独自開発の工法で耐震・耐久・断熱の理想の家を追求 ホームページを刷新し、独自の魅力を発信 悳栄建設(群馬県)

目次

  1. 軸組工法の接合技術に疑問。耐震性能を高めるため、研究開発を重ねて3倍の強度を発揮する技術を開発
  2. 壁、床、天井に使うパネルを相次ぎ考案。結露など従来工法の欠点を解消し、高断熱の家づくりを可能に
  3. 床板の厚さ45mmとハウスメーカーの約4倍。家1軒当たりの木の量はハウスメーカーの約3倍に
  4. 「木の家JP工法」を広く知らしめ、同業者に使ってもらうのが夢
  5. 夢実現へホームページを刷新。SDGs宣言も
  6. 現在の3D建築CADシステムは2015年に導入。設計地面とパース作成に利用
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県高崎市にある住宅建設会社、悳栄(とくえい)建設株式会社は無垢材を使う在来工法を基本としながらも、木の特性を最大限に引き出すための研究を重ね、「木の家JP工法」と呼ぶ独特の工法を開発し、発展させてきた。木材をふんだんに使う同工法で建てられた家は耐震性が高く、夏涼しく冬暖かいなど快適で、省エネルギー性能にも優れ、100年以上にわたり住み続けられる理想的な家、としている。同社は、この優れた工法を広く知ってもらい、普及させていきたいと考えており、ホームページを刷新した。(TOP写真:独自開発した木材の接合技術の一例)

軸組工法の接合技術に疑問。耐震性能を高めるため、研究開発を重ねて3倍の強度を発揮する技術を開発

「建築現場で大工の仕事をやりながら、組み物に〝ほぞ〟とか〝ほぞ穴〟をつけるのは、大きい木を削って小さくして使うことになるので、それだけ弱くなってしまうと気づいたのです」。悳栄建設の須永悳行(とくゆき)会長は木材を結合する部分の技術開発に取り組んだ当時を振り返る。

「ほぞ」「ほぞ穴」というのは、柱と梁(はり)や柱と根太(ねだ)などを接合するために接合部分を削って作る凸と凹だ。「継手(つぎて)」「仕口(しぐち)」と呼ばれる、伝統的な軸組工法では欠かせない技術で、今でも在来工法で建てられる家には一般的に使われている。だが、須永会長は「木材は繊維状の細かい細胞でできているので、その細胞を欠損すれば弱くなってしまうはず」と疑問を抱いたのだ。「神社仏閣も軸組工法だから軸組が一番いいと言われるけども、今の時代の建物は材木の径がどんどん小さくなっているので、軸組だから丈夫だとは言えなくなっているのです。径が小さいぶん欠損率を小さくしないといけません」

軸組工法の接合技術に疑問を持ったのが1980年のことだというから、須永会長が悳栄建設を設立してから7年後だ。高校を出て大工職人の叔父の下で働き始めた須永会長は31歳で独立しているので、職人として腕に自信のある脂の乗り切った30代後半の頃になる。

独自開発の工法で耐震・耐久・断熱の理想の家を追求 ホームページを刷新し、独自の魅力を発信 悳栄建設(群馬県)
木材を接合する技術の研究開発に取り組んだ頃のことを話す須永悳行会長

「木材の特性を見直し、木材の持つ強度低下を招く断面欠損率をできるだけ小さくしたい」。何事にも研究熱心な須永会長はまず、木材の特性から研究。同じ木材でも樹心に近い未成熟材は強度が低いとか、木理(もくり=年輪の模様)の水平方向に力が作用する時の強度は、垂直方向の10~20倍になるといった特性を踏まえた上で、できるだけ木材を欠損させなくて済む接合方法を考案した。

それは鉄筋で木材を接合する方法だ。木材の接合部分の中心に鉄筋を挿し込み、もう一方の木材にもその鉄筋を挿入する。その上で、接合部分に金属性の板を張り付けて補強する。この工法なら断面欠損率を下げるだけでなく、機械加工もできるので、ほぞ加工のような熟練職人による手間も不要だ。

須永会長は1981年、財団法人(現一般財団法人)建材試験センターにこの工法の強度試験を依頼。その結果、引っ張り強度、圧縮強度、せん断強度、曲げ強度ともに在来工法よりも高く、とくに強度が高いもので8倍、平均して3倍にもなることが判明した。以来、悳栄建設の家はこの工法を用いている。

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接合方法の違いを示す図。左が在来工法で右が悳栄建設の工法

壁、床、天井に使うパネルを相次ぎ考案。結露など従来工法の欠点を解消し、高断熱の家づくりを可能に

悳栄建設の「木の家JP工法」のもう一つの特徴は、独自開発のパネルを壁や床、天井などに多用することだ。JPは「ジョイント(接合)」と「パネル」の略なのである。まず、1985年に木造住宅の耐震性能を高める工法として、柱と梁と根太の間に板状の木製パネルを設置することを考案、実用化している。従来は柱と梁、根太の間に「筋交い(すじかい)」と呼ぶ細長い板を斜めに取り付けて補強していた。「筋交いをパネルに換えることで、せん断力への強度が全然違ってきます」と須永会長は胸を張る。

木造住宅には柱や梁、根太などの骨組みを中心に建築する木造軸組工法と2×4(ツーバイフォー)住宅のようにフレーム状に組まれた枠材を組み立てて建築する枠組壁工法の大きく2つの工法があるが、「木の家JP工法」は両方の利点を併せ持つ工法といえる。悳栄建設は筋交いに代わるパネルを開発したのを機に、新しい住宅用パネルを次々と開発する。

