高齢化が進む日本の中で、企業における後継ぎ社長の役割が重要視されている。本企画では、これからの日本経済を支えていく後継社長に、どのように変革を起こし、成長を遂げていくのかを伺い、未来の経済発展へのヒントを探っていく。

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(画像=WATAKI株式会社)
渡邊 祥一郎(わたなべ しょういちろう)
WATAKI株式会社代表取締役CEO/COO
2010年に株式会社カインドウェアに入社し1年間セールスと売場での販売を経験した後、学生時代を過ごした米国に戻り6年間アメリカ企業にてマーケティングやセールスに従事。2016年に帰国し、株式会社カインドウェアのヘルスケア事業を主導した後、取締役副社長を経てCOOに就任し、弊社のマネジメント全般に携わる。2022年に代表取締役CEOに就任。
WATAKI株式会社
創業1894(明治27)年創業。「世界と対等に渡り合うには洋服の充実が重要」と考えた3代目がフォーマルウェアの浸透に注力した結果、1968年には宮内庁御用達に選ばれ、フォーマルウェアのトップブランドになりました。1971年には英国王室御用達テーラー・ハンツマン社と技術提携し、縫製技術の向上と礼装の近代化・国際化を取り入れました。それ以降も時代に合ったフォーマルスタイルを提案しつづけ、最高品質の技術を追求しています。そして創業100年目にあたる1994年に、次の100年に向けてヘルスケア事業を新たに立ち上げました。アパレル出身ならではのお洒落な生地巻きステッキやシルバーカーなど、デザインと機能を併せもったヘルスケア商品を展開しています。

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷
  2. 代替わりの経緯・背景
  3. 今後の経営・事業の展望
  4. 全国の経営者へ

創業からこれまでの事業変遷

ーー創業からこれまでの事業の変遷についてお聞かせ願えますでしょうか?

WATAKI株式会社代表取締役CEO/COO・渡邊 祥一郎氏(以下、社名・氏名略) :私たちのグループが創業したのは1894年で、創業時は渡喜商店という社名でスタートしました。創業者は渡邊喜之助という男性で、2代目も渡邊喜之助という名前です。元々は古着屋や生地問屋でスタートし、東京に出てきて、日本橋でビジネスをしていました。

古着屋から形を変え、日本では洋装文化が必要になるだろうと考え、フォーマルウェアの日本での普及を目指して企業経営を進めました。そして、3代目がフォーマルウェアを日本で大きく定着させ、日本でのフォーマルルールを制定しました。冠婚葬祭での身だしなみや持ち物、TPOを定め、宮内庁御用達になりました。

ーーそれからどのように展開されてきましたか?

渡邊 : その後、英国王室や貴族を顧客に持つハンツマンというブランドも取り扱いを始めました。ハンツマンのオーナー家に後継ぎがいないということで、私たちが友好的な買収を行いました。一時期はハンツマンのオーナーとして活動していました。

そして、35年前にヘルスケア事業を立ち上げました。これは4代目が立ち上げたカインドケアというヘルスケア事業です。4代目が3代目を介護する際に経験した苦労からワンストップで介護グッズが購入できるお店が必要だと感じ、おしゃれで心が踊るような要支援2までのケア用品や福祉用具を提供し始めました。百貨店との太いパイプを活用し、百貨店の中にお店を設けました。

現在はカインドウェアのテイラー・フォーマルウェアブランド、そしてカインドケアのヘルスケアブランドを合わせて90店舗以上展開しています。また、その他の事業として物流代行や生地検反といった周辺事業や、栃木県の那須にの縫製工場を持っています。

ーー 代々の代表様が環境に適応されてきたと思いますが、今の代表が振り返って、過去の部分で特にターニングポイントだったと感じる部分は何ですか?

渡邊 :現在のフォーマルウェアやヘルスケアの販売ができているのは、百貨店とのパイプが強いからで、この点がターニングポイントだったと感じています。3代目が作った百貨店とのパイプが、高度成長期の日本経済の発展とともに栄え、私たちフォーマルウェアも栄えました。その時の百貨店様の信頼を今も継続させていただいていると思います。

代替わりの経緯・背景

ーー 代表ご自身の経歴についてお伺いしたいと思います。1度ご入社をされた後、1年ほどで退職をされて、それからまた決意を固められて戻られたと伺っておりますが、その辺りの心情や、なぜ最終的に戻るという決断をされたのか、教えていただければと思います。

渡邊 : 大学卒業してすぐ、WATAKI株式会社に入社させていただいて、その当時は株式会社カインドウェアでしたが、まずは家業がどんなものなのかを知りたいなという浅い考えで入りました。しかし、結論から言ってしまうと、自分の肌に合わなかったです。私自身、アメリカに行かせていただいて、高校、大学とアメリカを出て、アメリカでもインターンシップをして、向こうの企業でも働いていたので、日本の老舗企業での硬い感じが合わなかったです。

当時は、年功序列が強くあり、先輩後輩の関係性に違和感を感じ、なおかつ、私は社長の息子ということで特別扱いされていたと思いました。チャレンジングな仕事もあまりさせてもらえなかったですし、評価自体もバイアスがかかっていたと感じました。私がアイデアを出しても、それは流されるような感じでした。そんな困難もあって、ここは私がいるべき場所ではないと感じ、アメリカに戻る決心をして、転職活動をして、1年後、アメリカにまた戻りました

