資金調達
(画像=PIXTA)

近年のビジネス業界でよく登場する、「投資ラウンド」という言葉をご存じだろうか。特にスタートアップの企業にとって、投資ラウンドの理解は最適な資金調達手段を見極めることにつながる。資金調達面に課題がある企業は、最新の知識や実情を確認しておこう。

投資ラウンドとは?資金調達の全体像を簡単に解説

「投資ラウンド」は、簡単にいえばスタートアップのファイナンスステージ(投資をする段階)を表す言葉だ。もともとはアメリカのシリコンバレーで登場した考え方であり、投資サイドが投資先企業の状況を把握するために使われていた。
この説明だけでは少しわかりづらいので、実際にスタートアップのファイナンスステージをどのように分けているのかについて、以下で簡単に見ていこう。

投資ラウンド概要
・シードラウンド起業の準備を進めている段階での資金調達。
・シリーズA事業開始直後の資金調達。スタートアップにとっては、運転資金に加えて設備資金も必要になる時期。
・シリーズB経営が軌道に乗り始め、安定的に成長を遂げている段階での資金調達。
・シリーズC経営がさらに安定し、事業が黒字化しかけている段階での資金調達。

上記のように、投資ラウンドは「4つの段階」にわける形が一般的。起業前のシードラウンドから始まり、順調に成長を遂げたスタートアップは「シリーズA→シリーズB→シリーズC」と投資ラウンドが段階的に切り替わっていく。
ここで特に押さえておきたいのは、ラウンドごとに「必要な資金」や「資金調達手段」が大きく異なる点だ。たとえば、シードラウンドとシリーズCとでは会社の信用性や収益性に違いがあるため、実施できる資金調達手段も変わってくる。
本記事では、そんな各投資ラウンドの違いや資金調達のポイントを詳しくまとめた。資金調達に悩んでいる中小企業やベンチャー企業などは、自社が「どの投資ラウンドに位置しているのか?」を意識しながら読み進めていこう。

「投資ラウンド」と「成長フェーズ」の違いに注意!

投資ラウンドと混同されやすい言葉に、「成長フェーズ」と呼ばれるものがある。成長フェーズもスタートアップの状態を表した言葉だが、投資ラウンドのように投資をする段階ではなく、事業の進み具合で段階が分けられている。

成長フェーズ概要該当する投資ラウンド
・シード期ビジネスプランを作る、製品のプロトタイプを作成するなど、起業の前段階にあたる時期。該当するスタートアップは、この時点ではまだ商品・サービスを提供していない。シードラウンド
・アーリー期事業を始めたものの、まだ売上にはつながっていない段階。経営的には赤字であり、従業員数が10人前後に増えるまではこのステージがしばらく続く。シリーズA
・ミドル期事業が軌道に乗り、マーケティングの強化や新規事業などにチャレンジをする時期。次のステージに進むには、ビジネス拡大のための経営資源や資金が必要になる。シリーズB
シリーズC
・レイター期さらなるビジネス拡大を目指し、IPOなどの「エグジット(※詳しくは後述)」を意識し始める段階。シリーズC

成長フェーズも4つの段階にわけられているので若干ややこしいが、投資ラウンドは「ファイナンスステージ」、成長フェーズは「事業段階」をベースにしていると考えれば、少しわかりやすくなるはずだ。本記事では投資ラウンドに絞って解説をしていくが、上記でまとめた成長フェーズの基礎知識も合わせて覚えておきたい。

1.シードラウンド(シード期)の調達金額とポイント

起業前のシードラウンドは、ほかの投資ラウンドに比べると調達金額が少ない傾向にある。その目安は数百万円ほどであり、この資金はおもに「会社設立費用・人件費・開発費」などに使われる。
シードラウンドの資金調達で特に意識しておきたいのは、低い利率で融資を受けられる「創業融資制度」の存在だ。たとえば、日本政策金融公庫(日本公庫)の「新創業融資制度」のように、この時期に利用できる創業融資制度は少なくない。各自治体が創業者向けに実施している「制度融資」も、この時期に考えておきたい資金調達手段だろう。
そのほか、シードラウンドの資金調達手段としては主に以下の方法が挙げられる。

〇シードラウンドの資金調達手段
・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・シードアクセラレータ(シードラウンドの起業家に対して、積極的に融資を行う組織)
・友人や知人からの借入 など

ちなみに、シードラウンドでは調達金額が少ない代わりに、事業計画の策定や市場調査に力を入れる必要がある。この段階で組み立てた計画が今後の経営を大きく左右するため、じっくりと時間をかけて準備を整えることが大切だ。

