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創新建設株式会社は、群馬県高崎市に本拠を置く建設会社だ。事業の主体は設立以来積み重ねてきた通信大手などが県内で発注する事業所、施設などのリニューアル工事で、その実績から発注元の高い信頼を得ている。主な業務は受注した工事の施工を協力会社に振り分ける現場管理にあり、現場に立ち会うことが絶対条件となる。このため、関口琢真代表取締役社長がほぼ1人で現場管理をこなし、帰社後に取り掛かる事務作業で残業も発生する。この課題克服に向け、クラウドサービスなどデジタルツールを積極活用すると同時に、強みとする小回りの利く機動力にも磨きをかける。(二重屋根設置状況)
四半世紀の歴史を支えた通信、電力、自動車の大口発注元からの安定受注
創新建設は 1999年7月、現在、代表取締役会長の櫻井裕氏が群馬県前橋市で立ち上げ、その年の9月、県の一般建設業許可を取得した。2024年7月に設立25年を迎える四半世紀の歴史を支えてきたのは、通信大手のほか電力大手、さらに自動車大手を加えた大口発注元3社から受注するリニューアル工事の存在だ。
大口3社とは櫻井会長の父が起こした櫻井工務店の時代から取引があり、創新建設の設立を機にこれを引き継いだ。大口3社は県内に数多くの拠点・施設を抱える。特に公益事業である通信や電力は、施設や機器が壊れてから修繕する事後処理となっては公益事業としての責務は果たせない。このため、未然防止に向けた定期的な修繕工事が不可欠であり、創新建設にとっての安定的な受注につながっている。
創新建設は 2005年4月に本店を現在の高崎市に移転した。その理由は通信大手が県内を統括する事業所を高崎市に置いているほか、他の大口発注元との折衝も効率化できるためで、本店移転は大口3社からの受注は事業を継続・拡大していく上での弾みとなった。
創新建設は大口3社のほか、電気設備工事、空調などの設備工事を手掛ける協力会社からの工事を請け負うなど、事業を広げてきた。実際、建築工事業でスタートした事業は、2009年にとび・土木工事業、塗装工事業、防水工事業、内装仕上工事業、さらに2016年には屋根工事業、鋼構造物工事業、解体工事業をそれぞれ建設業許可の追加業種として取得し、工事領域を広げ、さまざまな顧客ニーズに応えてきた。
一方、法人向けとは別に一般個人向けのリニューアル工事部門として、2007 年には新たに社内部署として「ソウシン」を設けた。「個人向けの仕事を手掛けるうえでは法人向けとのすみ分けが必要」との櫻井社長(当時)の提案によるもので、一般個人からの依頼は「ソウシン」で工事を請け負っている。
廃業か事業譲渡かの瀬戸際に、身内でも株主でもない社員が事業存続に名乗り出る 顧客との信頼関係継続の必要性と免許制に魅力
大口3社からの工事受注を事業基盤に、工事領域の拡大などを通じてここまで順調に事業を推進してきたかに見えた創新建設も、事業承継面で危機を迎える。関口社長によると、「櫻井社長(当時)には息子さんがいたものの、建設業とは全く異なった業種に勤めており、家業を継ぐ意思がなく、後継者難から廃業か事業譲渡かといった瀬戸際に立たされた」と振り返る。
関口社長は当時、創新建設の社員であり、「そうした事情なら私が事業を引き受けたい」と自ら手を挙げた。関口氏は櫻井氏と血縁関係はない。ただ、関口氏の強い意欲と固い決意を受け入れ、2022年9月に社長職を関口氏に譲り、櫻井氏は会長に就いた。
櫻井氏の身内でも株主でもない一社員だった関口社長が創新建設を引き継ぐ決断をした最大の理由は、創新建設の事業基盤を支えてきた大口3社との契約関係にあった。大口3社にはそれぞれ工事を受注する事業者の資格として免許制を設けている。関口社長はこの点について「一旦免許が切れてしまえば、新規に契約を取得するのはかなり難しい。事業基盤を成してきた大口3社からの受注機会を後継者難で失ってしまうのは、顧客へ迷惑をかけると同時にもったいないというのが創新建設を引き継ごうと決断した理由だった」と話す。
通信大手の場合、リニューアル工事の指定事業者として県内を南部、中央部、北部に分け3社に免許を付与している。創新建設はこのうち県中央部を設立以来担当しており、発注元にとっても長期にわたり数多くの取引実績を重ね、信頼と安心感を持って工事を任せられる創新建設の存在は大きい。
これを裏付けるように、関口社長に創新建設の「強み」を尋ねると、「お客様に信頼と安心を提供できる企業。それが一番で、次に機動力」との答えが返ってきた。これは大口以外の工事にも共通する。この点、関口社長は「大手の建設会社は『細かい工事は数を増やしても意味がない』と手掛けない。当社は細かい仕事もフォローしながら、大きな受注にもつなげている。そこは25年の歴史の中で培われてきたお客様からの信頼があってこそで、最後まで確かな仕事をしてくれる信頼がなければ、お客様はちょっとした案件でも相談を申し入れてこない。その点はお客様に頼りにされているという自負がある」と力を込める。
