電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)

目次

  1. 家電販売店で創業し、無給での修業を積み9年後に電気工事に転身
  2. 帰社後の見積作業で夜9時、10時までの残業は当たり前
  3. やりがいを感じ25歳で事業継承を決め、28歳で社長に就任 社会情勢の変化に対応して事業を変化させることの大切さを学ぶ
  4. 電子入札で流れ変わる 積算システム武器に〝異端児〟が認知された
  5. 官公庁の仕事は技術力の向上と落札率の向上へ ICT活用で業務を効率化し、ワークライフバランスの実現へ
  6. 見積のICT化によりピーク時で月100時間の残業がゼロに クラウド型業務アプリ作成ツールも導入
  7. 働き方改革にICTは必須 2024年6月には新しい業務作成アプリも
  8. 日報のデジタル化で帰社不要に 残業2~3時間削減 建設キャリアアップシステム導入で若手技術者の育成
  9. 先輩社長の「自分の周りを幸せにできない人は、自分も幸せになれない」との言葉を胸に「社員が働きやすい職場にすることが会社の成長につながる」
中小企業応援サイト 編集部
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長野県塩尻市に本社を置き同県全域を事業区域とする電気工事会社、株式会社小松電気設備は、確かな技術力をベースに新たな挑戦を続け、顧客からの信頼を高めてきた。ICTを活用した業務効率化による働き方改革にも早くから取り組み、成果を上げてきた。小松直哉代表取締役は、「社員が働きやすい職場にすることが結果的に変化への対応力を高め、会社の成長につながる」と語り、ICT化の推進に力を入れる。(TOP写真:トンネル内の電気工事)

家電販売店で創業し、無給での修業を積み9年後に電気工事に転身

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
商業施設の施工現場

小松電気設備は1984年に、小松直哉社長の父・小松宏二氏(現会長)が家電販売店として創業した。家電需要も旺盛だったが、バブル期の建設ラッシュで電気工事業界の成長著しく、宏二氏は1988年に電気工事事業への転身を決断。有限会社小松電気設備を設立した。

電気工事業登録には5年間の実務経験が必要なため、宏二氏は家電販売業と並行して知り合いの電気工事会社で無給での修業を積み、1993年5月に電気工事業登録を果たした。事業は順調に拡大し、2002年に株式会社に組織変更した。

帰社後の見積作業で夜9時、10時までの残業は当たり前

小松社長の入社は2004年、20歳の時だ。「会社を継ごうと考えていたわけではなく、むしろ将来へのつなぎで入社した感じ」と、当時の心境を語る。しかし、仕事は多忙を極めていた。現場技術者7人、事務職員1人の時代だ。

「忙しい中で現場から帰社後、見積作業を行う。手書きでの作業が終わるのは午後9時、10時が当たり前。翌日の午前2時、3時までかかることもあったし、休日は日曜日だけ」。こんな時代を経験している小松社長だから、現場のことや社員の気持ちもよくわかる。

やりがいを感じ25歳で事業継承を決め、28歳で社長に就任 社会情勢の変化に対応して事業を変化させることの大切さを学ぶ

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
「電気工事業にやりがいを感じ事業の継承を決めた」と語る小松直哉社長

小松社長が事業継承を決断したのは、入社5年目、25歳の時だ。「父からこの会社をどうしたいかと尋ねられた時、自ら施工した電気設備が地域社会や人々の生活の中で長年使われることに仕事の醍醐味(だいごみ)とやりがいを感じていたことから、会社を継ぐ気持ちを固めた」(小松社長)という。

それから3年間、宏二社長(当時)について顧客訪問するなど帝王学を学ぶ一方で、21歳の頃から参加していた青年会議所(JC)や、新たに加入した大手建設・建築会社の協力会で知り合った先輩社長たちから会社経営について多くを学んだ。

「他社の先輩社長からは、自分自身や社会情勢の変容をしっかり観察した上で、必要に応じて事業を変化させることの大切さを学びました。私は今も社会の動きを察知するよう心がけています」と話す直哉氏は、2011年に28歳で社長に就いた。

電子入札で流れ変わる 積算システム武器に〝異端児〟が認知された

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
見積の作成能力と精度を飛躍的に高めた積算システム

それまでの小松電気設備の歩みは、必ずしも順風満帆(じゅんぷうまんぱん)とはいえない。2000年代後半の不況期には業界全体の仕事量が大幅に減少。「公共工事の当時の状況は新規参入者が落札することが難しい時代で、官公庁入札で予定価格を大きく下回る価格で落札し、結果的に大幅な赤字を出した。しかも新規参入したことで地元業界から孤立し誰も協力してくれなかった」(小松社長)時代もあった。

流れを変えたのは、2010年頃から始まった官公庁入札の電子化だ。小松電気設備は電子入札に対応するため、電気工事業向けの積算システムを導入し、積算能力と精度を高めた。「電子入札では積算能力を高めたことから、少しずつ落札できるようになり、小松電気設備の業界内外での認知度も高まった」

