目次
- 長岡市を中心にガス管や水道管の工事を行い、災害時には被災地に人員を派遣する
- Instagramを使って仕事の内容やボランティア活動の様子を発信して会社へのイメージ向上に取り組む
- フリーアドレス化やパーソナルロッカーの導入によって、働く環境だけでなく、それぞれの頭の中もスッキリした
- VPNを導入しノートパソコンを支給してどこでも仕事ができる環境を作った結果、現場でパソコンを使用した書類作成・処理作業が進み生産性が大きく上がった
- 社員の仕事を“見える化”して、一人ひとりの業務量の把握を行い業務効率化や働き方改革につなげる
- 建設ディレクターの採用等、社内ICT化による働き方改革と生産性向上に積極的に取り組む
- グループ企業をまとめたホームページを通して規模感を打ち出す
- 新潟県SDGs推進建設企業の第1回登録企業となり、いち早い取り組みをアピール
新潟県長岡市でガス管や水道管の工事を手がけている株式会社北澤工業の社訓は、「人のできない事をやろう、人のやらない事をやろう、世の中の為になる事をやろう」。この言葉通り、2024年1月1日に発生した能登半島地震で、被害のあった新潟市へと社員をすぐに派遣して水道管の復旧に携わった。翌週には能登半島の石川県七尾市まで社員を送り出してライフラインの復旧に協力した。社内では紙をなくし、フリーアドレス化を進める。(トップ画像:フリーアドレス化を行い広々として見通しが良くなった北澤工業の本社オフィス、北澤工業提供)
長岡市を中心にガス管や水道管の工事を行い、災害時には被災地に人員を派遣する
「1995年の阪神・淡路大震災の時も、ガス管の復旧に行っています」と北澤晶代表取締役社長。2004年の新潟県中越地震や2011年の東日本大震災でも、同じように災害復旧を受け持った。2016年には、遠く九州で発生した熊本地震にも人員を派遣したというから、活動の範囲は全国的だ。
長岡市に本社があって、普段は自治体や企業から管工事を請け負っている同社が災害復旧に取り組む理由。それは、「日常的にある当たり前を守っていく仕事という意識があるからです」(北澤社長)。道路を掘って水道管やガス管を敷設し、埋め戻すという仕事は、ライフラインの整備という重要な役割を担っている。被災地の復旧もそうした日々の業務の延長として積極的に関わっている。
また、「建設業の中でも、管工事は目に見える建物を作るものではないので、あまり魅力を感じてもらえないところがあります。被災地の復旧に携わることで、働いている人にも外の人にも、とても意義のある仕事をしているということを感じてもらえるのではと思っています」(北澤社長)。
建設業の人手不足は深刻で、募集してもなかなか関心を持ってもらない。誰かの役に立つ仕事をしているという実感が、働いている社員のモチベーションアップにつながり、応募する人の志望動機にもつながっている。
Instagramを使って仕事の内容やボランティア活動の様子を発信して会社へのイメージ向上に取り組む
仕事の内容や会社の雰囲気を知ってもらうために、2021年にInstagram(インスタグラム)を始めた。そこには、工事の現場でどのような作業をしているかが簡単な説明文とともに投稿されていて、求人応募者が実際に働き始めたらどんな仕事をするかがイメージできるようになっている。また、作業服をえんじ色と黒のシンプルで洗練されたデザインに変えたことも紹介されている。
2021年中に順次進めていった社内のフリーアドレス化も、段階を追って進めていった。さまざまな書類が積み上がっていた机の上が整理され、不要となった紙類やカタログ等が廊下に積み上げられていた。パーソナルロッカーが導入され、相当な覚悟と速度でフリーアドレス化を進め、パソコンの導入やネットワークの構築といったDX化に取り組んだ様子がわかる。
フリーアドレス化やパーソナルロッカーの導入によって、働く環境だけでなく、それぞれの頭の中もスッキリした
同社がフリーアドレス化を進めた理由は、ひとつにはイメージアップがあった。洗練された外観の本社でも、以前は中に入るとスチール製の事務机が並び、書類やカタログ等が載っていて乱雑な感じがあった。フリーアドレス化によって事務所は奥まで見通せるようになり、明るい仕事場といったイメージになった。
仕事の方にも好影響があった。パーソナルロッカーには本当に仕事に必要なものしか入らない。放っておけば増えていきがちな書類や持ち物を取捨選択する必要がある。「常に身の回りを整理整頓することで、働く人が自分の頭の中を整理して、効率的に働くようになったと思います」(北澤社長)
認可や申請が絡む土木建設業という仕事柄、すべての紙類をなくすことはできないが、そうした書類は共有の棚にまとめて保管している。「契約書や図面などのデータは、サーバの共有フォルダに保管してあって、閲覧したり記録したりできるようになっています」(北澤社長)。そうした書類のデジタル化自体は以前から行っていたが、物理的に紙が置けない状況を作ったことで、共有フォルダの活用も一気に進んだ。
VPNを導入しノートパソコンを支給してどこでも仕事ができる環境を作った結果、現場でパソコンを使用した書類作成・処理作業が進み生産性が大きく上がった
また、VPN(仮想プライベートネットワーク)を導入したことで、本社だけでなく工事の現場事務所や滞在する宿泊施設などからでも、共有フォルダにアクセスしてデータのやりとりを行えるようになった。これが、現場に出る社員のテレワーク環境の改善にもつながった。