2.シリーズA(アーリー期)の調達金額とポイント

徐々に顧客が増え始めていくシリーズAでは、事業を軌道に乗せるための設備資金・運転資金が必要になる。その目安は1,000万円~3,000万円前後といわれており、シードラウンドに比べるとスタートアップの調達資金はぐっと増える。
しかし、この時点では会社の信用力・収益力はまだまだ低いため、資金調達の手段はそれほど多くない。シリーズAは「資金不足に悩まされやすい時期」なので、以下で挙げるさまざまな方法を活用しながら、効率的に資金を調達することが重要だ。

〇シリーズAの資金調達手段
・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・ファクタリング
・日本政策金融公庫の融資制度 など

上記のうち「ファクタリング」とは、売掛金を売却する形で融資を受けられるサービスのことだ。つまり、手元にある売掛債権を手っ取り早く現金に換えられるので、キャッシュ不足を一時的に解消できる。特に短期の資金繰りに悩んでいるスタートアップは、ぜひ検討しておきたい資金調達手段だろう。

3.シリーズB(ミドル期)の調達金額とポイント

シリーズBに達したスタートアップは、優秀な人材や充実した設備をそろえることで、会社のさらなる成長を目指していく。事業用資産に加えて、この時期には知名度を上げるための広告宣伝費などもかかってくるため、シリーズBにさしかかった企業は膨大な資金を集めなくてはならない。
その調達金額の目安は、およそ数億円~10億円だ。この金額をひとつの融資元・出資元から集めることは難しいので、以下で挙げる複数の方法を組み合わせて資金調達に取り組むケースが多い。

〇シリーズBの資金調達手段
・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・銀行からの融資
・補助金、助成金制度 など

事業が軌道に乗ったシリーズBでは、会社の収益性や信用性が一気に高まる。その影響で、銀行からの融資や補助金制度なども資金調達の選択肢に含まれてくるだろう。
複数の金融機関から借り入れるなど、シリーズBは資金調達手段に幅が出る時期なので、各手段を比較したうえで資金計画を立てることが重要だ。

4.シリーズC(ミドル期~レイター期)の調達金額とポイント

シリーズCは、スタートアップにおける最終投資ラウンドだ。経営的には非常に安定した状態だが、実はスタートアップのゴールといえる段階ではない。
詳しくは後述するが、シリーズCからさらにゴールへたどり着くには、さらなる会社の成長が必要になる。つまり、この投資ラウンドでも新規事業開拓や事業拡大にチャレンジをすることになるため、そのプラン次第では数十億円規模の資金が必要になるだろう。
シリーズCではそんな膨大な資金をまかなうために、大型の資金調達手段がよく用いられている。

〇シリーズCの資金調達手段
・シンジケートローン
・ファクタリング
・銀行のプロパー融資
・補助金、助成金制度 など

上記の資金調達手段のほか、シリーズCではここまでの投資ラウンドで培ってきたネットワークを活かすことも重要だ。経営次第では内部資金でまかなえる場合もあるが、市場の動きによっては急に資金調達の必要性に迫られるシーンがあるため、より多くの資金調達手段を確保しておきたい。

投資ラウンド調達金額の目安主な資金調達手段
シードラウンド数百万円・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・シードアクセラレータからの支援
・友人や知人からの借入
シリーズA1,000万円~3,000万円・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・ファクタリング
・日本政策金融公庫の融資制度
シリーズB数億円~10億円・ベンチャーキャピタルからの融資や出資
・エンジェル投資家や個人投資家からの支援
・銀行からの融資
・補助金、助成金制度
シリーズC数十億円・シンジケートローン
・ファクタリング
・銀行のプロパー融資
・補助金、助成金制度

上記の表は、ここまで紹介した各投資ラウンドの詳細をまとめたもの。このように並べてみると、投資ラウンドが進むにつれてスタートアップの調達金額は一気に増えていき、その金額に応じた資金調達手段に切り替わっていることがわかる。
企業が事業資金を調達する際には、金額に加えて「スピード」を意識することも重要だ。たとえば、多額の融資を受けられたとしても、事業拡大や市場開拓のタイミングに間に合わなければ大きなチャンスを逃してしまう。
そのため、「自社がどの投資ラウンドに該当するのか?」は常に意識しておき、資金調達をより効率的に進められる手段をその都度見極めておきたい。

投資ラウンドの最終的なゴールは?

