事業承継
(画像=PIXTA)

中小企業にとって事業承継は、会社の若返りを図れる経営戦略のひとつ。しかし、事業承継には数多くのリスクが潜んでいるため、安易に実施することは危険だ。事業承継を検討している経営者は、本記事でまとめたNG行動や失敗事例などに目を通しておこう。

目次

  1. 会社を継ぐはずが…事業承継の意外な落とし穴
  2. 同族経営の事業承継はなぜ失敗する?倒産につながる3つの要因
    1. 1.経営者が事業承継を「自身のイベント」として認識している
    2. 2.会社を育て上げてきた自信から、経営者が周りを信用しない
    3. 3.経営者が「生涯現役」を貫こうとする
  3. こんな行動はNG!事業承継を失敗に導いてしまう4つのアクション
    1. 1.お金に関することを隠す
    2. 2.失敗やミスを恐れすぎる
    3. 3.承継後にも先代経営者が積極的に関わる
    4. 4.誰にも相談せずに事業承継を進める
  4. 実際にはどんな失敗が多い?事業承継の失敗例と対応策
    1. 1.派閥争いによる親族トラブル
    2. 2.準備不足の影響で、負のスパイラルに陥る
  5. 2代目・3代目が先代よりもうまく経営するためのポイント
    1. 1.従業員に対して、「同じ目標に向かっていること」をアピールする
    2. 2.必要があれば経営理念を変えて、ブレない軸を作る
    3. 3.他社でスキルを身につけておく
  6. リスク対策に行き詰まったら、すぐさま専門家への相談を
  7. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

会社を継ぐはずが…事業承継の意外な落とし穴

経営者の高齢化が進む中小企業にとって、事業承継は会社の生き残りをかけた手段だ。しかし、事業承継を進めたからといって、必ずしも幸せな結果が待っているわけではない。

中には、先代経営者や後継者が意外な落とし穴にはまり、想定外のダメージを受けてしまう会社も存在する。たとえば以下のようなトラブルは、事業承継の計画を立てる段階ではやや気づきにくい落とし穴だろう。

〇事業承継に潜む意外な落とし穴の一例
・兄弟や子ども同士など、法定相続人の相続トラブル
・承継後の「資金繰り」に追われ、業績が一気に悪化する
・退職者が増加し、会社が回らなくなる

上記のほか、事業承継が思うように進まなかった影響で、「廃業」を余儀なくされるケースもよく見られるトラブルだ。清算・解散によって廃業をするとなれば、これまで時間をかけて育て上げてきた会社・事業のすべてを失ってしまう。

そのような状況を防ぐには、事業承継に潜んでいるリスクを徹底的に理解し、各リスクへの対策を考えておくことが必要だ。事業承継を失敗に導く要因・行動は非常に多いため、これから事業承継を予定している経営者は、本記事を読み進めながら慎重に計画を立てていこう。

同族経営の事業承継はなぜ失敗する?倒産につながる3つの要因

まずは、中小企業に多く見られる「同族経営の会社」について見ていこう。同族経営の会社では、経営者の身内が会社を継ぐケースが主流であるため、外から見るとスムーズに事業承継が進むように見えるかもしれない。

しかし、実際には以下で挙げる3つの要因によって、廃業や倒産をしてしまう同族企業が多く存在している。

1.経営者が事業承継を「自身のイベント」として認識している

中小企業にとって事業承継は、会社の生き残りをかけた「必要なプロセス」のひとつだ。しかし、すでに後継者が見つかっている経営者の場合、その安心感から事業承継を「自身のイベント」として認識しているケースが見受けられる。

事業承継に対して経営者がこのような考えを持っていると、焦りを全く感じていない影響で以下のような弊害が生じてしまう。

〇経営者が焦りを感じていない場合に発生する、事業承継の弊害
・身内や会社の人間に、事業承継の計画が伝わりにくくなる(経営者自身が秘密にする)
・身内を会社に入れただけで、後継者ができたと錯覚してしまう
・事業承継に関して、自社の抱えている問題点が見えづらくなる など

