「IT人材」がいなくてもデジタル化を進めるコツとは?

目次

  1. IT人材は不足している
  2. 狭義のIT人材と広義のIT人材
  3. 中小企業に必要なのは、身の丈ITを活用する広義のIT人材
  4. 社内のデジタル化ステップ1:基本的なITリテラシーを身につける
  5. ステップ2:デジタル化の対象や目的を決める
  6. ステップ3:デジタル化のために導入するツールやサービスを決める
  7. ステップ4:ITシステムを導入、またはアウトソーシングする
  8. ITシステム導入やアウトソーシングする際の注意点
  9. IT人材がいなくても、デジタル化をあきらめる必要はない!

「IT化やDXで、業務効率化や新しい取り組みにチャレンジをしたいが、担当できる人材がいない」。これは、多くの中小企業に共通する悩みでしょう。しかし、人材不足を理由にして、IT化やDXを進めなければ、今後の企業の生き残りは困難になっていくかもしれません。
そこで、IT人材の不在で悩む中小企業が、それでもIT化、DXを進めるための方法について解説します。カギとなるのは既存人材の活用とアウトソーシングです。

IT人材は不足している

採用難や様々な物価の上昇などで経営環境が厳しくなる中、収益性を向上させ、市場での競争に勝ち残っていくためには、IT化、デジタル化による業務の効率化や、DXの推進が欠かせません。
しかし、そこでネックになるのが、IT人材不足です。
例えば、東京商工会議所が2023年7月に公表した「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査集計結果」によれば、デジタル人材について「十分に確保できている」「ある程度確保できている」と回答した中小企業は37.9%で、全体の6割以上が、デジタル人材の不足を感じていることが示されています。

※参照資料上の「デジタル人材」とは、「IT人材」と同義です。

中小企業のデジタル人材の確保状況

「IT人材」がいなくてもデジタル化を進めるコツとは?
出典:「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査集計結果」(東京商工会議所 中小企業のデジタルシフト・DX推進委員会)

狭義のIT人材と広義のIT人材

他方、IT人材不足の傾向が今後も拡大していくことを示す根拠としてしばしば参照されるのが、みずほ情報総研の「IT人材需給に関する調査」(2019年、経済産業省委託事業)です。この調査では、2030年に「41万人(低位シナリオ)~79万人(高位シナリオ)」のIT人材不足が生じるとされています。
しかし、同調査による「IT人材」の定義は、「平成27年国勢調査においてITに関する職業である「システムコンサルタント・設計者」、「ソフトウェア作成者」、「その他の情報処理・通信技術者」」となっています。
ざっくりいえば、「ソフトウェア開発者や情報システム部門で働くIT専門家」のイメージだといえるでしょう。しかし、実際の企業の中でのIT人材は、そういった人に限られるわけではありません。パソコンのソフトウェアやクラウドサービスなどを活用して、業務を効率的に遂行したり、新しい価値を創造したりする人も含まれます。 前者を「狭義のIT人材」、後者を「広義のIT人材」と呼ぶとすれば、中小企業で主に求められているのは「広義のIT人材」のほうではないでしょうか。

中小企業に必要なのは、身の丈ITを活用する広義のIT人材

なぜなら、高度な知識を持つ「狭義のIT人材」でなければ使いこなせない大規模で高機能・複雑なITシステムの導入や、自社でのシステム開発は、ほとんどの中小企業には必要ないためです。
中小企業が導入すべきなのは、自社のリソースや業務実態から見て必要最低限の機能を持ち、導入のハードルやコストが低いITシステムです。経済産業省や中小企業庁などは、こういったシステムを「身の丈ITツール」と呼び、その導入支援を図っています。
「身の丈ITツール」なら、高度な専門知識を持つIT人材を採用しなくても、経営者自身や社員が多少の学習(リスキリング)をすることでも、対応可能となる場合もあるでしょう。
実際、先の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査集計結果」でも、「デジタル人材確保の方法」として、トップに挙げられているのは「既存人材の育成」です。

デジタル人材の確保方法

「IT人材」がいなくてもデジタル化を進めるコツとは?
出典:「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査集計結果」(東京商工会議所 中小企業のデジタルシフト・DX推進委員会)

