目次
- 織機の保守からスタート プラスチック成型加工のパイオニアとして市場拡大に貢献
- 業界の先駆者として高度な加工技術と幅広い製品対応力により社長就任後、売上高3倍に成長
- 在庫管理や生産工程管理、発注業務までの全体の効率化と標準化を目指して、生産管理システムを導入 時間をかけて本稼働へ
- システム導入により、発注業務を8時間から2時間に短縮 使いやすさとリアルタイム在庫把握のためタブレット端末の利用を進める
- 合成樹脂生産の海外移転で厳しくなる事業環境 「3カ年中計」策定し医療分野へのシフト強化により業績拡大目指す
- 環境配慮も重視し「エコアクション21」を推進 年間2トンの廃プラを20種に分類しリサイクル利用 ICT武装と環境対応力の両輪で新たな時代の要請に応える
さまざまな分野で使われるプラスチック成型加工品を製造する株式会社上野製作所は高度な技術力に裏打ちされた典型的な多品種少量生産型企業で、扱っている樹脂材料は750種、製品は2,800種を超える。在庫管理や工程管理、正確な発注が大きな課題で、10年以上前から生産管理システムを活用し、現在も進化の途上にある。業界の再編が進む中、業務の標準化を進め、生産拡大も視野に入れる。(TOP写真:射出成型機や組み立て機が10台以上並ぶ工場)
織機の保守からスタート プラスチック成型加工のパイオニアとして市場拡大に貢献
上野製作所の前身は、絹織物業が盛んだった東京都八王子市で、上野泰和代表取締役社長の祖父にあたる久一氏が1953年に始めた織機の修理を行う個人商店だった。しかし、絹織物業の衰退とともに仕事は減り、久一氏は新事業への転換を図った。ドイツ企業の講習でプラスチック成形技術を習得し、国内でいち早くプラスチック成形加工業に進出。1960年には法人化した。
上野社長が「当初はまだ国内に合成樹脂生産会社はなかったので、アメリカの企業から合成樹脂を一斗缶で仕入れていろいろなものを作っていたらしい」と説明するように、プラスチック成型加工のパイオニアとして需要開拓に奮闘した。トラックのトランスミッションやトランジスタラジオのコンデンサー部材など用途は次第に広がり、事業は軌道に乗るとともに業界も拡大した。
しかし、上野社長が入社した1989年からバブル経済崩壊が始まり、プラスチック成形事業者の統廃合が進んだ。その後も国内市場は、合成樹脂生産の海外移転や低価格な輸入製品の増加で縮小傾向にある。
小学生の頃から工場で掃除や廃プラの片付けなどを手伝い、「自分が会社を継ぐものと思ってきた」。それだけに大学入学後、2代目である父親の恵司氏が体調を崩すと、退学届を何度も書いたほど後を継ぐ意欲は強かった。「退学届はいつも母親に破られて、卒業後ようやく入社」できて、3年で専務に就任し経営全体を勉強した。大学の専攻は有機化学で、他社が扱わない材料や環境対応の面で仕事に役立っており「今思うと卒業して良かった」と振り返る。
業界の先駆者として高度な加工技術と幅広い製品対応力により社長就任後、売上高3倍に成長
「他県の成形加工事業者の撤退が相次いで、この4年ほどの間に7社の事業を受け入れた」(上野社長)。業界の先駆者として、高度な加工技術と幅広い製品対応力を生かして生産品目も増加。主力の工場(神奈川県相模原市)には設備機械も増設。大小10台以上の射出成型機や組立機械などが所狭しと並ぶ。
上野社長が就任した当時の売上高は8000万円前後だったが、2023年10月期実績は2億6000万円と3倍以上に成長した。医療用検体ケースや新紙幣印刷のセンサー台など、社会経済の動向に応じた新需要にも対応。同社の高精度で付加価値の高い成形加工技術への信頼は厚い。
同社の技術力を支えるのは、従業員の技術習得に対する積極的な姿勢だ。成型技術の向上のためにプラスチック成形技能士資格の取得を全額会社負担で支援している。入社後半年で3級検定が受験でき、その後実務経験に応じて2級、1級と進む。なかでも工場長は国内で数少ない特級技能士の資格を保有し、若手の指導に当たっている。
「プラスチックの匠(たくみ)」を標榜する上野製作所だが、上野社長が「技術継承は難しい」とこぼすように、熟練の技術者ほど独自の方法で作業を行う傾向があり、工程管理全体の標準化が経営課題でもあった。
在庫管理や生産工程管理、発注業務までの全体の効率化と標準化を目指して、生産管理システムを導入 時間をかけて本稼働へ
