。プロジェクトの中身や担当者の発信力などにもよるため軽々しく判断することは難しいが、資金調達に悩んでいるなら、一度CFにトライしてみるのも一つかもしれない。CFにはそれだけの価値があるのではないだろうか。
CFのプロジェクトを成功に導く秘訣は、「他人(支援者)に応援したいと思ってもらえる」ことだ。支援する側もされる側も一体となってプロジェクトを成功させようとする「一体感」が必要なのである。これは購入型だけに限らず、CFでプロジェクトを成功させてきた起案者たちに共通する考え方だ。また前述のYASHICAやALLYOURSの担当者は、CFを販売チャネルのひとつとして活用するのはもはや当たり前と考えているのだ。つまり、大事なのは「CFを活用した後のビジネスの展開を考えること」だという。(ALLYOURSの原代表)
社会の構造にも変革をもたらす?
CFは個人の発案者や中小企業によって社会に浸透してきたが、近年は大企業も相次いでCFに参入している。また、地方自治体が町おこしのために活用したり、病院がクリーンルームの増設やドクターカーの導入の資金をCFで調達したりするなど、CFの規模は目に見えて広がっているように感じる。
これまでCF運営会社のホームページを見たことがない読者がいれば、ぜひ一度見てもらいたい。起業はもちろん書籍や雑誌の発刊、アートや映像・音楽作品の出品、ユニークなアイテムなど、数え切れないほどのプロジェクトがズラリと並んでいて、目を引くものがひとつふたつは見つかるだろう。これらのプロジェクトのうち何割かは、以前なら個人的な支援に頼らざるを得ず、それができずに不世出で終わっていたかもしれないものなのだ。
今後はこれまで主流だった寄付型、購入型、融資型に加え、株式型やファンド型の拡大も期待されている。CFの市場規模が拡大しより社会に普及することによって、金融の仕組みや社会の構造にも変革をもたらす可能性はさらに上がるだろう。