つまり、経営者の事業承継に対する真剣度が低いと、準備不足の状態でいきなり事業承継の必要性に迫られてしまうのだ。後継者が必要なスキルを備えておらず、かつ従業員が状況を理解していないまま事業承継を進めたところで、その後の会社経営がスムーズにいくはずがない。

2.会社を育て上げてきた自信から、経営者が周りを信用しない

「子どもには任せられない」「大事な取引先は自分が引き続き関わる」のように、経営者が周りの人間を信用しない行動も事業承継の失敗につながってしまう。たとえば、取締役に経営者自身とその配偶者のみを配置し、他者が経営に携われないような環境下では、会社を引き継げる後継者がスムーズに育たないだろう。

特に1代で会社を育て上げた経営者は、会社への強い愛着が障害となる恐れがあるため注意が必要だ。経営者が周りを信用しないと、会社の属人性が強くなって世代交代が進まないどころか、新しい戦略プランやマネジメント方法をとりいれることも難しくなる。

3.経営者が「生涯現役」を貫こうとする

経営者の中には、ときおり「生涯現役」をポリシーにしている人が存在する。生涯現役を宣言すると、周りに対して「意志が強い」「心も身体も健康」といったイメージを与えられるため、場合によっては賞賛されることもあるだろう。

しかし、スムーズに事業承継することを考えれば、生涯現役というポリシーは大きな障害となり得る。事業承継の準備が全く整っていない状態で経営者が倒れると、従業員や取引先に多大な迷惑をかけてしまうためだ。

では、仮に経営者が急に倒れた場合、その後の経営にはどのような影響を及ぼすだろうか。

〇経営者が急に倒れた場合に、会社に生じる主な弊害
・今後の経営に不安を感じた従業員が、一気に離職する
・一時的に取引が途絶えた影響で、取引先との契約を失う
・「だれを後継者にするか?」が争点となり、身内同士が争う など

上記を見てわかる通り、事業承継の準備をせずに経営者が倒れた場合、会社にはさまざまなリスクが一斉に襲いかかる。経営者が変われば世代交代は進むが、スキル的に未熟な人物がいきなり後継者になると、会社の経営は一気に傾いてしまうだろう。

こんな行動はNG!事業承継を失敗に導いてしまう4つのアクション

事業承継で失敗を招いてしまう会社は、上記の同族企業だけではない。能力やスキルを重視して経営陣を組織している企業であっても、行動の仕方を間違えれば事業承継に失敗するリスクを一気に高めてしまう。

そこで以下では、事業承継を失敗に導く4つのアクションをまとめた。これから事業承継に取り組む経営者は、以下で紹介するアクションを避けながら計画を立てていこう。

1.お金に関することを隠す

「後継者に苦労をかけたくない」「自分の失態を知られたくない…」などの理由から、お金に関することを周りに隠す経営者は珍しくない。しかし、冷静に考えてみれば、隠し事が問題の解決につながらないことはわかるはずだ。

現経営者が事業承継までに1人で解決しようとしても、資金面の問題はそう簡単に解決するものではない。仮に事業承継が終わったタイミングで資金難が判明すると、後継者にはかえって大きな負担がかかってしまうだろう。

したがって、金融機関への返済状況やキャッシュフローなど、会社のお金に関することは早めにかつ正確に伝えることが重要だ。早いタイミングで相談できれば、その分今後とれる選択肢を増やせるうえに、後継者にも承継することへの覚悟が生まれる。

資金に関する問題は、対応が少しでも遅れると取り返しがつかなくなってしまう。その点をしっかりと理解し、後継者も含めて早めに対策を練るようにしよう。

2.失敗やミスを恐れすぎる

経営以外にも当てはまることだが、人間は失敗やミスを繰り返しながら成長していく。将来的に会社を背負う後継者も同じであり、効率的に経営スキルを身につけるには、ある程度の失敗を経験しておくことが必要だ。

しかし、経営者が失敗・ミスを恐れすぎると、後継者に対して重要な仕事を任せられなくなる。そのままの状態でいきなり次期経営者になれば、最低限の経営スキルが備わっていない影響で、いつか深刻なトラブルを引き起こしてしまうだろう。

