米国シリコンバレーに拠点を置くベンチャーキャピタルファームKindred Venturesは、シリコンバレーから来日したPerplexity、Sony AI、Extropic、fAL.ai、そして日本のAww、Stability AIを含む今注目のAI・ITスタートアップを招き、AIにおける課題解決に向けた最先端の技術、サービス、商品について紹介するイベント「AI Wave Tokyo」を、6月19日に東京・渋谷のTRUNK HOTELで開催した。
「AI Wave Tokyo」は、米国のベンチャーキャピタルファームで、スタートアップへの投資を専門とするKindred Venturesが主催し、AI・ITスタートアップと日本企業をつなぐ目的で初めて東京で開催された。開会にあたり、Kindred Ventures創設者のSteve Jang氏が登壇。「今回のイベントには、アーリースタートアップや、今週日本市場に参入したスタートアップ、すでに広く知られているスタートアップまで様々なステージの企業に参加してもらっている。これらのスタートアップの取り組みを、日本の多くの人々に紹介できることを光栄に思う」と挨拶した。
最初のスピーカーは、fAL.ai共同創設者のBurkay Gur氏。fAL.aiは、機械学習モデルの実行とスケーリングのためのサーバーレスクラウドプラットフォームを提供している。開発者は、インフラを管理することなくAIアプリケーションの構築とデプロイを行うことができる。Gur氏は、モデルの「創造性」に着目しており、fAL.aiが構築したモデルは、クリエイティブな仕事をすることを得意としていると述べた。AIを活用することで質の高いコンテンツの制作が容易になるとし、「日本はビジュアルコンテンツの面で他国よりもはるかに進んでおり、日本がこのテクノロジーで先陣を切ることに期待している」と話した。「今AIが相手にしているのは消費者でありスピードが求められる中、GPUの稼働率が重要である。fAL.aiが有するモデルギャラリーは、最適化されたモデルから、通常、エンジニアが何時間もかけて作るモデルをアプリケーションに組み込むことができる」と紹介した。また、fal.aiの顧客の例として、バーチャルコンパニオンのcharacter ai.やクリエイターツールのCaptions、そしてゲーム企業向けツールのLayerを挙げ、「クリエイティブな仕事はAIによって変容しつつあり、fAL.aiはその変容を促進している」と語った。
続いて、Aww プロデューサーのSara Giusto氏が登壇した。Awwは、高度な3Dモデリング、アニメーション、AI技術を駆使して、リアルなバーチャルヒューマンを制作・プロデュースする日本企業。Giusto氏は、2017年に誕生したバーチャルヒューマン「imma」について、「日常的にSNSで投稿したり、バーチャルヒューマンの弟『plusticboy』がいたり、自分のブランドをプロデュースしていたりと普通の女の子のようだが、実在しないオリジナルキャラクターである」と紹介した。「imma」は、社会貢献活動にも従事し、Forbesの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選出された他、有名ブランドのキャンペーンにも起用されているという。「私は、バーチャル・ヒューマン・テクノロジーは、人間の可能性を増幅させると心から感じている。人類は仮想人類史の1ページ目にいる」と主張した。また、Kindred Venturesがラウンドをリードし、Awwは世界のバーチャルスターとそのコミュニティを発展させるプラットフォーム構築のため600万ドルの資金調達を実現したことを発表した。
ここで、Kindred VenturesのJang氏とPerplexity AI 創設者、共同創設者のAravind Srinivas氏の対談が行われた。Perplexity AIは、最先端の自然言語処理と機械学習技術を駆使した、革新的なAI搭載検索エンジンとチャットボットを提供している。Srinivas氏は対談で、「当社は2022年8月に誕生。6月17日にソフトバンクとの協業を発表し、日本に参入したばかり会社である」と、これまでの歩みを振り返りながら紹介。「Perplexity AIは質問に対する回答を精度高く、最新の情報を瞬時に答えてくれる『サーチエンジン』ではなく『アンサーエンジン』である」と説明した上で、「何か発見して決定を起こす際の一気通貫した環境を提供したいと思っている」と今後の展望を話していた。
次に登壇したのは、Extropic 創設者、CEOのGuillaume Verdon氏。Extropicは、2022年にVerdonによって設立され、最近では熱力学コンピューティングを通じてAI機能を強化する革新的なアプローチを詳述するLitepaperを発表し注目を集めている。Verdon氏は、「AIコンピューティングの需要はあくなきもので増していく中、コンピューティングは確率論を表すには非効率で、世界を表現する能力には限界がある」と指摘。「GoogleでTensorFlow Quantumプロジェクトの開発を主導したことで、新しいハードウェアの必要性を感じたことから、熱力学コンピューティングを通じてAI機能を強化する革新的なアプローチとして物理学ベースのAIの最先端を走っている」と説明した。そして、熱力学AIハードウェアを開発していることを発表。「来年早期に最初のプログラミングしたシリコンチップを検証する予定である」とし、この媒体の先駆者として物理学におけるAIを推進する仲間を探していると呼びかけた。
続いて、Stability AI 日本支社、創設者のJerry Chi氏が登壇。「当社は、クリエイティブなAIのアプリケーションに可能性を感じ、マルチモデルに基づきtext to image、image to videoなどエキサイティングなアプリケーションを多く活用している」という。「テキストモデル、音声モデル、画像モデル、動画モデルを様々な方法で組み合わせることで、よりパワフルなAIモデルやシステムを生み出すことができる」と話し、同社が他企業と協力し、AIを活用した事例をいくつか紹介した。マーケティングプロモーション、商品デザイン、イーコマースでの活用など様々なニーズに対応できるとし、「日本でもテキストモダリティ中心から他のモダリティの活用も増えていくことが見込める」との考えを示した。
最後に、Kindred VenturesのJang氏とSony AI COOのMichael Spranger氏による対談が行われ、どのような分野でAI技術を活用してきたか、また今後どのように発展していくかについて意見を交わした。Spranger氏は、「エンターテインメント」に力を入れており、クリエイターセントリックでいたいとし、「生成AIが影響を及ぼすことができる分野であり、クリエイターが表現できる場所を増やしていきたい」と今後の展望を語った。また、Sonyにはグループシナジーがあるが、ローカル企業とどのように協力していくのかについても期待を寄せていると話していた。
Kindred Ventures=https://kindredventures.com/