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岡山県を中心に事業を展開するタイセイ電工株式会社の犬養弘之代表取締役社長は「うちは60年近く、ほぼ道路の照明だけを専門に手掛けてきました。道路の照明だけで食べていけるはずがないと言われてきましたが、仕事の依頼は絶えません」と話す。限られた分野に特化した業態は、父・壮二氏が会社を設立して以来のものだという。(TOP写真:児島湾大橋につながるトンネルの照明更新工事)
道路照明工事一筋に60年近く。ゼロからの出発だった
タイセイ電工が設立されたのは1966年。横浜で大手鉄鋼会社に勤務していた父・壮二氏が、母方の実家の犬養家を継承するため母の弟の養子となり、岡山市へ転居。タイセイ電工の前身「タイセイ道路照明株式会社」を設立した。とくに電気工事の経験があったわけではなかったが、大手電機メーカーとタッグを組んですぐ建設省(当時)から国道の照明設備の発注を受けられるようになった。
「当時の事情はよくはわかりませんが、今の岡山の同業者を見るとどこも同じ時期に設立されている。高度成長の波に乗って道路建設が活発に行われ、仕事が次々にあったのではないでしょうか」と弘之社長はいう。
10年後、壮二氏が亡くなり、設立当初に横浜から壮二氏とともに岡山へ移り住み、右腕として働いていた中村政照氏が社長に。現社長の弘之氏は大学卒業時に中村氏に「次を継いでくれ」と言われ、大手建設会社で3年間修業を積んだのち、1995年に入社。2007年に38歳で社長に就任した。社名もこの時、道路照明以外の仕事も請け負えるようにと、現在のタイセイ電工に変更した。
揺るがない堅実な企業精神。100年後を見通す経営として受け継がれている
壮二氏が会社を設立した当時は社員4人程度。その後の事業展開を考えると、事業規模を拡大することも可能だったと思われるが、その道は歩まず、現在も社員は社長を除けば7人(うち技術職5人)だ。
なぜ事業の拡大を目指さなかったのかと尋ねると、「ずっと右肩上がりの業績が企業のお手本としたら、どこまで行けばゴールでしょうか?」。弘之社長から逆にこう問いかけられた。重ねて「今隆盛を誇っている企業のうち、何割が100年後に残っていると思います?」とも。
岡山の犬養家は日本書紀以前まで源流をさかのぼり、江戸時代には大庄屋を務めた名家。その伝統の中で育まれた、揺るがない堅実な姿勢は壮二氏以来の企業精神にも受け継がれているようだ。弘之社長も「大きくする必要がないという精神が刷り込まれている気がする」といい、「100年、1000年続く会社」が目標だと話す。
特化したノウハウが高い信頼を生んだ
土木工事やそれに伴う電気工事はいろいろなところが手掛けているが、道路照明工事に特化した会社は全国的に見てもほとんどない。60年近くそれに携わってきたタイセイ電工は、特化したノウハウを有する、いわばプロ中のプロということになる。
「例えばトンネルに照明器具を取り付けるにはコンクリート壁にアンカーを打つ。それをその道の優れたプロフェッショナルがすると、普通の3倍くらいの速さで打てる。コンクリートの基礎も、腕のいい専門家にやってもらうとすごく速く、確かなものができる」と弘之社長。自社の技術力だけでなく、業界全体の中での優秀な人材情報も豊富で、工事に合わせてそれらをマネージングすることもできる。
自社が参加していない道路電気工事でも、資料を取り寄せ、積算や設計図作成などを作っておくことがよくある。請け負った他社から「道路照明の部分の書類づくりを手伝ってくれ」などと頼まれるからだ。施工方法の相談にも乗るし、機材を貸すことも。発注図を見て現場を設計照査して、役所に変更を提案することもあるという。そうした技術に裏打ちされたオープンで公正な姿勢が高い信頼を生み、他社の工事で協力会社として道路照明工事を請け負ったり、役所も「タイセイ電工の工事なら」と安心するという。
積算、CAD、クラウド…多彩なICT「これがなかったら会社の存続に関わる」
タイセイ電工が導入しているICTシステムはいろいろある。設計書をOCRで読み込んでくれる積算システムや電気設備用CAD、どこからでもデータの共有ができるプライベート・クラウド・ネットワーク、写真管理ソフトなど。現在はホームページを作成中だ。
