培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)

目次

  1. 自動車メーカーの生産技術者5人が起業 高度な生産技術により、製造設備や作業工程、原材料供給まで含めた最適な生産ライン構築を支援し、順調に成長
  2. 仕様書作りから生産ライン構築を支援できるのが強み 生産準備からライン稼働までワンストップで請け負い 提案力や最適化を追求する課題解決力でも評価 自動車業界の生産支援が9割占める
  3. マイクロ波応用の食品解凍装置を自社開発 フードロス問題や安全衛生管理が注目され受注増 小型装置も製品化し需要の裾野拡大をねらう
  4. 顧客の海外進出とともに各国に海外拠点を展開したが海外生産の見直しで事業を一部縮小 生産ラインの技術革新進み生産変革への対応力を磨く
  5. 製造業の変革に対応し新たな生産技術をキャッチアップ 顧客の生産ラインを事前構築できるアッセンブリー工場が稼働 業績も復調 5年後60人体制に増強目指す
  6. 3次元シミュレーションとCADを駆使 設備機器の微細測定・解析の内製化も推進 セキュリティー対策強化へアクセス管理などルール策定急ぎ「モビリティとフードセイフティの未来に貢献」目指す
中小企業応援サイト 編集部
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自動車メーカーの生産技術者によって設立された日本ハイコム株式会社は、日本のものづくりを支える生産ラインの準備や改善を事業の柱としている。自動車メーカーの海外進出に対応して自社の海外進出も積極化し、マイクロ波応用の食品解凍装置も製品化するなど幅広く事業展開しているが、製造業の変革を見据えて事業のICT武装を本格化。CADの全社導入や業務改革を推進する。(TOP写真:生産ラインの仕様作りから稼働まで全工程をワンストップで請け負うプロフェッショナル集団だ)

自動車メーカーの生産技術者5人が起業 高度な生産技術により、製造設備や作業工程、原材料供給まで含めた最適な生産ライン構築を支援し、順調に成長

培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)
本社:生産ライン構築のエンジニアリングと最適化のコンサルティングを両輪として事業を拡大してきた

日本ハイコムは、前橋に拠点のあった自動車メーカーの生産技術者5人が独立して1985年に設立。自分たちが培った知識とノウハウを生かした生産技術コンサルティング事業を目指した。初代社長の島田政彦氏は、自動車産業の高度な製造技術は幅広い産業の生産技術支援に応用できると考えた。実際に事業を始めると異なる産業で必要な専門知識は2割程度で、8割は自分たちの技術と知識で対応できたという。

生産技術支援とは、開発した製品を量産するために製造設備や作業工程、品質管理、原材料供給まで含めて最適な生産ラインを構築するエンジニアリング体系で、日本ハイコムは国内では数少ない独立系の生産技術支援企業だ。

設立当時は好景気の追い風で国内製造業は生産増強を競う状況が続き、日本ハイコムの業績も好調を維持した。佐藤康明代表取締役社長は通信機器の設計技術者から日本ハイコムに転職し、2015年にエンジニアリング事業部長から社長に昇格した。

仕様書作りから生産ライン構築を支援できるのが強み 生産準備からライン稼働までワンストップで請け負い 提案力や最適化を追求する課題解決力でも評価 自動車業界の生産支援が9割占める

培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)
「生産準備支援は1年以上のプロジェクトとなるため、技術者のやりくりがつかずすべての引き合いに対応できていない」と話す佐藤康明社長

佐藤社長によると、「事業内容を一言でいえば、生産体制を整えるために必要な設備、レイアウト、人員配備などの計画を立てて生産準備をすること」であり、主力のエンジニアリング事業のほか、生産ラインを最適化するためのレイアウト変更などのコンサルティング事業も行っている。

主な設備メーカーは顧客の生産企画に基づく仕様書に則り設備の設計・製造を行うが、日本ハイコムは計画段階から参画し仕様書作りから手掛けることができるため、生産準備から生産ラインの稼働までワンストップで請け負える。提案力や最適化を追求するための課題解決力にも強みを発揮する。事業分野は、電気、建築など幅広い業種を対象にしているが、やはり強みを発揮し需要が多いのは完成車メーカーや部品メーカーなど自動車関連企業で、現在は全体の9割を占めている。1年以上の長期の工程になるため、「すべての引き合いに対応できていない状況」(佐藤社長)だという。

マイクロ波応用の食品解凍装置を自社開発 フードロス問題や安全衛生管理が注目され受注増 小型装置も製品化し需要の裾野拡大をねらう

培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)
マイクロ波を応用した食品解凍装置:フードロスの社会問題化が追い風となり食品解凍装置の引き合いは増えている

創業当時から「受注事業だけでなく自社ブランド製品が必要」(島田元社長)との考えがあり、佐藤社長も企画開発事業への思い入れは強い。2005年にはマイクロ波を応用した食品解凍装置を独自開発し、自社ブランドで販売している。

例えば、マイナス20度の冷凍牛肉をこの装置に入れると、5分でマイナス3度のパーシャル状態まで解凍。ドリップは出ず変色もなく、味も落ちないという。「きっかけは豆腐製造会社から『賞味期限を延ばしたい』という要望だった。電子レンジにも使われるマイクロ波を応用して冷凍した食品の鮮度を保ったまま解凍できるのだが、当初はなかなか売れなかった」と笑う。

