障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)

目次

  1. 山梨県立美術館でユニバーサルレストランを運営 障がいの有無、国籍、性別、年齢にとらわれることなく誰もが集える交流拠点に
  2. タッチパネル式セルフレジを導入してスタッフの負担を軽減
  3. 支援する側、支援される側に分けることなく、すべての従業員が仲間として働く
  4. 教職やベンチャー企業での勤務を経て2017年にKEIPEを設立 1年間の療養生活が大きな転機に
  5. 福祉サービス提供の枠を超えて事業を拡充 障がいを特別なものにしない、社会と関わって誰かの役に立つ会社であり続ける
  6. 2ヶ所の就労継続支援A型事業所で約100人が勤務 可能性を伸ばすためチャレンジする機会を積極的に提供している
  7. デジタル技術で挑戦しやすい環境を整える 鍵となる社内情報の共有にクラウドストレージを活用 意欲を持った従業員への権限移譲も積極的に進める
  8. スキャン機能を備えた複合機で紙文書のデジタル化作業を効率化
  9. 業務効率化で生み出した時間は従業員同士のコミュニケーションや人間だからこそできる創造的な仕事に振り向ける
  10. ECを活用して地域の農家を支援 加工食品の開発にも力を入れる
  11. ホームページとオウンドメディアで積極的に情報発信
  12. 古材や古道具を販売するリサイクルショップを空き店舗にオープン 地域の活性化につなげていく
  13. 社会に必要とされる人材と事業を育む「輪」を広げていきたい
  14. 人の可能性は想像以上に大きい KEIPEが実現する次の世界に期待
中小企業応援サイト 編集部
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障がい者の就労支援を中心に地域商社、まちづくり、EC(電子商取引)、飲食など多彩な事業に取り組み、相乗効果で新しい価値を生み出しているスタートアップ企業が山梨県にある。甲府市に本社を構えるKEIPE(ケイプ)株式会社だ。社内の情報を共有化し、障がいの有無に関係なく従業員一人ひとりが自らの能力を最大限発揮できる環境をつくるためにデジタル技術を積極的に活用。一連の取り組みを通じて、社名の由来となった万物を成長させる「恵風(けいふう)」のごとく、地域に新しい風を吹き込んでいる。(TOP写真:KEIPE が山梨県立美術館で運営するCOLEREの店内)

山梨県立美術館でユニバーサルレストランを運営 障がいの有無、国籍、性別、年齢にとらわれることなく誰もが集える交流拠点に

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
KEIPEの赤池侑馬代表取締役

19世紀のフランスの画家、ミレーやバルビゾン派の豊富なコレクションで知られる山梨県立美術館。この美術館の館内でKEIPEは2024年5月、障がいを持った人が生き生きと働くことができる環境を整えたユニバーサルレストラン「COLERE(コレル)」をオープンした。店名は「耕す」「住む」などの意味を持ち、「culture(文化)」の語源になったラテン語「colere」に因んで名付けた。

COLEREの運営にあたり、KEIPEはこれまでの事業で培ったノウハウを注ぎ込んだ。障がい者雇用の促進に貢献するだけでなく、新しい食文化とアートの融合を通じた付加価値も創造するカフェ&レストランとしてその注目度は高まっている。「障がいの有無、国籍、性別、年齢にとらわれることなく誰もが楽しい時間を過ごすことができる店づくりを目指しています。幅広い世代の人たち、様々な仕事に就いている人たちが交流して新しい文化を生み出し、発信する地域の拠点としてCOLEREを育てていきたい」。KEIPEの赤池侑馬代表取締役はこのようにCOLEREへの思いを述べた。

タッチパネル式セルフレジを導入してスタッフの負担を軽減

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タッチパネル式のセルフレジ

COLEREでは事前に飲食店員としてのトレーニングを受けた5人の障がい者スタッフが接客、会計といった様々な業務で活躍している。店内は、誰もが使いやすく利用できるユニバーサルデザインで設計し、スタッフの負担を軽減するために、利用客が自ら会計作業を行えるタッチパネル式セルフレジなどのデジタル機器を導入している。

支援する側、支援される側に分けることなく、すべての従業員が仲間として働く

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
KEIPEの企業ロゴマーク

「KEIPEは、働くことを自分以外の誰かに何かを提供し、喜んでいただく活動と定義しています。障がいに対する配慮や心遣いを大事にしながら、支援する側、支援される側に分けることなくすべての従業員が仲間として働いています。心身のハンデをカバーして仕事に携わることを可能にする技術が、次々に登場しているのは本当に心強いですね。ICTやデジタル機器といった新しい技術を上手に活用することで、障がいを持った人が活躍できるフィールドを広げていきたい」と赤池社長は明るい表情で話した。