入札では、積算システムで作成した見積書をPDFに変換して役所へ提出。受注するとCADデータが提供されるので、電気設備工事用CADで読み込み施工図を作成し、現場で作業する従業員に渡す。実際の工事では、当初の図面と違った部分が出てくるのでそれを手直しして変更図を作成、完成図として電子データで役所に提出する。基本的に役所とのやり取りは電子データだ。
現場の写真も膨大な数を出来形管理として役所に提出する書類に添付する。フィルムのベタ焼きを見ながら選んで紙の写真を一枚一枚貼り付けていた時代に比べると、今は現場で撮影して帰ってくると、すでに日付順などある程度整理された状態で見ることができて、大幅に省力化された。
どこからでもインターネット経由でアクセス出来るNAS(ネットワーク接続サーバー)の効果は大きい。「すごい量のデータをバックアップしていて、セキュリティの問題も含め、これがなかったら会社の存続自体が危うい。もちろんデータ共有の便利さも享受しています」(弘之社長)。例えば、新たな入札でも、3年前のトンネル照明工事が似た規模なのでその時の入札データを参考にする、といった具合に、以前のデータを活用することが結構あるという。
全国設備業IT推進会長時代は「のび太」に徹して、「ITドラえもん」たちにわがままに提案
弘之社長がITへの関心を強めたのは「偶然」だったという。20年ほど前、マイクロソフト社の日本法人が中小企業向けホームページを開設していて、岡山でも地方版をつくろうとした時、たまたまその設立にかかわった。それを全国の電気工事業に広げようということになり、全国設備業IT推進会(現・全国設備業DX推進会)ができ、2008年から2代目の会長を14年間務めた。
「ITについては素人だったので『僕はのび太になる』って言っていたんです」と弘之社長。「周りのIT企業にはドラえもん役の技術者が一杯いて、僕が実現性なんか関係なく、あれが欲しい、こんなものが欲しいって言うと、そんなドラえもんたちが一生懸命考えてくれた」
例えば、会計ソフトの標準化。いろいろな会社がそれぞれ独自にソフトを開発している。使う側からすると、別の会社の労務管理ソフトなどを使っていると、同じデータをそれぞれに打ち込まなくてはならない。標準化したものを開発すれば、違ったメーカーのソフトでもデータが使え、作業がぐんと楽になる。「そんなものを欲しいって言ったんです」。これは一定の成果を得られているという。
「今やICTはいろんなところで進んでいて、知らず知らずのうちに便利になっている。それが理想的ですね。何か調べるならインターネットで、写真はスマートフォンがあれば気軽に何枚も撮れ、加工も検索も簡単。情報もどこからでもアクセスできる」(弘之社長)。むしろ問題は、最初のセッティングに手間がかかることと、情報が多すぎることだという。「いずれそれをAIなどが補っていくのかもしれませんが、全体の動きを水中からとか上空からとか違った視点で見る目は大切です」
父が手掛けた仕事を息子が手直し。30年、40年残る仕事は「ちょっといい」
タイセイ電工としては、手書きで行っている日報をデジタルで簡便・省力化するのが当面の課題で、現在ICT化を検討中。作成中のホームページは「道路の照明という一般にわかりにくい仕事のため、すぐには人材確保に結び付かないかもしれないが、人々の暮らしを支える道路づくりの一端を担うこの仕事の面白さをわかってもらえる助けにしたいと思っている」という。
タイセイ電工は、トンネルや一般道路照明、瀬戸大橋の照明、電光表示板、非常通報装置、テニスコートやサッカー場の照明など、大型照明を得意分野としており、岡山県の国道で関わっていないものはほぼないという。
「最近はメンテナンスや補修の仕事が増えていて、父が手掛けた道路照明を私が手直しすることもあって感慨深いですね。30年、40年残るものをつくる。これは自分の中で〝ちょっといい〟」そう話す弘之社長の表情が和らいだ。
「現場では、夏の道路工事をはじめ熱中症対策に気を使います。たとえばヘルメットにセンサーがついていて、温度、湿度などを定期的にデータとして送ってくれると、それを見て休憩、水分補給などを行える。そんなものが欲しいですね」。〝犬養のび太〟は今も健在のようだ。
企業概要
会社名 | タイセイ電工株式会社 |
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住所 | 岡山県岡山市中区平井5丁目3番64号 |
電話 | 086-272-4673 |
設立 | 1966年10月 |
従業員数 | 7人 |
事業内容 | 電気設備工事、設計、施工 |