目次
- 受け継いだ整備工場をガソリンスタンド経営に転換。更にボディコーティングの販売を開始
- カーディーラーへの販売競争が激化 経営方針を、拡大から「グッドカンパニー」に切り替え、整備工場やガソリンスタンドに寄り添う経営へ転換
- 世の中の事態が一変したコロナ禍、洗車用品が在庫の山 経費節減と同時に対面からWeb配信に切り替えてきめ細かな情報発信
- 未来へつながるグッドカンパニーであるために、常に現場の声を聞く
- ガソリンスタンド業界でも起こっている大きな変化「セルフスタンド」化も大きなチャンス
- Web配信が重要な販促 定点撮影のビデオバーとターンテーブルが洗車Web配信の必携ツールに
- 基幹システムも複合機も、これからに応えてくれる必須アイテム
- ICT化の一端を担う複合機はラミネートにも印刷できるハイクラスの機種を導入
- ネットに上げるコラム等でAIを活用
- コロナ禍で身動きできない中、インターネット徹底活用で、売り方の仕組みや顧客とのつながりが変わった
株式会社本荘興産は、「クルマのキレイでミライをつくる」を企業メッセージに、洗車ツールの開発からボディコーティング事業まで幅広い信頼を集める岡山県倉敷市の注目企業だ。ネット配信やAIを駆使した事業展開は、これからの経営革新そのものだ。 (TOP写真:回転するターンテーブル上での洗車実演)
受け継いだ整備工場をガソリンスタンド経営に転換。更にボディコーティングの販売を開始
大阪の印刷機器の営業マンとして活躍していた先代社長(現会長)は、父親から大型車整備工場を家族経営するために倉敷に呼び戻された。しかし、日本中がモータリゼーションで盛り上がる中、どんぶり勘定の家族経営のために破綻し、負債を父1人が背負うことになった。そんな折、整備工場時代のクライアントが助けの手を伸ばしてくれて、児島、水島という工業地帯の地の利に叶うガソリンスタンドの経営者に転換を図り、借金を返済することになった。しかし給油するだけでは返済は到底できないため、ガソリンスタンドの事業の中で取り組めるサブ収益が必要と思案している時に当時はまだ珍しい海外製のカーコーティング剤との出会い、それがガソリン以外の収益を増大させサブ収益となった。
この狙いは当時の若者の心を見事に捉え、ポリマーという通称がボディコーティングの代名詞として知れ渡るほどの事業になった。今でもポリマーと聞くと「ああ、ボディコーティングね」と思い出す年配者は多いと思うが、1986年に取り組み始めたコーティング事業の名は当時のカーメーカーにも届き、1995年にはダイハツ工業から、更には三菱自動車からも打診があり、次々にカーメーカーの純正品として採用されることになりカーディーラーへの販売を拡大していった。おかげで売上は右肩上がりとなり、1990年代後半には新社屋を現在の本社がある倉敷市児島の地に建てることができるほどになった。
先代社長が夫婦二人で夜な夜な近隣の中古車センターに出向き、何十台もの洗車アルバイトをしていたことを思えば、飛躍的な発展を遂げたというほかはない。
カーディーラーへの販売競争が激化 経営方針を、拡大から「グッドカンパニー」に切り替え、整備工場やガソリンスタンドに寄り添う経営へ転換
しかしカーディーラーへの販売は永続するものではなかった。担当部署の責任者が替わったり競合他社の製品が参入してきたりするのは、大企業にとっては日常的な事柄。現代表取締役社長の平井新一氏が入社する1999年頃になると少しずつほころびが目立ち始めてきた。そこでもう一度整備工場やガソリンスタンドへの拡販を図ろうと重心を移すと、もうそこには大手ブランドの商品が立ちはだかっていたのだ。
先代と平井社長は何度もぶつかりながら経営の行く末を模索。行き着いたのはビッグカンパニーではなくグッドカンパニーを目指すという創業当時からのポリシーを貫くという経営姿勢であった。コスト削減をしながら効率を高め、本荘興産の原点でもある整備工場やガソリンスタンドに寄り添うことが会社を維持させるために欠かせない方策であると判断。経営の舵を量から質へ切り変えることにした。
ところがそんな時、先代社長は独断で洗車道具の開発を始める。金型作りからという大金を投じての開発はよほどの見込みがないと通常ではあり得ないこと。時は2000年の初め、まだその頃は整備工場でも人手は余るほどであり、常識的には洗車道具などで拡販を見込むなど考えられない時代である。しかしその時先代は息子に向かって「洗車道具はお前の未来を助けるようになる」と断言。
開発当初無謀にも見えた洗車道具の関連商品は徐々に評判を呼ぶようになり、2018年にはトヨタ自動車から共同開発の声がかかり、1年間はトヨタ自動車で先行販売、次年度からは本荘興産の自社ブランド「ウォッシュマン」の中に加えての販売ができるという仕組みが出来上がった。
開発から20年余りを経たいま、「お前の未来を助ける道具になる」という先代社長の言葉は現実のものとなり、人手不足の整備工場やガソリンスタンドの作業負担軽減の筆頭道具になっている。