したがって、特に経営スキルや自信が身についていない後継者には、早い段階で失敗・ミスを経験させておきたい。そして、失敗・ミスが発生した原因を自分で考えさせることが、経営スキルや問題解決能力を伸ばすことにつながっていく。

3.承継後にも先代経営者が積極的に関わる

事業承継が終わったら、基本的に先代経営者は口出しをしてはいけない。ことあるごとに口出しをすると、後継者の成長を阻んでしまううえに、周りの従業員にも不安を与えるためだ。

現場の意思決定権は、基本的には現経営者にある。ここで先代経営者が口出しをすると、周りの従業員に対して「判断力が乏しい経営者」といった悪いイメージを与えかねない。その結果、会社の将来性に不安を感じた従業員が退職…といった事態も十分に考えられるだろう。

また、先代経営者が積極的に現場に関わると、後継者の甘えにもつながってくる。もちろん、ときにはサポートが必要になるときもあるが、基本的には現場に任せる姿勢で事業承継に臨むことが大切なポイントだ。

4.誰にも相談せずに事業承継を進める

事業承継をスムーズに進めるには、身内や後継者、従業員など、多方面からの理解を得る必要がある。仮に誰にも相談をせずに進めると、間違いなく周りの人間は混乱してしまうだろう。

また、会社が深刻な経営課題を抱えている場合や、事業承継の手段としてM&Aを選ぶ場合には、専門家への相談も必要だ。ベストな方法で承継を進めるために、早めに専門家に相談をしたうえで、今後の対策をじっくりと話し合わなければならない。

したがって、事業承継は多方面と相談をしながら進めるべきものといえる。従業員に関しては1人1人に相談をする必要はないが、適切なタイミングで説明する場を設けることが望ましい。

実際にはどんな失敗が多い?事業承継の失敗例と対応策

ここまでは、事業承継の落とし穴や失敗につながるアクションなど、経営者が注意しておきたいポイントを中心に解説してきた。では、中小企業が事業承継を進める場合、実際にはどのような失敗に直面するケースが多いのだろうか。
以下では、中小企業の事業承継でよく見られる2つの失敗例とその対応策をまとめた。

1.派閥争いによる親族トラブル

中小企業の事業承継では、兄弟間などの親族トラブルが起こりがちだ。「誰を後継者にするのか?」という承継前の争いもよく見られるが、事業承継後の「派閥争い」を要因とした以下のようなトラブルにも注意しなくてはならない。

〇派閥争いによる親族トラブルの例
【ケース1】
事業承継が終わったA社では、社長に就任する兄が70%の株式を、専務に就く弟が30%の株式を保有していた。しばらくは問題なく経営を続けていたが、実務の面で弟のほうが活躍をしていたことがきっかけとなり、次第に派閥争いへと発展。
不満のたまった弟は会社の退職を決意し、それと同時に数億円にも及ぶ「保有株式の買取」を要求した。

【ケース2】
事業承継の準備を進めていなかったB社は、後継者である息子に対して十分な数の株式を相続できなかった。発行済株式の30%は息子が保有していたものの、残りの70%はほかの親戚が保有する状態に。
その後、株主の1人である叔父が周りの親戚と団結し、議決権の過半数を獲得した。叔父はそのまま経営者となり、先代経営者から後継者として選ばれた息子は会社から追い出されてしまった。

上記のように、相続・贈与する株式の配分が中途半端になると、思わぬ親族トラブルを引き起こす恐れがある。また、会社の派閥争いに関わってくるのは、兄弟などの近しい人物だけではない点も、先代経営者がしっかりと理解しておきたいポイントだ。

これらのような親族トラブルを避けるには、事前に「後継者にする人物」や「各親族の立場」を明確にしておく必要がある。このときに決めた計画に応じて、相続する株式の適切な配分も考えておきたい。

2.準備不足の影響で、負のスパイラルに陥る

後継者をサポートする人材や、後継者自身のスキルが不足していると、その影響は「業績不振」という形で現れてくる。さらに、業績不振は以下のような負のスパイラルを引き起こすため、先代経営者としては何としても避けなくてはならない。