では、シリーズCに到達したスタートアップは、最終的にどこを目指すのだろうか。投資ラウンドの最終目標は「エグジット(EXIT)」と呼ばれており、このエグジットには大きくわけて以下の2つの選択肢がある。

1.IPO(株式公開)

「IPO(Initial Public Offering)」とは、会社の株式を証券市場に上場することだ。IPOを果たすと、自社株式は市場に流通する形となるため、一般投資家が株式を購入できるようになる。
では、スタートアップがIPOまでたどり着くと、具体的にどのようなメリット・デメリットが発生するのだろうか。

IPOのメリットIPOのデメリット
・社会的な認知度が急上昇する
・資金調達手段の幅がさらに広がる
・創業者が発言権を失わずに、会社のさらなる成長を目指せる
・実施直後の高騰を利用すれば、投資資金を回収できることも
・準備や維持に手間がかかる
・上場するための要件が厳しい
・敵対的買収のリスクが高まる

スタートアップにとってIPOは、一流企業を目指すための経営戦略といえる。上場を果たすと社会的な認知度が一気にアップするので、ブランドの形成や売上の増加、優秀な人材の採用など、さまざまな面で良い効果が現れてくる。
また、IPOの実施直後は株式価格が高騰しやすい点も、経営者が押さえておきたいポイント。この現象を利用して株式を売却すれば、これまで投資してきた資金を一気に回収することも可能だ。
ただし、多くの企業にとってIPOはハードルが高く、上場を果たすにはさまざまな要件を満たさなくてはならない。さらなる資金が必要になることはもちろん、数年単位で計画を進める必要があるため、周りの従業員にも大きな負担がかかってくる。
したがって、シリーズCからIPOを目指すには、より綿密な事業計画や経営計画が必須となるだろう。

2.M&A

「M&A(Mergers and Acquisitions)」とは、ほかの企業に対して会社・事業を売却することだ。アメリカでは9割のスタートアップがM&Aを目指しており、近年ではその考え方が日本国内にも浸透しつつある。
かつての日本では、買い手側の企業にM&Aのノウハウがなかったことから、M&Aは敬遠されがちな経営戦略だった。しかし、若手経営者を中心にその抵抗感は薄れてきており、M&Aを目指すスタートアップは徐々に増えてきている。
では、エグジット戦略としてM&Aを選ぶメリット・デメリットを、以下で簡単に確認していこう。

M&AのメリットM&Aのデメリット
・会社や事業の売却益が手に入る
・廃業コストをかけずに経営から退ける
・引き続き、事業の継続と拡大を期待できる
・従業員の雇用を守れる
・必ずしも買い手が見つかるわけではない
・進め方次第では、従業員に負担をかけてしまう

会社・事業を売却すれば売却益が手に入るため、M&Aでもこれまでの投資資金を回収できる可能性がある。また、従業員の雇用を守りながら、自身はスムーズに経営から退ける点もM&Aならではの魅力だ。
ただし、自社の買収に興味を持つ企業が現れなければ、基本的にM&Aは成立しない。また、相手企業によっては、買収後に従業員の立場が脅かされてしまう恐れがあるため、特に契約内容は慎重に設定することが求められる。

資金調達の幅が広がっている?国内企業の近年の実情

最後に、国内企業の資金調達に関する近年の実情を紹介していこう。実際に調達する金額はケースバイケースだが、昨今の国内スタートアップには以下のような傾向が見受けられる。

〇資金調達に関する、国内スタートアップの主な傾向
・1社あたりの資金調達額が増加している
・資金調達手段の選択肢が増えつつある
・中でもベンチャーキャピタルからの投資額は、右肩上がりの状況が続いている

上記の「ベンチャーキャピタル(VC)」とは、ハイリターンを狙って積極的に資金投下をする投資会社のことだ。高い成長率をもつ未上場会社に投資をすることから、VCは多くのスタートアップにとって重要な資金源となっている。

そんなVCの投資額(国内)は、2012年頃から右肩上がりの状態が続いており、2018年には1,615億円に到達した。さらに、大学系VCや独立系VCのように多様化も進んでいるので、将来的にはさらに投資額を伸ばす可能性があるだろう。

また、スタートアップの経営者にとっては、数百万円~数千万円規模で出資を行っている「エンジェル投資家」も無視できない。エンジェル投資家には起業経験のある人物が多いといわれており、場合によっては経営面でのアドバイスも受けられる。

現時点では、エンジェル投資家個人に直接アピールできる方法は限られているが、VCと同じように規模が拡大する可能性も十分に考えられるため、エンジェル投資家についても引き続き注目をしておきたい。

投資ラウンドを意識し、常に効率的な資金調達を

本記事で解説してきたように、現代の企業にはさまざまな資金調達手段がある。起業資金・事業資金を調達する方法は、今や金融機関からの融資だけではないため、経営者は広い視野をもって今後の資金計画を立てていきたい。

ただし、数多くの方法を選べるからこそ、各シーンに最適な資金調達手段を選ぶことが重要だ。自社が該当する投資ラウンドを意識したうえで、常に効率的な資金調達を心がけるようにしよう。

文・THE OWNER編集部