女性でも手軽に操作できる洗車モップを含めた道具の開発を可能にした背景には、倉敷という地の利に恵まれた環境があったことも大きい。児島にはモップの素材開発にもってこいの縫製工場があり、また水島には試作品や部品調達などをサポートしてくれる町工場も身近に存在した。この地の利と先代の前向きな先見が幸運な新規開発を可能にしたのだ。
世の中の事態が一変したコロナ禍、洗車用品が在庫の山 経費節減と同時に対面からWeb配信に切り替えてきめ細かな情報発信
しかしここに、世の中が一変するあのコロナ禍が押し寄せる。
売れると思って大量に作った洗車モップや関連商品が在庫の山となり、日に日に経営を圧迫する事態に。
既に代表取締役を引き継いでいた平井社長は一計を案じ、素早い行動に出る。まずは経費の削減にと豪華な応接間を事務所に変え、倉庫を自社内に移動。電気代、印刷代その他を限界ギリギリまで抑えた。そしてこの機にデジタルシフトを実行しようと、整備工場やガソリンスタンドの経営者・管理者に向けて月に1〜2回のペースでWebセミナーを始めた。Webセミナーのポイントは「お客様との接点を生み出す洗車で収益アップを図るための様々な手法や道具の使い方」を主体にしたもので、コロナ禍が去った今でも良い反響と固定の閲覧者を継続的に得ることにつながっているという。
Webセミナーの後にはフリーでの質疑応答も行うので、倉敷からは遠方の地域の整備工場などからは、このWeb配信は大変助かるという嬉しい反応も届いている。
未来へつながるグッドカンパニーであるために、常に現場の声を聞く
事業の未来について平井社長は同じことをずっと突き詰めていくことはしない。「これは面白いし他にやっている人がいない、ならば自分の問題にできるのでは」ということを一つの物指しに、それを実行に移すことをやっているという。
最近の典型例がトラック用洗車道具の開発だ。始まりは2023年。2024年問題が近づく中、ある展示会で乗用車用の洗車道具の実演をやっていた時、団体で来た物流業界の来場者から口々に「これめちゃいい! トラック用ないの?」との声が上がった。それをきっかけにその中の一社を訪問した際、大型の洗車機を持たない中小の運送会社では、配送後の点検も兼ねてドライバー自らが洗車を行っており、2024年にはこれもみなし残業問題になる可能性があると聞いた。とはいえ洗車をやめるわけにはいかないので、10トントラックでも楽に速く洗車ができる道具が欲しいと強く求められたというのだ。
たとえ数万円する道具でも良いものであればすぐにでも購入したいと言われ、倉敷に帰った平井社長は、過去にトヨタ向けの開発でサポートしてくれた水島、児島の協力業者と再びチームを組み、トラック用洗車道具の開発を進めている。幸いにも岡山県の補助金申請も採択され、地元の体育大学にも身体負荷や圧力などの測定エビデンス面での協力を仰ぎ、産学協同開発での本格的取り組みを開始した。
また、本年5月に横浜で開催されたジャパントラックショーに試作品を参考出展したところ、すぐにでも欲しいという運送会社やドライバーの声を得ることができ、予想を上回る評判となった。そこでも多くの見込客の目処もつき、物流業界という新しいマーケットへのチャレンジが現実となってきている。
ガソリンスタンド業界でも起こっている大きな変化「セルフスタンド」化も大きなチャンス
2024年問題で様々な課題が見えてきた運送業界と同様に、ガソリンスタンド業界でも大きな変化が起き始めている。それは急激と言えるほどのセルフスタンドの増加だ。1996年には全国に6万軒あったガソリンスタンドが今では26,000軒〜27,000軒に減った。セルフスタンドは17,000軒と既に50%を超える数になっているのだ。
そこで問題になっているのがカーコーティングや洗車という、人の手がないと成り立たない業務だ。5年後10年後にほぼセルフスタンドになると見越して、カー用品の販売を全国展開する企業や、洗車、コーティングの直営専門店化を進める大手企業が業務の強化を図ってきている。また、カーリースや中古車販売を手がける企業も顧客との接点強化と洗車業務の効率化を実施し始めている最中だ。そんなタイミングで本荘興産の洗車道具が注目され、既に契約・採用の声が上がってきているという。乗用車やトラックに付帯する様々な業務が見直されようとしている今、本荘興産の商品は未来へのニーズを着実につかもうとしている。
Web配信が重要な販促 定点撮影のビデオバーとターンテーブルが洗車Web配信の必携ツールに
「昨年まではオンラインセミナーで洗車の紹介にパワーポイントの資料を見せながら説明していましたが、うちのビジネスパートナーで中古車をネット販売している方と共同でターンテーブルを購入した後は、洗車の実演を鮮明に撮れるビデオバー(カメラ、マイク、スピーカーを1つの機器に統合した製品)を使ってライブ配信しています」と平井社長が案内してくれたのは、本社の向かいにある工場の1階。室内に入ると目の前に車が載ったターンテーブルとモニターの上にビデオバーが置かれていた。2024年の3月から既に6回やっているという洗車の実演を見せてもらう。
