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明るい笑顔と元気な挨拶をモットーに、地元から愛されてきたガテン系の水道設備業、株式会社カノウ設備。作業現場で、いかつい顔の男子が笑顔で挨拶するので、ギャップの差に顧客が「見た目と違って話しやすい」と感じ、困り事を打ち明けてくれる。その困りごとに迅速に対応することで顧客の心をつかんできた。後回しにしてきた人事労務管理についても、建設業界の「2024年問題」で危機感を持ち、ICT化で対応中だ。(TOP写真:笑顔と元気な挨拶のカノウ設備の従業員。ゴルフコンペにて)
笑顔で挨拶をモットー、迅速なサービスで2023年は3度の表彰
カノウ設備のモットーは「明るい笑顔と元気な挨拶」。狩野幸男代表取締役は、従業員に対し、笑顔と挨拶をすることを口酸っぱく伝えてきたという。とかく職人は人見知りで、強面で怖い印象を与えてしまう。カノウ設備に入社してきた多くの従業員も、笑顔を見せる機会が少なかったという。しかし、作り笑顔であっても顧客に接し、きちんと挨拶するうちに、顧客の方から心を打ち解けて普段話せなかった悩みや困ったことを相談してくれるようになった、という。悩み事がわかればきめ細やかなサービスを迅速にできる。リフォーム工事の良質な対応を評価されたり、作業が丁寧できれいだったりしたなどとして、建設会社や住宅メーカーから2023年の1年間で3度の表彰を受けた。過去には、地元テレビ局の有名アナウンサーから「自宅のリフォーム工事が素晴らしかった」と感謝の手紙をもらったこともある。
狩野社長の名刺にも、この「笑顔と挨拶」というモットーが書かれている。狩野社長は「先日、群馬県高崎市内のある小学校に挨拶に行ったところ、校長先生から『名刺と同じ印象ですね』と言われてうれしかった」と笑った。狩野社長の人柄がにじみ出たエピソードだ。
従業員の健康と社会貢献への意識を共有するため健康事業所宣言(全国保険協会)とSDGs宣言書(群馬銀行)を行った
2023年4月に取得したSDGs宣言書には、「『明るい笑顔、元気な挨拶』をモットーに地域に密着したきめ細やかなサービスを提供します」「水廻りの設備工事や住宅リフォームを通じてお客様に安心で快適な住環境を提供します」と書かれている。SDGsの17の目標のうち、⑥安全な水とトイレを世界中に⑨産業と技術革新の基盤をつくろう⑪住み続けられるまちづくりを、の三つに当てはまる内容だ。
「紹介してくれた人の顔をつぶさない」 職人のネットワークで顧客のニーズに対応
狩野社長はここまでの事業を振り返り、「人からの紹介を大切にしてきた」と話す。20代の頃、主に戸建て住宅を対象とする水道設備工事会社を父親とともに経営していたが、「もっと大きな仕事がしたい」と一念発起し、1980年に自宅アパートの一室でカノウ設備を創業した。
起業してから大切にしてきたことは「紹介してくれた人の顔をつぶさないようにする」だ。「『カノウ設備はいい仕事をするな』と思ってもらいたかった」と説明する。狩野社長の誠実な思いは、紹介が紹介を生む好循環となり、仕事は徐々に増えていった。洗面化粧台を新しくする工事、エコキュートを設置する工事、キッチンのスペースを工夫して食洗機をつける工事などの住宅の水廻り関連工事、下水道の切り替え工事…。戸建て住宅、学校、工場などさまざまな現場で仕事をしてきた。自らも、水廻り関連工事以外の仕事を知り合いの業者に紹介することで、次の仕事の紹介につながっていったという。
狩野社長の強みは、建設工事の現場に関わるとび職、左官、電気工などの様々な職人のネットワークをつくり、現場のニーズに対応できることだ。どんなことにもスピーディーに対応することで、顧客を増やしていったのだ。
