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有限会社萩原製作所は、群馬県前橋市で鉄骨製作・切断・組立・加工などの建築鉄骨加工事業を展開している。鉄骨製造工場としては、溶接を伴う建築構造物のうち中高層までなら扱う鉄骨について建物高や延床面積など建物規模による制限がない「Mグレード」の国土交通大臣認定を取得しており、関東一円で数多くの工事実績がある。施工図の作成から納品までの一貫対応が強みで、Mグレードを維持する上で若手の人材確保・育成を目下の経営課題に据えている。(TOP写真:溶接ロボットをはじめ機械化された萩原製作所の工場)
本社・工場移転で規模は5倍に、格上の鉄骨認定のMグレードも取得
萩原製作所は1974年12月に有限会社として設立した。創業は初代代表取締役を務めた萩原正氏が鉄骨製作・切断・組立・加工の事業を立ち上げた1964年5月にさかのぼる。以来、60年、鉄骨組立・加工一筋で事業を続けてきた。
ただ、長い歴史の中にはいくつかの転機があった。1993年に萩原正氏が急逝し、妻の弥生氏が経営を引き継ぐ。その後、同業他社に勤めていた義理の息子に当たる石川樹理氏が萩原製作所に入社し、1999年11月に3代目の代表取締役に就いた。石川社長は事業推進に当たり「基本はありとあらゆる鉄骨の建物は請け負う形で考えている」との姿勢を示す。
次なる転機は本社工場の移転で、2015年4月に創業の地だった前橋市石倉町から現在地に移る。「仕事量が増えて工場が手狭になったことから移転を考えていたところ、現在地で廃業するところがあると聞き、それならと移転を決めた」と石川社長は語る。旧工場に比べ敷地、工場の規模もほぼ5倍に拡大した。さらにその年の10月にはMグレード認定を取得する。
鉄骨工場には国交省指定性能評価機関の日本鉄骨評価センターが品質管理体制や製造設備と検査設備の管理体制、製作実績や品質管理状況などを審査する鉄骨製作工場認定制度があり、建築規模、使用する鋼材などにより5つのグレードを設けている。
いわば鉄骨工場のランク付けであり、高い順からS、H、M、R、Jのグレードに分けられる。鉄骨溶接構造の建築物の規模について下位グレードのRとJは延べ床面積と高さに制限が設けられているのに対し、S、H、Mの各グレードには制限がない。ただ、使用鋼材は強度と板厚に制限があり、建物の規模としてSは超高層、Hが高層、Mは中高層と概ね定められている。
萩原製作所の場合、旧工場はRグレード認定であり、「高さ20メートル以下、5階以下の制限があるRグレードのままでは対応できる建物の規模は限られていた。Mグレードの認定を取得したことで、この周辺でならほぼどんな規模の建屋の鉄骨加工にも対応できるようになった」と石川社長はMグレード認定取得の狙いを語る。この結果、関東一円で請け負ってきた工事は、工場や倉庫、さらにスーパーやホームセンター、家電量販店の店舗など多岐にわたり、数多くの実績を上げている。
認定維持に若手人材の確保に意欲 ホームページを開設し自社の業務の将来性をアピール
一方、群馬県内で現在、Hグレード以上の認証を取得している鉄鋼加工事業者は少ない。萩原製作所も格上のグレードの認証、高層、超高層の建物へは「基本的に手を出さない」(石川社長)考えだ。「高層、超高層の建物となると工期は2年、3年にも及ぶ。鉄骨はここの工場で作って保管しておかなければならず、それはまず無理。『良い品物をより早く』を当社のモットーとしているし」(同)と、現状のMグレード認証工場で事業を拡充していく方針だ。
そのためにも目下の経営上の課題は若手の人材の確保にある。石川社長はこの点について「従業員の高齢化は進んでおり、20代、30代前半の人を採用したい」と若手人材の確保に意欲を示す。実際、萩原製作所の従業員数は20人で、5人の技能実習生を除くと平均年齢は40歳に迫っている。
しかも、そのほとんどは工場の現場で従事する資格を持つ技術者であり、そこを確保していかないとMグレード認証も維持できなくなる。このため、従業員に対しては鉄骨製作管理技術者や溶接管理技術者などの資格取得のための講習代や受験料は会社が全額負担しているほか、資格手当も設けている。
