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住宅の給排水衛生設備工事や住宅改修工事を手掛ける大倉設備工業株式会社は鈴木淳代表取締役会長と津田康紀社長が両輪でトップセールスとICTソリューション導入を推進。顧客の住宅で「困った!」問題の解決に奔走するとともに、次代につなげる経営基盤強化のためにデジタル化により事業体制を刷新し、人材獲得や若手育成にも本腰を入れる。(TOP写真:排水管改修作業 住宅の排水管改修作業は狭いスペースで熟練の技術が求められる)
徹底した顧客第一主義と堅実な財務管理で黒字経営を継続 迅速で丁寧な施工で信用を積み上げてきた
1965年の設立以来、大倉設備工業は神奈川県鎌倉市を中心に大手住宅メーカーの戸建て新築住宅や集合住宅などの給排水衛生設備工事を手掛けてきた。鈴木会長は1996年に創業者である父親から経営を引き継ぎ、徹底した顧客第一主義と堅実な財務管理で黒字経営を続けてきたが、2022年には津田康紀氏を社長に抜擢し、自らは会長に就任した。
鈴木会長は学生時代から大倉設備工業でアルバイトをして手伝っていたが、「自然に父親の会社を継ぐ気持ちになっていたので、卒業と同時に入社しました」と笑う。しかし、社長に就任した当時の日本経済は1990年のバブル経済崩壊に端を発した銀行や証券会社の破綻が相次ぎ、景気の先行きは不透明。回復基調にあった住宅市場も1997年の消費税引き上げを機に落ち込んだ。厳しい市況の中で、大倉設備工業は顧客から電話があれば365日いつでも駆けつける一途な姿勢と顧客のニーズを真摯にくみ取る丁寧な施工が評価され、信用を積み上げてきた。
年間100棟前後の給排水設備を施工 堅調な業績なればこそ事業承継が経営課題に浮上
同社は現在、年間100棟前後の新築住宅用設備工事を手掛け、その多くから修理や改修などのメンテナンス業務を受注。メンテナンスやリフォームの事業比率は4割まで増加した。現在は11人の従業員と施工協力会社15社でこなしている。同社のキャッチフレーズとなっている『「困った…?」を快適に!』の通り、顧客からの連絡を受ければすぐに動く会社の姿勢はいまも変わらず同社の強みとなっている。
しかし、堅調な業績なればこそ、「5~6年前くらいから跡継ぎ問題を真剣に考えるようになりました。」と鈴木会長。近年は金融機関や取引先企業などから「後継ぎはどう考えているのか」と聞かれるようになり、事業継承がいかに重要で、簡単にはできないことだと痛感させられたという。
「妻が担当している経理業務も、時代の変化でパソコン等の業務など多岐にわたる状況になってきたことで、交代を考え始めました。営業畑の仕事をしながら経理も勉強していた次女に打診したところ、入社を決断してくれました。母を助けたい気持ちがあったのだと思います。経営を身内で対応することが一番ですが、それは考えられませんでした。事業継承に関わる今の環境・税制など、また経営責任の重さを考えるととても重責を担うことは簡単にはできないという気持ちが強かったためです。」(鈴木会長)。
2022年に津田康紀社長が就任 経営基盤強化のために中堅設備会社の傘下入り 相乗効果も狙う
そのため、自分の体力があって業績が好調なうちにどのような形で事業承継を成し遂げられるかと、日々悩むことになった。最終的に、「65歳ぐらいまでに」後継者を決めることと、景気の波に飲み込まれない経営基盤の安定策を両にらみで考えた。
鈴木会長は2019年に、自身が先代から経営を引き継いだ年に入社し、会社のことを一番知っている津田康紀氏に「会社の責任者を引き受けてほしい」と打診した。津田氏は高校卒業後に大倉設備工業に入社し、働きながら夜間大学を卒業した苦労人で、鈴木会長も信頼を寄せていた。津田氏から「やってみます」との言質を得てホッとしたが、もう一つの大仕事が残されていた。景気の先行きを不安視する鈴木会長が安心して津田氏にバトンタッチするために考えていたのが、会社の後ろ盾を作ることだ。