教職やベンチャー企業での勤務を経て2017年にKEIPEを設立 1年間の療養生活が大きな転機に

赤池社長は山梨県出身。県外で教職やベンチャー企業でのWebマーケティング、海外市場開拓の業務に携わった後、2017年にKEIPEを立ち上げた。生まれ故郷で福祉事業を始めた背景には、事故で障がいを負った兄の社会復帰の力になりたいとの思いがあったという。当時の主な活動拠点は東京都。KEIPE以外に複数の企業を共同経営する多忙な日々を過ごしていたが、2018年に結核を患い、1年間の療養生活を余儀なくされた。この経験が大きな転機になった。

「それまでは、ただひたすらに成長を志向して収益を拡大することに邁進(まいしん)していたのですが、療養中の落ち着いた生活のおかげで、自分自身を見つめ直す時間を持つことができました。これまで取り組んできたことに社会的意義はあったのだろうか、自分にしかできないことは何なのだろうかと繰り返し自問自答する中で、KEIPEの事業に集中したいという思いが強くなっていったんです」(赤池社長)

福祉サービス提供の枠を超えて事業を拡充 障がいを特別なものにしない、社会と関わって誰かの役に立つ会社であり続ける

2019年から活動拠点を山梨県に移し、福祉サービス提供の枠を超えて、地域商社、まちづくり、EC、飲食などKEIPEの事業分野の拡充に取り組んだ。「障がいを持った人の多くが、生活の糧を得るためではなく、社会と関わって誰かの役に立ちたいという思いで働いていることをKEIPEの事業を通じて実感しています。今の社会は、障がいを持った人を特別扱いすることで壁を作り出しているのではないでしょうか。KEIPEは障がいを特別なものにしない会社であり続けたいと思っています」と赤池社長は毅然とした表情で語った。

2ヶ所の就労継続支援A型事業所で約100人が勤務 可能性を伸ばすためチャレンジする機会を積極的に提供している

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甲府市の就労継続支援A型事業所のオフィスの様子

KEIPEは、企業などでの一般就労が難しい障がいを持った人と雇用契約を結び、KEIPEの従業員として企業向けのデータ入力、SNSの運用代行、Webデザイン、パンフレット作成のほか、物流倉庫での梱包・運搬など様々な業務に携わってもらっている。

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KEIPEの未来人財創造室の木原光正室長

甲府市と笛吹市に構えている就労継続支援A型事業所では約100人が勤務。日々の勤務を通じて知識や能力の向上を図り、福祉的就労を卒業してKEIPEやほかの企業で一般就労することを目指している。「人が持つ潜在能力と可能性をいかに引き出していくかを大事にしています。配慮しすぎることで一人ひとりが持つ可能性を奪ってしまわないように、チャレンジする機会を積極的に提供しています。これからも地域に必要とされる事業の開拓をどんどん進めていきます」とKEIPEの未来人財創造室の木原光正室長は意欲を見せた。

デジタル技術で挑戦しやすい環境を整える 鍵となる社内情報の共有にクラウドストレージを活用 意欲を持った従業員への権限移譲も積極的に進める

KEIPEは多様な人材に活躍してもらう環境を整えるにあたり、デジタル技術が持つポテンシャルに目を向けている。「単なる生産性の向上ではなく、自分たちが目指す働き方を実現するためにICTやデジタル機器を活用していきたいと考えています。仕事は、自分で意思決定できる範囲が広がるほど楽しいものになります。従業員には日ごろから自ら積極的に情報を集め、考えた上で意思決定することに挑戦してほしいと思っています。挑戦しやすい環境を整えるためにデジタル技術の助けを借りて、すべての従業員が、機密事項を除いて経営陣と同レベルで社内の情報にアクセスできるようにしています」と赤池社長。時代の先を見据えた新しい事業に取り組めるように、意欲を持った従業員への権限移譲も積極的に進めていきたいという。

社内全体で情報を共有するために活用しているのが、大手IT企業が提供するクラウドストレージサービスだ。プレゼンテーション用の資料、企画書、あらゆる会議の議事録などをデジタルで大容量のクラウドストレージに保管し、部署の垣根を越えてすべての従業員が閲覧や活用できるようにしている。

スキャン機能を備えた複合機で紙文書のデジタル化作業を効率化

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複合機で紙文書をスキャンする様子

2023年には、印刷や紙文書をデジタル化する作業の効率化を目的にスキャン機能を備えた新しい複合機を2台導入した。複合機に連動した文書管理アプリケーションを使うことでスキャンした紙文書を手間と時間をかけずにそのままクラウドストレージに保存できるようにしている。クラウドストレージ内の資料は、どんな場所でも時間を問わず閲覧できる。スマートフォンから指示を出して複合機で印刷することもできる。

業務効率化で生み出した時間は従業員同士のコミュニケーションや人間だからこそできる創造的な仕事に振り向ける

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
KEIPEの後藤大地さん

以前使っていたプリンターにはスキャン機能が備わっていなかったので、紙文書をデジタル化する際は、別のスキャナーを使っていた。クラウドストレージとスキャナーは連動していなかったので、スキャンした紙文書のデジタルファイルをクラウドストレージにアップロードする際は、一旦パソコンに取り込む必要があった。そのため、作業をするたびに小刻みに時間と手間を取られていたという。

