資本業務提携
(画像=PIXTA)

資本提携と業務提携を同時に実施する資本業務提携。業務に関する提携を行うだけでなく、経営に関与することもできるため、企業同士のより緊密な協同関係を構築できる。この記事では、資本業務提携の概要とメリット・デメリット、株価への影響、方法、契約、注意点などについてわかりやすく解説する。

目次

  1. 資本業務提携とは?
    1. 資本業務提携は買収と何が違うのか?
  2. 資本業務提携のメリットとデメリット
    1. 資本業務提携のメリット
    2. 資本業務提携のデメリット
  3. 資本業務提携は株価を引き上げるのか?
    1. 資本業務提携は株価を引き上げる効果がある
    2. 小規模な企業ほど株価の引き上げ効果は大きい
  4. 資本業務提携の方法
    1. 業務提携の方法
    2. 資本提携の方法
  5. 資本業務提携の契約手続き
    1. STEP 1 業務提携契約の締結
    2. STEP 2 資本提携契約の締結
  6. 資本業務提携を行う際の注意点
    1. 技術提携契約を交わす際の注意点
    2. 生産提携契約を交わす際の注意点
    3. 資本提携契約を交わす際の注意点
  7. 資本業務提携は慎重に検討して契約しよう
  8. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
  9. 監修者紹介

資本業務提携とは?

資本業務提携とは、資本提携と業務提携とを同時に行うことである。業務提携とは、企業が協同して業務を行うこと。他社の技術やノウハウ、人材などの経営資源と自社の経営資源を合わせることで、業務を効率化し、付加価値を高めることを目的とするものだ。

それに対して資本提携とは、企業がお互いの株式を持ち合うことを指す。株式を持ち合うことで、互いの経営に関与することができる。したがって、資本提携と業務提携を同時に行う資本業務提携は、企業同士がより緊密な関係を作るためのものであると言える。

資本業務提携は買収と何が違うのか?

資本業務提携は、相手企業の株式を取得する「買収」と何が違うのだろうか。買収は、相手企業の株式取得を、経営権を握ることを目的として行う。買収された企業は、買収した企業の支配下に置かれることになる。

それに対して資本業務提携では、それぞれの企業が経営権を保持した状態が維持される。独立性やブランドを維持しながら連携を構築できることが、資本業務提携の特徴だ。

資本業務提携のメリットとデメリット

資本業務提携のメリット・デメリットを見ていこう。

資本業務提携のメリット

資本業務提携のメリットは、以下のとおりだ。

  1. 業務提携と比較してより強力な関係を築くことができる
  2. 短期間で効果を見込むことができる
  3. 必要がなくなれば提携解消もできる

1.業務提携と比較してより強力な関係を築くことができる
資本業務提携の第一のメリットは、業務提携と比較してより強力な関係を築けることだ。業務提携のみを行う場合は、契約による穏やかな提携関係であるために、責任の所在が曖昧になりやすい。

そこに資本提携を合わせると、お互いの経営に関与することができるようになる。業績向上は持ち合っている株価上昇につながるため、目標を達成しようとするモチベーションが生まれる。それにより、協同で行う事業を、前に進めやすくなる。

2.短期間で効果を見込むことができる
資本業務提携は、ただ業務提携を結ぶことと比較して、より短期間で効果を見込むことができることもメリットだ。

業務提携は、お互いの企業に不足している経営資源を補填する効果がある。補填できる経営資源は、たとえば以下のようなものだ。

・技術やノウハウ、特許などの技術的資源
・工場や設備、生産システムなどの生産資源
・ブランドや店舗、倉庫、販路などの販売資源
・研究者や技術者、従業員などの人的資源

業務提携で、これらの経営資源のうち自社に不足しているものを相手企業から取り込むことにより、業務をより効率化し、付加価値を高めることができる。

ここでさらに資本提携を行えば、互いが資本を受け入れることになるために、たとえば生産設備の刷新や販路の開拓、従業員の新規雇用など、経営資源を拡充することができる。受け入れた資本による経営資源の拡充ができるため、資本業務提携は、単に業務提携を結ぶより短期間で効果が見込める。

3.必要がなくなれば提携解消もできる
資本業務提携は、必要がなくなれば解消できることもメリットだ。相手企業を買収して自社の支配下に置いた場合、買収した企業は必要がなくなった場合でも、再び独立した企業に戻すことは困難である。それに対して資本業務提携は、お互いが独立性を維持したまま行うため、提携の必要がなくなれば解消することもできる。

また資本提携は解消し、業務提携だけを継続させることもできる。状況の変化に応じて提携関係を柔軟に変化させられることが、資本業務提携の大きなメリットと言えるだろう。

資本業務提携のデメリット

資本業務提携のデメリットは、以下のとおりだ。

  1. 利益配分に関して係争が発生するリスクがある
  2. 技術や人材が流出するリスクがある
  3. 経営の自由度が低下するリスクがある

1.利益配分に関して係争が発生するリスクがある
資本業務提携のデメリットとして第一に挙げられるのは、利益配分に関して係争が発生するリスクがあることだ。資本業務提携は異なる2つの企業が行うものなので、提携している業務が利益を生むようになると、その取り分について係争が発生することがある。