ただ、採用環境は厳しく、人材確保には苦戦している。実際、2022年10月にはリクルートサイトを設けた自社ホームページを新規に開設したほか、ハローワークでも求人を募集している。
ホームページ開設の狙いは求人に絞っただけでなく、石川社長は「同業他社でも多く開設しており、新規のお客に当社がどういう会社か周知してもらうことが大事と考えた。求人については数の上で今は不足感がないものの、今後の事業を考えるとやっぱり若い人を育て上げていかなければならないという思いは強い」と語る。
金融取引はネットバンキングのため情報セキュリティの精度を高める 得意先との打ち合わせは紙の図面から3D-CADデータの電子黒板表示で見える化
萩原製作所は情報ネットワークの脅威に対するセキュリティの強化に取り組んでいる。統合型脅威管理(UTM)機器を導入したのは2019年で、業務上、パソコンソフトを使っているので外部に情報が漏れるのを防ぐための必要不可欠なソフトとして導入した」(石川社長)。
ただ、その後はネットワークへの脅威は多様化、巧妙化する一方であり、2024年に入ってUTM機器の運用・保守をトータルで支援するサービス、ゲートウェイセキュリティパック(GSP)を更新し、情報セキュリティの精度を高めた。また、金融取引はすべてインターネットバンキングで対応していることもあり、フィッシング詐欺などの恐れを警戒してセキュリティを強化している。
工場の現場については溶接ロボットの導入をはじめ、ロボット4:人6位の割合です。(その他NC加工機含む)。しかし、工場内での設計図などのやり取りは紙媒体にならざるを得ない。設計などはすべてデータでやり取りしているものの、工場内はどうしても粉じんが多いことが難点で、現場でパソコンは使用できず、現状は紙ベースに頼るしかない。
一方で、得意先との打ち合わせについては、2023年に紙ベースから一気にデジタル化を進めた。鉄骨専用CADに打ち込んだデータをパソコンでインタラクティブホワイトボード(電子黒板)に瞬時に3Dで表示できるスタイルに切り替えた。これまではプロジェクターも使わず、紙ベースの図面で打ち合わせしてきた。これを電子黒板によって立体的に「見える化」したことで、得意先に図面を見せながら検査や修正ができ、「今ではお客さんと打ち合わせする上で欠かせない存在になっている」(石川社長)。
従業員が仕事と生活のバランスを保てる仕組み作りに注力 健康経営も推進
萩原製作所は、従業員一人ひとりが安心して健やかに働けるよう、仕事と生活のバランスを保てる仕組みづくりに注力しており、具体的に資格取得支援、選べるキャリア、明確な評価制度を挙げる。それは「従業員に利益をしっかり還元できるような体制にしている」「家族ぐるみのような会社」といった石川社長の言葉の端々からもうかがえる。また、従業員が健康でやりがいを持ち働き続けられるように「健康宣言」をしており、「健康経営」への取り組みにより快適な職場環境の整備と健康づくりを推進している。
2024年4月からは残業規制の対象になったこともあり、働き方にも変革が求められる。この点、石川社長は「この業界、工期、納期を厳守するのが大原則なため、規制はなかなか厳しい」と語るものの、「従業員と話し合いながら規制をクリアしていかなければならない」という。昔ながらの感覚で「有給休暇は取らない」といったベテラン従業員もいる中で、従業員が意識を変えることも必要だ。同時に、経営側としては勤怠管理を徹底し、従業員の意識変化を促すことも重要になってくる。
企業概要
会社名 | 有限会社萩原製作所 |
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住所 | 群馬県前橋市上大島町115-15 |
HP | https://hagiwarass.co.jp/ |
電話 | 027-225-7339 |
設立 | 1974年12月 |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 鉄骨製作・切断・組立・加工 |