ただし、既存人材を広義のIT人材とする場合、システムの選定、設計、導入、アップデート、カスタマイズなどの部分まで担わせることは無理がある場合が多いでしょう。
そういった高度な専門知識が必要な部分については、外部のITベンダーなどの力を借りればよいのです。
つまり、ITシステム導入・カスタイマズ(場合によっては開発)などの高度な部分は外部ベンダーが担い、それを用いて業務を改善したり、社内全体に普及させたりする役割を担うのが社内の広義のIT人材という役割分担です。もちろん、その全体を俯瞰して、方向性を定めることは経営者の役割です。

社内のデジタル化ステップ1:基本的なITリテラシーを身につける

基礎的なITリテラシーとは

まず、経営者と社員、特に経営者が基本的な「ITリテラシー」を身につけることが大切です。ITリテラシーとは、ITを導入、利用するために必要な知識のことですが、デジタル化の方針を決める最初の段階では、以下のような基礎部分の理解が重要です。

・そもそも、デジタル化とはなにか、なにができるのか
・なぜデジタル化が必要なのか
・デジタル化推進のためのITシステム・ITツールにはどのようなものがあるのか
・自社の業務で、デジタル化により改善・効率化される部分はどこか

経営者の理解が重要

これらの基礎知識はデジタル化の全体方針決定に必要であり、経営意思決定をする経営者自身が身につけていることが大切です。社員任せにはできません。

ITリテラシーを学ぶには、書籍、雑誌、Webサイトなどのほか、中小機構や商工会議所などの公的機関、あるいはITベンダーの主催するセミナーなどに参加することも有益です。業界団体などが主催するセミナーなど、すでにデジタル化を実現している同業他社の成功事例を聞ける機会があれば、ぜひ利用しましょう。
その際、ITの中でも、AIなどは特に進歩の速度が速い分野なので、最新情報を得ることもポイントです。

ステップ2:デジタル化の対象や目的を決める

対象領域、業務などを洗い出す

ステップ1で得た知識を踏まえた上で、自社の業務におけるデジタル化によって解決すべき問題、達成すべき課題、また、新たに挑戦したい領域などを洗い出します。
多くのことを一度にデジタル化するのは難しいでしょうから、まずは特定の部門や業務に限定して考えるとよいでしょう。
代表的なのは、会計、経理や勤怠管理、給与計算などのバックオフィス業務のデジタル化です。それ以外にも、例えば、営業活動の効率を上げる、調達や仕入れの無駄をなくす、ネット上に新規の販売チャネルを設けるなど、様々な業務領域でのデジタル化の可能性があります。

目的や達成目標を決める

ITの導入やデジタル化は、それ自体が目的ではありません。デジタル化によって、何を達成したいのかという目標、目的を定めておくことが適切なデジタル化に結びつきます。主な目的となるのは以下のような内容です。

・業務の効率化:デジタル化により業務時間が短くなったり、業務プロセスの一部が省略できたりすることなど

・業務品質の向上:製品品質の向上、顧客対応の迅速化や、サービス提供時間の延長、など

・コスト削減:業務効率化の結果としての人件費削減のほか、物理的な機械、道具、店舗、保管スペースなどをデジタルに置き換えることによるコスト削減など。

・収益機会や提供価値の拡大:業務プロセス全体を変革したり、新しい業務領域を開発したりすることで、新たな収益機会の獲得や提供価値などを実現することです。これは、狭義のDX(デジタルトランスフォーメーション)にあたります。

なお、最初の段階の目標設定はあいまいなものでもよいのですが、実際に導入ツール等を選定する段階になったら、できるだけ定量的な目標を定めることが大切です。例えば、年間残業時間を○時間減らす、顧客の問い合わせ件数を○件増やす、などです。

ステップ3:デジタル化のために導入するツールやサービスを決める

スモールスタートしてみる

まず社内だけで取り組めそうなデジタル化があれば、最初のステップとして取り組みをはじめてみるとよいでしょう。
例えば、紙のノートに記載していた顧客名簿や業務日報などを、パソコンで記録する、請求書や見積書の発行、名刺管理などを専用のクラウドサービスを利用しておこなうなど、個別のアプリケーションレベルでのスタートが考えられます。
このようなスモールスタートにより、部分的なデジタル化導入をしてみることで、「これもできればもっと楽なる」「こんなことができないだろうか」といった、要望が出てくればしめたものです。それが、次の本格的な導入につながります。