資本業務提携における利益配分の係争を避けるためには、提携に先立って相手企業のデューデリジェンスをしっかり行い、提携するにふさわしい企業であるかを確認することが重要だ。提携に際しては、利益配分について契約書に明記しておくことも必要だろう。

2.技術や人材、顧客情報などが流出するリスクがある
資本業務提携のデメリットとして、技術や人材、顧客情報などが流出するリスクがあることも挙げられる。資本業務提携を行えば、たとえば自社の技術や人材、顧客情報などを提携相手の企業に提供するケースも考えられる。

そのため、提携が終了した後も技術を勝手に使用されたり、自社の人材を引き抜かれてしまったり、顧客情報を使われてしまったりすることが起こり得る。技術や人材、顧客情報などの流出を防ぐためには、情報開示に関する条項を契約書に盛り込む必要がある。

3.経営の自由度が低下する
経営の自由度が低下することも、資本業務提携のデメリットだ。資本業務提携においては、相手企業の出資を受け入れることになるため、出資比率に応じた経営上の制約を相手企業から受ける。出資比率による株主の権利は、以下のとおりだ。

・出資比率3%以上 …「少数株主権」を行使することにより株主総会で取締役の解任を請求できる
・出資比率25%超 …「特殊決議」が必要な議案を株主総会で否決できる
・出資比率33.4%超 …「特別決議」が必要な議案(定款の変更、合併や事業譲渡などの承認、監査役の解任など)を株主総会で否決できる

このように出資比率が3%以上になると、株主は少数株主権を行使できるようになる。少数株主権を行使しないとしても、出資している企業は株価の上昇を期待するため、経営に口を出してくる可能性は十分ある。

資本業務提携は株価を引き上げるのか?

資本業務提携は、株価を引き上げる効果があるのかを見てみよう。

資本業務提携は株価を引き上げる効果がある

資本業務提携は、株価を引き上げる効果があると考えられる。株価は、投資家の期待値によって変動する。資本業務提携を結んだ場合は、それが業績にプラスの影響を及ぼすと投資家が判断すれば、株価は上昇する。

資本業務提携は、資本および業務について提携をすることによって業務を効率化し、付加価値を高めるために行うものだ。当然ながら業績が高まることを見込んで行うため、株価も上昇することが多い。

小規模な企業ほど株価の引き上げ効果は大きい

資本業務提携による株価の引き上げ効果は、企業の事業規模によって異なる。事業規模が小さな企業ほど、株価引き上げ効果は大きくなる。事業規模が大きい企業では、その効果は限定的だ。

なぜならば、資本業務提携は限定された事業や業務に対して行われるものだからだ。小規模な企業であれば、実施している事業分野はそれほど多くはないだろう。したがって、ある事業分野で実施された資本業務提携の、企業全体の業績に対する影響は相対的に大きくなる。そのために、資本業務提携の株価に対する引き上げ効果も相対的に大きくなるのだ。

それに対して事業規模が大きな企業は、小規模企業に比べれば事業分野は多岐にわたる。したがって、事業分野の1つで行われた資本業務提携の全体の業績への影響は、相対的に小さくなる。そのため、株価の引き上げ効果も小さくなるのだ。

資本業務提携の方法

資本業務提携の方法を、業務提携とおよび資本提携のそれぞれについて見ていこう。

業務提携の方法

まずは、業務提携の方法について見ていく。業務提携の方法は大きく分けると、

・技術提携
・生産提携
・販売提携

の3つだ。

・技術提携
技術提携とは、他社が持つ技術を、自社の技術開発や製造、販売において活用することである。技術提携には大きく分けて、提携企業と共同開発を行うケースと、自社がすでに開発した技術を提携企業に提供するケース(ライセンス契約)がある。技術提携を行うことで、

・開発をより短期間で行うことができるようになる
・自社になかった技術を使用することができるようになる
・同じ目的の異なる技術を複数持つことによりリスクを分散できる

などのメリットがある。

・生産提携
生産提携とは、生産・製造の工程の一部を提携相手の企業に委託することである。生産提携を行うことにより、自社で設備投資や人材の確保を行うことなく生産量の向上を期待できる。委託を受けた企業は、工場や設備の稼働率向上が見込める。生産提携の具体的な方法としては、製造委託契約や製造物供給契約、OEM契約などがある。

・販売提携
販売提携とは、販路あるいは商品・製品を提携相手の企業に提供することである。新しい地域に進出する場合などは、商品・製品はあっても販路がないケースがある。その際は販路の提供を受けることで、商品・製品を販売できるようになる。逆に新しい分野に進出する場合、販路はあっても商品・製品がないこともある。その際は、商品・製品の提供を受けることにより、既存の販路を活用できることになる。