〇準備不足によって発生する「負のスパイラル」の例
A社は経営者が急逝した影響で、後継者のサポート体制が整わないままに事業承継を実施。次第に後継者のスキル不足が露呈した影響で、事業承継から1年後には業績不振を引き起こしてしまう。
何とか赤字を回復させようとはするものの、会社の営業利益はどんどんと縮小。打つ手がなくなったことで従業員や取引先も少しずつ離れていき、最終的には会社を倒産させてしまった。

企業によって必要になる準備は異なるが、上記のような負のスパイラルを確実に抑えたいのであれば、綿密な「事業承継計画」を立てることは必須だ。どのようなリスクが潜んでいるのかを徹底的に洗い出し、各リスクに対して丁寧に対策を講じなくてはならない。

手間がかかる作業にはなるが、事業承継における準備不足は会社の死活問題になり得るため、時間やコストを惜しまずに計画を立てるようにしよう。

2代目・3代目が先代よりもうまく経営するためのポイント

2代目や3代目の経営者が先代を超えるには、いくつかのポイントを意識して経営にあたる必要がある。特に、2代目以降の経営者が悩まされがちな部分については、事前にしっかりと対策を練っておくことが重要だ。

細かく見れば意識したいポイントは数多く存在するが、以下では中でも重要性の高いポイントを3つ紹介していこう。

1.従業員に対して、「同じ目標に向かっていること」をアピールする

会社で長年働く従業員にとって、「経営者が変わること」は大きな環境の変化だ。特に先代の子どもや孫が後継者になる場合は、経営者の年齢が一気に若返るので、中には戸惑ってしまう従業員もいるだろう。

その影響で2代目以降の経営者は、従業員とのコミュニケーションで悩まされるケースが非常に多い。この問題を放置していると、各々が自分の好き勝手に動いてしまうため、会社の組織力や団結力が次第に失われていく。

そこでぜひ取り組みたい対策が、従業員に「同じ目標に向かっている意識」を持たせることだ。たとえば、後継者が「ともに会社の発展を目指したい」のようにアプローチをかけると、従業員は現経営者と方向性が同じであることに安心してくれる。

もちろん、この方法だけですべての問題が解決するわけではないが、円滑なコミュニケーションを図る第一歩としてぜひ実践してもらいたい。

2.必要があれば経営理念を変えて、ブレない軸を作る

先代が掲げた経営理念と、後継者の考え方の相性が悪いと、今後の経営方針がブレてしまう恐れがある。また、経営理念は経営者のイメージにつながり、ときには重要なマーケティングツールのひとつになるため、場合によっては変更を加えることも必要だ。

たとえば、ひとつの単語をかみ砕いたり、言い回しを少し変えたりするだけでも、経営理念から受けるイメージは変わってくる。全体の意味を大きく変えなければ、先代の想いを無下にすることもない。

状況に応じて、後継者のイメージにぴったりな経営理念へと変更すれば、今後経営を続けるうえで「ブレない軸」を作れるだろう。

3.他社でスキルを身につけておく

事業承継に先立って、後継者が他社でスキルを身につけておく方法は非常に効果的だ。社会人としての基本的なマナーを身につけられる上に、自社では許されないミスや失敗も経験できる。

そのほか、外部にしかない人脈を築ける点や、自社にはない企業文化・技術を学べる点も、他社で社会人経験を積むメリットだろう。特に後継者のスキル不足で悩んでいる場合や、承継前に後継者の時間が数年単位で空いている場合は、選択肢のひとつとして検討しておきたい。

リスク対策に行き詰まったら、すぐさま専門家への相談を

経営者が高齢にさしかかった中小企業にとって、事業承継は生き残りをかけた経営戦略のひとつだ。しかし、事業承継にはさまざまなリスクが潜んでいるため、世代交代を図れるからといって安易に取り組むべきではない。

また、現時点で判明しているリスクには対処しやすいが、事業承継を実施すると思わぬリスクが発覚するケースもある。そのため、少しでも「自分たちの力だけでは難しい…」と感じたら、無理をせずに専門家に頼ることも検討してみよう。

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