「解凍」のために数千万円から1億円規模の装置を導入しようという企業はまれだった。

しかし、食品の廃棄ロスや安全衛生管理が社会問題になり、近年、冷凍・解凍技術が注目を集めるようになってきたこともあり、大手食品販売会社や焼肉チェーンなど需要はじわじわ増えているという。大型装置のほか、小型装置も開発し多様な需要への対応を進めており、累計販売台数は店舗用小型機、製造業向け中・大型機合わせて1,200台に達した。

顧客の海外進出とともに各国に海外拠点を展開したが海外生産の見直しで事業を一部縮小 生産ラインの技術革新進み生産変革への対応力を磨く

顧客の海外進出にも対応して、オーストラリア、カナダ、アメリカ、韓国、中国、マレーシアなど海外展開にも積極的に取り組んできた。創業時からの「世界を相手に仕事をしよう」と方針に変わりはないが、現地提携企業の撤退や日系企業の生産拠点再構築の影響で、現在は中国とマレーシアの2拠点に絞って事業を継続している。

海外事業の縮小や、製造業で進む生産方法の技術革新の影響などで2023年9月期の売上高は落ち込んだ。特に生産変革への対応力は同社の経営を大きく左右する。

日本の自動車業界では、2027年から本格導入が始まると予想されている車体構造一体成形技術「ギガキャスト」によって生産ラインが一新される可能性もある。特に電気自動車(EV)分野で加速しそうな勢いで、先行する米テスラ社は約70点の部品で構成されていた車体骨格部品をギガキャストにより1点に置き換えて、大幅なコスト削減と車体剛性を向上させた。トヨタ自動車も次世代EVにギガキャスト導入方針を表明している。

従来のアルミや鋼板をベースとした生産ラインではボディ接合など従来型の技術では対応しにくくなる。

製造業の変革に対応し新たな生産技術をキャッチアップ 顧客の生産ラインを事前構築できるアッセンブリー工場が稼働 業績も復調 5年後60人体制に増強目指す

培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)
新たに稼働したアッセンブリー工場では、顧客の生産ラインを事前構築して実際の稼働状況を正確に検証できる

佐藤社長は「将来、今の技術だけではやっていけなくなる。やり方を変えて、更に事業領域を拡大していかなければならない」と強い危機意識を持っており、生産現場の変革を見据えて生産準備技術のさらなる競争力強化を急ぐ。2024年1月には群馬県の玉村町にある工場を取得。顧客の生産ラインを事前構築できる生産ライントライ用工場を作った。同社が設計する設備の全体像が把握できるアッセンブリー工場である。

顧客の工場に作る生産ラインと同じレイアウトを実際に組立・設置し、試運転する事で計画通りか確認出来るため、「解体して顧客先で復元すればすぐに稼働できる」ところまで完成度を高めることができる。この工場が新たな生産技術の習得と事業化に向けた戦略拠点となる。

人手不足による受注抑制を解消するため、現在40人の従業員を「5年後には60人に増員したい」考えだ。2024年9月期は復調した受注によって売上高は前期比5割増と回復する見込みだが、技術者増強によって成長を加速したい考えだ。エンジニアリング作業や業務管理へのICTソリューション導入も積極的に進めてきた。

3次元シミュレーションとCADを駆使 設備機器の微細測定・解析の内製化も推進 セキュリティー対策強化へアクセス管理などルール策定急ぎ「モビリティとフードセイフティの未来に貢献」目指す

培ってきた生産技術をベースに生産準備支援事業を展開 製造現場の変革に備えICTによる競争力強化へ 日本ハイコム(群馬県)
総務部ではデータ取扱ルールの厳格化などICT活用拡大に向けたセキュリティー対策強化に取り組んでいる

複雑な生産ラインの設計作業には、3次元CADや3次元シミュレーションが不可欠だ。製品データ、設備条件、レイアウトなど3次元シミュレーションを使った業務プロセスフローを作成。3次元CADデータを基にレイアウト図面を起こして情報を共有するために、事務職を含めほぼ全職員が2次元CADを活用している。

生産ラインの設備機器の細密な測定・構造解析は、従来は専門業者に外注していたが、3次元測定器・構造解析ソフトを導入して内製化を試行。総務部の海老沼香織係長は「顧客からの測定・解析業務は増えていて、少しずつ効果は出ている」という。カメラの微調整、操作の習熟度などまだ課題は残るものの、将来の完全内製化に向けて運用スキルの向上を目指している。

今後、更に3次元CADの導入拡大も検討している。総務部では「導入に当たって、データ取扱ルールの厳格化など社内規定を新たに策定する」(海老沼係長)方針で、作業に着手した。また、顧客情報の漏洩(ろうえい)防止のために、セキュリティー対策パッケージを導入。テレワークやweb会議、サーバーへのアクセスなどで、ログ監視やアクセス管理などを通じて社内の問題行為を調査して適正な対策を講じる考えだ。

佐藤社長は2020年に策定した中期経営計画をバージョンアップした「中長期経営計画(5ヵ年)」で、EV生産にかかわる顧客の理想像の具現化とフードロス減少を通じて「モビリティとフードセイフティの未来に貢献する」姿勢を打ち出している。ICTソリューションの本格導入により事業基盤の強化と製造業の変革を見据えた競争力向上が計画の達成を支えることになりそうだ。

企業概要

会社名日本ハイコム株式会社
住所群馬県前橋市石倉町5丁目14番地18
HPhttp://www.highcomm.co.jp/
電話027-253-8156
設立1985年11月
従業員数約40人
事業内容  自動車生産ラインの生産技術および生産準備、生産設備の設計・製作・メンテナンス、生産技術・生産改善コンサルティング、マイクロ波加熱システムの設計・製作