資本提携の方法

次に、資本提携の方法を見ていこう。資本提携の方法は大きく分けて、

・株式譲渡
・第三者割当増資

がある。

・株式譲渡
資本提携の方法として第一に挙げられるのは、「株式譲渡」だ。株式譲渡は、ある個人または法人が保有する株式を、資本提携の相手企業との間で売買することにより、株式の所有権を移転させることである。

・第三者割当増資
資本提携に際して、第三者割当増資が行われることもある。第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新しい株式を割り当てることである。「増資」となるために、提携相手の企業が支払う株式の代金は、会社に入ることになる。

資本業務提携の契約手続き

資本業務提携契約を結ぶ際の手続きについて見ていこう。資本業務提携の契約の流れは、以下の2段階で行われる。

  1. 業務提携契約の締結
  2. 資本提携契約の締結

STEP 1 業務提携契約の締結

まず、相手企業と業務提携契約を締結する。前述のとおり、業務提携には技術提携、生産提携、販売提携がある。どのような提携をするかによって、契約書の内容は変わる。一般的には、以下のような条項を盛り込むことになるだろう。

・定義
・実施の許諾
・制約の条件
・保証および補償
・対価
・終結の条件

STEP 2 資本提携契約の締結

資本提携契約を締結するにあたっては、前述のとおり株式譲渡と第三者割当増資という方法がある。

株式譲渡は、株主総会での決議が不要なので、資本提携契約を迅速に締結できる。株式譲渡を行うためには、経営者同士の面談やデューデリジェンスを行った後、株式譲渡契約を締結する。契約を締結したら、株券の交付や株主名簿の変更を行い、手続きは終了する。

第三者割当増資については、株主総会での決議が必要になる。同じく経営者同士の面談やデューデリジェンスを行った後、資本提携契約を締結し、株主総会で決議を行う。その上で割当株式の登記申請を行えば、手続きは完了だ。

資本業務提携を行う際の注意点

資本業務提携契約を行う際の注意点を、それぞれのケースについて見ていこう。

技術提携契約を交わす際の注意点

前述のとおり、技術提携には共同研究開発契約とライセンス契約がある。

共同研究開発契約を締結する場合は、

・それぞれの企業が提供する技術やノウハウの特定
・コストおよびリスクの分担
・研究開発によって得られた技術やノウハウの所有権
・秘密情報の特定とその取扱い

を明確にしておくことが重要だ。ライセンス契約を結ぶ際は、

・提供する技術やノウハウの特定
・技術やノウハウを使用することができる範囲や期間、地域などの特定
・技術やノウハウについての対価と支払い方法

を明確にしておく必要があるだろう。

生産提携契約を交わす際の注意点

生産提携には、大きく分けて製造委託契約と製造物供給契約、OEM契約がある。製造委託が、材料などに関しては委託者が用意し、製造だけを受託者が行うものであるのに対し、製造物供給では、材料も受託者が用意し、製品を委託者に納品することになる。したがって、製造物供給契約を交わす際は、製品がどの段階で委託者の所有物になるのかを明確にしておくこと必要がある。

OEM契約は、他社が製造する製品に自社の商標やロゴをつけて販売することを認めるためのものである。したがって、製品の仕様が依頼したものと異なることにならないよう、仕様を明確に定めておくこととともに、検収の基準についても具体的に定めておく必要がある。

資本提携契約を交わす際の注意点

資本提携においては、資金が提携相手の企業へ提供されることになる。したがって、資金の用途を明確にしておかなければならない。資金の提供を受ける側にとっては、資金の用途が制限されることにより、事業の発展が妨げられることがある。したがって資金の用途については、慎重に協議しなければならないだろう。

資本提携を行う際、経営上の重要度が高い事項を決定する場合は、提携相手に事前に承認を得ることを契約書に盛り込むことが一般的だ。この事前承認も、契約の内容によっては事業発展の妨げになることがある。事前承認の内容をどのようにするかについても、やはり慎重な協議が必要になる。

資本業務提携は慎重に検討して契約しよう

資本業務提携では、お互いが株を持ち合うことによって経営に関与することができる。そのため、より緊密な協同関係を構築することができるが、相手企業からの制約も受けることになる。

したがって、出資比率や資金の用途、事前承認などについては、慎重に検討することが大切だ。交渉し、どうしても希望どおりにならない場合は、提携を白紙に戻すことも視野に入れる必要があるだろう。

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文・THE OWNER編集部

監修者紹介

斎藤弘樹
株式会社日本M&Aセンター 地域金融1部 部長
斎藤弘樹 (さいとう・ひろき)
一橋大学卒業後、外資系金融機関入社。 2012年日本M&Aセンター入社以降、地域金融機関と数多くのM&Aに携わり、後継者に悩んでいる、または更なる成長を志向する経営者に、M&Aという手段で会社の継続と発展を支援している。
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