逆風の中、時代の要請に応じた新たな需要の取り込みに挑むコンクリート二次製品メーカー アサヒコンクリート(群馬県)

目次

  1. 高度経済成長に乗って事業拡大も、インフラ整備「冬の時代」で暗転
  2. 逆風の中、集水桝のプレキャスト化で工期短縮、人手不足に対応 小回りの利く即応力を強みに業績確保
  3. 三代目は新たな領域に舵、電線共同溝に活路求める
  4. 技能向上に経験は大事、DXと現場視点を同時進行 3Dモデリングにより最終形を視覚化することで製品の作り手と施工側の合意形成が図られ、何よりも社員のやりがいにつながる
  5. BCP(事業継続計画)を踏まえ、ネットワークのセキュリティ強化のためUTM(統合脅威管理システム)を導入
  6. アサヒコンクリートの良さをPRするためホームページを立ち上げた
  7. 地元への貢献を考え、次世代につなぐために、地元とのつながりを重視し、異業種連携も見据える
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県伊勢崎市の有限会社アサヒコンクリートは、河川や砂防、道路、都市開発などに使われるコンクリート二次製品のメーカーだ。設立から50年を優に超える歴史があり、高度経済成長期下にあってはインフラ整備など旺盛な需要に乗り、事業を拡大してきた。しかし、「失われた30年」の過程で公共工事は縮小し、コンクリート二次製品の市場環境にも逆風が吹く。こうした状況下、アサヒコンクリートは災害に強い無電柱化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きを捉えた電線共同溝の事業など、「今の時代」の要請に応じた新たな需要の取り込みに意欲的に取り組む。(TOP写真:アサヒコンクリートの製品置き場に積み上げられたコンクリート二次製品。景観に配慮した製品もある)

高度経済成長に乗って事業拡大も、インフラ整備「冬の時代」で暗転

アサヒコンクリートは1970年5月、現在の茂木信仁代表取締役の祖父、茂木武司氏が親族ら6人と立ち上げた。側溝など道路関係の製品を主流に、コンクリート二次製品メーカーから製造を請け負うなどで事業を伸ばし、1974年には工場増設に踏み切った。1970年代の日本は、首相就任目前の田中角栄氏が1972年に発表した政策綱領「日本列島改造論」で、「国土の均衡ある発展」を提唱し、インフラ整備は絶頂期を迎える。アサヒコンクリートもこの波に乗り、道路関係のほか河川系や護岸系などに製品バリエーションを広げていく。

しかし、1990年代に入りバブル経済が崩壊し、インフラ整備は「冬の時代」を迎える。これを象徴するように、アサヒコンクリートと取引のあったコンクリート二次製品の大手メーカーが2007年に民事再生法の適用を申請し、業界には衝撃が走った。さらに2009年には民主党政権が「コンクリートからヒトへ」の政策を掲げ、コンクリート市場には逆風が吹き込む。

逆風の中、集水桝のプレキャスト化で工期短縮、人手不足に対応 小回りの利く即応力を強みに業績確保

逆風の中、時代の要請に応じた新たな需要の取り込みに挑むコンクリート二次製品メーカー アサヒコンクリート(群馬県)
日本産業規格(JIS)の認証を取得した工場に並べられた型枠

ただ、この間も1995年に二代目社長に就任した茂木信仁代表の父、茂木守雄氏は徹底した品質管理を目指し、この苦境の時期から近年にかけて無筋プレキャストコンクリート製品で相次ぎ日本産業規格(JIS)の認証を取得し、「心と技術を込めたものづくり」にこだわってきた。

製品・部材をあらかじめ工場で製造するプレキャスト化に乗り出した背景には理由がある。アサヒコンクリートは現在、国土交通省や群馬県、県内の自治体が発注する公共工事が事業のほぼ半数を占め、その中で「集水桝(ます)」を多く手がける。側溝を流れる水を集めて流れを変える機能があり、かつては型枠職人によるコンクリートの現場打ちが主流だった。

ただ、現場打ちは人手不足が深刻になり、これをプレキャスト化したコンクリート二次製品で置き換える工法が広がり、工期短縮と人手不足の解消につなげた。これは時代の環境変化に応じてコンクリート二次製品の用途が広がった一つの事例と言える。

しかし、市場環境は引き続き厳しい。公共工事は災害復旧といった特殊要因を除けば伸びは期待できず、パイは細る一方だ。この環境下で2021年に三代目社長に就いた茂木代表は「当社の強みは社員9人の小所帯で組織的に階層が少なく、即、仕事に対応できる点。仕事の依頼がきたら早めに動き、早めに決断して、製品に完結できる」と小回りの利く即応力を強調する。

三代目は新たな領域に舵、電線共同溝に活路求める

逆風の中、時代の要請に応じた新たな需要の取り込みに挑むコンクリート二次製品メーカー アサヒコンクリート(群馬県)
アサヒコンクリートが力を入れる電線共同溝に使われるブロック(手前下)

とはいえ、このまま手をこまねいていては打開策が見出せない。茂木代表は「今まで下請け、孫請けみたいな形で事業を続けてきた。ただ、それだけじゃなかなか厳しい。今後は市場をよく見て何か新しい製品、あるいはオリジナル製品を考えていかないといけない」と語り、新たな領域に舵を切る。

その一端として、近年は電線共同溝の事業に携わっている。具体的には、一般社団法人群馬県電線共同溝研究会の会員として電線類の地中化に関する製品技術の普及促進や安定供給の研究のほか、建設工事の省力化、工期短縮と施工精度の向上などを図っている。

