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「メンバーシップ型」雇用から「ジョブ型」雇用へのシフトで変わる新卒一括採用

私は本業の企業内人材育成支援と並行して、大学の正規課程でキャリア教育を手掛けて14年になります。前職のリクナビ編集長時代も含め、20年に渡って就活の現場を目の当たりにしてきた中で、新卒一括採用という仕組みの変調を感じています。さらには、新卒一括採用と地続きである企業内での階層別教育、年功序列、終身雇用という日本型雇用そのものも変わり始めています。

表向き、採用学生の本格選考は大学4年生などの4月以降ですが、すでに2~3年生の段階からインターンシップは盛んに行われており、オンラインでの合同企業説明会なども実施されています。これまで表面上は、新卒採用とインターンシップは切り離して考えるべしとされてきましたが、実態を踏まえ国も採用直結型を認めるようになってきています。

学生たちは、3年生の2月から3月にかけて、これらの情報収集を基に、就活サイト等を通じて、関心のある企業へのプレエントリーに大忙しになります。

「就活もしなければと思うんですが、期末試験やレポート提出もあって、できないのですが…」

「考える余裕がなくなってきて、何のために就活するのかも分からなくなってきて、やる気が出てきません」

教え子の学生たちも、毎年悲鳴を上げています。

就活スケジュールについては、経団連が紳士協定の形で制御することをやめ、いまは国が混乱を来さないよう、先導するようになっています。背景には、日本企業に特徴的だった、人に仕事を付ける「メンバーシップ型」雇用から、仕事に人を付ける「ジョブ型」へのシフトがあります。企業内において純粋培養で育てていくことから、社内外で適材を発掘し配置していく流れです。欧米などに歩調を合わせる動きと言ってもいいかもしれません。

産業界の、大学等の教育機関への要望も変わりつつあります。これまで企業は、新卒一括採用、終身雇用、年功序列の日本型雇用のもと、若者を採用してからOJTなどで育成してきました。そのため大学には、一部の理工系人材を除けば、専門スキルを持つ人材よりも、素直で打たれ強く、一所懸命に学び働いてくれる、高ポテンシャル人材の育成を求めてきました。

しかし、変化の激しいグローバル競争にさらされる企業ほど、終身雇用を維持できず、ゼロから人材育成に時間をかける余裕も失いつつあります。経団連が就活ルールの主導役を担わなくなったことは、その象徴でしょう。大学に対しても、即戦力に近い専門スキルを持つ人材の育成を求める傾向が強まってきているのです。

産学が一枚岩で若者育成の仕組みをつくり直すとき

大学も時代性を踏まえた学部・学科の統廃合や、新設に躍起になっています。しかし、定員割れの大学も増えています。昭和の高度成長期は、産業は製造業中心で、中卒・高卒のブルーカラー労働者が多数を占め、大学進学率は2割未満。大学は、ホワイトカラーのエリート養成の場と言えました。しかし、昭和後期からの日本の経済力の高まりとともに、製造業の生産工場は人件費の安いアジア諸国などへ移動してきました。現在は、アジア諸国の経済力の高まりと日本の経済力の弱まり・円安で、一部揺り戻しが見られています。

国内ではサービス産業が比重を高め、ブルーカラーの需要は減少してきました。大学進学率は上昇を続け、平成には3割から5割を超え、希望者の大学全入時代の到来が語られています。各校は、産業界のニーズや時代の流行を踏まえ、学部・学科の新設などを競い合い、専門職大学も生まれています。しかし少子化の波とも相まって、定員割れ時代に突入したとされ、今や大学飽和論が趨勢となっています。

しかし、私は大学飽和論には与しません。大学進学率が日本より圧倒的に高く、世界トップクラスの韓国は、自国の人口や経済規模の小ささを自覚し、グローバルに活躍できる人材育成・産業振興を目指しています。映画や音楽での世界的ヒットという、エンターテイメント分野での韓国の国際的活躍が目立つのは、この人材育成戦略と無縁ではないでしょう。

