ここからスタート!はじめての越境EC

目次

  1. 越境ECとは?
  2. なぜいま、中小企業の越境ECが注目されているのか
  3. 越境ECのための商品
  4. 越境ECの方法は、大きく分けてECモールと自社ECサイトの2通り
  5. 初めての越境ECには、ECモールの「eBay」でグローバルに展開するのがおすすめ
  6. 越境ECに利用する通貨と決済方法
  7. 商品の発送・物流
  8. 気になる関税、消費税など
  9. 越境ECに必要な英語
  10. まとめ

小売業や製造業を営む中小企業が、国内に限らず、海外にも販路を拡大できれば、事業成長の大きな機会となります。そのもっとも手軽な方法が、ネットを通じて受注し、国内から海外へ直接販売をおこなう「越境EC」と呼ばれる方法です。

海外へ販売するなんてハードルが高いと思われるかもしれませんが、実は、意外と簡単です。
円安が進む今は、海外への輸出ビジネスを始める絶好のチャンスです。ぜひ本記事で越境ECの基本を理解して、販路拡大のきっかけをつかんでください。

越境ECとは?

「越境EC」とは、国境をまたいだ、国際的なEC(エレクトリック・コマース:電子商取引)のことです。
越境ECには、輸出取引と輸入取引とがありますが、本記事では、主として日本の小売業や製造業による販路拡大のための輸出越境ECをテーマとします。

越境ECと一般的な貿易取引の違い

広い意味では、越境ECも貿易取引の一種です。では、従来からおこなわれている輸出貿易取引と、越境ECとの違いはなんなのでしょうか。

輸出貿易では、現地の販売代理店や商社などに対して、まとまった数量の商品を販売し、通関業者(海運業者)などを使って輸出します。受注・契約のチャネル(経路) も、通常の法人営業用のチャネルです。
それに対して、越境ECの場合、Webサイト(ショッピングモール、または自社ECサイト)を通じて受注し、主として、海外の消費者に直接商品を販売することを指します。簡単にいえば、海外の消費者への通信販売だといえるでしょう。

比較ポイントをまとめると以下のようになります。

通常の貿易取引 越境EC
販売先 海外現地の卸売り業者・商社、販売代理店、小売りチェーン、商社など。BtoB 一般消費者。BtoC、CtoC
受注チャネル 営業員 Webサイト
販売数量・金額 大量・多額 1個から。少額
発送実務 通関業者(海運会社) 国際郵便、国際宅配便
商品の基準認証 必要 基本的に不要

ただし、越境ECでも海外の業者が一定ロットの数量をまとめて購入するようなBtoB取引になることもあります。また、越境ECでの販売をきっかけとして、海外のバイヤーとコネクションができ、本格的な貿易に発展することもあります。

なぜいま、中小企業の越境ECが注目されているのか

ECは最初、国内での取引に利用され、次第に国際間でのECも広がりました。以前は「越境EC」という言葉はありませんでしたが、経済産業省による「平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備」報告書の中で用いられてから、広まったとされています。
このように、越境ECには10年以上の歴史がありますが、下記のような理由により、最近特に中小企業経営者からの注目が集まっています。

①プラットフォームや決済手段、翻訳ツールの整備

中小企業でも手軽に利用しやすい、越境EC用のプラットフォーム(ECモール)や決済手段が整備されてきたことが拡がりの背景にあります。また、AI翻訳など、高機能な翻訳ツールの普及により、言語の壁が低くなったことも大きな理由です。

②コロナ禍によるECの普及

コロナ禍によって、国内でのECの利用は急拡大しました。越境ECも同様で、コロナをきっかけとした新しい生活様式により、世界各国の消費者に需要が高まっています。

③円安の進行

円安になると、円建てでは同じ価格の商品でも、海外の購入者から見たときに相対的に割安に感じるので、他国と比べて価格訴求力が強まります。また、通常、越境ECの販売代金はドルで受け取りますが、円安になると、同じドルの金額でもより多くの円を得ることができます。

越境ECのための商品

製造業にしろ、小売業にしろ、自社で取り扱っている商品が、越境ECで売れるのかどうかという点は気になるでしょう。
これには、法律的・制度的に「(A)売ることが禁止されていないか」という観点と、「(B)需要があるのか」という観点に分けて考えます。

