サントリーは、「良いワインはよいぶどうから」の理念のもと、100年以上にわたって日本の風土と向き合い、栽培・醸造技術を磨き上げ、ぶどうづくり・ワインづくりに取り組んできた。2022年に新たに日本ワインブランド「SUNTORY FROM FARM」を立ち上げ、「水と、土と、人と」をコンセプトに、日本ワインの魅力をさらに多くの消費者に伝えるために活動している。昨年にリニューアルオープンした登美の丘ワイナリーでは、ワイナリーツアーやその他のイベントを実施、ぶどう畑を通じて同社のワインづくりの魅力を多くの人々に体感してもらっている。8月28日に行われた登美の丘ワイナリー取材会では、ワイナリーツアーの体験の他、国際ブドウ・ワイン機構が定める日本固有品種で、和柑橘を思わせる上品な香りが特徴的な、日本を代表するワインぶどう「甲州」への取り組みや持続可能なぶどうづくりについて説明した。また、今年のぶどうの豊作、収穫などの作業の安全な進行を祈願し、収穫始め式も行われた。
「サントリー登美の丘ワイナリーは、創設115年となる当社を代表するワイナリー。雄大な富士山・甲府盆地を望む自然豊かな丘に約50区画からなる自然畑を保有。自園畑や県内外の自社所有圃場、契約栽培農家からの購入ぶどうを原料に日本ワインを製造。山をくりぬいて作った熟成庫内では樽熟成や瓶熟成を行っている。一般の来場者向けには、ワインショップや見学ツアーを実施している」と、サントリー ワイン本部 日本ワイン部長 宮下弘至氏が、今回体験してもらうワイナリーツアーについて説明した。
そして、登美の丘ワイナリーの展望台へ移動。サントリー ワイン生産部 登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平氏が環境や全体像、気候変動対応としての「副梢栽培」について紹介した。
「近年の気候変動は農業に大きな影響を与え、深刻な問題となっている。温暖化の進行によって成熟が進みにくいという課題にも直面している。今年は雹による農作物への被害もあった」と、近年の温暖化にともなう異常気象からぶどう栽培にも大きな影響を受けているという。
「そこで、サントリー登美の丘ワイナリーでは、地元の山梨大学と共同で『副梢栽培』という新しい栽培技術を導入した」とのこと。「副梢栽培とは、通常、ぶどうは4月ごろに芽吹き、これが新梢として育って9月ごろに収穫を迎えるが、副梢栽培ではこの新梢の先端をあえて切除し、そのあとに芽吹く脇芽を育てることによって、ぶどうの成熟開始時期を7月中旬から気温の下がり始める9月上旬ごろまで遅らせて熟期をずらして、11月中旬頃に収穫できるようにする栽培方法となっている」と、新たな栽培方法で気候変動に対応しているのだという。
「この他、ぶどう畑で使用する農薬や肥料を最小限にすることで、土壌に微生物や益虫が増え病害虫が減る好サイクルが生まれ、生物多様性に富む豊かな土質となる『草生栽培』や、剪定した枝を炭化して土壌に混ぜ込みCO2を貯留する『4パーミル・イニシアチブ』と呼ばれる取り組みなどを行っている」と、持続可能なぶどうづくり・ワインづくりに挑戦していると教えてくれた。
そして、「プティ・ヴェルド」の栽培畑へ移動。「当社にとって『プティ・ヴェルド』は、世界品質とテロワール個性の高いレベルでの両立を目指した登美の丘のテロワールを表現するぶどう品種となっている。『プティ・ヴェルド』は、仏南西部原産の赤ワインぶどうで、主に伝統的なボルドーワインのブレンド用の補助品種として栽培されている。濃い色合いとスパイスのアクセントを与え、少量でブレンドされるのが一般的となっている。この元々持つ強い個性が、登美の丘のテロワールによって柔らかさや気品の高さを感じられるワインになる」と、「プティ・ヴェルド」が登美の丘テロワールに育まれ個性豊かな味わいを得ることを見出してきたのだと紹介していた。
次に、同社の戦略品種「甲州」の土壌や地形に応じたつくり分けについて解説してくれた。「世界品質の『甲州』をつくるべく、2015年から始動。適した系統を選んで植えるところから開始した。それと並行し適した圃場を選び、2020年から完熟ぶどうだけを収穫している」と、自家ぶどう園の強みを最大限活かし、様々な取り組みに挑戦しているという。