本格的に導入する業務領域、導入するツールを検討する

ここから先は、各社の事業内容や業務内容によって異なりますが、具体的にどんなシステムを導入したいのかを検討します。
ITツールには、大きく分けると、オンプレミス(社内にサーバなどの機械を設置する方法)とクラウドサービス(インターネットを通じて利用する外部サービス)とにわかれます。
またクラウドサービスにもインフラ型のサービスや、アプリケーション型のサービスなど、様々な種類があります。
これらの選定について、高度な判断ができる情報システム部門や狭義のIT人材がいない中小企業の場合は、選定段階から、ITベンダーのサポートを受けながら進めることが現実的です。

業務丸ごとのアウトソーシングも検討する

社内でのIT人材育成が追いついていない場合、ITシステムを導入して、社内でデジタル化を進めるのではなく、業務を丸ごとアウトソーシングに出すという考え方もあります。一部のバックオフィス業務や非コア業務であれば、可能になります。例えば、サーバなどのインフラの運用、Webサイトの運用について、丸ごとアウトソーシングに出すといったことです。

ステップ4:ITシステムを導入、またはアウトソーシングする

ベンダーを調べる

通常、同じ目的を実現するためのツールやサービスは、複数のITベンダーが提供しています。ITベンダーには、上場している大企業から、10数名規模のスタートアップまで、様々な企業があるので、それらのベンダーの情報を集めます。ベンダー情報を調べるには、ネット検索も有効ですが、展示会などがあれば参加するのもよい方法です。その場でも、様々な情報収集ができます。

ベンダーを選ぶ

ITシステムを業務利用する際には、通常、自社の業務に応じた設定やカスタマイズが必要です。狭義のIT人材がいない中小企業では特に、ベンダーに問い合わせたり、確認したりすることも多くなります。
ベンダーを選ぶ際には、製品の機能や価格だけではなく、技術力やサポート体制をしっかりと確認することが必要です。

見積もり依頼とトライアル

ベンダーを複数社に候補を絞ったら見積もりを取って比較しましょう。その上で、良さそうなベンダーがあれば、ITシステムのトライアル導入をします。通常、どのベンダーでもトライアル導入が可能なところが殆どです。トライアル導入を経て、期待通りの効果が得られそうだと判断したら、契約を結びます。

ITシステム導入やアウトソーシングする際の注意点

最後に、外部ベンダーの手を借りながら、デジタル化を進める際の注意点を確認します。

サービス内容などを明確に確認し、契約書に反映されているか確認すること

ITツールなどは導入すれば終わりというものではなく、長く運用していくものです。具体的なサービス内容や業務範囲が明確になっていないと、期待外れに終わってしまうことがあります。契約前に、「サービスレベル合意(SLA)」がしっかり定義されているかなど、契約書の内容を精査しましょう。

契約終了後のデータ移行

SaaSなどのクラウドサービスやアウトソーシングの場合、契約期間終了後のデータ移行ができなくなる場合がある点に注意が必要です。そのため、不満が生じても同じベンダーを使い続けなければならない、「ベンダーロック」と呼ばれる状態になってしまうこともあります。
導入の段階で、データ等の移行可能性については確認しておきましょう。

社内でのノウハウ蓄積

外部ベンダーにデジタル化の作業を完全に丸投げしてしまうと、社内にノウハウが残らないという問題もあります。社内でのIT人材育成を強化し、将来の自走化を図るためには、ノウハウ提供などの協力をしてくれるベンダーを選ぶこともポイントになります。

セキュリティリスク

特にアウトソーシングの場合、自社の責任によらない情報漏洩のリスクが増大します。ベンダーにどんな情報を任せるのか、ベンダーの情報セキュリティ対策がどうなっているのかなどは、入念に検討・確認する必要があります。

IT人材がいなくても、デジタル化をあきらめる必要はない!

IT人材がいないという問題は多くの中小企業が抱えています。他方、多くの中小企業では広義のIT人材を社内で育成することにより確保しています。また、それで足りない部分は、外部ベンダーの活用やアウトソーシングで補うことも可能です。ただし、いずれにしても、経営者自らが基礎的なITリテラシーを身につけ、デジタル化の目的や方針を示すことが必要です。

「IT人材」がいなくてもデジタル化を進めるコツとは?
記事執筆
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