目次
- 大手警備会社から営業所ごと独立 現場従業員の教育を徹底し警備のレベルアップを急いだ
- 分社時の従業員が全員残留 「管理部門も現場も平等」の意識を全社に浸透させて現場への尊敬忘れず
- クレームをなくし、黒子として警備対象の安心・安全を守る 主力の高速道路規制には専任の要員を配備 収益の3割稼ぐ
- 富士登山競走など県内大規模イベントに必ず参加 大量の要員確保で実績 “安売り”せず人員、警備の質で要望に応える
- 「人の安全」という仕事は、価格競争と一線を画し、質の高い警備サービスを提供する必要性
- オンデマンド印刷機の活用で大量の冊子作成の手作業が不要に データ送信などさらなる活用に期待 規模拡大より地に足をつけた経営を目指す
山梨県を中心に高速道路規制や交通誘導警備、イベント会場の警備など多様な警備業務を請け負うプライムセキュリティーサービス株式会社は従業員50人ほどの所帯ながら、さまざまな要望への対応力が強みだ。これまで人海戦術だった資料や掲示板の作成をオンデマンド印刷機の活用によってほぼ自動化し、作業負担を大幅に軽減。業務管理の効率化にも本格的な取り組みを開始した。(TOP写真:高速道路の交通規制は高度な危険判断力と体力が不可欠だ)
大手警備会社から営業所ごと独立 現場従業員の教育を徹底し警備のレベルアップを急いだ
プライムセキュリティーサービスの設立は2018年5月。県内の大手警備会社の富士吉田営業所が分社する形で独立した。当時、営業所長だった今昭人(こんあきと)代表取締役は、オーナーから「社長をやってくれ」と抜擢(ばってき)された。
「え、私がですか」と驚いたが、移籍した事務職を含めて57人の従業員がプライムセキュリティーサービスに移籍し、「お客様に迷惑をかけないこと」を第一に現場の警備員53人の教育を徹底し警備業務のレベルアップに精を出した。
全国警備業協会によると、国内の警備市場は2021年で約3.5兆円(主要8,400社の売上集計)だが、警備会社は2022年に1万社を超えた。2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大でイベントが軒並み中止になり雑踏警備分野は減少したものの、事業所向けや家庭向けなどの需要が堅調で、市場規模はほぼ横ばいで推移しているという。
今社長が「以前は警察が担っていた警備なども警備会社にシフトしているケースが多く、警備の対象も広がり、人手不足は恒常化している」と話すように、旺盛な需要に要員確保が追いついていないのが実情だ。
分社時の従業員が全員残留 「管理部門も現場も平等」の意識を全社に浸透させて現場への尊敬忘れず
今社長は当初はアルバイトで警備会社に勤めていたが、先輩従業員に世話になりながら警備の仕事が好きになった。大きな理由の一つが「現場で食べる弁当のうまさ」だった。今社長は、父親が重機のオペレーター業務に従事していて、毎日持っていく弁当をみて「おいしそうだ」と思っていた。「昼の弁当がうまいし、仕事も楽しくなった」と振り返る。そのうちに任される仕事も増え、何事にも熱心に取り組む今氏を見た上司から「営業もやってみろ」と言われ、正社員、管理職へと登用され、経営者に昇りつめた。
「7割残れば良い、と思われていたが、新会社設立後も全員が残ってくれた」。従業員には今社長より先輩の警備員も多いが、「立場上、言わなくてはならないこともあるけれど、現場のリスペクトを忘れずに接している」。今社長は、経営も管理も現場も一つの会社の中で平等だと強調する。ともすれば現場の警備スタッフを手配する事務管理部門が優越的地位だと思いがちだが、「事務職が偉いわけではない。現場にはかなわない」と従業員によく言って聞かせる。
クレームをなくし、黒子として警備対象の安心・安全を守る 主力の高速道路規制には専任の要員を配備 収益の3割稼ぐ
今社長はしかし、「目標を決めて真っすぐ進むのは苦手」で、経営方針や社是などを定める考えはないという。「従業員に社是を覚えさせたり言わせたりして、経営者が自己満足すべきではない」という考えだ。
