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ムロガ商事株式会社は、長野県長野市で外食産業向けなどの業務用食材を取り扱う卸売業者だ。強みとするのは起業のきっかけとなった中華食材で、その希少性のある調味料や缶詰を大きな特色としている。主力は一般外食店向けであるものの、現在は介護老人保健施設や病院関係に販路を拡大している。一方、目下注力しているのは業務の効率化で、受発注システムの導入を手始めに、FAX送受信のペーパーレス化を進めるなど、電話FAXで対応してきたアナログからデジタル化に大きく舵を切っている。(TOP写真:受発注システムを活用する社員)
2代目社長は介護老人健康施設や病院関係への販路拡大に取り組む
ムロガ商事は現在の室賀晶記代表取締役社長の父親が1977年に中華食材を取り扱う事業を長野市で立ち上げたのが原点だ。1979年4月には株式会社として法人化し、1991年に現在地に移転し、2024年に創立45年を迎えた。
創業時は1970年代に広がり始めた外食が国民生活に定着した時期に当たり、室賀社長の父は付き合いのあった中華料理関係者の依頼で中華食材の仕入先を広げてきた。現在の取扱品目は乾物、缶詰、瓶詰、調味料から冷凍食品、酒類、チルド品、トレイなどの資材・消耗品までと幅広く、県内の広範囲で事業を展開している。
室賀社長は1993年にムロガ商事に入社し、2012年に2代目の社長に就任した。就任直後は「ベテラン社員が抜けるなど社員の入れ替わりもあり、想定した以上に売上がダウンし、取り返すのに結構苦労した」と室賀社長は振り返る。
一方で、社長就任以降、外食産業向けなどの業務用食材に加え、介護老人健康施設や病院関係への販路拡大を目標に掲げ、注力してきた。この点を室賀社長は「一般外食店、特に当社が主力とする中華料理店は長野市内でも数は限られ、パイはこれ以上広がらない。営業エリアを広げれば伸びる可能性はあるものの、それもなかなか難しい」と、新たに介護老人健康施設や病院関係への販路拡大に取り組んできた背景を語る。
その結果、介護老人健康施設や病院関係への売上が増えてきた。いまだ売上の半分以上は外食産業向けなどの業務用食材が占めるものの、介護老人健康施設や病院関係向けが追い上げているのが現状だ。
価格転嫁や急激な円安など山積する経営課題はあるものの、顧客の信頼関係をベースに“食”を通じて幸せの提供企業を目指す
ただ、新型コロナウイルス感染拡大の影響が外食産業や介護老人健康施設や病院関係を直撃したことで、ムロガ商事にも大きな痛手となったことは言うまでもない。さらに、室賀社長は「価格転嫁ができていないところが目下の経営課題」と語る。長期にわたり続く商品の値上げに加え、経費も上昇しており、さらに、輸入品を取り扱うため、最近の急激な円安も業績に響いている。加えて、「物流の2024年問題」の影響も先行きの仕入面で懸念される。「それらをどうはね返していくかが課題」と室賀社長は身構える。
それでも、室賀社長は「お客様とのコミュニケーションを大切にして信頼関係を築き、お客様の要求にスピード感を持って対応していく」との基本方針に沿って、「多くのお客様に“食”を通じて幸せを提供できる企業を目指す」と意欲を示す。
電話・FAX対応の受発注業務をデジタル化 取引先の20%がシステム導入
経営面の課題が山積する中、ムロガ商事が現在、推し進めているのが受発注業務のデジタル化とペーパーレス化だ。室賀社長によれば、受発注システムの導入については2023年の早い時期から検討してきたという。それまで、取引先である飲食店などとの受発注のやり取りは電話とFAXで対応してきた。それを2023年9月にデジタル化に移行した。
電話とFAXだけでの対応の場合、「特に休日明けの月曜日は、出社して留守番電話に入っていた注文を聞き取るのに30分ほどかかっていた」と室賀社長は語る。現在はこれをすべて受発注システムでの注文に切り替えている。
導入した受発注システムは食品卸売業者と外食店とのやり取りを一元管理できるプラットフォームで、取引先がSNSやパソコンから簡単に発注でき、取引先に導入を促している。現在は800件程度ある取引先のうち20%程度が導入済みで、「今後は時間をかけながら導入先をさらに10%程度増やしたい」(室賀社長)と受発注業務のデジタル化を加速する考えだ。従来の電話FAXのみでのやり取りでは業務遂行に多くの負荷がかかっていた。これがデジタル化への移行によって確実に業務効率が上がっているという。
一方、この受発注システムは販促機能も備えており、営業担当が担ってきた商品案内などの情報提供を既存の取引先に発信できるようになり、「取引先への情報発信を少しずつ進めている」という。
