使途不明金・使途秘匿金とは、その目的がわからないため、損金に算入することができない支出のことだ。悪意はなくても、気の緩みや不注意から、知らぬ間に使途不明金や使途秘匿金と疑われるような経費を計上していることがある。今回は、使途不明金・使途秘匿金とは何か、似ているようで異なるその中身や、税制上の取り扱いについて解説する。
目次
使途不明金とは?
使途不明金とは、支出の目的が不明であることから、損金に算入できない支出のことだ。法律では、損金に算入すべきものとして原価や販管費、損失といった支出が定められている。これらは、いずれも業務の遂行に必要なものだ。業務の遂行に関係がないものは、当然損金には算入できない。
では、それが何のための支出かわからない場合はどうなるのだろうか。法人税基本通達では、以下のようなルールが定められている。
“法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。”(法人税基本通達9-7-20)
つまり、交際費、機密費、接待費などとして計上しても、使途が不明な場合は損金不算入となってしまうのだ。これが、使途不明金である。
使途不明金は、一般的に税務調査で発覚する。経費として問題なく処理し、税務申告も済ませた後、税務調査の調査官から「この接待の相手の方は、会社とどういった関係のある方でしょうか?」というような質問によって発覚することがある。
使途不明金の疑いのある支出があった場合、税務署は会社側への聞き取りや、会社が根拠とした資料の調査を行い、使途不明金にあたるかどうかを判断する。
使途不明金が損金不算入になるとどうなるか?
ある支出が使途不明金と判断された場合、その支出の金額はすべて損金不算入となる。過少申告として修正申告を求められるか、更正などの処分によって不足税額を納めることになる。場合によっては、追加の法人税等と延滞税だけでなく、重加算税という重いペナルティを受けることもある。
使途不明金が発覚したときの課税については、後述する。
使途不明金を発生させないためには?
「税務署に「〇〇のために使いました」と言えば、使途不明金にならないのでは?」という考えが浮かぶかもしれない。しかし、現実はもっとシビアだ。
平成27年の東京高裁で、会社が商品券の購入費用を交際費として損金に算入していたものを、税務署に使途不明金とされた処分を巡って、会社と国が争った裁判があった。会社が損金に算入した根拠は商品券の配布に関して作成されたリストであり、配布先として「工事関係者」などと記載されていた。
しかし裁判所は、商品券の配布先ごとの配布枚数が記載されておらず具体性を欠いていること、作成の経過や原資料が不明であること、商品券を配布したとされる時期から相当の期間が経過した後にリストが作成されていることなどから、そのリストの信頼性に強い疑問があるとした。
他の調査結果でもこの疑問が払拭できなかったため、最終的に会社側の控訴は棄却された。(東京高裁平成27年10月15日判決「税務訴訟資料第265号」より)判決は個別の状況を鑑みて下されるものなので、すべての例にあてはまるわけではないが、少なくとも税務署は会社の主張を鵜呑みにすることはないことがわかる。
損金算入とした根拠資料そのものの信頼性がないと、使途不明金と見なされることがあることにも注意が必要だ。使途不明金として疑われやすいのは、交際費をはじめ取引先へのリベート、販売奨励金などだ。
これらが使途不明金にならないようにするためには、支出の目的を明確にし、支出目的や支出額の計算根拠を示すことができる書類を、支出のたびに関係書類とともに保管しておく必要がある。
使途秘匿金とは?
