業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)

目次

  1. 個人事業主では請けられる仕事に限界があると法人化して信頼を高め、新規の取引先開拓に成功
  2. 法人化によって従業員や協力会社を確保し業容を広げたが、事務処理の作業量も増大した
  3. 法人化で増えた業務の見積作業を工事原価管理システムの導入で効率化した 人手が足りない中小企業にとって、ICTの利用が業容拡大に不可欠
  4. 導入したシステムを100%使いこなせるように勉強を続け、新しいシステム(図面から積算の自動化・日報のスマートフォン化等)の導入を検討
  5. ホームページを立ち上げ事業内容を紹介、採用のページも作って働きやすい会社であることをアピールする
  6. ホームページから仕事の様子を発信して興味を誘い入社を促し、入ってくれた人たちとはコミュニケーションをしっかりとる
中小企業応援サイト 編集部
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報は中小企業応援サイトてお知らせいたします。

群馬県高崎市を拠点に、工場や施設などの事業所に電気を供給する幹線工事や動力設備工事を請け負っている会社が株式会社伊藤電設だ。個人事業主として工事に携わってきた代表取締役の伊藤法之氏が、2017年に法人化して設立した。従業員を雇い業容を拡大していく中で取り扱う案件も増えていき、見積書の作成などに大きく時間を取られることになったことから、工事原価管理システムを導入して業務の効率化を実現した。(TOP写真:個人事業主から株式会社となり整備したホームページのトップ画面)

「自分一人の力で、どこまでやっていけるか試したかったんです」。伊藤電設を営む伊藤法之社長が、かつて勤めていた電気設備工事会社から独立して個人事業主となった理由だ。働きたいだけ働くことができて、それに見合った収入も得られる一方で、仕事が途切れて収入がなくなる可能性もあるのが個人事業主という立場。そこは、しっかりとした技術を持ち、実績も積み重ねていたことから仕事は途切れなかったという。

個人事業主では請けられる仕事に限界があると法人化して信頼を高め、新規の取引先開拓に成功

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
自作した除菌機能を持たせた空気清浄機を見る伊藤電設の伊藤法之社長

「大手コンビニエンスストアチェーンの群馬県内にある店舗のほとんどに、ソーラーパネルを取り付ける作業を請け負っていました」(伊藤社長)。蛍光灯からLEDへの付け替えも請け負っていたとのこと。技術力については、コロナ禍の時に紫外線によって除菌を行う装置を自作して、会社の中に据え付けたことからもうかがえる。

それでも、「一人だとやはり、受けられる仕事に限界がありました。大きな会社が発注する仕事の場合、個人事業主が直接受けることはできません。間に会社が入って、そこから受ける形になります」(伊藤社長)。仕事の幅を広げるには、法人を立ち上げて直接取引する必要がある。そう考えて、2017年に株式会社伊藤電設を設立した。

効果はさっそく出た。「会社にしたばかりの時に、伊勢崎市まで出かけて仕事をしていたら、他の事業者の人から『頼みたい仕事があるが大丈夫か』と聞かれました。『行けます』と答えてそこから取引が始まりました。まだ従業員は自分一人だけでしたが、会社だから受けられた仕事でした」(伊藤社長)。インボイス制度が始まって、個人事業主との取引を避ける動きも出始めていると言われているだけに、先見の明があったと言えそうだ。

法人化によって従業員や協力会社を確保し業容を広げたが、事務処理の作業量も増大した

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
倉庫にはぎっしりと詰まっているが、整理された機材や資材が企業の信頼性を表している

「法人にした方が一緒に働いてくれる人を集めやすくなるとも考えました」(伊藤社長)。自分が現場に行けなくなる場合や、何人かで請け負った方が良い場合などを考えて、人を集めておく必要があった。法人にすれば信用ができて、従業員として働きたい人や、協力者として名前を連ねておいてくれる人が増えてくる。結果として大きな仕事でも受けられるようになり、求めていた仕事の幅も広げることができたという。

ここで課題となったのが、業容の拡大で増えた書類の作成や、事務的な作業への対応だ。「経理は税理士に任せることにしましたが、仕事に必要な資料を作成したり、見積書を作ったりといった作業は、誰かに任せられるものではありません。自分で対応していましたが、そこに時間をとられるようになっていきました」(伊藤社長)。オフィスでの作業も重要だが、現場で作業してはじめて収益につながる仕事だけに、どうにかして改善する必要があった。

法人化で増えた業務の見積作業を工事原価管理システムの導入で効率化した 人手が足りない中小企業にとって、ICTの利用が業容拡大に不可欠

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
パソコンに向かう伊藤電設の伊藤法之社長

そこで同社では、2022年に工事原価管理システムを導入して、オフィスでの作業時間の短縮に乗り出した。「飛躍的に時間の短縮になりました」(伊藤社長)。工事の仕事では、現場で行う施工に関する図面や数量表を元にして、材料費や労務費などを計算する必要がある。以前はこれを手作業で行い、材料費を算出し、労務費を加えて全体の工事費用を積算してきた。「1日かけて書類を作ることもありました」(伊藤社長)

