目次
- 夏忙しく、冬仕事が少ない……「青果物輸送だけではじり貧になってダメになる」という危機感を持った
- 見た目から意識改革、仕事量、従業員を増やす中、リーマン・ショックが襲う 輸出物中心で大打撃
- リーマン後1社偏重から1社20%までとし、あらゆるジャンルの商品を扱う 大手運送会社での品目ごとにどう運ぶかの知恵が生かせた
- コロナ禍でも輸送品目の分散化が功を奏し20%程度の売上減 リスク対策も兼ね冷蔵冷凍用の輸送を始めた 輸送効率から太田営業所を開設し2拠点体制に
- 二拠点体制では、コミュニケーションのため必然的にICT活用へ 運転手の点呼を遠隔で、スマートフォンでアルコールチェックも
- SNS、ホームページでの情報発信で未来顧客、将来の従業員へメッセージ
群馬県北部の東吾妻町で1990年4月に創業した滝沢物流有限会社。県内4番目の面積を誇る町の北部には山々がそびえ、新潟県との県境に接する風光明媚な土地柄だ。特産のこんにゃくや、みょうが、なすなどの高原野菜の生産も多く、滝沢物流は当初、そうした青果物輸送をメインとして創業した。ただ、青果物の輸送だけでは季節による輸送量の差が大きく、2008年頃からは輸送物の品種を広げ、季節的な変動が少なくなるように調整し、発展を続けてきた。
一方で、トラックドライバーの年間の時間外労働(残業時間)を960時間以内に制限する「2024年問題」にあたり、ICTソリューションを次々と導入したことで、働きやすい職場環境の推進を続けている。(TOP写真:滝沢物流有限会社の滝澤裕気代表取締役)
夏忙しく、冬仕事が少ない……「青果物輸送だけではじり貧になってダメになる」という危機感を持った
「会社は父の滝澤次男(現会長)が創業しました。一方、私は1996年に大手運送会社に入社し、物流業のノウハウを10年以上にわたって勉強してきました」。滝澤裕気代表取締役が説明する。創業当時から、JAあがつまが取り扱う青果物の輸送をメインとしてきた事業は、2008年に滝澤社長が滝沢物流に入社した頃も、おおむね変わっていなかった。
「お世話になった大手運送会社では、最初は社員ではありませんでしたが、今でもお世話になっている当時の所長に勧められ、社員となって働きました。同じ方面に運ぶ荷物を集荷し、積み合わせる『特別積み合わせ(特積み)』や、発注を受けて荷物を預かり、荷造りをして発送する『3PL』など、実家にいたままでは知らなかったこともたくさん学びました。それにお付き合いする企業も多く、ビジネスの枠組みやマナー、業界の仕組みなどをたくさん知ることができました。自分に自信がついた頃に、実家の事業に戻ったのです。今思えば、予算組みといった経理的なことなど、まだまだ(大手運送会社に)いて学びたかったという思いもありますが」。
滝沢物流は青果物輸送がメインであり、季節的に仕事の多寡があるという事実を知った滝沢社長は、大手運送会社在籍時に、実家に下請けとして荷物の輸送を依頼するなどしていたが、「このままでは滝沢物流はダメになる。ズルズル行けば、立て直しも利かない」と危機感を募らせていた。
見た目から意識改革、仕事量、従業員を増やす中、リーマン・ショックが襲う 輸出物中心で大打撃
「戻ってきた時に、まず愕然(がくぜん)としてしまったんですよ」滝澤社長は滝沢物流に入社した際のことを述懐する。その当時は社長である父が運転手を務め、従業員は3~4人程度。驚いたのは、その従業員たちの姿だった。「作業着は着ていない。安全靴、ヘルメットすら身に着けていない」。すなわち、仕事に取り掛かる体勢すら整っていなかったのだ。
「ただ、一気に押し付けると従業員自体が離れていく。なので一つひとつ、少しずつ変えて、意識改革を促しました」。その間に、大手運送会社で培ったネットワークを駆使し、新たな仕事をどんどん営業で取ってきた。年間を通じて安定的な受注を得るため、工業製品や家電製品を運ぶようになったのだ。当然、仕事量が増えれば、人手もいる。輸送するトラックの台数も6、7台へと増やし、従業員も10人程度まで増やしていった。
ところがその年の秋、リーマン・ショックが世界を襲う。円安で輸出が盛んだった工業製品を東京や神奈川の港湾まで運ぶ仕事が増えていた最中だったが、その仕事がストップ。輸出物に受注ウエイトを集中させていたところに大きな打撃を受けたのだ。
リーマン後1社偏重から1社20%までとし、あらゆるジャンルの商品を扱う 大手運送会社での品目ごとにどう運ぶかの知恵が生かせた
「1社1輸送品目の依存率が高すぎるとダメ。いい時はいいが、悪くなれば共倒れもある」。そんな結論に至る中、2012年、36歳で父に代わり、代表取締役に就任。各荷主企業の売上比率を、高くても20%に抑えるという目標を掲げた。それに伴い、取り扱う輸送品目を青果物や家電製品、輸出工業製品に加え、自動車部品、空調部品、常温の食品、日用雑貨、肥料、飼料、飲料、木材などに広げた。さらに量販店の配送なども請け負い、多岐にわたる取り扱いとなるよう調整していった。
「大手運送会社の経験はここでも役立ちました。そこであらゆる商品を扱う経験をさせていただいたので、品目ごとにどう運び、どこに気を付けなければいけないかがわかっていた。だからこそ、(新規の)お客様にも提案ができたのです」