(A1)規制があるものや国際郵便で送ることができないもの

下記のような商品は、越境ECで売ることはできません。または、国際郵便で送ることができません。

規制があるもの

・ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に抵触する製品(動植物の他、毛皮、皮革製品、漢方薬など)
・軍事転用可能な製品

など

国際郵便では送付できないもの

・スプレー缶
・香水
・花火類
・アルコール度数24%を超える酒や化粧品など
・モバイルバッテリー
・電子たばこ

など

(A2)輸出先国によって、輸出できなかったり公的機関の認証が必要となったりするもの

・食品
・酒
・化粧品
・医薬品
・農薬
・電化製品
・アダルトグッズ
・古着、中古品

など

例えば、アメリカに食品を販売する場合、米国食品医薬品局(FDA)の禁止リストに挙げられていないものに限られます。また、化粧品を輸出する場合、個別にFDAの認可を取る必要があります。
また、海外では日本の「クール便」に該当するサービスが少ないため、生鮮食品など要冷蔵品や、消費期限が短いものは避けたほうが無難です。
そのほかにも、モールによっては、独自のルールを定めている場合がありますので、規約を確認します。

その他、最新の輸出規制情報に関しては、JETRO(日本貿易振興機構)のWebサイトでチェックしましょう。
JETRO(日本貿易振興機構)

また、機械製造業などで、軍事転用可能な製品に該当しないかどうかは、経済産業省の安全保障貿易管理のWebサイトで確認してください。
安全保障貿易管理

(B)需要があるのか

需要に関しては、商品ごとに個別に異なるので一概にはいえません。「日本製:made in Japan」であることが海外の消費者に有効に働く場合もありますが、あまり意味のない場合もあります。海外からは、日本製だからといって、高品質であるとは必ずしもみなされません。
販売したいと想定する商品があるなら、AmazonやeBayなど、海外のECモールで、同一あるいは類似ジャンルの商品が実際に売れているかどうかを調査してみましょう。また、どんな商品を扱うかゼロから検討する場合は、ECモールの売れ行きランキングの上位にある商品で、自社で取り扱えるものがないか探すとよいでしょう。

越境ECの方法は、大きく分けてECモールと自社ECサイトの2通り

越境ECの舞台となるショップの用意には、大きく分けると、下記の2通りの方法があります。

①ECモールを利用する
②自社で越境ECサイト(越境EC用のWebサイト)を構築する

まずは、それぞれの特徴、メリット・デメリット、代表的なサイトなどを確認しましょう。

①ECモールを利用する

ECモールとは多くのEC販売者が集まっているECサイトです。日本では、「楽天」が有名でしょう。
越境ECの場合は、海外ECサイトを使いますが、対象とするエリアによって、向いているECモールが異なります。

代表的な海外ECモール(B to C中心)

・グローバル:eBay
・欧米:Amazon、eBay
・中国:天猫国際(Tmall Global)、京東商城(JD.com)
・東南アジア:Shopee(ショッピー)、Lazada(ラザダ)

代表的な海外ECモール(B to B)

・Alibaba.com
・Amazon Business

ECモールのメリット・デメリット

【メリット】

・手軽に始められる。トラブル時の対応の仕組みなどがしっかりしているので、EC初心者でも不安が少ない
・モール自体に知名度、集客力がある。

【デメリット】

・販売手数料がかかる。モールを利用し続ける限り、売上の一部を支払う売上手数料を払い続けなければならない。また、多くの場合、初期の出店料が必要で、意外と高額になることもある。
・モールでヒット商品が出ると、類似商品がすぐに出てくる。自社の独自性をアピールしにくいため、価格競争になりやすい。

②自社ECサイトを利用する

自社ECサイトを作るためには、専門の制作会社に依頼してゼロから構築する(フルスクラッチ)方法と、既存のECプラットフォーム を利用する方法があります。
ECプラットフォームとは、ECサイトを構築・運用するためのシステムやソフトウェアのことです。

前者は数百万円から1,000万円以上の予算が必要であり、構築や運営に専門知識も必要であるため、中小企業では、ECプラットフォームの利用が一般的です。
越境ECの場合、越境EC専門のプラットフォームを選びます。

代表的な越境ECプラットフォーム

プラットフォーム 特徴
Shopify(ショッピファイ) ECシステムとして世界一のシェアを持つ。専門知識なしで越境ECサイトが構築でき、利用料金も月25ドルからと、比較的低額。
Adobe Commerce(Magento) もともとMagentoという名前で展開していたECプラットフォームサービスをAdobeが買収したもの。運用にはIT専門知識を持つ人が必要。
WooCommerce WordpressのEC化プラグイン。無料なので、Wordpressで作成された自社のコーポレートサイトにEC機能を追加して越境ECをおこないたい場合に向く。
LaunchCart アジア向けの越境ECに特化。

