蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)

目次

  1. クリーニング店として1975年に創業し8年後に旅館やホテル向けのリネンサプライ事業をスタート
  2. 事業拡大に伴い拠点が増え、拠点間のデータ一元化と共有のため、会計・販売管理システムを統合してクラウド化
  3. ハンディターミナルを使って納品業務を効率化し、データも即座にパソコンに移して集計しやすくした
  4. すべての商材にICチップを付けてどこに何がどれくらいあるかをリアルタイムで把握できないかを研究
  5. より効率的な作業工程組み立てのため、工場での作業工程を記録して過去の良い取り組みを再現 将来的にはAI利用で最適手順を生み出す
  6. 障がい者雇用を積極的に行う ずば抜けた才能を持つ人もいて、仕事を任せられる人も出てくる
  7. 季節変動を平準化するため、福祉施設を対象にしたリネンサプライやユニフォームのレンタルの拡大 新たな付加価値を持って提案活動
中小企業応援サイト 編集部
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ホテルや旅館に泊まった時、宿泊客が真っ白なシーツがかかった布団やベッドで眠ることができるのは、毎日シーツや枕カバーを洗ってくれるクリーニング事業者がいるからだ。新潟県南魚沼郡湯沢町に本社を置く株式会社白旺舎は、温泉やスキーを楽しみに湯沢まで来る観光客が泊まる旅館やホテルに対して、洗い立てのシーツなどをレンタルするリネンサプライのサービスを行っている事業者だ。(TOP写真: 六日町工場では大型の洗濯機が稼働して大量のリネン類を次々と洗っていく)

クリーニング店として1975年に創業し8年後に旅館やホテル向けのリネンサプライ事業をスタート

創業は1975年。「最初は地域のクリーニング店として営業していました。創業者の会長が地元の宿泊施設から『シーツを提供してくれないか』と言われて、リネンサプライというサービスについて調べて、1983年から事業として始めました」と、2代目になる代表取締役の上田哲雄氏は振り返る。旅館やホテル、レストランなどが使っているシーツや枕カバー、タオルといったリネン類をレンタルし、使い終わったものを回収してクリーニングしてから再びレンタルするのがリネンサプライというサービスだ。

もともと宿泊施設は、それぞれにリネン類を所有していて、宿泊客が使用したものをクリーニングに出して洗ってもらっていた。1980年代になると、湯沢は折からのスキーブームに乗って観光客が急増し、旅館やホテルが自前でリネン類を調達して運用することが厳しくなっていた。そこでリネンサプライというサービスを、シーツ類のクリーニングを引き受けていた白旺舎が手がけることになった。

事業拡大に伴い拠点が増え、拠点間のデータ一元化と共有のため、会計・販売管理システムを統合してクラウド化

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
湯沢町の本社から離れた六日町工場で大量のリネン類を洗浄している

リゾート化の波に乗って宿泊施設も増える中でリネンサプライの需要は増し、1986年にはリネンサプライ工場を建設。以後、順調に事業を伸ばしていき、今では栃尾や新発田など新潟県内全域でサービスを提供している。1997年には、南魚沼市の六日町に南魚沼工場を作って、対応できる量を拡大した。「最近は、1億円を投資して処理能力の高いクリーニング機を設置しました」(上田社長)。コロナ禍で宿泊客が減って売上が大きく下がった時期もあったが、回復基調にある現在はフル回転でクリーニングを行っている。

事業規模が拡大し、拠点を南魚沼市の中に複数持つようになったことで、幾つか問題が出てきた。請求に従って顧客から本社側に入金されても、その情報が拠点の方に伝わらず、まだ入金がないと判断して請求書を出してしまうような事態が起こったのだ。そこで同社では、拠点ごとに独立していた会計・販売管理システムを統合して、それぞれの拠点で同じ情報を見られるようにした。「導入と年末年始の繁忙期が重なってしまったので、現場でのデータ入力が追いつかずまだ完全に連携できていませんが、閑散期を利用して統合を目指していければと考えています」(上田社長)。

ハンディターミナルを使って納品業務を効率化し、データも即座にパソコンに移して集計しやすくした

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
配送員が配送先でハンディターミナルで記録したデータを事務所に戻ってパソコンに転送する

六日町の工場ではまた、ハンディターミナルを導入して、配送時に納品伝票をその場でプリントアウトして納品先に渡し、帰ってから納品記録をそのまま取り込む仕組みを構築した。「それまでは、すべて手書きで発行までに時間がかかっていました。記入時にミスも起こりました。ハンディターミナルを使えば時間の短縮になり、ミスも防げます」(上田社長)

業務上のさまざまなデータが電子化されてサーバー上に記録され、拠点間で共有化されるようになれば、取り扱っているリネン類がどれだけあって、どのような状態にあるのかをリアルタイムで把握できる。ハンディターミナルの導入で進んだそうした動きを、「もっと緻密に把握するためのアイディアを持っています」(上田社長)と打ち明ける。それが、ICチップの利用だ。

すべての商材にICチップを付けてどこに何がどれくらいあるかをリアルタイムで把握できないかを研究

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
DX化についてさまざまなアイディアを持っている上田哲雄社長

すべての取扱商材にICチップを取り付けて、どのホテルにシーツや枕カバー、タオルの在庫状況がリアルタイムで把握できるようになれば、必要とされていない時に配送に行くような手間を省ける。「今は配送を担当している従業員が、今日はこれくらいの量が必要だろうと見当をつけて回っています」(上田社長)。経験を積んだ従業員ならそうした直感で仕事ができるが、新しく入ってきた人には難しい。