これが、システムを使えば短時間で積算して結果を出してくれる。「材料については、電気工事で使うようなものがあらかじめ記録してあって、そこから選んで積み上げていけば計算できます」(伊藤社長)。労務費や経費なども簡単に入力して積み上げていける。これによって「2、3時間で見積の作業を終わらせることができるようになりました」(伊藤社長)。最初のうちは難しかった操作にも、だんだんと慣れていったという。

少しずつでも使い方を覚えて書類仕事を効率化し、空いた時間を現場に行ったり新規の仕事の受注に向かったりする。人手が決して多くない中小企業にとって、ICTの利用が業容拡大に不可欠なことを教えてくれる事例と言えそうだ。

導入したシステムを100%使いこなせるように勉強を続け、新しいシステム(図面から積算の自動化・日報のスマートフォン化等)の導入を検討

「今はまだシステムの能力の半分も出せていないのではと思います。もう少し使い方を覚えれば、原価を計算して利益を確保できるような見積を出せるようになります。現場に出ているとなかなか覚える時間がとれませんが、頑張って覚えていこうと思っています」(伊藤社長)

次の展開も探っている。「図面を読み込んで操作することで、数量などを全部計算してくれるシステムがあると聞いています。それが使えるようになれば、もっと早く見積を出せるようになるのではないでしょうか」(伊藤社長)。図面自体の作成も、今は請け負う仕事が多く、あらかじめ図面が作成されており、自社で行う必要を感じていないが、余裕が出てくればそうした方面も手がけてみて、自分たちでできる仕事の範囲を広げていきたい考えだ。

ほかには、「手で紙に書いてもらっている日報を、スマートフォンで記入して送れるようにできないかと考えています」(伊藤社長)。今は、作業に行った現場で、誰がどのような仕事をしたのかを書いてもらったものを、毎月20日の締め切りで持参してもらっている。スマートフォンから打ち込めるようになれば、締め日よりも早い段階で仕事の状況を把握できるようになる。「アルコールチェックの記録などもいっしょに記入できれば、より細かく従業員の働き方に目を配れるようになるのではと考えています」(伊藤社長)

ホームページを立ち上げ事業内容を紹介、採用のページも作って働きやすい会社であることをアピールする

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
伊藤電設のホームページ内にある採用ページに書かれた働き方についてのポリシー

法人としての組織は2017年に整えた。しかし、そのことを知っているのは取引先が中心で、世の中に広く知られているとは言えなかった。声をかければ以前から付き合いのある事業社や個人事業主は協力してくれるが、新しい人材を探したり、向こうから声をかけてもらうようになったりするには、会社であることを広く示す必要があった。そこで同社では、2023年にホームページを立ち上げ公開した。

「会社の名刺代わりという意味合いが大きいです。ホームページを持っていて、そこで事業の内容を発信することで会社への信用を持ってもらえます」(伊藤社長)。企業ホームページ作成サービスを使って作成しており、何か発信したい情報が出てきた時に、外部に更新を依頼しなくても、自分で情報をアップデートできる。

求人面での効果も期待している。ホームページがあれば、就職希望者にどのような会社かを見てもらえる。同社ではトップページに採用に関する案内を掲載し、より細かく採用情報を発信しているページへのリンクボタンも置いて、どのような人材を求めているか、どのような仕事をしてもらいたいかを発信している。そこには、資格取得のサポートを行っていること、頑張ればしっかりと評価してもらえること、福利厚生や休日の制度が整っていることが書かれていて、読めば安心して応募できる。

ホームページから仕事の様子を発信して興味を誘い入社を促し、入ってくれた人たちとはコミュニケーションをしっかりとる

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
これからのホームページの活用や会社の未来を語る伊藤電設の伊藤法之社長

「ホームページが充実しているかというとまだまだです。自分の写真すら掲載していませんから。人手も足りていないので更新もあまり頻繁ではありませんが、これからは現場に行ったら写真を撮っておいて、どのような仕事をしたか実績を発信していけるようにしたいと思っています」(伊藤社長)。採用が順調に進んで人手に余裕ができ、それによってホームページの充実が図られることで、次の採用につながる好循環が期待される。

3人いる従業員は、それぞれ20代、30代、40代で、52歳の伊藤社長も入れて世代が分かれている。普通ならギャップが生まれそうだが、そこはしっかりとコミュニケーションの一環でたまに一緒にゴルフに行くような活動もして、働いて楽しい職場環境にしようと気を配っている。そうした雰囲気が伝われば希望してくれる人もさらに増えそうだ。その意味でも、今後の情報発信に力を入れていくことになるだろう。

業務拡大の中、工事原価管理システムで見積作業を大幅に短縮、ホームページで信頼を確保し新規採用も目指す 伊藤電設(群馬県)
伊藤電設の本社事務所

企業概要

会社名株式会社伊藤電設
本社群馬県高崎市下小塙町1532-1
HPhttps://ito-densetsu.co.jp/
電話027-386-9510
設立2017年8月3日
従業員数3人
事業内容電気設備工事(幹線工事・動力設備工事・電灯コンセント工事・電気計装工事)