自社ECサイトのメリット・デメリット

【メリット】

・サイトの設計、デザインなどが自由に可能なので、自社のブランドイメージにあったデザインを作って、消費者にブランドを訴求しやすい。
・顧客データやアクセスデータの収集・解析が自由におこなえ、マーケティングデータとして活用できる。
・ECでの販売ノウハウがたまっていく。

【デメリット】

・集客を自社でおこなわなければならず、マーケティング費用がかかる。集客がうまくいかないと、成果が出せない。
・セキュリティ対策に十分な注意が必要。情報漏洩などがあると、一気に信用を失うため、セキュリティ対策に十分な費用と手間をかける必要がある。

初めての越境ECには、ECモールの「eBay」でグローバルに展開するのがおすすめ

①と②のうち、手軽に越境ECを始めたければ、①ECモールを利用する方法がよいでしょう。特に、国内ECの経験がなく、ゼロからECを始める場合は、こちらの方法が安心です。
また、利用するECモールは、どのエリアを販売対象とするかによって異なりますが、特にこだわりがなければ、グローバルを対象とできる「eBay」の利用がおすすめです。「eBay」は、初期登録手数料が無料というメリットもあります。
まず「eBay」で越境ECにチャレンジし、慣れていきましょう。その後、必要が生じたら、地域特化型の他のECモールに出店したり、自社ECサイトを構築したりするといった方向に進めばよいのです。

一方、すでに国内でのEC販売の経験があったり、国内用のECサイトが用意されたりしている場合などは、最初から、②自社で越境ECサイトを構築することにチャレンジしてもよいでしょう。その場合、特にこだわりがなければ、定評のあるShopifyの利用が、一番おすすめできます。

越境ECに利用する通貨と決済方法

越境ECで購入者に代金を支払ってもらうための決済システムには、主に、クレジットカードと、第三者決済サービスとがあります。クレジットカードの説明は不要でしょう。
第三者決済サービスとは、クレジットカードや銀行口座などと連携して、決済や送金を可能にするシステムです。日本国内で利用されているのでは、PayPayなどが、これに該当します。
国際的によく用いられている第三者決済サービスには、以下があります。

サービス 特徴
PayPal 世界最大手
Payoneer eBay、Amazon、Shopee、Lazadaを利用する場合は必須。また、BtoBでも利用しやすい。
Stripe 急成長している決済サービス
WeChatPay 主に中国で利用されている
Alipay 主に中国で利用されている

これらの決済手段のうち、なにを用いるのかは自社ECサイトなのか、ECモールなのか、またECモールの種類によっても異なります。
例えば、eBayの場合は、購入者の様々な決済方法を一括で管理する「Managed Payments」という仕組みが導入されており、販売者が多くの種類の決済方法を導入する必要はありません。ただし、販売者にはPayoneerのアカウントが必要であり、Payoneerのアカウントで「Managed Payments」で管理されている売上代金を受け取ることになります。

将来のことも考えて、決済サービスを用意しておくなら、クレジットカードの他、PayPalとPayoneerのアカウント、主に中国で販売したいなら、WeChatPayかAlipayのアカウントを作成しておくとよいでしょう。

為替レートの変動による差損益に注意

商品の代金は、アメリカドルか、購入者の国の現地通貨で支払われます。
為替相場が大きく変動した場合、外貨を円に替える際に、為替差損益が出る場合があるので注意してください。交換時の為替レートが、販売時よりも円安になっていれば、差益が生じますし、円高になっていれば差損が生じます。外貨を円に替えるタイミングにも注意を払いましょう。

商品の発送・物流

越境ECの開始当初の商品販売数は、1日に1個から数個といった数でしょう。その段階では、受注のたびに自社で梱包して発送するのが普通です。この発送には、国際郵便または国際宅配サービスを利用します。

国際郵便が基本

発送方法は、国際郵便が基本です。国際郵便には、EMS(国際スピード郵便)、国際小包(航空便、船便、SAL便)、小型包装物、などの種類があります。一般的には、もっとも配送が早いEMSが利用されます。その他、重量などによっても使い分けがありますので、郵便局のホームページで最適な方法を確認してください。
国際郵便 サービス比較表