受発注システムを実際に活用し始めて室賀社長は「大手の取引先よりも、注文の品数が多くない当社が主力とする一般外食店が使いやすいシステムであり、そうした外食店に導入したかったので、狙い通りになっている」と語る。
ペーパーレス化にソフト内蔵の複合機を更新 FAX出力比率は42%から1%に激減 クラウドで確認できるFAXは、休日も会社に行くことなく閲覧可能
一方、ペーパーレス化への取り組みは、受発注業務をデジタル化したタイミングと大きくリンクする。「社会全体がデジタル化の流れにあって、アナログからデジタルに切り替えられるところは変えていくべき」との室賀社長の考えから、受発注システムの導入に始まり、次にペーパーレス化につなげた。
ペーパーレス化に当たっては、2024年2月に外食店などから送られてくるFAX注文のデータを、導入した複合機でデジタル化して同じく導入したNAS (Network-Attached Storage:ネットワークに接続できるファイルサーバー)に保存した。これにより、ペーパーレスなFAX環境が構築され、取引先から送られてきたFAXの受注内容をインターネット経由で遠隔地にいても確認することが可能となった。事業継続計画(BCP)対策としてもNASの導入は不可欠だった。
前述した通り、ムロガ商事は商品の受発注については取引先と電話とFAXでのやり取りを基本としてきた。2023年9月にシステムを導入し、受発注業務のデジタル化を進めているとはいえ、すべての取引先がシステムに移行したわけではなく、現在もFAXによる受発注業務に依存している部分は大きい。
実際、従来FAXでの注文内容を確認するために休日に出勤したり、残業しなければならないケースが頻繁にあった。これがペーパーレスなFAX環境が整ったことにより改善し、例えば室賀社長が週末に受信したFAXの内容を自宅で確認し、出荷の準備に取り掛かることができるようになった。
室賀社長は「土、日曜日の受注は結構多く、月曜日に出勤した後にその処理に多くの時間を費やしてきた。それで日曜日に自宅で処理できないかと考え、導入に踏み切った。現在は自宅である程度処理し、残りを月曜日の朝に処理するようにしている。社内的にも業務の効率化にかなりつながっていると感じている」と話す。
ペーパーレスなFAX環境に切り替わった効果は着実に出ている。更新する前の複合機の利用状況は、月平均の出力枚数のうちFAX出力分が占める比率は42%と、コピー出力分、プリンター出力分に比べ圧倒的に多かった。これに対して、複合機に更新した後の利用状況はFAX出力分が極端に減った。更新後の2024年3~5月の月平均出力枚数のうちFAX出力分はわずか1%にとどまった。この変化は、これまでいかにFAXでの注文に依存していたかを裏付ける。
また、複合機のスキャン機能を活用し、これまでFAXで送信していた書類をスキャニングしメールに添付して送信する形にも切り替えている。FAX送信は文字が潰れることもあり、こうしたトラブルを防ぐ狙いもあった。ペーパーレスなFAX環境の構築やスキャン機能を使った送信は、用紙代や通信料の削減にもつながる。さらに電子帳簿保存法に対応して導入した証憑電子保存サービスでもスキャン機能の活用が今後拡大してくると見込まれる。
セキュリティ対策でホームページをリニューアルへ
一方、ムロガ商事は現在、自社ホームページのリニューアルを予定しており、新たにホームページ作成ソフトを導入し、2024年8月頃には新たなホームページに全面的に移行する。セキュリティ対策の強化が最大の狙いで、これまでは通信が暗号化されていなかったため、閲覧できないユーザーもいた。新たなホームページはこの通信をセキュリティが保護される機能を備えており、閲覧機会のチャンスを逃してきた問題を解消する。また、これまで掲載してこなかった採用のページを新たに設ける。
2023年半ばから一気にアナログからデジタルへと大きく舵を切ったムロガ商事の業務変革は、目に見える形で効果を上げている。半面、経営を取り巻く環境は一企業で解決困難な難題を抱える。しかし、ここで変革の歩みを止めてはならず、厳しさを増す経営環境の中でも「大手にはできない小回りの利くことを武器に、小口配送や時間指定といったところに柔軟に対応できる強みを生かして乗り切っていく」と室賀社長は力を込める。
企業概要
会社名 | ムロガ商事株式会社 |
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住所 | 長野県長野市若穂保科字板倉2139番7 |
HP | http://murogashoji.jp/ |
電話 | 026-282-3988 |
設立 | 1979年4月 |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 外食産業用食材卸 |