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群馬県南部の邑楽郡にあり、自動車、空調機器、食品など数多くの工場を抱え、ブラジル人をはじめとした外国人居住者が多いことでも知られる大泉町。有限会社群馬中日輸送は1975年、東京中日新聞の輸送事業者の一つとして創業した。
以来、新聞輸送を主軸にしてきたが、時代の変化で新聞輸送のみに立脚した事業では将来が見通せないと取扱品目を広げ、さらに新聞輸送の従業員のほとんどをパート、アルバイトに雇用形態を変えた。家族による経営で運営管理をまかなうため、クラウドを活用し、会社にいても自宅にいてもアクセスできる環境も整備してきた。今後の採用については、さらに会社としての認知度を上げるため、本格的なホームページ作りに着手しようとしている。(TOP写真:主力事業である新聞輸送用のトラック)
紙媒体の輸送が目減り、さらに売上の過半を占めていた新聞の輸送もなくなる 2トントラックの強みを生かして新規開拓を徹底的に進めた
「会社は妻の母方の祖父が1975年に創業しました。それを妻の父が継いだのが1989年。平成に入ってからでした」3代目に当たる市川崇代表取締役社長が説明する。市川社長はもともとはリハビリなどを行う理学療法士だったという変わり種。妻も同じ理学療法士だった縁で結婚し、妻の実家の事業を継ぐため、2020年に入社。2023年6月から社長を務めている。
「社名からもわかる通り、東京中日新聞の輸送で事業が始まったのですが、その後、聖教新聞の取り扱いも始め、そちらが輸送台数では全体の半分、売上ベースだと6割程度を占めるようになっていたのです」
ところが、市川社長が入社した年の秋、聖教新聞の輸送が別会社に移ることとなった。半分以上の売上を占める “ドル箱”を失う事態に見舞われたのだ。「その頃からいずれ会社を継ぐことは決まっていたので、これは何とかしないと、と。それには新聞以外の輸送を増やすしかないと考えました」
市川社長は近隣の企業からの荷物輸送の依頼や、輸送業者の下請け業務を得るために、インターネットを駆使して近隣の業者を徹底的に調べ、半年程度をかけて400~500件にリーチ。電話をはじめ、FAX、メールでの営業をかけた。「その中で、地場の輸送業者に声を掛けてもらえました。そこは大きな輸送車が多いので、2トントラックなどを使った小回りの利く貨物輸送を下請けとして任せてもらえたのです」
輸送品目は塩ビパイプ、段ボール、業務用のセメントなど。ただ、これだけでは、新聞輸送が減った分の売上減を賄うことはできなかった。
仕事の大幅減を受け、社員主体からアルバイト主体の経営へ切り替え 毎日決めた時間に働ける働きやすさからアルバイトの応募は多数
輸送品目の増加に加え、やったことは従業員のパート、アルバイト化だった。「義父が社長をやっていた頃には20人が全て正社員でした。ただこれでは社員の給与が経営を圧迫してしまうことも自明でした」。市川社長は雇用形態の改革に着手する。辞めた社員に代わってパートやアルバイトの形で人員を雇用していった。求人サイトなどを通じて募集をかけると、思いのほか、応募者が多かったという。
「いわゆる求人誌などの紙媒体で募集をかけていた頃は、その読者特性から、年配の応募者の方が多かったのです。それがインターネット上のサイトで募集をかけると、私は今39歳ですが、ほぼ同年代の人から応募が来ることも多くなり、こちらが欲しいターゲットにリーチすることもできるようになりました」
時あたかも、コロナ禍により、自宅待機している人なども多く、残業が減ったことで減少した収入分をダブルワークで確保したい層からの応募も多かったという。面接でそんな理由を市川社長は何度となく耳にした。「商店主も多かったですし、理容師・美容師の方も多かったですね。時間が決まっているため、空いた時間で働けるというのも働きやすさ、応募のしやすさにつながったようです」
