ご覧いただきありがとうございます、学生ライターのむぎです!
突然ですが皆さんは、『源氏物語』といえば何をイメージしますか?
作者の紫式部や登場する華やかな都の平安貴族、あるいは大河ドラマ「光る君」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね。
いずれにしても、『源氏物語』は京都を舞台にした作品という印象が強い方も多いのではないでしょうか。
……しかし、『源氏物語』ゆかりの地は実は兵庫県にもあるんです!
この記事では、作品内に登場する兵庫県が舞台の歌を取り上げます。
和歌に込められた意味や当時の風景に一緒に思いを馳せてみましょう!
『源氏物語』の舞台となった兵庫県
そもそも、具体的にどの場面が兵庫県に関わりがあるのか見ていきましょう。
『源氏物語』は計五十四帖で構成されていますが、
第十二帖は「須磨」、第十三帖は「明石」と題されています。
これらはいずれも現在の兵庫県にある場所を指す地名です!
特に第十二帖の「須磨」では、京都で暮らしていた光源氏が須磨に移り住み、都の人々を恋しく思いつつ過ごす日々を主に描いています。しかし、長らく京都で暮らしていたはずの光源氏は、なぜ須磨を訪れることになったのでしょうか?
……なんと恋多き源氏は、かねてから政敵である右大臣の娘・朧月夜と密かに関係をもっていたのです。
その関係が明るみに出てしまい、都から追放されることを危惧した源氏が、自ら須磨への退去を選んだのでした。源氏26歳春のことでした。
それまで宮中で煌びやかな恋物語を繰り広げていた源氏は、須磨の侘しい暮らしのつらさを紛らわすため、都の人々と手紙を送りあいます。
そうした手紙の中で源氏はいくつも須磨に関する和歌を詠み、また都から届く返事の手紙にも多くの和歌が詠まれています。
では、作中の和歌を一緒に見ていきましょう!
『こりずまの浦のみるめのゆかしきを塩焼く海人やいかが思はむ』 |
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まずはこの歌。「こりずまの~」は源氏が朧月夜に宛てて書いた手紙の中に書かれた一首です。
朧月夜は、先ほど述べた政敵の右大臣の娘にあたり、源氏は朧月夜との関係により須磨の地まで退去することになったのでした。
しかしながら、この歌は「性懲りもなくお逢いしたく思っていますが、あなた様(=朧月夜)はどう思っておいででしょうか」といった内容を詠んだ歌になっているのです!
朧月夜のせいで都を離れたと言っても過言ではない状況で、それでも会いたいと伝える光源氏……
これに対して朧月夜がどのような返事をしたのかは、次の項で紹介いたします。
ところで「こりずまの浦のみるめのゆかしきを塩焼く海人やいかが思はむ」の歌には、和歌に更なる深みを与える「掛詞」が2つ含まれています。皆さんはお気づきでしょうか?
その2つとは……
①「こりずまの浦」:「懲りず」と「須磨の浦」の掛詞
②「みるめ」:「海松布(みるめ)」と「見る目」の掛詞
です。
2つ目は馴染みのない言葉で少し難しいかもしれませんが、「海松布(みるめ)」は海藻の一種ミルのことを、「見る目」は古語で「逢う機会」のことを指します。
この歌には「須磨の浦」や「海松布(みるめ)」、「塩焼く」「海人」など、須磨の海を想起させる言葉が多数登場し、退去した先での暮らしの風景と源氏の今の気持ちが率直に詠まれた一首となっているのです。
『浦にたく海人だにつつむ恋なればくゆる煙よ行く方ぞなき』 |
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次にご紹介するこちらの歌は、先ほどの和歌に対する返歌。
すなわち、朧月夜が源氏に宛てて書いた手紙の中に書かれていた一首です。
その内容を現代語訳すると……
「須磨の浦の海人でさえ人目を隠す恋の火ですから、人目多い都にいる思いはくすぶり続けて晴れようがありません。」
人目の少ない須磨の浦ですら隠さねばならないと思う恋。
ましてや人目の多い都では到底人に打ち明けられるような思いではありません。
許されざる恋心を一人で抱える朧月夜が唯一その気持ちを吐露できるのが、恋の相手である源氏だったというわけなのです……
このやるせない切なさが『源氏物語』の魅力だと私は思います。
ここで、光源氏から送られてきた歌と朧月夜からの返歌を見比べてみましょう。
光源氏の和歌:「こりずまの浦のみるめのゆかしきを塩焼く海人やいかが思はむ」
朧月夜の返歌:「浦にたく海人だにつつむ恋なればくゆる煙よ行く方ぞなき」
……この二首に共通点があることにお気づきでしょうか。
まず朧月夜の返歌は、源氏から送られた歌をふまえ「浦」や「海人」という言葉を用いています。
さらに「塩焼く」から連想される言葉として「煙」というモチーフも登場していますね!
このように、返歌として、送られた歌に寄り添った内容を詠みつつ、そこに自分の気持ちも乗せて伝えているのがこの歌のすごいところです。
おわりに
都での華やかな恋だけではない、遠く離れてこそ浮かび上がる複雑で心揺さぶられる人間模様。
そして、その時の心境を美しく繊細に描き出す和歌もまた『源氏物語』に欠かせない大事な要素です。
皆さんも京の都を離れて展開されるストーリーにもぜひ着目して作品を楽しんでみてはいかがでしょうか?
きっと新たな視点での面白みを見つけられるはずです!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考
渋谷栄一「須磨 現代語訳」(最終閲覧:2024/05/31)
http://www.sainet.or.jp/~eshibuya/