検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)

目次

  1. バスをベースにした改良事業からスタート 黒字経営の会社たたむのはもったいないと引き継ぐ
  2. 自社で強度計算できるトラックベースの大規模製造を機に特殊車開発に本格進出 業容拡大へ
  3. 自社開発のレントゲン車を皮切りに多様な特殊車製造 ボディメーカーとして独自路線 EV増加でリチウム電池活用のニーズにも技術力発揮
  4. 2023年には特殊車20台を製作 外注せず一貫工程できめ細かく要望を反映 頼れるマイスター集団と評価 産学共同で自動運転の実証実験も
  5. 県のDX支援事業に参加 若手人材のスキルアップでICT化への取り組み本格化 独自のビジネスモデル知ってもらい採用活動も積極化
  6. 経営理念をカード化して浸透図る SDGs、BCPなど企業の社会的責任にも前向きに取り組み「選ばれる企業」に挑戦
中小企業応援サイト 編集部
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バスやトラックを顧客のニーズに応じて特殊車両に改造する株式会社ケイエムオーは、企画から設計、製造までの一貫工程システムを持つ県内でも数少ない技術者集団だ。多様なニーズに応じて唯一無二の1台を作り上げる強みは、ICT化による効率化やコスト削減とは水と油のような関係でもある。EV化や自動運転などの技術革新が特殊車両にも求められる中、就任7年目の神尾将光代表取締役社長は「難しくてもやれることから」と、ICT活用による業務改革の可能性を模索する。(TOP写真:トラックをベースに独自に骨組みを構成してきめ細かな要望に対応する)

バスをベースにした改良事業からスタート 黒字経営の会社たたむのはもったいないと引き継ぐ

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
「もったいないと思って事業を引き継いだが、モノづくりが性に合っていたようだ」と話す神尾将光代表取締役社長

ケイエムオーの前身は、神尾社長の父、秀男氏(現会長)が1971年に設立した有限会社神尾製作所だ。富士重工業株式会社(現・株式会社SUBARU)と業務契約を結び、バスの修理や二次架装を請け負っていた。1986年にケイエムオーに社名変更し、2007年には株式会社化に変更。バスベースの多様な特殊車両の製造事業を本格的に展開し、地元バス会社やカーディーラーの認定工場となって業容を拡大した。

美術大学を卒業しアパレル系企業に勤めていた神尾社長は、「家業を継ぐつもりはなかったが、結婚後にスローライフに憧れて田舎に戻った」ことがきっかけで、会社の事業に興味を持った。「父親は会社をたたもうと考えていたようだが、よく見てみると黒字経営だし面白そうな仕事だからもったいない」と思うようになり、自分が引き継ごうと決心した。2005年に入社し、「現場で先輩たちからビシバシ鍛えられたが、モノづくりが性に合っていたようで非常に面白かった」。

自社で強度計算できるトラックベースの大規模製造を機に特殊車開発に本格進出 業容拡大へ

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
幹線に面した本社工場には大型バスやトラックが並ぶ

当時はレントゲン車や霊柩(れいきゅう)車、車いす車両、移動販売車、広報宣伝車など要望されれば何でも作った。当初は多様な車体のバスを利用して特殊車を製造していたが、バスメーカーの製品バリエーションが減少したことで、改造による強度計算がしにくくなった。

神尾社長は「この頃にはバスがフレーム構造のボディからモノコックボディに変わったこともあり、設計図が入手できなくなったので大きな改造はいよいよ不可能になった。2010年を機にバスベースからトラックベースに転換した」と振り返る。事業環境の変化をバネに新規事業に打って出たわけだ。

自社開発のレントゲン車を皮切りに多様な特殊車製造 ボディメーカーとして独自路線 EV増加でリチウム電池活用のニーズにも技術力発揮

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
車両内部 医療分野の特殊車製造が得意分野で4割前後と最も多い

2010年には、トラックのシャーシをベースにフレーム構造を自社で設計したレントゲン車を製造。これを機にボディメーカーとしてオリジナルの特殊車両開発を積極化し、独自技術を磨いてきた。その後も骨密度測定車、リフト付き胸部レントゲン車など医療防疫関連車両を相次ぎ製造。いまも同社の得意分野となっている。