使途が不明であるどころか、支払い先やその理由さえも隠して経費にしようとするような悪質な場合は、税法上「使途秘匿金」として扱われる。
使途秘匿金とは、法人が支払った金銭のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名または名称および住所または所在地ならびにその事由(以下、「相手方の氏名等」)を当該法人の帳簿書類に記載していないものだ。(租税特別措置法第62条第2項)
相手方の氏名などが帳簿書類に記載されているかどうかは、その「事業年度終了の日の現況」で判定されるが、申告期限までに記載すれば問題ない。(租税特別措置法施行令第38条第1項・第2項)
したがって、申告期限を過ぎて相手の氏名などを隠す必要がなくなった時に「やっぱり白状します」と言っても、使途秘匿金とする判断を取り消してもらえるわけではないのだ。
使途秘匿金の趣旨は、脱税行為とまではいかないものの、支出先とその理由さえも隠すような違法に近い支出は、使途不明金よりも厳しく処分しなければならないという考えにある。
使途不明金よりも違法に近い行為とされるので、発覚すれば損金不算入となるだけでなく、使途不明金よりも多くの税金が追徴される仕組みになっている。
なお、帳簿書類に相手方の氏名などを記載しておけば、絶対に使途秘匿金にならないというわけではない。帳簿に記載された者を通じて、その者以外の者に支払いが行われたと認められる場合は、帳簿書類に記載されていないものとして扱われる。(租税特別措置法施行令第38条第3項)
つまり、ダミーの支払先を記載して「帳簿には書いていた」とするケースは、すでに想定されているということだ。場合によっては、刑事罰の対象になる可能性もあるので、このような不正行為は絶対に行ってはならない。
使途秘匿金にならない場合
使途秘匿金にあたるのは金銭だけでなく、贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しも含まれるが、資産の譲受けその他の取引の対価として支払われた相当な支出であれば、使途秘匿金にはならない。
また任意規定では、帳簿書類に相手方の氏名などが記載されていない理由が、相手方の氏名などを隠匿するためでないと認められる場合は、税務署長はその金銭の支出を使途秘匿金としないことができることになっている。(租税特別措置法第62条第2項・第3項)
使途不明金と使途秘匿金の違い
使途不明金と使途秘匿金は、どちらも損金不算入となる。損金不算入となった分、課税所得が増加するため、会社が行った税務申告は過少申告となり、法人税をはじめとする税金の不足分を、修正申告を行って納めることになる。法人税の場合は、修正申告によって納める不足税額のほか、金額によっては延滞税と重加算税の納税義務も生じる可能性が高い。
延滞税とは、法人税を本来納めるべき期日よりも遅れて納付したことに対する利息のような性質の税金で、税額は修正申告によって納める税額を基に計算される。これに対し重加算税とは、税務申告について仮装・隠蔽が行われた場合などに追加で課される、ペナルティとしての性質を持つ税金だ。
国税庁の事務運営指針によると、使途不明金・使途秘匿金については、以下のいずれかの事実がある場合に重加算税の対象となる。
・帳簿書類の破棄、隠匿、改ざんなどがあること
・取引の慣行、取引の形態などから勘案して通常その支出金の属する勘定科目として計上すべき勘定科目に計上されていないこと
使途不明金と使途秘匿金の違い
使途秘匿金は、前述のとおり使途不明金よりも重いペナルティが課される。使途秘匿金が発覚すると、使途秘匿金の額の40%が法人税に上乗せされる。(租税特別措置法第62条第1項)
使途秘匿金が200万円であれば、80万円(使途秘匿金200万円×40%)の税額が法人税額にプラスされるということだ。
【課税計算の例】
課税所得1,000万円の会社に、使途秘匿金200万円があることがわかった場合の税額は以下のようになる。(法人税率は25%とする)
当期の課税所得(発覚前) | 1,000万円 |
使途秘匿金 | 200万円 |
当期の課税所得 | 1,200万円 |
通常の法人税額(1,200万円×25%) | 300万円 |
追加される法人税(200万円×40%) | 80万円 |
納める法人税(300万円+80万円)※ | 380万円 |
※ 修正申告であれば、すでに納税した額との差額を納める。(納税額に延滞税などが発生する可能性がある)
上記の例では、まず使途秘匿金200万円が損金不算入となったことで課税所得がその分増える。その結果法人税はプラス50万円(使途秘匿金×法人税率)となり、さらに使途秘匿金による追徴税額でプラス80万円(使途秘匿金×40%)となる。
しかも「使途秘匿金×40%」で追徴される法人税は、通常の法人税とは別に発生するため、たとえ法人税の納税額がない赤字の事業年度であっても支払わなければならない。さらに、追徴税額は地方税にも影響するので注意が必要だ。
使途不明金や使途秘匿金と税務調査で認定されないための対応策
日々多くの経費処理を行っていれば、使途不明金などを経費として計上してしまうミスは起こり得る。使途不明金などと疑われないようにするためには、まずは使途不明金などが会社の経費にならないことを社員に認識してもらう必要がある。
その上で疑われそうな支出があれば、業務上の経費であることを説明できるよう、金額の根拠や支払いの目的・効用などがわかる書類を保管しておくことが大切だ。
契約書や請求書、領収書はもちろん、相手とのメールなど支出の目的を明らかにするための資料はすべて保管し、税務調査で胸を張って経費であることを主張できるようにしておきたい。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所社長)