一方の日本は、まだまだ内向きのガラパゴス的発想ゆえに発展しにくいのではないでしょうか。表面的にはDX、AIなどを冠した新設学部や学科はあったとしても、産学が一枚岩で長期展望を持って若者育成の仕組みをつくり切れていないと、私は考えています。

優秀な若者が望むのは、会社に依存せず稼げるプロへと成長できる職場

大学で長年キャリア教育の現場に身を置く中では、若者のキャリア意識、就職の志望動機も変わりつつあることを感じています。

昨今の学生が就職に期待することは、「自分自身でお金を稼ぎ、生計を立てられること」「お金を稼ぐ力が身に付くこと」「社会に貢献できる人材になり、その対価としてお金をもらうこと」などなど。つまり、大企業に就職し、年功序列のレールに乗っていれば、安定した人生を歩めるという期待は影を潜め、会社に依存せずに自力で食べて行けるようになるため、その力を身に付けたいと考えるように変わってきているのです。

彼らは、もはや終身雇用を信じておらず、たとえ就職先が大企業でも一生安泰のイメージは薄れています。ある学生は、「ツイッター(現X)に『内定が決まった会社が2日後に潰れた』とありました。自分が就職する会社も大丈夫か不安です」と話してくれました。こうした社会不安からも、会社に依存しない経済的な自立力を得たいという切実な意識が年々高まっているのです。

企業が志向しつつあるジョブ型雇用のパラダイムにシフトすることを、優秀な若者は覚悟していると言えるのかもしれません。こうなると、採用において、企業が学生に訴えるべきことは、終身雇用ではなく、プロフェッショナルに育てることになっていくでしょう。それも、その企業でしか通用しない特殊スキルではなく、広く労働市場で評価される汎用スキルをも習得できるかどうかを問われることになります。

本連載の第2回でも触れましたが、リクルートキャリアの「就職プロセス調査」によると、「新入社員の就職の決め手」は、「自らの成長が期待できる」で、常に50%前後とトップです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる!

経営者に求められるのは、若者をプロフェッショナルの育てる覚悟

これらを俯瞰して感じるのは、大学の存在意義の問い直しと、企業ニーズ、若者の成長ニーズを踏まえ、産学の根本的な役割分担の再検討が急務だということ。行政にも、文科省、厚労省、経産省といった縦割りの発想から抜け出た、若者育成のための総合的な施策等の再構想が求められます。大学はどのように、どこまで若者を育てるのか。企業はそれをいかに引き継ぎ、どうプロフェッショナル人材へ育成していくのか。この産学官を挙げた、グランドデザインが求められているのです。

一方で、新入社員を受け入れる企業現場での若者育成は、待ったなしです。新入社員を採用するということは、経営者にとってその若者の人生を預かる覚悟を持つことです。様々な事情で離職し転職していくことはあり得るでしょうが、ファーストキャリアは人生に強く影響します。

若者を受け入れる職場では、まず新卒者の志向と志望をしっかり傾聴し、受け止めることから始めることが大切です。本人が学生時代に何を目指し、どのような考え方や知識やスキルを学び、身に付けてきたのか。職場や仕事に、どのような期待や希望を持っているのか。じっくりと聴き取るのです。その上で、この職場でどのような目的と目標を持ち、仕事を覚え、キャリアを磨いていくのか、対話を通して育成していくとよいでしょう。

なお、人材育成の観点としては、旧来の社内での昇進・昇格の見通しのみでは不十分です。お客様や社会にいかなる価値を提供し、貢献していくか。仕事を通じて一人ひとりがいかにプロフェッショナルへと成長し、活躍し続けられるかを語り合うことが、重要になっています。世界で最も少子化が進む日本において、社会の宝である若者を大切に育てていきましょう。

※本稿は前川孝雄著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる』(株式会社FeelWorks刊)より一部抜粋・編集したものです。

Z世代の早期離職は上司力で激減できる
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月1日)

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