「現場事務所や宿泊先だけでなく、移動に使った車の中でもメールチェックや作業を行えます。現場で施工管理をする際も、職人たちの作業が終わるのを待っている間にパソコンで作業できます。生産性が大きく上がります」(北澤社長)。以前、現場を撤収してから事務所に戻って作業していたため、どうしても残業になっていた。働き方改革を進める上で、どこでも作業ができる環境の導入は大きな意味があった。
セキュリティの強化にもつながった。「以前は、現場に出る社員が必要なデータを自分のパソコンの中に貯め込んでいました。それで自分の作業はできますが、データの共有化は行えていませんでした」(北澤社長)。データが入ったパソコンをまるまる紛失するリスクもあった。VPNによって外からでも共有フォルダにアクセスしてデータをやりとりするようにしたことで、共有フォルダの利用も進んだという。
今は、導入した40台ほどのノートパソコンを事務所や出先で使っているが、そこにタブレットのような携帯型端末も取り入れていければと考えている。「便利なアプリケーションを使って、仕事を効率化する方向での活用となります」(北澤社長)
一例が、工事現場写真の撮影と保管。土木工事では経過や結果を確かめるために膨大な写真を撮る必要がある。埋めてしまった場所は外から見られなくなるため、後から必要となりそうな写真も予想して撮影しておく必要があり、枚数が膨大になる。そうした作業をタブレット上のアプリケーションで、電子黒板も含めて撮影できれば作業も管理も楽になる。
社員の仕事を“見える化”して、一人ひとりの業務量の把握を行い業務効率化や働き方改革につなげる
DXではまた、社員の仕事の状況を“見える化”する方法も模索中だ。営業所の様子が本社からリアルタイムで見られる設備を取り入れたのもその一例。また、各社員がどれだけの仕事量を持っていて、どれだけ進んでいるかを把握したいが、日報のような形で逐一報告させるような方法は採りたくないという。「報告をするために時間や手間をかけさせるのは本末転倒です。何の生産性もありませんから」(北澤社長)
案として挙がっているのが、施工管理アプリを備忘録のように使ってもらうことだ。一人ひとりにスケジュールを入れてタスク管理してもらうことで、誰がどれだけの仕事量を持っているかを外からでも把握できるようになる。
建設ディレクターの採用等、社内ICT化による働き方改革と生産性向上に積極的に取り組む
一連のDXは、建設業界で施工管理職の業務をサポートし、働き方の改善と新規雇用の確保につながる職種と期待されている「建設ディレクター」の活用にもつながる。一人ひとりの仕事の量や進捗状況を把握した上で施策を打ち出す建設ディレクターにとって、あらゆるデータの共有が不可欠だからだ。 建設ディレクターとは:ITとコミュニケーションスキルで現場を支援する新しい職域です。現場技術者の負担を軽減し、作業の効率化と就労時間の短縮を図る効果的な取組として「働き方改革への取組」にも繋がります。(一般社団法人建設ディレクター協会のサイトより抜粋)
「今の共有フォルダも、工事の内容は見られますが、施工管理をしている本人にしかわからないデータになっていることがあります」(北澤社長)。そうしたデータを共有化だけでなく共通化し、誰でもわかるようにすることで、建設ディレクターの活躍の範囲も広がる。病気など急な事情で誰かが休んだ時でも、別の人に仕事を引き継ぐことも容易になる。働き方改革はもちろん生産性の向上にも寄与する。
グループ企業をまとめたホームページを通して規模感を打ち出す
新しいことには積極的に取り組む社風だ。グループ企業でひとつのドメインの中にそれぞれのページを作るようにして規模感を出したのは、地元の中小企業ではあまりなかった手法だ。Instagramを始めたのも建設業にあっていち早い動きだった。
勤怠管理システムでも、「残業を減らす」(北澤社長)という目的で、顔認証システムを導入した。手書きで申告して上長の承認を得れば残業できるという仕組みを作ったが、後で承認を得ればよいといった雰囲気になって制度が形骸化してしまった。誰がどれだけ働いたのかを“見える化”することで、何が課題かを一人ひとりが理解し、改善に努めるように意識づけた。
新潟県SDGs推進建設企業の第1回登録企業となり、いち早い取り組みをアピール
「後からやり始めても世の中に印象は伝わりません。先んじて取り組んでいくから認めてもらえます」(北澤社長)。そうした先取りの姿勢は、本社の看板にも記されているSDGsの活動にも現れている。同社は2022年2月14日付けで新潟県SDGs推進建設企業の第1回登録企業となった。以前から清掃活動を行い、残業時間も減らし社員の資格取得にも協力してきた。こうした活動がSDGs(持続可能な開発目標)と言う趣旨に合っていたことが、いち早い宣言につながった。
先んじて取り組んでいく姿勢で、これからも様々なDXを取り入れ土木建設業という仕事に新しい風を吹き込んでいくだろう。
企業概要
会社名 | 株式会社北澤工業 |
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本社 | 新潟県長岡市北陽2丁目14番地31 |
HP | https://www.kitazawa-k.co.jp/kitazawa-kogyo/ |
電話 | 0258-24-7472 |
設立 | 1965年10月5日 |
従業員数 | 44人 |
事業内容 | 土木工事、ガス・水道工事、空調・衛生・給排水ガス、融雪施設、ポンプ設備配管、床暖房設備、コージェネレーション施設・設計・施工 |