延べ50社以上の顧客が見ているという実演は、車を回しながら様々な部位の洗車の仕方や効果が確認できるので、必要最小限の説明だけで十分だという。実際にWeb配信を見ただけで購入を決めたガソリンスタンドもあるというビデオバーでの動画撮影は、手元のリモコンだけで操作ができる優れものだ。
本荘興産ではYouTube動画も併せて公開しているためか、展示会などではあえて商品説明をしなくても「あー、見てるから知ってますよ」などと声をかけられる機会が増えたという。商談に入る前から親近感を持ってもらえるという意味でもWeb配信は効果的だ。
今後ビデオバーとターンテーブルの組み合わせは洗車だけでなく、車の傷補修やコーティング、塗装など様々なコンテンツ作りにも活用予定だという。またビデオバーはそれだけでなく、工場の状況を本社で確認したりやり取りしたりといった社内的な用途にも利用予定で、トラックの洗車実演にも使うので、数台増設も考えているそうだ。
働き方改革が叫ばれる今、客先へ出かけていくコストと時間を削減できるリモートツールWeb配信ツールの活用はますます重要になってくる。
基幹システムも複合機も、これからに応えてくれる必須アイテム
事業が本格的に動き出した頃、本荘興産では多くの商品をカーメーカー数社や大手商社、問屋を経由して販売していたが、流通在庫を商社や問屋にお願いすることなく整備工場やカーディーラーに直送する仕組みを取っていた。そのため受発注トラブルを防ぐ意味でも得意先とのシステム連携が必須となり、2014年ごろに基幹システムを導入。
平井社長はこの基幹システムは今でも本荘興産の生命線だと語るが、自動車業界でもまだFAXや電話での注文が多かった時代。デジタルとアナログをうまく融合して対応する便利さや、デジタルツールに長けた専門性の高い人材でなくても使えるシンプルな操作性も地方の企業にとっては大きな魅力だったようだ。また、基幹システムのカスタマイズや勉強会への参加などシステム支援会社との連携を深め、変化する時代への対応を積極的に行なっている。
ICT化の一端を担う複合機はラミネートにも印刷できるハイクラスの機種を導入
Web配信などの活用で紙の印刷物の必要性は減っているが、それでも紙で見たいという人もいるほか、試作品のラベルや少量生産のボトルのラミネートシールなどにも印刷は欠かせない。そこで導入した複合機は外注に匹敵するクオリティが得られるもので、用紙の選択肢も広く自動でホチキス留めもできる。本荘興産のような企業にはぴったりのツールのようだ。
「コロナ禍でDIY洗車がブームとなっており、オリジナルブランドの商品を作ってネット販売したいという相談も寄せられることが多くなっています。当社が裏方となってブランドづくりを支援するというイレギュラーの案件も、この複合機と社内のデザインチームがいるからできることなんです」と、平井社長は話してくれた。
会社内部にデザインチームもあり、社長自らもアイデアスケッチを起こせる能力を持った異能集団だからこその事例とも言えるが、中小企業のICT活用の未来を間近で見ることができたと実感した取材であった。
ネットに上げるコラム等でAIを活用
平井社長は最近、AIをフル活用してやろうと思い、ネット公開するコラムやSNSの投稿、依頼を受けた文章などもAIを使いながら作っているそうだ。書いた原稿をAIとキャッチボールしながらまとめ、発信することが大体できるようになったという。また、実演動画のナレーションやカタログなどもほぼAIとの対話で作っているという。
一般企業でのAI活用はまだ最近始まったばかりだからこそ、いま手をつけておけば、2〜3年後普及した頃にはすんなり使いこなせる経験値ができているというのが平井社長の考えだ。
コロナ禍で身動きできない中、インターネット徹底活用で、売り方の仕組みや顧客とのつながりが変わった
コロナ禍で身動きが取れない中、デジタル、インターネットを徹底的に使って情報発信するしかなかったため、様々なICTツールを活用してきた平井社長。
遠隔地の顧客からのダイレクトな問合せや展示会などでの思いもよらぬ反響、直接得意先へ出向く時間や経費の削減など、やってみたら色んなチャンスやアイデアや仕組みまで変わるというのが分かったという。
特に地方の中小企業ほどその効果は大きいと平井社長は断言する。企業のトップや特定の人間だけでなく、社員や顧客を巻き込んだコンテンツを作っていくと、本当に売り方の仕組みや顧客とのつながり方が変わるという。
「ネットやAIも最初はミーハー的なアプローチでいいから、チャレンジするのは大事なことですよ」と助言をくれた。さらに付け加えて「やればわかります」と。ICTの力を信じ、苦難の時期を何度も乗り越えてきた平井社長だからこその貴重なアドバイスだ。
企業概要
会社名 | 株式会社本荘興産 |
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所在地 | 岡山県倉敷市児島塩生2764-3 |
HP | https://www.honjyo-k.com |
電話 | 086-475-0950(代表) |
設立 | 1978年 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | カーメンテナンス事業 |