目次
- さまざま種類の野菜をカットしてキットを作り、麺やタレなども付けて出荷している
- 野菜をカットするだけでなくメニューを考案して取引先に提案し、必要な食材をキットにして提供する
- ホームページを見やすくして食の安心安全や環境保護への取り組みなどを小まめに発信し、会社の姿勢をアピール
- 新卒採用が順調なのは、メニューの考案や開発を通して食卓を豊かにする姿勢や見栄え等で出荷できない食材を子ども食堂に提供することなどが評価された
- クラウドファンディングで子どもが野菜を食べやすくなる野菜ペンを企画し提供、ネット通販でも販売し始めた
- 子ども食堂に食材を提供してフードロスの削減を進め、野菜くずの堆肥化にも取り組んで循環型社会の構築を目指す
- タイムカードをタッチ式に切り替え勤務時間の集計作業を軽減 空いた時間に他の作業を行えるようにした
- 群馬県のテレワークによる障害者雇用促進事業にエントリーし2023年度の群馬県知事表彰も受賞した
群馬県伊勢崎市を流れる利根川沿いに本社と工場を置く株式会社クリハラは、キャベツやキュウリといった生野菜をカットして量販店やスーパーなどに卸販売している会社だ。カット野菜というと野菜売り場に並ぶ鍋物用のセットやサラダセットのような商品が浮かぶが、同社のカット野菜はそのままでは店頭には並ばない。仕入れたスーパーなどがそれを調理して天ぷらや野菜炒め、焼きそばなどを作って惣菜売り場に出している。(TOP写真:ホームページのトップには春夏秋冬のおすすめメニューや、食育商品、SDGsの取組みなどが紹介されている)
さまざま種類の野菜をカットしてキットを作り、麺やタレなども付けて出荷している
「焼きそばやパスタのようなメニューでは、麺や肉も合わせてキットにして販売しています」と話すのは、同社の岩渕一哉常務取締役。「要望があれば、タレなどの調味料も調達して、野菜といっしょに出荷しています」(岩渕常務)。受け取ったスーパーでは、他から麺や肉を集めてこなくても、仕入れたキットを開いて調理するだけで惣菜にできる。
同社の創業は1993年。農業をしていた創業者が、まるごと売っている野菜をカットして売りたいというスーパーなどの要望を受けて、カット野菜として出荷するようになったのが始まりとなる。「そのうち、焼きそばを作りたいからカット野菜に麺も付けて欲しい、タレもセットにして欲しいといった注文が来るようになり、全部くっつけてスーパーに卸しましょうということになりました」(岩渕常務)。今では事業の中心が、スーパー向けの野菜キットの販売となっている。商圏も群馬県に限らず長野県や新潟県といった近隣の地域に広がっている。
野菜をカットするだけでなくメニューを考案して取引先に提案し、必要な食材をキットにして提供する
ユニークなのは、カット野菜を中心にしてどのような惣菜や弁当を作ることができるのかを、同社で情報として発信していることだ。ホームページを見ると、「春」「夏」「秋」「冬」といった季節名の下に、夏なら「初夏のかき揚げ」「新じゃがメニュー」「夏野菜メニュー」といった項目が置かれ、それぞれに「空豆と人参のかき揚げ」「濃厚チーズのシュメルクリ」「豚肉とピーマンの黒胡椒炒め」とったメニューが並べられている。スーパーの側でメニューを考えて食材を発注しなくても、同社から希望するメニューのキットを購入すれば、あとは調理するだけで惣菜にできるのだ。
スーパーに並んでいる弁当や惣菜の材料が、同社から出荷されたものだったということもあるかもしれない。ただ、あくまで食材として卸しているため、「当社の名前が表示されることはありません」。食卓を支える縁の下の力持ちといった感じだが、それだけに企業として広く認知されづらかった。そこで2020年に企業向けのホームページ作成ソフトを使ってホームページを刷新し、画像や情報量を増やして事業内容を分かりやすく伝えるようにした。
ホームページを見やすくして食の安心安全や環境保護への取り組みなどを小まめに発信し、会社の姿勢をアピール
狙いのひとつは、会社の存在や事業内容を知ってもらうことによって新しい人材を確保しやすくすることだ。食に必要な安心安全に対する企業姿勢も掲載。「ホームページで細かく会社の内容を発信していくことで、他の会社とは少し違ったことをやっている会社だと知ってもらい、興味を持ってもらえます」(岩渕常務)。接点が生まれれば、伊勢崎市や太田市、深谷市のどこからでも通える場所にあることも知ってもらえる。ここしばらく新卒を毎年確保できているが、採用者にはホームページを見て、どのような事業を行っているかを知った人が多いという。刷新の効果は抜群だ。
新卒採用が順調なのは、メニューの考案や開発を通して食卓を豊かにする姿勢や見栄え等で出荷できない食材を子ども食堂に提供することなどが評価された
ホームページを刷新したとはいえ、事業自体に魅力がなければ入社したいとまでは考えない。カット野菜のキット販売という事業には、メニューの考案や開発を通して人々の食卓を豊かにするといった使命を達成する喜びがある。加えて同社では、フードロスという社会的な問題に取り組んで、解決のための様々なアイデアを実行している。たとえば子ども食堂への食材提供。商品としては見栄え等の一定の基準があって出荷できなくなった野菜でも、品質的には問題がない。これを伊勢崎市にある子ども食堂に寄付し、フードロスの削減に協力してもらっている。
