目次
医療法人社団健成会(香川県観音寺市)を設立した河田健介理事長の先祖は幕末、牛痘苗による天然痘ワクチン接種を日本に広めた蘭学医、緒方洪庵の適塾で学んだという。「洪庵の時代から約200年にわたり先祖代々『人命を救いたい』という志を受け継ぎ、その時々に見合った医療を心がけてきました」と河田理事長。(TOP写真:近くの公園で花見を楽しむ介護老人保険施設「かわた」の入所者と介護職員)
1958年河田外科医院を開設 患者に高齢者が多く、本格的な医療・介護の必要を感じ2017年介護老人保健施設「かわた」を開業
1958年、外科診療を行う医師が少なかった香川県観音寺市に初代院長が河田外科医院を開設。その後、1980年に医療法人社団健成会河田病院を設立した。患者に高齢者が多く、本格的な医療・介護態勢の必要性を感じて2017年に現在の河田医院(河田耕太郎院長)と介護老人保健施設(老健)「かわた」の2本柱体制にした。河田理事長は「かわた」の施設長を兼任している。4階建て(一部6階)の1階が医院、2~4階が高齢者施設。医院は外来診療だけで、「かわた」に57床のベッドを備えている。
年齢を重ねれば誰でも体の機能は衰える。認知症や病気の発症などで他人の介助がないと日常生活が難しくなったりもする。高齢の親を高齢の子どもが介護する〝老老介護〟や独居高齢者の増加などがしばしば社会問題として取り上げられる。
「心身の衰えが進んだ高齢者の在宅での介護は、介護する近親者の身体的・精神的負担も大きい。そんな時に選択肢の一つとして、私たちのような高齢者介護施設があります」。穴吹康伸事務長は高齢社会の実情についてこう話す。
入所者の多くは80~90歳代。医師、看護師、介護士が連携してサポートしている
「かわた」には現在、45人が入所していて、多くが80~90歳代。うち7割は女性だ。老健施設は、高齢者が医療、看護・介護を受けながらリハビリテーションなどで家庭への復帰をめざす施設で、おおむね3ヶ月程度で退所することになっている。しかし社会の高齢化が進んでいる現状に対応して、2018年に制度改革が行われて要介護度の重い人を長期間介護する「療養強化型」が設けられ、「かわた」はこのタイプの施設。要介護度が高い人を期間制限なく受け入れている。
入所者の9割は要介護度4以上で、寝たきりの高齢者も約10人。食事は流動食の経管摂取が多く、大部分は介助がないと立てなかったり、トイレ、入浴、歯磨きなどの口腔ケアに介助が必要だ。「こうした高齢者を看護師と介護士約25人、ほかに常勤の医師や理学療法士などリハビリ担当職員らを加え、計35人でサポートしています」(穴吹事務長)
シフト勤務表は自作 ○△×で計算式を埋め込み、手打ちで記録していた
入所者の日常を24時間サポートするため、看護師、介護士は早出、日勤、夜勤の勤務シフトをとっている。早出が午前7時〜午後4時、日勤が午前8時半〜午後5時半、夜勤が午後4時〜翌日午前9時。勤務は日中で5〜6人、夜間2人、早出1人という態勢で、かつ法定労働時間内におさまるよう配慮しながら組み合わせていく。年齢的な条件や幼い子をかかえて夜勤ができない人もいる上、様々な理由で臨時の休暇が入るなどして、シフトは複雑にならざるを得ない。
「休日は、子育て世代などは特に日曜日にとりたい人が多く、取り合いになります。だから看護、介護両主任は職員が月2回は希望の休日をとれるようにシフト表を作っています」と穴吹事務長。
出勤・退勤はタイムカードを押すことで記録され、従来は月末になると、穴吹事務長が前月のカードを引き上げて1ヶ月分の出退勤の記録を勤務実績表に書き込んでいた。実績表は「若い頃にはパソコンを自作したこともある」という穴吹事務長がエクセルで作ったものだ。〇△×などで勤務のスタート、終了、休日などを記入。〇は日勤で8時間、夜勤は2日間にわたるため16時間など、計算式が埋め込まれていて、時間外勤務(残業)も加えて実働時間が月何時間かを計算する仕組みになっていた。
勤務実績表作りは給料日をにらんで「死に物狂いでの作業でした」と穴吹事務長
「タイムカードを見ながら手打ちしていたのですが、これがなかなか大変な作業でした」と穴吹事務局長は話す。