そんな今社長が、現場に何度も繰り返し伝えているのが「クレームや苦情をなくしてほしい。警備中に文句を言われることは多いが、向こうに非があっても我慢してくれ」。黒子として安心・安全を守るのが警備の仕事だということだ。
同社は幅広い警備業務をこなすが、屋台骨は2号警備業務に分類される「交通・雑踏警備」で、なかでも高速道路の規制業務は地元でも競争力のある分野だ。プライムセキュリティーサービスでは全社の2割の人員を割いているが、「高度な危険判断力、運転技能、体力が求められるため、リタイヤ組といわれる高齢者ではなく専任の人員を配備」しており、収益は全体の3割を占めている。
富士登山競走など県内大規模イベントに必ず参加 大量の要員確保で実績 “安売り”せず人員、警備の質で要望に応える
2023年から2024年にかけて、コロナ禍で中止になっていた大規模イベントも相次ぎ再開。「県内の大きなイベントは、元請けではなくても、ほとんど関わっている」という。富士スバルラインを走行する日本最大級のクライムレース「Mt.富士ヒルクライム」、完走率5割を切る過酷な「富士登山競走」、街に100本のたいまつが灯る「吉田の火祭り」など、数十万人規模の見物客が集まる県内の有名イベントに警備員を派遣。動員される警備員数は増加傾向が続き、例えば、8月に開催される吉田の火祭りでは以前は40人ほどだったが今年は80人が必要。大量のアルバイトが必要な際には高額時給もいとわず頭数をそろえ、教育を施す機動力を発揮する。
「人の安全」という仕事は、価格競争と一線を画し、質の高い警備サービスを提供する必要性
今社長は、価格のたたき合いや現場の劣悪な扱いには神経をとがらせる。「当社の料金は高い。その代わり、人員面や警備の質は必ず要望通り対応する」という自負があるから“安売り”はしない方針だ。イベント需要の増加などで、「言い値でいいから」と言われることもあるほど人手不足は深刻。同社の業績は新型コロナ以降不振だったが、価格転嫁も進み「今期は上向きそうだ」と一安心の様子だ。
福利厚生の充実にも取り組んできた。業界で遅れがちな社会保険には早くから全加入しており、日給月給をベースにしながらも有給休暇消化の推奨や未消化分の換算も導入。2023年は平均8%の賃上げも実施した。
オンデマンド印刷機の活用で大量の冊子作成の手作業が不要に データ送信などさらなる活用に期待 規模拡大より地に足をつけた経営を目指す
警備事業では契約ごとに、現場に掲げる規制の説明文などの印刷物をラミネート加工したり、警備計画など50ページ以上の冊子を20冊以上作らなければならず、毎月のように作業が発生する。従来は、エクセルから印刷した用紙を綴じる作業に数人がかりで何時間も費やしていた。
2023年8月に現場の要望でオンデマンド印刷機を導入したことで、ラミネート加工や冊子作成など、印刷関連作業は設定さえすればほぼ自動的に行えるようになった。「書類作りは、待っていれば本になって出てくるので、皆で綴じる作業がなくなり、ずいぶん楽になった」と導入効果には満足そうだ。
ただ、今社長は「機械のスペックを十分引き出せているかというとまだ1~2割ではないか」とみており、今後の活用拡大に期待を寄せる。現場からは「データをスマートフォンに送ってほしい」という要望も出ている。警備計画などのデータをスマホで受け取ることができれば現場から度々本社に出向く必要がなくなれば、現場の負担軽減にもつながるため、今社長も導入に意欲的だ。外注している給与計算など会計処理の内製化やインボイス制度対応など、業務効率化への取り組みも推進。「規模拡大より地に足をつけた経営」で、筋肉質の警備会社を目指す。
企業概要
会社名 | プライムセキュリティーサービス株式会社 |
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住所 | 山梨県富士吉田市下吉田6丁目18-47 |
HP | https://www.primess.jp/ |
電話 | 0555-22-3353 |
設立 | 2018年5月 |
従業員数 | 57人 |
事業内容 | 交通誘導警備業務他(高速道路・一般国道・施設常駐警備等・各種イベント) |