クラウドファンディングで子どもが野菜を食べやすくなる野菜ペンを企画し提供、ネット通販でも販売し始めた
また、野菜をペースト状にしてチューブに入れ、絵の具のようなパッケージにして提供する「Joy Vege!」という商品の開発に取り組み、2022年にクラウドファンディングのサイトで支援を募った。野菜を食べるのが苦手な子どもでも、色とりどりの絵の具のような野菜のペーストでパンに絵を描いたものなら食べてくれるかもしれない。そういった可能性を見て37人のサポーターが集まり、クラウドファンディングは目標額を達成した。現在「Joy Vege!」は商品化されて、大手通販サイトの楽天市場で販売されている。
こうしたユニークな活動も含めた同社の事業を、ホームページを通して見栄えよく発信できる人材も雇用した。「世の中が変わっていく中で、情報の発信の仕方も変わってきています。20年前のままで止まっているような自分のセンスでは難しいと思ったので、ホームページの効果的な発信がわかっている人に手がけてもらおうと思いました」(岩渕常務)。広報や宣伝のような仕事に興味があり、ホームページのデザインや更新をメインで手がけてくれる人を募ったところ、応募してくれた人がいたので任せることにした。
子ども食堂に食材を提供してフードロスの削減を進め、野菜くずの堆肥化にも取り組んで循環型社会の構築を目指す
子ども食堂への食材提供や、野菜くずを利用した堆肥(たいひ)作りといった、循環型社会の実現につながる活動は、世界的に大きなうねりとなっているSDGsの推進につながるものと言える。そうした活動に取り組んでいることを、ホームページ上にただ文字として羅列するだけでなく、画像を使いデザインも施して伝えることで、先端を行く企業なのだとわかってもらえる。ホームページは作ったものの、最小限の情報発信に留まっている企業も少なくない中で、同社は攻めの情報発信によって効果を上げた。
ただ、「採用した人も、ホームページの更新や広報だけをしているわけではありません。普段は経理の仕事もしてもらっています」(岩渕常務)。これは人員に限りがある中小企業だからという理由もあるが、一人の従業員が様々なスキルを持つことで、柔軟性があり機動力も併せ持った組織に変えていこうといった意図がある。
タイムカードをタッチ式に切り替え勤務時間の集計作業を軽減 空いた時間に他の作業を行えるようにした
2019年に同社では、タイムカードを押していた出退勤の記録をタッチ式に切り替えた。毎月Excelに出勤時間や退勤時間を打ち込んで計算していた頃と比べると、時間も大幅に短縮でき、これによって従業員一人ひとりの勤務時間を即座に把握できるようになり、空いた時間を他の業務に回せるようになった。
一人の従業員が携わる業務の幅が広がれば、それだけスキルアップにもつながり、会社全体の力も上がっていく。「事業の継続性や継承を考えた時、会社の仕事を多くの従業員が知ってくれていた方が引き継ぎやすくなります」(岩渕常務)
勤怠管理システムの導入は、従業員の働き方改革にもつながる。野菜という鮮度が不可欠な食材を扱い、スーパーなどが顧客となっている関係から、1ヶ月先の受注を予想して仕入れておいたり、加工しておいたりといったことができないため、毎日が臨機応変な戦いとなる。残業が増える従業員もいるが、以前と違ってリアルタイムでどれだけ働いたかをチェックできるため、適度なところでセーブするような対策を打てる。
働き方については、テレワークの推進についても検討を重ねている。「家庭の事情で群馬から千葉に引っ越すことになった従業員がいたので、現地で仕事を探すよりはリモートで当社の仕事を続けてみてはとお願いしました」(岩渕常務)。VPN(仮想プライベートネットワーク)が構築されていれば、出先からでも会社のデータにアクセスして仕事をすることが可能なことがわかり、今では客先から会社の在庫データにアクセスしたり、web会議を行ったりするケースも増えてきた。
群馬県のテレワークによる障害者雇用促進事業にエントリーし2023年度の群馬県知事表彰も受賞した
現在取り組んでいるのが、VR(仮想現実)空間で会社の仕事を知ってもらえるようにする仕組みの構築だ。同社では以前から障がい者雇用にしっかりと取り組んでいたが、2022年に群馬県がテレワークを通した障がい者の雇用促進を打ち出した際にエントリーして、一人を雇用。パソコンを使った在庫管理の仕事を担当してもらった。こうした活動を評価され、2023年度の群馬県障害者雇用優良企業として知事表彰も受けた。雇用した障がい者の人には現在、新しいスキルを培ってもらおうと、バーチャルで工場見学ができるサイト作りに挑戦してもらっている。
AI(人工知能)への興味もあるとのこと。「何ができるのかはまだ見えていませんが、やってみなければ分かりません」(岩渕常務)。人材を巧みに活用し、新しい事業に取り組んでいく風土を持った会社だけに、最先端の技術も使いこなすところをみせてくれるだろう。
企業概要
会社名 | 株式会社クリハラ |
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住所 | 群馬県伊勢崎市境島村3022番地 |
HP | https://kurihara1993.com/ |
電話 | 0270-74-9231 |
設立 | 1993年12月28日 |
従業員数 | 約120人 |
事業内容 | 業務用カット野菜、青果、惣菜キット、真空調理キットの製造・卸販売 |