「かわた」の職員35人と医院の職員15人の計50人の30日分。延べ1,500日分を打ち込む。残業や早退はあるか、カードの押し忘れはないか。1日分の休暇を分割して取ったりしていることもある。カードに早出の連絡メモがない場合は時間を見て早出かどうか調べたりもした。すべて打ち込んだら、主任職員に手渡し、改めてカードと実績表が合っているかチェックしてもらう。
こうした作業を、給料日をにらんで行い、給料日の3営業日前までに銀行に給料分の金額を振り込む。作業を約5日で終えなければならず、祝日が入ったりするとスケジュールはさらにタイトになる。「死に物狂いで打ち込んでいました」というのが穴吹事務長の実感だ。あまりのしんどさに1年前、職員の了解を得て給与計算の締め日から支給日までの間隔を従来の10日間から20日間に伸ばしてもらったという。
勤怠管理システムの導入で毎日少しずつ作業することが可能になった 穴吹事務長は「以前のストレスが嘘のようです」と語る
勤怠管理システムを導入してみたら、そのしんどさがガラリと変わったという。タイムカードを押して出退勤を記録するのは同じだが、押すと同時にデータがパソコンの勤怠管理ソフトにLAN経由で送られてくる。このため、タイムカードを持ってこなくてもすぐ記録を閲覧することができるのだ。しかもシフト表とタイムカードの記録を比較し、時間外勤務時間も自動で算出してくれるし、タイムカードの押し忘れもエラーとして知らせてくれる。
「毎日、手が空いた時に少しずつ作業していくことができる。しかもエラー表示のところを中心に見ていけばいい。毎日50人分処理していけば、月末には最後の1日分が残っているだけで、すぐ実績表を完成することができるのです。以前のストレスが嘘のようです」と穴吹事務長は笑顔を見せた。
シフト表を作るのも、勤怠管理ソフトに医院職員向けの日曜祝日パターンと「かわた」職員向けの日祝に関係ないシフトパターンの両方のカレンダーが入っていているので、それを共有フォルダに入れておけば主任職員が引き出して作成できる。年齢、職種、勤務パターンを記録した職員管理表も連動していて、どの職員がどんな勤務パターンかわかり、シフト表も作りやすくなった。
入所者一人当たりの看護・介護職員の人数の比率は介護報酬に反映する。職員が有給休暇を取るなどして一時的に職員の数が減り、報酬が減額対象になってしまうこともありうるが、それも勤怠管理システムがチェックしてくれる。
「精神的にかなり楽に」「作業時間は半分に」と、職員も手ごたえ
「かわた」の日浦靖介護主任は「介護職員は時間外勤務が多くなりがちで、以前はタイムカードに記された時間を見て、職員に問い合わせて調べたりもしていましたが、今は単にタイムカード集計表と実績表を照らし合わせるだけでよくなりました。計算ミスも減り、精神的にかなり楽になりました」。河田医院の三好由里子看護師長も「チェック時間は半分くらいになりましたね」と話した。
次は給与管理システムと連動に期待。介護、医療両分野で進むICT化
「勤怠管理システムは、給与管理システムと連動させることができるので期待しています。有給休暇の管理、残業時間数、夜勤回数が自動で算出されるのですぐにでも連動できる。導入を検討したいですね」と穴吹事務長。事務関係のシステム以外にも、医院で電子カルテシステムが入っているし、ケアマネジャーも介護向けシステムを使っているといい、介護、医療両分野でICT化は進みつつある。
「今後、介護現場は様々な分野でICT化が進んでいくと思いますが、人と人のつながりは最後までこの仕事のキーポイントとなります」と穴吹事務長。「かわた」は高いスキルによる医療と手厚い看護を備えてリハビリが充実しているのが特徴だといい、「最後まで在宅で介護を受けられるのが理想かもしれませんが、本人、家族みんながずっと笑顔でいられるのは難しいというのも現実です。在宅での家族による介護に難しさを感じたら、プロの看護・介護が受けられるこうした施設への入所を検討してみてください」。こう強調した。
企業概要
法人名 | 医療法人社団健成会 |
---|---|
本社 | 香川県観音寺市茂木町5丁目5番32号 |
HP | https://kawata.clinic/ |
電話 | 0875-25-3668(河田医院) 0875-25-6998(介護老人保健施設かわた) |
設立 | 1980年4月 |
従業員数 | 50人 |
事業内容 | 医療(内科・ペインクリニック外科・麻酔科・リハビリテーション科) 看護・介護・リハビリテーション |