目次
- 県内企業の警備を担ってほしいとの地元産業界の要望を受けて、先代社長が在京警備会社の支社から独立して事業展開
- 入社の翌年に社長に就任し警備業界の寡占化と慢性的な人手不足、労務管理や福利厚生の遅れにも驚き 改革に乗り出す
- リニア新幹線工事の交通誘導警備で高い信頼得て増員 現場に応じた従業員教育の徹底が奏功 県内で高い競争力を維持
- 勤怠管理システム導入によって、煩雑な電話による終業報告や業務指示の手間がなくなり、現場も事務所も業務効率が格段に改善 複雑な手当を整理してシステム化し給与計算との連動も予定
- 半年先まで業務の予定が入り人手不足で新規の要請に対応できず 採用活動を折り込み広告からホームページ×求人サイトにシフトし若手の採用が増加 将来担う20代も入社相次ぐ
- 2025年にAI警備システム導入を計画 警備員の安全確保と人手不足に効果期待 従来型警備業の経営改革を担う可能性も
勤務形態がまちまちで業務のICT化が難しい警備業界にあって、山梨ジャパン・パトロール警備株式会社は早くから勤怠管理システムの導入を模索。煩雑だった電話による出退勤報告をインターネット活用により大幅に効率化した。就業環境の安全性向上と慢性的な人材不足の緩和を目的に、AI警備の導入も計画しており、警備業が抱える課題への挑戦を続ける。(TOP写真:充実した教育体制が警備業務の差別化に成功。県内で高く評価されている)
県内企業の警備を担ってほしいとの地元産業界の要望を受けて、先代社長が在京警備会社の支社から独立して事業展開
山梨ジャパン・パトロール警備の前身は、東京に本社を置くジャパンパトロール警備保障株式会社が1998年に設立した山梨支社だ。2001年に山梨県庁で建築土木担当だった古屋仁氏が支社長に就任。2002年には、地元の建築業などの要望を受けて県内の警備業を担うため、独立して山梨ジャパン・パトロール警備を設立し、仁氏が初代の代表取締役に就任した。古屋雄司代表取締役社長の父である。
古屋社長は設立の経緯について、「地場の建築業は警備員不足が深刻で、人員を広域で動かす大手とは違う山梨県専門の警備会社が求められていた」と説明する。地元の要望を受けた先代が親会社と話をし、地元出資者の支援も受けて地場企業として独立することになった。
入社の翌年に社長に就任し警備業界の寡占化と慢性的な人手不足、労務管理や福利厚生の遅れにも驚き 改革に乗り出す
古屋社長は当時、経営が大変厳しかった地元の老舗デパートで働いていた。2016年に退社し、山梨ジャパン・パトロール警備に転職した。「兄との2人兄弟なんですが、父はどちらかに継いでほしいと言っていたし、ちょうど良いタイミングだった」という。畑違いの事業だけに「5年ぐらいは勉強」と考えていたが、先代が体調を崩して翌2017年に社長に就任することになった。
いきなり警備会社のトップになり、驚くことが多かった。社員数万人を抱える大手による極端な寡占化や慢性化している人手不足、労務管理や福利厚生の遅れなど独特の事業環境に直面し、地場企業としての競争力強化と事業改革の必要性を強く感じるようになった。
リニア新幹線工事の交通誘導警備で高い信頼得て増員 現場に応じた従業員教育の徹底が奏功 県内で高い競争力を維持
山梨ジャパン・パトロール警備の警備事業分野は、施設などの常駐警備とイベント・雑踏警備がそれぞれ売上の5%程度で、主力の交通誘導警備が9割を占めている。「警備で人を幸せにする 警備で世の中に貢献する」を経営理念に掲げ、県内の主要な道路誘導警備に従事している。
現在、売上高の4分の1を占める重要業務は、リニア新幹線敷設工事の一環で早川町の南アルプストンネル工事に伴う交通誘導警備だ。10トントラックが頻繁に通る細い一本道36キロメートルを、大手ゼネコンが主導するジョイントベンチャー(JV)で数社の警備会社が分担して車の誘導を行うのだが、同社が派遣する警備員は当初4人だった。
しかし、トラック運転手にわかりやすい旗の振り方や、一般車両に対する丁寧な誘導姿勢が発注事業者に高く評価されて少しずつ増員。現在では総勢36人の過半を同社の警備員が占めている。その理由を古屋社長は「教育です」と言い切る。鬼軍曹と呼ばれた同社のベテラン隊長が、運転席の位置が高い10トントラックの特性を考えた見やすい旗の振り方や、すれ違いができない細い道で通行規制を行う車両への配慮や礼儀など「JV専用の教育プログラムを徹底して叩き込んでくれた」(古屋社長)。
警備区間には4台の社用車を配備して警備員の迅速な移動を可能にしたほか、休憩用事務所も用意してもらうなど作業環境への配慮も怠らない。現場の状況に応じた柔軟な教育や良好な作業環境の確保が高い競争力に結び付いている。