2015年には、リチウムイオン電池を電源とする低床レントゲン車を日本で初めて製造。車いすに乗ったままレントゲン検診を受けることが可能になった。「EVの増加によって、車載システムもリチウム電池などバッテリー駆動のニーズが増えている」という。例えば、メガネ会社の移動販売車は、車内照明はもとより会計システムなどほぼすべての電源をバッテリーで動かしたいという要望を受けて製造した。

2023年には特殊車20台を製作 外注せず一貫工程できめ細かく要望を反映 頼れるマイスター集団と評価 産学共同で自動運転の実証実験も

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
業務管理システムに加え、工程管理や現場の生産性向上が課題だ

リチウム電池の安全性には細心の注意を払っている。「リチウム電池の発火事故は突き詰めると充電システムの制御機能の不具合が多い。車載部品もすべて自社の責任で搭載して顧客に納品している」のも、企画から設計、製造、検査まで自社で行う一貫工程システムが同社の強みであり、どんな不具合にも製造責任を負うからである。

だからこそ「1台1台きめ細かく要望を聞いて製作するし、外注はしないので問題があればすべて自社で解決する」という頼れるマイスター集団として高く評価されており、全国から注文が来る。2018年に群馬大学と産学共同で取り組んだ自動運転バスの実証実験は公道で試験運転中だ。

2023年には20台の特殊車を製作した。受注台数は改造度合いや受注状況で上下するが、2005年からの累計は800台に上る。

県のDX支援事業に参加 若手人材のスキルアップでICT化への取り組み本格化 独自のビジネスモデル知ってもらい採用活動も積極化

会計システムや勤怠管理システム、複合機活用によるペーパーレス化の取り組みは進めてきたが、製造現場のICT化はほぼ手つかずだった。

同社の技術者は複数の専門資格を保有するマルチプレーヤーが多く、工場内で数台の製作を横断的にこなすベテラン技術者のスキルが生産効率を大きく左右する。先進技術のキャッチアップや技術継承のためにも製造工程・管理業務へのICT導入が不可欠だが、多能工主体で多品種少量生産の現場をどう改革していくか、現場技術者とともに試行錯誤を始めた。

同社は「1台製作するのに厚さ約2センチの工程表ができる」ほどの個別対応が基本。資料のデジタル化と検索可能なデータ化によって、過去データを速やかに探し出す作業や素早い再利用等々、生産性向上の道筋は多くありそうだ。

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
若手技術者への技能継承も課題だ

神尾社長は県が推進する「DX人材リスキリング推進事業」に応募、従業員のICTスキルアップに期待する。同事業はDX推進を担う人材の育成やデジタル技術の習得を図る研修講座の受講を通じてデジタル分野のリスキリング(学び直し)を促進するもので、県内産業のDX化による競争力底上げを目指す支援策だ。

「多品種少量の製造現場でどのようなICTソリューションが効果的なのか」。次代を担う世代に期待している。

また上記のDXを通じた若手育成を進めたい考えで、採用活動にも力が入る。最近はメディアへの露出を意識しており、「新聞や県の情報発信機能も活用して、当社の独自性や健全な経営状態やDXに対する取り組みを知ってもらいたい」と意欲的だ。

経営理念をカード化して浸透図る SDGs、BCPなど企業の社会的責任にも前向きに取り組み「選ばれる企業」に挑戦

検診車や移動販売車などの特殊車両を顧客ニーズに応じて1台ずつ製造 ICT化が難しい製造工程や業務管理の効率化に動き出した ケイエムオー(群馬県)
経営理念カード 専務時代に経営理念や行動指針をまとめ、カードにして従業員への浸透を図った

専務時代にはそれまで明確でなかった「経営理念」を策定し、カードにして従業員に持たせた。さらに、SDGs・CO2排出削減・BCP(事業継続計画)・災害支援を「ケイエムオー4つの取り組み」に掲げ、具体的な行動計画に取り組む。独自のビジネスモデルと社会問題解決への姿勢をアピールして「選ばれる企業」への挑戦が始まった。

企業概要

会社名株式会社ケイエムオー
住所群馬県伊勢崎市五目牛町324-5
HPhttps://www.kmo-body.co.jp/
電話0270-63-0332
設立1986年
従業員数20人
事業内容 医療防疫車など特殊車両の企画・構造変更・設計・製作、バス・特殊車両リニューアルほか