国際郵便を送る際には、納品書、送り状、インボイス、などの書類が必要です。これらの書類も日本郵便のホームページで作成できます。

国際宅配サービス

国際宅配サービスを提供している会社は以下が代表です。料金などは各社によって異なりますが、一般的には国際郵便より高額になります。その代わり、配送が早い、破損などに対して厚い補償が付けられるといった特徴があります。

・Fedex
・UPS
・DHL
・ヤマト運輸
・佐川急便

など

販売数量が増えたら、外部業者への委託を検討する

越境ECが軌道に乗り、販売アイテム数や販売数量が増えてきたら、倉庫での在庫管理から梱包、発送業務までを一括して請け負ってくれる、越境ECに強い物流業者への業務委託を検討しましょう。

気になる関税、消費税など

関税

輸出取引というと、関税が気になる方もいるでしょう。
しかし、越境ECでは、基本的に関税を気にする必要はありません。関税は「商品の購入者が支払う」とことが原則だからです。なお、関税率は販売する商品の内容によって異なるため、送付の際には、正しい商品名を記載しないと、購入者が思わぬ不利益を受けることがあるので注意してください。

通関手続き

国際郵便の場合、発送する商品の合計代金が20万円以下であれば通関手続きは不要ですが、20万円を超えると必要になります。越境ECで20万円以上になることは、あまりないと思いますが、念のため意識しておきましょう。
商品代金が20万円以下は、簡易通関(関税が発生した場合は購入者が負担)が選択でき、簡単に発送できます。

日本郵便で送る場合は簡易通関方式(20万円以下)でしか発送できません。20万円を超える価格の商品は、一般通関方式となり、日本郵便では送れないので、その他の国際宅配業者を利用しなければなりません。なお、一般通関の場合、購入者ではなく、出荷する側(販売者)が関税の支払いを負担することもできます。

消費税

また、越境ECは海外での販売になるため、日本の消費税はかかりません。一方、国内で仕入れた商品については、仕入れ時に消費税を支払っています。この仕入れ時に支払った消費税は、海外販売をした課税事業者が手続きをすることで、還付を受けることができます。くわしくは税理士、税務署にご相談ください。

越境ECに必要な英語

越境ECでは、サイトに記載する商品説明や購入者とのやりとりなどは、基本的に英語が使用されます。多くの中小企業経営者にとって、越境ECが難しいものに感じる理由の1つが、この英語の使用ではないでしょうか?

結論としては、越境ECに取り組むために、中学校で習う程度以上の、高度な英語能力はまったく不要です。
なぜなら、現在では、DeepLなどの翻訳ツールに加えて、ChatGPTなどの生成AIによる英文チェックなど、無料、もしくは安価に利用できる優れた翻訳ツールがたくさんあり、これらを用いれば、ほとんどの場面で対応可能だからです。
まれに、購入者からの重大なクレームへの回答など、慎重で正確な表現が求められる場合は、人間の翻訳者が翻訳してくれるサービスを利用したほうがいい場合もありますが、そういった例外的なケース以外は、ほぼAIなどの翻訳だけで間に合います。

まとめ

少子高齢化による市場の縮小や、働き手の不足など、従来の国内市場だけを対象としていては、事業と会社の持続的な成長・発展が難しい時代です。
とはいえ、本格的な貿易取引で海外進出するのは、準備も大変ですし、うまくいかなかったときのリスクも大きくなります。

その点、Webサイトを通じた越境ECなら、手軽に取り組みを開始でき、不調な場合の撤退も容易です。最初は小さく越境ECに取り組んでみて、可能性が高そうなら本格的な貿易に移行するという手もあります。
輸出に有利な円安環境に恵まれている今だからこそ、ぜひ越境ECを用いて新たな発展の芽を育ててはいかがでしょうか。

本記事のポイントをまとめた資料も用意しましたので、お手元にダウンロードしてご活用ください。

取材協力
横川 広幸(よこかわ ひろゆき)
ジェイグラブ株式会社取締役。越境ECコンサルタント。
ジェイグラブ株式会社
eBayJAPAN創業時に法人営業、マーケティングに従事。eBayに連携した越境ECサイト“Tokyotrad”で日本の仏具を世界86カ国に販売。自らの越境EC成功体験を越境ECアドバイザーとして日本全国でセミナー講演や個別相談をおこなう。