勤怠管理システム導入によって、煩雑な電話による終業報告や業務指示の手間がなくなり、現場も事務所も業務効率が格段に改善 複雑な手当を整理してシステム化し給与計算との連動も予定
勤怠管理の改善にも社長就任以来、取り組んできた。「入社すると、現場によって就業時間が違うのに、全員の勤務記録が8時から17時に固定されていたことに驚いた」。労務管理のため勤務時間を正確に把握することを目指し、電話による終業時間の報告を義務付けて記録した。しかし、毎日約100人の警備員から「警備終了」の報告が16~17時に集中して入るため、4回線の電話はパンク状態。報告する側も受ける側も非効率な状態だった。
システム支援会社と相談して勤怠管理のICT化を検討した結果、エクセル画面で勤怠データを管理でき、勤務形態に合わせた柔軟な機能設定が可能な勤怠管理システムを導入した。「電話をかけなくてもスマートフォン画面で番号を選んでクリックするだけの簡単な操作で出退勤を報告できるようにして、翌日の勤務指示もLINEやメールで送信できるようになった」ため、業務効率は格段に向上した。
出退勤をリアルタイムで管理できるようになりトラブル発生時の迅速な対応や従業員の勤務状況を一括管理できるようになり、今後はそのデータを給与計算システムに連動させる予定だ。超過勤務時間も正確に把握できるようになったことで「超過分の手当を漏れなく支払えるようになった」。多様な警備業務に対応するなかで複雑化してきた諸手当も、単純化して勤怠管理システムに対応させていく方針だ。
半年先まで業務の予定が入り人手不足で新規の要請に対応できず 採用活動を折り込み広告からホームページ×求人サイトにシフトし若手の採用が増加 将来担う20代も入社相次ぐ
警備業界の人手不足は慢性的で、同社にとっても採用活動は経営に直結する重要課題となっている。「半年先まで警備業務の予定が決まっていて、新規受注はほとんど断っている。従業員が1,000人いたら全て手配できるのだが」と仕事に対応できない歯がゆさをにじませる。要員確保のため、他業種からのアルバイトや季節労働の警備員も採用している。「建築業の人が多いが果樹園農家、なかには寺の僧侶が月に数日勤めるケースもある」という。
正社員確保のために、従来は折り込み広告主体で募集を行ってきたが、反応が多いのは「企業をリタイアした65歳以上の人ばかり」で、若年層の採用に苦心していた。そこで2019年にホームページ作成ツールを導入してホームページをリニューアルするとともに、県内の求人サイトと連携して若者をターゲットにした募集活動を強化。4年間の累計採用実績は60~70人と上々で、2023年度には採用人数が退職者数を上回った。「23歳を筆頭に、将来を期待できそうな20代の若手が増えた」と嬉しそうだ。
2025年にAI警備システム導入を計画 警備員の安全確保と人手不足に効果期待 従来型警備業の経営改革を担う可能性も
若手従業員の比率を上げる一方、2021年から取り組んできたのがAI警備に対応するための若手を中心としたオペレーター育成だ。AIベンチャーのKB-eye(山梨県昭和町)が開発したAI警備システムを2025年にも実用化する計画で、準備を進めている。このシステムは、人間が行っている交通誘導をAIカメラによる認識機能と大型液晶表示板を使って自動化し、警備員の安全確保と省人化を実現するものだ。すでに国土交通省と共同で200回以上の実証実験を終えて安全性を確認。県内の警備会社で導入が進みつつある。
KB-eyeの秋山一也代表取締役は「警備業の労働災害事故が増加している。AI活用によって警備員の事故を減らし、省人化できるため、結果として人手不足にも貢献できる」と狙いを説明する。古屋社長は「例えば、三叉路の車両誘導で通常必要な警備員4人を2~3人に削減できる見通しだが、安全な作業環境を確保して従業員を守れることが警備業の発展のためにも大切だ」と期待を寄せる。
労働環境の改善と人手不足の緩和という一石二鳥のAI警備は、リタイア組の年配者に依存してきた従来型警備業の経営改革に大きな役割を担うことになりそうだ。
企業概要
会社名 | 山梨ジャパン・パトロール警備株式会社 |
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住所 | 山梨県甲府市伊勢3丁目6-22 |
HP | https://yjp.co.jp/ |
電話 | 055-221-2828 |
設立 | 2002年4月 |
従業員数 | 108人 |
事業内容 | 交通誘導警備、雑踏警備、施設警備、保安警備など警備業全般 |