ただ、その当時も振り返ったのですが、自分自身ある意味天狗になってたと思います。アメリカという日本とは違う環境で青春時代を過ごしたが故に、その環境と日本を比べてしまい、自分という価値を過大評価しすぎて、全て否定から入っていました。日本を、そしてこのWATAKI株式会社を否定する視線で見ていたので、それは若気の至りかなと思います。

ーー 6年間アメリカで働かれて、最終的に日本に戻って継ぐという決断をされたと思うのですが、代表にご就任されてからぶつかった壁であったり、どういう風にアジャストしてここまで経営をされてきたのか教えていただければ幸いです。

渡邊 :アメリカに戻っても、そこから日本に帰ることはないだろうという風に思っていました。もうこのままずっとアメリカでキャリアを築き、生活をし、アメリカの自由な空気の下、残りの人生を楽しんでいこうと思っていました。しかし、29歳の時に、その時働いていた企業様にグリーンカードの話をされ、その時立ち止まることができました。

その時は自分のキャリアを築くことに一生懸命で、目の前にあることをどんどんこなして、目標を達成し自分の価値を証明していく、認めてもらう、それに一生懸命でした。

ただ、自分の置かれた環境や家庭環境も含め、これからのキャリアを自分がどう築けるのかというところを見た時に、世界的に見ても創業家に生まれるのはとても珍しいことだと気づきました。そのチャンスを自分からふいにし、このままアメリカで過ごしていていいのかと思いました。

そして、グリーンカードを受け取った場合、私はさらに何年も先このアメリカに腰を据えるのだろうなという風に思ったのでグリーンカードを取得するという選択肢は捨てて、ファミリービジネスに賭けてみるのはどうか。 経営者として失敗しても成功しても全部自分の責任になる。その上で、なんでもできるチャレンジングな場所に身を置いてみようという決断をしました。

今後の経営・事業の展望

ーーそれでは、渡邊さんが経営をされているWATAKI株式会社について、今後の展望としてグローバル企業を目指されているとのことですが、海外展開を志す理由と具体的な展望について教えていただけますか?

渡邊 :グローバル企業を目指すというのはマーケットをグローバルに広げるためで、私たちのブランドを世界規模にしたいと考えています。個人的には、ビジネスをする上で大きな目標を持って、その目標に向かって進むことをモットーにしています。そのため、世界一のブランドをこの手で作りたいと思っています。

また、日本のマーケットが縮小していることもあり、日本国内だけでビジネスをしていても、この会社を100年継続できるとは思えません。そこで、グローバル企業を目指すことを掲げました。

ーーグローバル企業を実現していく上で、重要なテーマや課題、ボトルネックになってくるところはどこでしょうか。また、それらをどのように解消していくのでしょうか?

渡邊 : ボトルネックになってくるのはマーケティングだと感じています。。日本国外のマーケットで認知度をどう上げていくのか、何から手をつけるのか、優先順位は何なのか、そしてそれを実現できるチーム作り、チーム編成が重要です。また、目標に対してどれだけスピーディーに、ロジカルに、シンプルに進めていけるのかが重要だと思います。

ーー 海外展開において求められる能力や人材に求められる能力は、国内展開とは変わってきますよね。

渡邊 : そこは変わらないと思っています。ただ、環境への適応が重要で、日本とは違うマーケットをどう理解して、そこに的確な手を打っていくのかがポイントです。言語に関しては今の時代、ツールが充実しているのであまり問題ではないと思います。

ーー 渡邊さん自身が先頭に立って海外展開を進められるのでしょうか?

渡邊 : はい、私はCOOでもありますし、海外展開やマーケットの拡大、会社の規模を大きくしていくことにやりがいを感じています。

ーー WATAKI株式会社は新しい挑戦にどんどん投資をしていくという姿勢がありますが、今後どの部分に投資を強化されるのでしょうか。また、ファイナンスをどのように活用して成長スピードを上げていくのでしょうか?

渡邊 : 私たちは社内ベンチャーで色々取り組んできましたし、過去にも沢山“学び”がありました。今は、カインドウェアとカインドケアを育てることに重点を置いています。つまり、コアビジネスを強固なもにすることが重要だと考えています。そのため、一旦はブランド展開に最優先で投資をしていくつもりです。

全国の経営者へ

ーー 全国の経営者の皆様へ向けて、このメディア『THE OWNER』は、後継社長や事業承継を悩んでいる方も多く読んでいます。そういった方々に向けて、渡邊さんのご経験を踏まえたアドバイスやコメントをお願いできますか?

渡邊 : 私が他の経営者にアドバイスをするのはおこがましいことだと思いますが、人生は一度きりです。私たちはこの体で、この心で生まれるのはこれっきりだと思うので、自分自身が納得いく形で、目標に向かって楽しむことが重要だと感じます。

周りにいる人たちを大切にしながら、感謝しながら生きていくことが大切です。私たち経営者も、コミュニティの中に存在するいち人間なので、そのコミュニティも大切にしながら楽しく生きることが大切だと思います。

ーー 本日はお時間いただきありがとうございました。

氏名
渡邊 祥一郎(わたなべ しょういちろう)
会社名
WATAKI株式会社
役職
代表取締役CEO/COO