コロナ禍でも輸送品目の分散化が功を奏し20%程度の売上減 リスク対策も兼ね冷蔵冷凍用の輸送を始めた 輸送効率から太田営業所を開設し2拠点体制に
2020年からの新型コロナウイルス禍においては、こうした輸送品目の分散化が完了していたことから「売上の減少は20%程度にとどめることができた」という。外食以外の食品は、増えることはあっても減ることはなかったという。だが、こうした社会的なリスクがまだまだあることを実感したのも事実で、新たに着手したのが食品の冷蔵冷凍輸送だった。現在は同社で冷蔵冷凍用の輸送車は7台にまで拡大しているが、保有車両が増大したことで、駐車場が手狭になった当時の本社(東吾妻町)を、現在の中之条町に移転した。
「もともと(群馬県南部の)前橋市や太田市、伊勢崎市といった方面にお客様が多いのですが、荷物を積みに行くまでに空の輸送車を走らせなくてはならず、帰りも同様。運転手の労働時間は長くなり、燃料も余計に消費することになる」と頭を悩ませていた。そこに、もともとお付き合いがあった太田市の物流会社から「うちの駐車場が空いているから使ってもいいよ」との打診を受けた。
営業拠点とするためには、営業車が最低5台は必要となるため、「台数を増やして、体力をつけた上で」2021年10月に新たに太田営業所を開設した。
二拠点体制では、コミュニケーションのため必然的にICT活用へ 運転手の点呼を遠隔で、スマートフォンでアルコールチェックも
ただ、新たに拠点を開設しただけでは、二つの営業所に、ほぼ24時間点呼者を配置しなければいけなくなり固定費が上がる。そこでICT技術を使ったソリューションが必要となった。
「ICTを使った点呼の導入以前は、アルコール検知器に息を吹き込んでもらい、その結果を手書きで記入していました」それがICTを使ったシステムの導入で、状況は一変した。今では、対面点呼時に免許証のICカードリーダーによる有効期限のチェックに始まり、カメラ撮影、電気化学式アルコールチェッカーでの検査結果が、直接パソコン経由でクラウドに保存されることに。
「長距離輸送で、車内泊となる場合でもスマートフォンを使った点呼で、スマートフォンのカメラとブルートゥースでつながれたアルコール検知器を使用することができます。さすがに酒を飲んで出勤するような従業員はいませんが、前日の深酒が残っている場合などの抑止力にはなる。こうしたデータが全て保存されるため、従業員にも良い緊張感が生まれていると思います」。さらに2023年7月からは、運輸支局に遠隔点呼届出書を提出し、営業所間での点呼がオンラインで可能となった。それにより、運行管理者の常駐する必要性がそれまでの半分で済むようになった。
情報共有ITツールを使いクラウドにあるデータで、社内情報や顧客からの注意情報なども遅滞なく、運転手に共有することができる。それ以前には、会社に戻ってから紙ベースで確認していたことが、遠隔で済ませることができるようになった。
現在は、各輸送車がどこを走っているかを一覧できるシステムも導入。各輸送車の安全を確保し、何らかの事態があっても、すぐに対応できるようにしている。「2024年問題」が迫っていた中で、数々のICTソリューション導入が無駄な労働時間をなくすことにつながり、働きやすい労働環境を実現している。
SNS、ホームページでの情報発信で未来顧客、将来の従業員へメッセージ
SNSやインターネット上のホームページにも力を入れている。「これは、未来の荷主さんに対する情報発信であり、将来の就職希望者に向けたコンセプトの情報発信でもあるんです」
その意味するところは「顧客となる企業においては、運送会社を変えるのはなかなか簡単なことではないんです。でも何かあった時に、SNSやホームページなどでの発信で、頭の隅にでも『滝沢物流』という名前が残っていれば、そこにチャンスが生まれるかもしれません。会社は知られてなければ無いのと同じなんです」と滝澤社長は説明する。
SNS上では「運送会社としては割と当たり前で、『何をいまさら』と思われるようなことでも、私たちがターゲットとしている相手は知られていないこともある。例えば冷蔵冷凍車の冷気の装置がトラックのどの部分にあるかとかね。それを紹介する動画をつくったりもしています。そこからホームページ訪問につながるよう導線を引いる」との狙いがあるという。
数々のICTソリューションにより、働きやすさを実現してきた同社だが、滝澤社長は「システムだけではダメなんです。やはり経営理念を理解してもらい、人間性や人としての心を育てていかなくては」と強調する。
そうした社長の思いを伝えるのが「経営計画社長通信」。ICT導入以前には紙の資料のみ配られていたが、今では、社員全員が見られるチャットでも配信し目を通してもっている。
ICT技術と人の心が融合して、さらなる働きやすさなどが整えられていくことになる。
企業概要
会社名 | 滝沢物流有限会社 |
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住所 | 群馬県吾妻郡中之条町大字横尾3153-3 |
HP | https://takizawa-br.com/ |
電話 | 0279-26-7330 |
設立 | 1990年4月 |
従業員数 | 25人 |
事業内容 | 一般貨物自動車運送事業、貨物運送取扱事業 |