2006年には通気性を確保できるように板材を特殊な形状に重ね合わせた「積層パネル」を開発、新しい壁材として特許を取得している。従来の2×4工法などパネルを使った工法は結露の発生を防ぐため、パネルを構成する枠材と合板の間にポリスチレン製の通気ボードを貼っている。これに対し、悳栄建設の純木製の積層パネルは通気ボードを使わなくても、高気密化、高断熱化が図れる上に結露を発生させることもなく、冷暖房システムの効率を高められるので省エネにもなる。また、通気ボードが不要になる分コストも下げられる。この技術は同年、群馬県の「ぐんま『1社1技術』事業」に採択されている。

さらに2007年には在来工法で発生しがちな床のひずみや床鳴りなどを避けられる床材として、やはり板材を特殊な形状に重ね合わせて製作する「連結パネル」を開発、これも特許を取得している。これら多くの独自開発技術の積み重ねが評価され、2009年には国土交通省の「地域木造住宅市場活性化推進事業」に群馬地域型住宅グループの代表工務店として採択された。

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モデルハウスの2階の部屋。天井を高くして広々とした空間を感じられるようにするのが悳栄建設の家の特徴だが、天井が高くても断熱性は高い
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モデルハウスの外観。世帯人数に応じて部屋の仕切りを自在に変えられる

床板の厚さ45mmとハウスメーカーの約4倍。家1軒当たりの木の量はハウスメーカーの約3倍に

「木の家JP工法」はパネルを多用するのに加え、床板の厚さを45mmにするなど木材を大量に使う。ちなみに大手ハウスメーカーの床材は12mmが一般的だ。「それも無垢材ではなく、接着剤で貼り合わせた合板ですからね」と須永全人(まさと)代表取締役は説明する。須永社長は須永会長の長男で、2015年に父親の跡を継いで代表取締役に就任した。

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ハウスメーカーの合板の床材を手に話す須永全人代表取締役

須永会長によると、「木の家JP工法」でつくる家はハウスメーカーのおよそ3倍の木材を使っているという。木材を大量に使うことで、住む人は木の恩恵を受けられる。「木にはすべて繊維状の細かい気管が通っていて、室内を一定の湿度に調節する機能を持っていますし、二酸化炭素を内部に吸収、固定する働きもあります」(須永会長)。夏涼しく冬暖かい上に、室内の湿度も快適に保たれ、地球温暖化防止にも役立つというわけだ。これら木材は、群馬県産材を中心に国産材だけを使っている。

「木の家JP工法」を広く知らしめ、同業者に使ってもらうのが夢

悳栄建設には営業担当がいないが、「木の家JP工法」の評判を聞きつけた顧客からの注文が絶えることはなく、現在、年間5棟前後の新築と5棟前後の改築をこなしている。しかし、須永親子には「もっと他の工務店や建設会社にもこの工法を使ってほしい」という願いがある。森林の中にいるように健康的で大きな地震にも耐える安全な家が建てられるので、とくに特別養護老人ホームなど介護施設には最適だと考えている。ただ、この工法を世間一般に広く知ってもらう手立てがない。

「この技術を同業者に教えるのにやぶさかではありません。だけど、この技術の価値をどうわかってもらうか、価値観のPRをどういう形でできるのかが課題です。一般の人にもこの技術を勉強して欲しいのですが、現状では見た目で納得するだけで、そこまで追求されないです」と須永会長は話す。

独自開発の工法で耐震・耐久・断熱の理想の家を追求 ホームページを刷新し、独自の魅力を発信 悳栄建設(群馬県)
悳栄建設の作業場。「木の家JP工法」の多くが機械で加工できるという

夢実現へホームページを刷新。SDGs宣言も

独自開発の工法で耐震・耐久・断熱の理想の家を追求 ホームページを刷新し、独自の魅力を発信 悳栄建設(群馬県)
悳栄建設のホームページ

そこで、2022年にシステム支援会社と契約してホームページを刷新、それまでのホームページに比べ、同社のつくった家の写真を豊富に掲載してビジュアル重視にした。写真はプロのカメラマンが撮影したものだけでなく、須永会長や須永社長の手によるものも採用した。使いやすさに定評がある企業ホームページ作成ソフトでサポートも充実しているので、須永社長が自ら更新し自社のPRに一役買っている。

このホームページでは「木の家JP工法」についての説明のほかに、国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)に積極的に取り組むことも宣言している。それによると、同社は合法伐採木材を利用することで、SDGsの17のゴールのうち「12つくる責任つかう責任」「13気候変動に具体的な対策を」「15陸の豊かさも守ろう」「16平和と公正をすべての人に」などにつながるとしている。

現在の3D建築CADシステムは2015年に導入。設計地面とパース作成に利用

ICT関連ではこのほか、3D建築CADシステムを2015年頃から使っている。二級建築士の資格を持つ須永社長が専門学校時代から使っているものと似ているソフトで、主に図面作成と、完成予想図などの建築パース(透視図)の作成に使っているそうだ。

ただ、須永会長には物足りないようだ。「私は昔から流し台などの設備も全部図面に表示して、お客さまに『このような形になります』と説明してきました。その辺の細かいところまで表現できればいいのですが……」と話す。1軒の家を建築するには設計から土地調査、基礎工事、内装、外壁、キッチン、バス・トイレ、屋根、外構、資金計画に至るまで、それぞれの専門家に相談する必要がある。須永会長はそれら専門家を一ヶ所に集める「住宅計画支援システム」を考案、2010年に特許・実用新案を申請した経験がある。そうした目から見ると、自社で使っているオリジナルな建具や什器、設備を同CADシステムにうまくマッチングできればなお良いのにと感じるようだ。

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企業概要

会社名悳栄建設株式会社
本社群馬県高崎市倉賀野町155
HPhttps://joint-panel.com
電話027-346-0275
設立1973年
従業員数5人
事業内容木造住宅の建築設計・施工