官公庁の仕事は技術力の向上と落札率の向上へ ICT活用で業務を効率化し、ワークライフバランスの実現へ

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
3D対応のCADシステム

「官公庁の仕事を落札することは、技術力の向上にもつながった。高い資格を持つ社員が増えると、応札できる入札案件の幅が広がり、落札する確率も高まる。さらに、官公庁入札案件のような水準の高い仕事をこなしていくと、社員の技術レベルも向上するという好循環を生んだ」と、小松社長は振り返る。

「設計段階から図面を作成することで、それが設計図となり受注した際には自社でスムーズに施工図が作成でき、質の高い施工管理をすることで次の仕事につながる。この一連の工程を自社で対応できる人材を擁しているのが当社の最大の強みだ」(小松社長)。この技術力をベースに小松社長が就任以来進めているのは、ICT活用による業務の効率化と、働き方改革によって仕事と生活を調和させるワークライフバランスへの取り組みだ。

見積のICT化によりピーク時で月100時間の残業がゼロに クラウド型業務アプリ作成ツールも導入

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
ICTで事務部門を効率化

すでに積算システムによって見積作業は飛躍的な効率化を実現していた。小松社長の入社当時のように現場から帰社して夜遅くまで手分けして見積作成する必要はなく、営業事務の社員がシステムを運用して作成してくれる。一時は月100時間にも達していた現場からの帰社後の残業がなくなり、現場に集中できるようにもなっていた。

「作業指示書を作成するシステムもあったが、パソコンをアップグレードするたびに使えなくなるシステムだった」ため、カスタマイズできるシステムとしてクラウド型業務アプリ作成ツールを2017年に導入し、作業指示書と日報の作成に活用している。

働き方改革にICTは必須 2024年6月には新しい業務作成アプリも

その後インターネット上にデータを保管し、情報を共有することができるクラウドストレージを導入。業務作成アプリとも連携し、見積から実行予算、作業指示など現場情報を共有化できる体制を構築した。同アプリは2024年6月から新システムに切り替え、作業指示書、日報に加えて、作業工程表も共有できるようにし、現場の一元管理を強化する。

クラウドの活用に伴って不可欠となるクラウド型ウイルス・セキュリティ対策ソフトも導入し、セキュリティ対策でも万全の体制も整えた。

「JCや地域商工会などでの先輩社長の方たちとの情報交換でICTがものすごく進化していると気づかされた。2020年の新型コロナでテレワークが大きな話題になり、時代は変わった。先輩たちの会社も見学させてもらい、働き方改革を実践していくためにもICTは絶対必要だと思った」として、小松社長は社員のワークライフバランス実現のためにもICT化が果たす役割に期待する。

日報のデジタル化で帰社不要に 残業2~3時間削減 建設キャリアアップシステム導入で若手技術者の育成

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
若い現場技術者の育成にも注力

同社は、社員のワークライフバランスを向上させつつ、顧客の信頼に応えていくために、「分業化と効率化」を重要視する。積算システムの高度化や3D対応CADなどの導入で現場と管理部門の仕事を明確に分け、個々の社員の負荷軽減を図った上で、ICT導入などによる業務の効率化を進めてきた。

業務作成アプリで日報をデジタル化したことで、会社に戻っての手書き日報が不要に。現場から会社に戻らなくてもいいようにしたら、それだけで残業は2~3時間削減。現場によっては残業ゼロになったケースもある。残業代が減っても、個人のパフォーマンスが適切に評価される評価制度での昇給やボーナスで報いる仕組みもある。

同社は建設業界におけるクラウドシステムで、現場従事者の就業履歴や保有資格をデータベースに記録・閲覧・管理する「建設キャリアアップシステム」も導入。現場従事者の能力評価に活用できるほか、「現場従事者個人のキャリアアップにもつながる」と期待する。

先輩社長の「自分の周りを幸せにできない人は、自分も幸せになれない」との言葉を胸に「社員が働きやすい職場にすることが会社の成長につながる」

小松社長は、JCで交流のあった先輩社長の「自分の周りを幸せにできない人は、自分も幸せになれない」との言葉を、今も胸に秘めている。だから、「社員が働いていてよかったと思える会社にしたい。社員が働きやすい職場にすることが結果的に変化への対応力を高め、会社の成長につながる」との思いを強くする。

そのためには、ICTなどの先端技術を積極的に採用し、活用することで、今後も業務の効率化を進め、ワークライフバランスの実現を目指す考えだ。

脱炭素社会の実現という課題を突き付けられている中で、デジタル化の進展は電力需要を大きく押し上げる。現代以上に電力需要が大幅に増加する未来に向け、小松社長は「電気工事会社の役割は高まる。デジタルに明るい高校新卒採用に力を入れ、育成し、太陽光や蓄電池など再生可能エネルギーの普及にも貢献できる会社でありたい」と、変化に対応する新たな挑戦を見据えている。

電子入札で存在感高めた電気工事会社 ICT活用の業務効率化で働き方改革 ワークライフバランスで成長目指す 小松電気設備(長野県)
小松電気設備の本社

企業概要

会社名株式会社小松電気設備
本社長野県塩尻市桟敷72-15
HPhttps://kds-nagano.jp/
電話0263-54-3180
設立1988年6月
従業員数21人
事業内容  公共施設、商業施設、オフィスビル、病院、工場などの電気工事の監理・施工、個人住宅の電気設備工事の施工、太陽光発電・蓄電池など再生可能エネルギー関連設備の設置など