新聞輸送は印刷工場から販売店まで、決まったルートで決まった時間に荷物を運ぶため、労働時間の計算やその時間が空いているかどうかの判断がしやすいことが人気の理由だったという。「現在でも年間で100人以上の応募があります」というほどだ。
新たに上毛新聞の輸送も開始 運行管理もICTで一元化でき、少人数で、しかも在宅でも運営が可能になった
新聞輸送に対する採用への応募が盛んな中、2024年1月1日からは新たに地元紙の「上毛新聞」の輸送事業を開始した。「新聞の宅配は、群馬県のこの地域に限らず、どこでも全体に目減りしていると思いますが、やはり地元紙には地元での強みがある。部数が多いので助かっています」。こう話す市川社長としては「新聞輸送の一本足にしたくはありませんが、とはいえ創業時から請け負っている事業なので、新聞輸送をゼロにしたくはないんです。幸い、新聞輸送で働きたいという応募者が多くいることですし」と強調する。
その運行管理もICTを使ったシステムの導入で、市川社長や妻の手による一元管理が手軽にできるようになった。「以前は、チェックリストを作成し、いちいち手書きしていたものを確認していたわけですが、すべてのデータをクラウドに置いて、会社だけでなく、自宅にいても管理できるようになったことは大きいです」とその成果を喜ぶ。家族経営、現状では市川社長と妻で実質的な管理を行っているだけになおさらだ。
一方で他の取扱品目の輸送への採用募集の実態は、それほど順調ではないという。市川社長は「やはり新聞輸送に比べると、距離や時間も決まっていないのが理由だと思うのですが」としながらも、「とはいえ、配送品目自体はリスク分散のため増やしていきたいと考えている」といい、今後、多様な輸送品目を担当する人員の強化にもいっそう力を注いでいく方針だ。
会社をPRするためには、ホームページは必須、SNSも運用し認知度向上狙う
「会社をPRしていくためには、やはりホームページを作ることが必要だと考えています」現状の採用は各種求人サイトに頼っている状況だ。特に無料掲載が可能なサイトで、できるだけ費用を抑えた形で、これまでは採用を図ってきた。
「義父の代ではインターネットを使って求人募集をするとか、運送会社として新たな仕事を受注する、ということ自体ありませんでした。しかし、新たな事業を取ってくるにも、運送会社ってなかなか(顧客の認知に)引っ掛からないんです。会社の認知度を上げていかないと。ホームページを作るにあたっては、そのメリット、デメリットを精査する必要がありますが、認知度を上げていくための手段と考えています」
これまでは固定費削減が優先したが、これからはICTを使った新たなシステムの導入による事業成長を視野に入れる
「ここまで、無料の求人サイトなど、できるだけ固定費を抑えて成果が出るやり方で進めてきました。私が細かい調べものなどが苦にならない性格なので、自分でできることは自分の手でやってきたのですが。でも今後を見据えると、もちろんランニングコストなどの費用との兼ね合いにはなりますが、導入すればそれだけ自分が楽になり、ほかにやれることも増える。そのあたりを考慮して、適正なものを入れていく考えはあります」
これまで同様、新聞輸送を主軸にしつつも、ホームページによる新規顧客開拓、配送品目の増加によるリスク分散、従業員の勤怠管理、もちろん運行管理も含めた事業をICTソリューションによる助けを得て、さらに成長させることを目指している。
インターネットの普及とともに紙のメディアは大幅に減少しているが、同時にインターネットの普及により物流が大幅に拡大している。小回りの利く良さを生かしながらICTを活用して活路を見出す群馬中日輸送にエールを送りたい。
企業概要
会社名 | 有限会社群馬中日輸送 |
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住所 | 群馬県邑楽郡大泉町中央1-13-5 |
電話 | 0276-63-3531 |
設立 | 1975年 |
従業員数 | 約30人 |
事業内容 | 新聞輸送事業、貨物運送取扱事業 |