そして、「登美 甲州」に必要な味わいを生み出す2区画に移動。「登美の丘の中で水捌けが良く、日当たりが良い区画を選択して栽培している。まず、棚仕立ての区画では、南東向き斜面で、水捌けは良いため、香りのボリュームがあり、凝縮した味わいのワインが楽しめる。一方、垣根仕立ての区画では、真南向き斜面で、日当たりが良いため、心地よい渋さがあり、勢いがある味わいのワインが楽しめる」と、適した系統の植え付けを行うことで、これまでの「甲州」の概念を超える「凝縮感」を追い求めた徹底した取り組みを収穫直前まで行っていると説明していた。
そして、同社のワインづくりに不可欠な「熟成」の環境となる熟成庫へ移動。
サントリー ワイン生産部 登美の丘ワイナリー チーフワインメーカーの庄内文雄氏が熟成庫の特長について解説した。
「山をくり抜くようにしてつくられ、半地下になっている。年間を通じて温度変化が少なく、直射日光の影響もほとんどなく、ワインを熟成させるのに適した環境となっている」と、概要について紹介する。
「畑を約50区画に分けて育てられたぶどうは、区画ごとに収穫。可能な限り別々に醸造を行い、原酒をつくり分けている」とのこと。
「醸造を行う際は、酸化を防ぐためにあらゆる方法を駆使し、慎重かつ丁寧にぶどうを扱っている」と、一本一本、この土地の特徴を表現した、登美の丘ならではの味わいに仕上げていると述べていた。
この後、ワインショップで今年のぶどうの豊作、収穫などの作業の安全な進行を祈願し、収穫始め式が執り行われた。
サントリー ワイン生産部 登美の丘ワイナリー所長の並木健氏は、この後の収穫においても作業の安全に十分に配慮しながら行っていく考えを示していた。
収穫始め式の後は、今年のワインの動向などについて、サントリー 常務執行役員 ワイン本部長の吉雄敬子氏が発表した。「日本ワイン市場は、国内ワイナリー件数、国内コンクール出品数、海外コンクール受賞数など、様々な点で拡大・伸長している。こうした中、当社では、日本固有品種『甲州』を強化。当社の『甲州』ワインは国際コンクールにおいても高評価を得ている」と、「甲州」を世界に肩を並べるぶどう品種へと引き上げる取り組みを行っているという。「約7億円を投資し、40台の小容量タンクを備える新・醸造棟を来年9月から稼働予定となっている。この新・醸造棟の稼働によって、ぶどうの個性をさらに引き出していく」と、美味品質をさらに追求していくと意気込んだ。
「甲州」ワインの魅力を体感してもらうために、テイスティングを実施。「甲州」の多彩なテロワールや「登美 赤」の特長などについて、サントリー ワイン本部 シニアスペシャリストの柳原亮氏が説明した。「一昨年9月に、“すべては畑から”を意味する『FROM FARM』をコンセプトに新ブランドを立ち上げ4つのシリーズを展開している。今回、『甲州』の産地の多様性を体感してもらう3品と、登美の丘ワイナリーの『甲州』2品、登美の丘ワイナリーのテロワールを表現する赤ワイン2品をテイスティングしてもらう」と、テイスティングワインについて紹介した。「日本固有品種『甲州』は、日本でワインをつくる意義を考え、感じさせる品種となっている。『甲州』は、広範な産地で栽培。多彩なテロワールを活かしたぶどうづくりを行っているため、同じ『甲州』でありながら味も変わってくる」と、立科、岩垂原・塩尻ワイナリー、富士見、豊富、宇津ノ谷、南アルプス、登美の丘ワイナリーと「甲州」には多彩なテロワールが存在すると述べていた。
「山梨県内の『甲州』産地の特長として、保坂エリアは、雨が少なく日照量が多く、標高は高く涼しい。ぶどうは凝縮度が高く、酸とのバランスが良い。甲府エリアは、標高が低い甲府盆地で、粘土質と砂利質土壌となっている。ぶどうは厚い果皮で香りが強く落ち着いた酸味を持つ。南アルプスエリアは、砂礫質と粘土質の扇状地で水捌けも良好。傾斜地で日当たりが良い。ぶどうは凝縮した旨味があり、引き締まった酸味が強い。勝沼エリアは、水捌けの良い礫と粘土質土壌で、北西向きの斜面になっている。ぶどうはパワフルで味わいに厚みがある」と、それぞれについて解説してくれた。