群馬県電線共同溝研究会はコンクリート二次製品メーカーだけでなく、鉄工関係や塩化ビニル管、水道管など電線共同溝に関連する企業で組織する。群馬県との定期的な意見交換などを通じて、敷設の課題解決に向けた製品や管理手法の提案は、群馬県が策定する電線共同溝整備マニュアルに反映されている。アサヒコンクリートは現在、電線共同溝向けに小型ボックスを供給しており、研究会活動を通じて得た情報などを製品づくりに生かしている。

電線共同溝事業に取り組んできた意味について、茂木代表は「コンクリート製品が今後、時代の変化に合わせてどのように変わっていくかを考えた」と語る。その上で「電線共同溝の事業は無電柱化によって災害に強い街づくり、ひいては時代の流れに沿った国土強靭(きょうじん)化にもつながる。また、社会全体が取り組んでいるDXへの要請を捉えた取り組みも必要になってくる」と時代の要請に応えた可能性の広がりに期待する。

技能向上に経験は大事、DXと現場視点を同時進行 3Dモデリングにより最終形を視覚化することで製品の作り手と施工側の合意形成が図られ、何よりも社員のやりがいにつながる

逆風の中、時代の要請に応じた新たな需要の取り込みに挑むコンクリート二次製品メーカー アサヒコンクリート(群馬県)
「技能は経験を積むのが大事ながら、DXとアナログを同時並行して取り込む」と話す茂木信仁代表取締役

一方で、ものづくりへのこだわりはデジタル一辺倒に傾きがちな今の時世にあっても、「作業に対する技能は経験を積んでいくことが大事」と茂木代表は説く。もちろん、「DXとアナログの両方を並行して取り込まないといけない」とDXを推し進める重要性は十分認識している。ただ、コンクリート二次製品が持つ硬くなると縮むため、一概にデータだけを過信して製造するわけにもいかない。

茂木代表取締役はこの点を「すべてミリ単位で表示される発注図面をどこまで精度を上げて製品化するか、あるいはその基準を現場目線に落として作り上げるかが悩ましい」と話す。その上で「図面の数値通りにきっちり作ることはできる。ただ、脱型した直後に図面通り1メートルあった寸法が3ヶ月後、4ヶ月後には990ミリになっている。コンクリートは硬くなると縮み、そこは積み重ねてきた経験や磨いてきた感覚が生きてくる」と言う。

半面、茂木代表はこれからコンクリート二次製品メーカーとしてDX化に取り組める可能性がある領域について、3D-CADによって製品が施工され完成した最終的な姿を視覚化することを具体的に挙げる。「最初の段階から最終形が視覚化できれば製品の作り手側にも施工側にもメリットがあり、社員のやりがいにつながる」と語る。

BCP(事業継続計画)を踏まえ、ネットワークのセキュリティ強化のためUTM(統合脅威管理システム)を導入

DX化の推進は一方で不正アクセス対策や情報漏えい対策など、ネットワーク環境のセキュリティ強化が求められる。この点、アサヒコンクリートは2023年にクラウドサービスでさまざまなセキュリティ機能を一つに集約し利用できるUTM(統合威管理システム)を導入した。

ネットワークのセキュリティについては既に2019年頃に専用機器を設置してネットワーク環境をワンストップで管理するサービスを活用していた。ただ、セキュリティ対策の一段の強化が必要と判断し、以前からシステム関係で付き合いがあった信頼できる専門家のアドバイスを受け、UTMに更新した。茂木代表は「自分はシステム分野が不得手なので、常々、システム関係で相談に乗ってもらっているシステム支援会社の勧め、さらにBCP(事業継続計画)の面もあってUTMに更新した」と語る。

アサヒコンクリートの良さをPRするためホームページを立ち上げた

逆風の中、時代の要請に応じた新たな需要の取り込みに挑むコンクリート二次製品メーカー アサヒコンクリート(群馬県)
アサヒコンクリートのホームページ

アサヒコンクリートが今、課題の一つに据えているのが人材の確保で、茂木代表は「とにかく地域に根付いた人材を採用したい」と力を込める。これに関連して自社ホームページも2023年3月に初めて開設した。「正直なところ、地元で親交のある経営者らから『まだ、ホームページもないのか』と言われたのがショックで、『会社の信用を得ることや、人材の育成や採用に取り組むためにはホームページを立ち上げないといけない』とのアドバイスも受けて、開設に踏み切った」と語る。

アサヒコンクリートは月1回、外部の有識者を招いて社員研修を実施している。社員は通常、作業に当たっており会議はほとんどできない状態のため、研修を通じてそれぞれ個性の違う社員から新しい発想などが生まれることを狙って実施している。茂木代表は「今後は社員研修の内容をホームページに載せることも考えたい」と情報発信ツールとしての活用を検討している。

地元への貢献を考え、次世代につなぐために、地元とのつながりを重視し、異業種連携も見据える

アサヒコンクリートの今後について、茂木代表は「徐々に力をつけながら少しずつ歩みを止めずに事業を展開していきたい」と謙虚に語る。一方で、「地元の経営者らとのつながりを通じて、ここ伊勢崎市で事業を続け、根付いてきた以上、次世代に何か形として残せるものはないかと考えている」と強い地元愛、地元への貢献への意欲を示す。

実際、同じ伊勢崎市にあるFRP(繊維強化プラスチック)成形加工メーカーと協業し、加工過程で発生する廃棄物を再利用し、コンクリートに混ぜて製品化する案件が進んでいる。地元企業とのつながりは必ずしも「コンクリートに絞ることに固執はしていない」と茂木代表は語り、今後は異業種との連携も見据えている。

企業概要

会社名有限会社アサヒコンクリート
住所群馬県伊勢崎市馬見塚町1859-2
HPhttps://asahi1970.com/
電話0270-32-0495
設立1970年5月
従業員数9人
事業内容コンクリート二次製品の製造