市場の拡大が見込めない中、成長を維持するために、生産工程全体の効率化と標準化による競争力向上へのチャレンジを10年以上前にスタートした。
同社は典型的な多品種少量生産型のため、在庫管理や生産工程管理、発注作業など業務全体が煩雑化していた。販売管理システムを利用して生産管理も行っていたが、発注漏れなどもあり業務効率は上がらなかった。そこで、生産管理工程の抜本的な改革を目標に掲げ、上野社長自らプロジェクトリーダーとなって1年かけて検討した結果、「使いやすく比較的柔軟に機能を追加できる」ことを評価した生産管理システムを2013年に導入した。
システムに適応させるために業務を一部見直しつつ徐々に稼働領域を広げ、3年かけて750種の材料と2,800種の製品すべてのマスターを作成。2016年から本稼働に入った。これにより、製造工程を可視化できるようになり、膨大な在庫管理の効率化、発注管理の高精度化を実現。ベテラン頼みだった業務の標準化も進んだ。2018年にはシステムのバージョンアップによって「あいまい検索」などデータ検索機能が強化されてさらに使い勝手が向上した。
システム導入により、発注業務を8時間から2時間に短縮 使いやすさとリアルタイム在庫把握のためタブレット端末の利用を進める
「導入前は業務日誌に書き込んだ材料の在庫状況を見ながら私が発注業務をしていたんだけど、8時間もかかっていた。システム導入後はわずか2時間に短縮できた」と上野社長は効果を実感している。稼働当初は発注量と生産工程でロスになる分量の計算を合わせるのに手間取ったというが、現在は安心して自動発注できるようになった。
納品書の印字機能など業務に合わせたカスタマイズも行ってきたが、使い込みながらさらに機能追加の必要も出てきた。同社は発注頻度の低い珍しい材料も各種扱うため、中には2年に一度、3年に一度という注文もある。「今は発注期間が2年先までしかないのだが、3年先の発注も行えると助かる」という。
生産現場でタブレット端末からリアルタイムで在庫データなどを入力できるシステムの導入も検討中だ。「若い世代はキーボードよりタブレットによる入力が得意。また在庫をリアルタイムに把握し可視化するためにもタブレットの活用を進めたい」と考えている。
合成樹脂生産の海外移転で厳しくなる事業環境 「3カ年中計」策定し医療分野へのシフト強化により業績拡大目指す
かつて約30人いた従業員は現在23人。70歳を超える高齢者が相次ぎ退職したためだが、上野社長はホームページ作成ツールを活用し、上野製作所の良さを知ってもらうため更新頻度を向上。また求人サイト利用を積極的に行い、増員を急ぐ。
大手合成樹脂メーカーが生産ラインを海外に移転するケースが増えつつあり、成型加工の事業環境はさらに厳しくなることが予想される。このような環境変化に備えるために策定した「3カ年中期経営計画」では、医療分野向け製品の生産能力を2倍に増強するため設備投資を行うとともに中堅企業の顧客開拓を強化。可能な範囲で事業撤退の受け皿になり、業界再編を勝ち抜く考えだ。「大きく伸ばすつもりはない」というが、売上高は3億5000万円を目指す。
環境配慮も重視し「エコアクション21」を推進 年間2トンの廃プラを20種に分類しリサイクル利用 ICT武装と環境対応力の両輪で新たな時代の要請に応える
さまざまな合成樹脂を大量に扱う企業として環境配慮にも力を入れており、環境省が定めた「エコアクション21」を推進。多品種少量型生産のため廃プラスチック量は同業他社より多く、年間約2トン、総使用量の3%に達する。同社では廃プラを20種の材質別に分類して、社内リサイクルへの活用やリサイクル業者に引き取ってもらうことで、可能なものはほぼリサイクルされている。環境配慮型企業としてのアピールも今後さらに重視し、ICT武装による技術力と環境対応力の両輪で新たな時代の要請に応えていく方針だ。
企業概要
会社名 | 株式会社上野製作所 |
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住所 | 神奈川県相模原市緑区寸沢嵐3490-1 |
HP | https://www.uenoseisakusho.co.jp/ |
電話 | 042-685-0312 |
設立 | 1960年3月 |
従業員数 | 23人 |
事業内容 | 合成樹脂成型加工、精密金型設計・制作、メカ組立、合成樹脂機械加工など |