そこで銀行を介してM&A専門会社に相談し、2021年に中堅電気設備工事会社の京浜電設株式会社(横浜市)の傘下に入ることで合意した。大倉設備工業の全株式を京浜電設に譲渡。同社の子会社となり、京浜電設の福島佳孝社長を役員に迎え入れた。
2022年に津田氏が社長に就任。鈴木社長は会長となった。鈴木会長は「黒字経営を続けていたこと、京浜電設さんが給排水設備部門を設けたいという考えを持っていたことで、設備全般の基礎を構築できる環境が整うと判断し、お互いの相乗効果に結び付くことになると思いました。M&Aに対する不安がある社員への説明は難しかったですが、雇用の維持と経営基盤強化という考えを理解してもらいました」と大仕事を終えて達成感を噛みしめている。「ある意味この業界の先駆者的存在になりたいという自負もありました。」
若手採用と育成のため2022年からメディア活用し採用活動強化 若者に訴求するホームページ作りにも取り組む
しかし、鈴木会長の仕事がこれで終わったわけではない。「この先2、3年で従業員が高齢化で数人が退職する予定なので、若手採用に本腰を入れます」と鈴木会長。
同社は採用に本腰を入れるべく、2022年から就活専門メディアを本格活用。「この業界への就職希望者が見当たらない中で、一定の効果はあり1人の採用が決まりました」(鈴木会長)ただ満足のいく状況ではない。さらに若者に訴求するホームページの更新に取り組んでいる。
津田社長と進めているICTソリューションの本格導入による事業体制の効率化と競争力向上も、人材不足をカバーするために一刻を争う重要課題。京浜電設グループとしての人材面や事業面でのシナジー効果をあげるのもこれからだ。
問題が起きてからでは遅い 総合セキュリティー対策に着手 証憑電子保存サービスを導入し業務処理を連携 筋肉質の会社に転換
まず取り組んだのがセキュリティー対策だ。業務処理用に導入したパソコンの不具合が何度も発生したため、「個人情報を扱っているので問題が起きてからでは遅い」(鈴木会長)と判断、不正アクセスやコンピューターウイルスなど総合的にセキュリティー対策を行うGSP(ゲートウェイ・セキュリティー・パック)を導入。24時間365日のセキュリティー環境を整えた。
2022年には、アルコールチェックシステムを導入。毎日のチェック結果の自動送信機能で、自己申告だった出勤時間も管理できるようになった。今後は出退勤管理のデジタル化により、現場の手間と管理業務の効率化を目指す。
電子帳簿保存法改正を受けて2023年12月に証憑電子保存のクラウドサービスを導入した。見積書、納品書、請求書など事業に関わるデータをデジタル化して一元管理することで、インボイス制度や改正電子帳簿保存法に余分な業務処理なく対応できるようになった。
「SIベンダーと相談して通常業務の負担が増えないようにシステムを構築できて助かった。今後は取引先への書類送信をデジタル化していく予定。手形や小切手もリンクさせて電子決済に持っていきたい」(鈴木会長)。制度改正を機に業務処理全般をデジタル化し、筋肉質の会社経営に転換して次の世代へのバトンタッチに備えたい考えだ。
「感謝の気持ちを忘れずに、利益は社会還元や社員・協力会社・人に投資」が経営の根幹 新たな経営基盤作りを模索
「絶えず周りの人やお客様に感謝の気持ちを忘れずに、利益は社会還元や社員・協力会社・人への投資で奉仕していかなければならない」(鈴木会長)という経営理念は、先代から続く経営の根幹である。「感謝と奉仕」を根幹に据えつつ、大倉設備工業は新たな経営基盤作りを模索する。
企業概要
会社名 | 大倉設備工業株式会社 |
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住所 | 神奈川県鎌倉市雪ノ下5-1-5 |
HP | https://www.okura-eic.co.jp/ |
電話 | 0467-24-3322 |
設立 | 1965年2月 |
従業員数 | 11人(2024年3月末現在) |
事業内容 | 新築住宅の給排水衛生設備工事、小工事・漏水修理・下水工事、介護保険による住宅改修工事、リモデル工事など住宅全般にかかわる仕事・霊園のメンテナンス・外構工事など。 |