NTTテクノクロス(株)(東京都港区、岡敦子社長)と(株)ベルシステム24(東京都港区、梶原浩社長)は2024年4月、牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS(ブジダス)」の提供を開始した。
「BUJIDAS(ブジダス)」は、ネットワークカメラで撮影した牛の姿勢をAIが判定し、このカメラから発報される音によって牛の姿勢を変えさせることで、起立困難の発生を予防する非接触型のサービス。
NTTテクノクロスが開発した牛の起立困難予防声かけAIと、ベルシステム24が提供するアノテーションBPOおよび遠隔でのサポート体制により、夜間を含む定期的な対応が必要だった牛舎見回りのDXを実現し、農家の負担軽減を目指す。今回、両社にシステム開発に至る経緯や事業内容、現在の導入状況などについて聞いた。
〈「BUJIDAS(ブジダス)」開発経緯や事業内容、現在の導入状況など〉
肥育農家にとって大きな悩みの種である牛の起立困難。起立ができなくなった牛は、胃にガスが溜まり、横隔膜を圧迫して2時間程度で死に至る。この症状は、約20カ月に及ぶ肥育期間のなかで、とくに出荷前5カ月間に多く発生し、牛1頭を失った場合、素牛費や飼料代、光熱費など、その損失は100万円を超える。その一方で、農家では人手不足が課題となるなか、牛舎の見回りは、肉体的・精神的にも負担が大きく、生産性を下げる要因となっている。
病気や事故など牛の危険な兆候を事前に察知することが必要とされるなか、これまでも牛が起立困難に陥った際、センサーが動きを検知しアラートをスマホに通知する装着型センサーは存在していた。しかし、夜間や外出中は対応できず、起立困難になる頃の牛は700kgを超えるため1人で動かすことは難しく、また牛の成長過程における装着型センサーのゆるめ調整なども課題となっていた。
こうした課題を解決するべく、NTTテクノクロスでは、牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS(ブジダス)」の開発に至った。同システムは、牛舎の環境・牛の頭数に応じた台数のネットワークカメラを設置し、牛舎の様子を常時撮影しながら、AIが牛の姿勢を把握、危険な姿勢であると判断した場合、ネットワークカメラが特殊音を発報する。この音に反応した牛が首を起こして姿勢を戻すことで起立困難の発生を防ぐ。
同社の赤野間信行マネージャーは「起立困難が発生してから対応するのではなく、そもそも起立困難を起こさせないことが重要だ」と語る。「実際に農家が見回りの際に、牛を“声かけ”で起こしていたのをヒントに、今回の仕組みを思いついた。牛は聴覚が発達しており、小さい音にも敏感に反応する。起立困難は牛が横向きで首を下にして寝るため、ガスが体内に溜まってしまうことで発生するが、一時的に首を上げるだけでガスが抜け、起立困難を予防できる」「従来も牛の異常を検知し、通知するシステムはあった。ただ、通知を受けてから実際にヒトが見回りに行くのでは対応が遅れることもある。今回のシステムでは、AIが異常を検知し、自らアクションを起こす(発報音を鳴らす)という点で今までにはなかった新しいシステムとなる。実際にカメラを設置した牛房では今のところ1件も起立困難による死亡が発生していない」と胸を張る。また、起立困難の発生を防ぐことは、牛を苦しみから解放することにも繋がるため、アニマルウェルフェアの観点からも評価されているという。
さらに今回、サービス導入前後の支援・サポートをベルシステム24が担う。同社では、コンタクトセンターを中心とした幅広いアウトソーシング事業を展開し、これまで「ヒト」と「テクノロジー」の力を掛け合わせることで培ってきた運用知見をもとに、監視センターでのヒトによる機器の稼働監視や、利用者からの問い合わせにも24時間365日対応する。同社の澤頭仁志事業部長は「農家がシステムを導入するにあたり、実務面で手助けができればと考え、今回、NTTテクノクロスとタッグを組むに至った。当社は24時間365日サポートできる体制を整えているため、農家の方により安心して利用していただける」という。こうしたサポートに加え、導入時に発生する登録作業や補助金の事務サポート、AI判定の精度担保のためのアノテーション作業なども行う。
4月の発売以降、鹿児島県内の数件の肥育農家での本導入や有償トライアルでの導入も進んでいる。実際にシステムを導入する鹿児島県出水市の園畠章さんによると、「これまでロープをかけて牛を起こす作業が度々発生していたが、システム導入後はその作業がなくなり、負担が軽減している」という。現在、システムを導入する農場の規模は中小から大規模までさまざまだ。「規模によって設置するカメラの台数などが変わってくるが、農場ごとに人員体制や予算などをヒアリングし、それぞれの要望に合った形で運用していく」(赤野間氏)。
両社では、5年後に5万頭への導入を目標に掲げる。すでに問い合わせも数十件に上っており、まずは認知度を高めていくとともに、デジタルでアニマルウェルフェアを実現する、またヒトへの負担も軽減する、という優位性をしっかりと訴求していきたい考えだ。
赤野間氏は「ブジダスは実際に農家でやっていたことをヒントにAIサービスとして形にした。今後も農家のニーズを深く追求しながら、AIなどの技術を活用して課題解決に繋がるサービスを提供していきたい」と話す。また、澤頭氏は「プロダクトにとらわれず、農家の支援になるサービスを視野に入れながら活動を展開していく」としている。
〈畜産日報2024年7月16日付〉