「当社では、自分たちがワクワクするようなワインを創ろうと、日本の新たな潮流をつくりだす、つくり手がワインの未来を描くチャレンジシリーズ『ワインのみらい』シリーズを展開している。『甲州』の魅力の1つである柑橘系を中心とした香りをもっと引き立て、凝縮感のあるワインを造ることはできないかと考えた時、醸造や酵母による改良もできるが、突き抜けるにはぶどうからと思い、温暖な山梨とは異なる『甲州』の魅力を立科の冷涼なテロワールで引き出したいと考えた」と、立科圃場でぶどうづくりにチャレンジして出来上がったワインを「ワインのみらい」シリーズとして展開しているという。「立科圃場で収穫したぶどうは、冷涼な気候によって酸の骨格と充実した果実感が両立している」と、鮮やかな酸と豊かな柑橘感が特長であるとのこと。「一方、甲府盆地の西端に位置する南アルプス圃場は、南アルプスの扇状地で栽培面積は約10haとなる。降水量はやや少なく、生育期間は涼しい。10ha、標高100m差の中で多彩なぶどうが生まれる」と、南アルプス圃場のぶどうでつくられたワインの特長について教えてくれた。
「登美の丘ワイナリーのテロワールを活かす取り組みとして、畑を約50区画に分けてぶどうの栽培を管理している」とのこと。「登美の丘ワイナリーの『甲州』の特長は、果皮は厚めで病気に強く、綺麗な柑橘香、味わいはクリーンとなっている。欧州系品種に比べて糖度が上がりにくい。この『甲州』でつくられたワインは、柑橘や桃など完熟果の多層的な香りとなっており、アタックに凝縮感があり、密度が高い。そして、柔らかい味わいと気品を持つワインとなっている」と、糖度が上がりにくい「甲州」では、品種が持つ良さを活かしつつ、いかに凝縮感を高めるかが世界の白ワインと肩を並べる鍵なのだと断言する。
「『登美 甲州』に必要な味わいのぶどうを目指す2区画を選定。南東向き斜面で水捌けが良い区画では、香りのボリュームがあり、凝縮した味わいが楽しめる。真南向き斜面で、日当たり良好な区画では、ややフェノリックな香りで勢いがある味わいとなっている」と、目指す味わいを明確にし、適した圃場・栽培方法を決定していくのだという。
「そして、適した系統を選んで植えて、完熟したぶどうだけを選んで収穫している。また、同区画でも別に収穫してワインにしている」と、これまでの「甲州」の概念を超える「凝縮感」を追い求めて収穫の直前まで徹底した取り組みを行っていると話す。
「『登美 甲州』を目指す区画は4年間で糖度が急激に上昇している」と、糖度が引き立つぶどうに育っていると述べていた。
「仏南西部を原産とする赤ワインぶどう『プティ・ヴェルド』は、1990年代に登美の丘で試験栽培をスタートさせた。2010年代前半には山梨県優良系統の評価と共に畑を拡張。2010年代後半から現在では収穫時期を見極め、最適な醸造方法を選択している」と、約30年前に始まった「プティ・ヴェルド」の栽培の挑戦が、ようやく花開こうとしているという。「『プティ・ヴェルド』でつくられる『登美 赤』は、緻密で凝縮感のある強さ、やわらかさ、まろやかさのある味わいとなっている。また自然な甘さ、ビロードのようなタンニンとなっており、上品さが表現されたワインとなっている」と、「登美 赤」が目指す味わいについて紹介してくれた。
「『登美 赤』の品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランからメルロを経て、現在はプティ・ヴェルドの構成比が高くなっている」とのこと。「登美の丘は、標高500mから600mに複数の畑が存在し、土壌も粘土・シルト系や砂礫系とそれぞれ異なる。ぶどう樹は、仏と新西蘭系統を植え分け、台木も複数種類を組み合わせている」と、登美の丘の条件が生み出す品質のわずかな差を捉えて、それぞれに適した栽培管理で個性を伸ばしていると述べていた。
「収穫タイミングはみんなでぶどうを食べて決めている。収穫されたぶどうは、無破砕仕込という発酵タンクまでぶどうを傷つけずに搬送することで、果皮や種からの過剰な渋みを軽減。垂直型圧搾機で、上方向から醪を崩さず優しく圧搾を行うことで、より高品質なワイン(果汁)のみを獲得。果実を丁寧に扱い醸造することで、ぶどうのさらなるポテンシャルを引き出している」と、「FORM FARM」のワインづくりについて、テイスティングをしながら解説してくれた。