現場でスマートフォン入力できる作業日報・勤怠管理システムの導入で「2024年問題」に対応 事務作業の更なる効率化を目指す
どんなことにも前向きに、笑顔で取り組めるカノウ設備にも弱みはあった。人事労務管理のICT化だ。現場重視でやってきたため、会社内で事務作業を切り盛りする狩野社長の妻や娘に頼りきりだった。ところが、罰則付きの時間外労働の上限規制や中小企業の割増賃金率の引き上げなどが建設業界に適用される「2024年問題」への対応もあり、早急な対応を迫られた。
カノウ設備では、現場作業の従業員8人の勤怠管理をタイムカードや日報に記入することで対応していたが、紙での保存が面倒なことや勤怠を管理する事務担当者の負担を減らしたいと考えていた。そこで2023年7月、作業日報・勤怠管理システムを導入し、従業員が現場でスマートフォンを使って打刻と日報、作業内容の登録などを行うことで、事務担当者の作業が大幅に軽減され、かつ正確な勤怠管理を行えるように改善した。
システム導入当初こそ、現場作業に従事する従業員がスマートフォンで打刻するのを忘れ、帰社してから紙の日報に書いたこともあったが、少しずつ対応できているという。近年、大手住宅メーカーなどが、現場作業の始業終業のスマートフォンによる入力を下請け業者に求めるケースが増えており、カノウ設備の取り組みはこれにも対応できそうだ。
導入したシステムは、勤怠管理や作業日報だけでなく工事ごとの進捗・機器損料・経費も入力可能で請求書の作成もできる
導入したシステムでは作業に関するチェック事項や進捗状況、工事ごとに使用した機器損料、経費などを登録することもできる。工事の終了後、簡単に請求書が作成できることもあり、カノウ設備では事務作業のさらなる効率化に大きな期待をかけている。事務担当をしている妻は「導入経費についても他社のシステムと比較して割安だった」と満足そうだ。
働き方改革は水道工事業界にも浸透しつつある。早朝や夜遅くの作業がしづらいほか、土日の作業時間に制限が設けられている現場もある。いかに効率的に作業ができるかが業界各社の切実な悩みとなっている。カノウ設備のように、ICTシステムの導入により勤怠管理を効率化する動きがこれから定着していくことは間違いない。
経営環境が厳しい中、工程会議、品質会議を定期的に開催 後継者づくりにも余念がない
水道工事業界の経営環境は厳しさを増している。原材料の高騰分を請負価格に転嫁できず、人手不足も深刻状態は変わらないからだ。
カノウ設備では、朝礼の際に従業員全員がラジオ体操をすることで連帯感を高めている。さらに、週に一度の工程会議、月に一度の品質会議を開く。品質会議には下請業者を含め約20人が集まり、情報の共有を怠らない。狩野社長は、いまどきの若い従業員に対し、「怒らずに見守るようにしています」とした上で、「失敗しても隠さないようにちゃんと上に報告しなさい。責任は社長の私が取るんだから、という話をよくしています」と話す。社員が参加するゴルフコンペを開くなど、風通しの良い環境づくりにも取り組んでいる。
狩野社長は後継者の育成にも余念がない。取締役の長男と同じ1982年生まれの娘婿がいるが、娘婿も2024年8月に新たに取締役に就任する予定だ。狩野社長は「社会環境の変化を考えたら、経営者となるのは厳しい時代。それでも2人にはがんばってもらいたい」と後継者にエールを送った。
企業概要
会社名 | 株式会社カノウ設備 |
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本社 | 群馬県高崎市稲荷台町135-1 |
HP | https://www.kanou-setsubi.com/ |
電話 | 027-372-1638 |
設立 | 1980年12月 |
従業員数 | 10人 |
事業内容 | 水廻りなどの設備工事・空調・土木工事・その他リフォーム全般 |