印刷とスキャンの機能が一体化した新しい複合機を使うことで、印刷のスピードアップはもちろん紙文書のデジタル化も時間をかけずに完了できるようになった。新しく時間が生まれたことで従業員同士のコミュニケーションが以前より活発になったという。「1回あたりの作業に費やす時間はわずかでも日々積み重なれば大きく、140人いる従業員全員で考えるとその時間は膨大なものになります。これからもデジタル技術を使って手間がかかっていた業務を削減し、人間だからこそできる創造的な仕事に取り組む時間を増やしていきたい」とKEIPEの後藤大地さんは話した。

ECを活用して地域の農家を支援 加工食品の開発にも力を入れる

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
KEIPEがECサイトで販売している農産物や加工食品

デジタル技術を活用した取り組みはほかにもある。KEIPEは2020年から、農家の支援に取り組む地域商社事業部で、ECを活用した農作物の販売に取り組んでいる。複数のECサイトに出店して農家と消費者を結び付けることで、以前は廃棄していた規格外農産物の収益化とフードロス問題の解決につなげている。モモやブドウを材料にしたジェラート「農良ジェラシー」をはじめとする加工食品の開発にも力を入れている。「農家の切実な悩みとなっている商品開発、生産、発送、販路開拓といった業務を担うことで地域の農業を支えると共に、農業との関わりを通じてKEIPEで働く人の可能性も広げていきたいと考えています」と赤池社長。

ホームページとオウンドメディアで積極的に情報発信

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
オウンドメディア「やってみラボ」を編集する様子

2024年5月には会社の理念と取り組みをよりわかりやすく伝えるためにホームページをリニューアルした。ブランドアイデンティティの「360° CHALLENGE COMMUNITY」をトップページに表示した上で、各事業の取り組みを説明したページにアクセスしやすいようにレイアウトを改めた。ホームページと連動して多様な働き方を探究するオウンドメディア「やってみラボ」も運営し、KEIPEで取り組んでいる事業や採用情報といったトピックを記事形式で配信している。

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リニューアルしたKEIPEのホームページ

古材や古道具を販売するリサイクルショップを空き店舗にオープン 地域の活性化につなげていく

障がい者の就労支援を中心に多彩な事業を展開 障がいの有無に関係なく従業員全員が活躍できるフィールドをデジタル技術で拡充 KEIPE(山梨県)
リサイクルショップ「Cycle」の店内の様子

KEIPEは本社を置く甲府市内で、地域ににぎわいを生み出す取り組みも進めている。2024年3月に、古材や古道具を収集、補修した上で販売するリサイクルショップ「Cycle」を、空き店舗を利用してオープンした。今後、中古の店舗や空き店舗をリノベーションして新しいテナントを誘致することで地域の商業活性化を図るプロジェクトを進めていきたいという。

社会に必要とされる人材と事業を育む「輪」を広げていきたい

従業員一人ひとりのポテンシャルを高め、様々なチャレンジを通じて地域に新風を吹き込んでいるKEIPE。「自分や自分以外の誰かの幸せを生み出したいと願う志を持った人材を育てていきたい」と赤池社長は話す。社会に必要とされる人材と事業を育む「輪」を様々な企業、地域の人たちと共に広げていきたいという。

これから先、企業が生き残っていく上で人材の多様化は避けて通れないテーマといえる。様々な人が働きやすい職場を作る上でICTとデジタル機器が大きなポテンシャルを持っていることをKEIPEの取り組みを通じて改めて実感した。

人の可能性は想像以上に大きい KEIPEが実現する次の世界に期待

障がいの有無に関係なく人は勝手に自分の限界を決めているケースが多い。それは「経験」、重要だが危険でもある。できない経験を何度かするとあきらめてしまう。「子象の杭」の話が有名だ。その呪縛を赤池社長は解き放ってくれる。

そして「人や社会の役に立つ」という思いの強さがKEIPEで働く人を動かしていく。そこに「もったいない」精神が付加されると全てのものが「価値」に見えてくる。商品にならない規格外農作物や従来は破棄していた古い物……。実は「課題」ではなく「宝物」。「課題」となった時には越えないといけない壁になるが、「宝物」だとどう活用するかというワクワク感が先に来る。ちょっとしたことに見えるが全く違う。人の行動が変わる。結果、成果もまったく違う。そこにデジタルの力が加わるとこれまでと違う世界を実現できる。新しい視点での循環型経済、これからもKEIPEに期待したい。

企業概要

会社名KEIPE株式会社
本社山梨県甲府市丸の内1丁目15-2 第5丸銀ビル2階
HPhttps://keipe.co.jp
電話055-225-3262
設立2017年10月
従業員数140人
事業内容 障がい者就労継続支援A型、飲食、障がい者就労移行支援、児童通所支援、地域創生、デザイン