「もしも全量を把握できるようになれば、どこに何がどれくらい必要かをAI(人工知能)が計算して判断し、指示を出してくれるようになるでしょう。そうなれば、昨日面接をして入社した人が、今日から配送を担当できます」(上田社長)。幾つかある配送先を効率良く回るルートもAIに出してもらえれば、さらに時間を短縮できる。人手不足が言われる中、誰でも即戦力にできるシステムだけに、実現させたいところだろう。

商品の動きをDXによって“見える化”することで、取引先への提案力も強化される。「こうしたシステムは、何もリネンサプライの仕事に限って適用できるものではありません。レンタル業や配送業の全般に広げていけるものだと考えています」(上田社長)。現時点ではリネンサプライ事業が忙しく、新たな分野にすぐに参入する考えはないが、作り上げた仕組みを他の事業者に提供していくような展開は考えているという。

より効率的な作業工程組み立てのため、工場での作業工程を記録して過去の良い取り組みを再現 将来的にはAI利用で最適手順を生み出す

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
工場で毎日大量のリネン類をクリーニングし宿泊施設に配送する

社内の業務に関するDXの推進も検討している。同社では現在、工場でのクリーニングの記録を毎日とっている。仕事が忙しくなった時、シーツと枕カバーのどちらを先に洗うのかといった段取りを、どのように組めばより効率的に処理できるのかがわからなくなることがある。そこで、同じように忙しかった時期の過去データを参照して、その時の工程をまねることで繁忙期を乗り切っている。「データは重要だということです。あらゆるデータを記録しておけば、将来的にAIなどが効率的な生産工程をシミュレートして示してくれるようになるでしょう」(上田社長)

障がい者雇用を積極的に行う ずば抜けた才能を持つ人もいて、仕事を任せられる人も出てくる

DX化への構想がつきない同社だが、一方で人材の活用にも熱心に取り組んでいる。具体的には障がい者の雇用だ。現在、同社には六日町の工場と湯沢の工場であわせて10人近くの障がい者が働いていて、クリーニングに関する作業などを行っている。「主に知的障がいを持った方々ですが、仕事にはとても熱心に取り組んでくれて、大きな戦力になっています」(上田社長)

中には記憶力がとびぬけて高い従業員もいる。シーツやタオルなどをどのような順番で処理していったかの手書きメモをコンピュータに入力していた時、そのメモがなくなってしまったことがあった。現場にいたその従業員に聞いたらすらすらと答えが出てきたという。これには後日談があって、なくしてしまったはずのメモが見つかって確認したらまったく同じだったというから驚きだ。

「1年でコンピュータの扱いをマスターしてしまった従業員もいます。いずれ工場のすべてを任せられるようになるのではと思っています」(上田社長)。障がいを持つ人の働き口を見つけることが大変で、家族の世話になって暮らさざるを得ない人も少なくない。同社では、そうした人々に合わせた働ける場所を提供して地域の雇用に貢献している。

季節変動を平準化するため、福祉施設を対象にしたリネンサプライやユニフォームのレンタルの拡大 新たな付加価値を持って提案活動

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
設備の稼働と雇用の確保のため、仕事量の平準化を推進する上田社長

同社では現在、取引先を宿泊施設以外にも広げようとしている。福祉施設向けのリネンサプライで、高齢者たちが寝泊まりしているベッドのシーツを回収し、クリーニングして納品している。上田社長が飛び込みで営業をかけて獲得してきた。

宿泊施設向けのリネンサプライは現在、同社の売上の約7割を占めていて収益の柱になっている。インバウンドも含めた観光客の増加があれば、今後も引き続き安定した収益源になるが、「繁忙期と閑散期の差が激しく、1000万円単位で売上が減ってしまうことがあります」(上田社長)と問題点を指摘する。取扱量が少ないからといってゼロにはならないため、工場を止めてしまうわけにはいかない。従業員も仕事量に応じて増やしたり減らしたりはできない。「安定した設備の稼働と雇用の確保には、仕事量を平準化する必要がありました」(上田社長)

そこで取り組んだのが、以前から取り組んでいた工場などで従業員が着るユニフォームのレンタル事業の拡大であり、福祉施設を対象としたリネンサプライのサービスだった。さらには、クリーニング時にウイルスブロックをほどこし、宿泊客や福祉施設の利用者が安心してリネン類を使ってもらえるような付加価値サービスも行って、取引先の確保と拡大に努めている。

創業から2025年で50周年。DXを利用して効率化を模索し、できた余力を新しい取引先の拡大へとつなげるという中小企業にとって理想の成長戦略にしっかりと取り組んで、次の50年に向かって歩み出す。

蓄積データを活用し顧客サービスの充実でさらなるDXを目指し 障がい者雇用にも積極的に取り組む 白旺舎(新潟県)
まもなく創業から50周年を迎える白旺舎の本社

企業概要

会社名株式会社白旺舎
住所新潟県南魚沼郡湯沢町大字神立374-8
HPhttps://whiteking.co.jp/
電話025-784-2091
創業 設立1975年4月、1983年12月
従業員数49人(パート含む)
事業内容ホテルリネンサプライ、病院及び介護施設リネンサプライ、ユニフォームレンタル