立ち会いが絶対条件の現場管理をはじめ、業務は遠隔地でも操作可能なインターネットを活用したシステムを社長のワンオペでこなす
一方、社長就任後の業務は二級建築施工管理技士の関口社長が工事の見積もり、契約から協力会社の選定・手配、現場管理までを「実質的にほぼ一人でこなし、ほとんど現場に立ち会っている」と、いわばワンオペレーションの状態だ。その点でも「従業員はぜひとも採用したい。そうでないと仕事は回らない」と関口社長は強い採用意欲を示す。ただ、県内外の同業者と同様に、土・日曜・祝日の勤務も当たり前といった建設業界が抱える労働環境もあって人材確保は容易でなく、現状ではデジタルツールを駆使し事務作業などの効率化を図るしかないのが現状だ。
実際、関口社長による実質的なワンオペを可能にしているのは、インターネットの有効活用による業務遂行にある。代表的なのは通信大手との工事契約で、関口社長によれば「契約までのプロセスから工事完了まですべてインターネット上で完結させることが基本方針」と話す。このインターネットによる契約のスタイルは、特にコロナ禍を契機に採用されたわけでなく、ICT(情報通信技術)の活用を促進してきた通信会社だけに 2009 年頃から導入されてきたという。
もちろん、このインターネット上での工事契約の内容はこの間、かなり進化してきた。「従来は契約のやり取りで終わっていたのが、今では工事案件の打診から始まって、受諾すれば一次調整の内容として写真などを貼り付け、そこで要請があれば見積書を提出するといったラリーを画面上で繰り返す。この結果、書面や収入印紙も必要なくなった」(関口社長)。こうしたインターネット上での契約は現在、ほかの大口発注元や取引のある企業と広く実施している。
2021年頃には、ドキュメントや写真などを保存できるオンラインストレージサービスを導入。Web会議やチャットの機能も付随しており、このサービスの導入に踏み切った。
最近は顧客とのWeb会議も頻繁にあるほか、協力会社とのやり取りも直接対面で話すわけでなくWeb上で対応しており、関口社長は「打ち合わせはほとんどWeb会議と電話で対応している」と言う。また、2023年9月に新たに外出先からでも社内のデータを確認でき、ファイルの保存、アクセス、バックアップ、共有を安全に実現するNASを導入した。これはデータ保存用として活用しており、過去のデータを見たい場合は現場からでも確認できる。
現場の立ち会いの時間を有効活用し、業務効率化につなげる デジタルツールの積極活用で強みの機動力にも磨き
オンラインストレージサービスと NAS の併用によって、「外出先でお客様からあの図面が欲しいとか見積を見たいと尋ねられた際にもすぐに確認でき、『事務所に戻ってから確認します』とお客様を待たせることがなくなったことが大きな成果だ」と関口社長は語る。
こうしたデジタルツールの活用は確実に事務作業の効率化につながっている。実際、関口社長が業務で多くの時間を割かざるを得ないのは、立ち会いが絶対条件となっている現場管理にある。施工現場では実際の作業に直接関わるわけではないので、その時間を導入したデジタルツールを使って事務作業やお客様の問い合わせなどに充てられれば、有効に時間を活用できる。
仮に現場管理の時間に 1 時間でも 2 時間でもそうした事務作業などに割くことができれば、帰社後の事務作業をそれだけ削減できるというわけで、関口社長は「帰社後の事務作業は短縮でき、残業時間も減った」とその活用効果について身をもって実感している。現場で撮影した写真についても画像管理ツールを活用しており、送った写真はフォルダーに自動で分けてくれて、写真帳も作成される。デジタル対応に対しては、今まで以上にセキュリティ対策を強化する予定だ。
関口社長が創新建設の強みの一つに挙げるのは顧客ニーズに細かく対応する機動力にあり、こうしたデジタルツールの積極活用が機動力につながっている。この点について「当社のような小さな企業が今後も勝ち残っていくためには、こうしたデジタルツールを駆使していくのが一番の武器になる」と話す。これらのデジタルツールの積極活用こそが、確実に関口社長のワンオペを可能にする大きな下支えとなっている。
企業概要
会社名 | 創新建設株式会社 |
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住所 | 群馬県高崎市中大類町412 |
HP | https://www.kensetumap.com/company/122678/ |
電話 | 027-353-6773 |
設立 | 1999年7月 |
従業員数 | 1人 |
事業内容 | 建築工事 とび・土工工事 内装仕上工事 |