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(写真=George Dolgikh/Shutterstock.com)

より良い社会の実現を促す仕組みの一つに「助成金」や「補助金制度」がある。対象は、社会問題の解決を目的とする事業者、あるいは家庭に対して返済不要のお金を拠出する制度だ。起業家にとっては事業拡大に向けた資金調達の手段の一つとして、家庭にとっては家計の負担を減らす方法の一つとして積極的に活用が望まれる。

助成金や補助金事業は国や財団などがそれぞれ独立して行っており、数多くの制度が乱立している。中には利用のハードルが低いにも関わらず、十分に周知されていない助成金や補助金もあるだろう。

今回はそのような助成金、補助金に光をあてるため、ファイナンシャルプランナーの視点から利用を検討してもらいたい助成金、補助金をランキング形式で紹介する。

なお、ここではいくつかの助成金や補助金制度を紹介するが、読者がこの記事に目を通された時には、すでに募集期間が過ぎている可能性もあるので留意いただきたい。

補助金・助成金制度の目的は「よりよい社会の実現」

そもそも、助成金や補助金とはどのようなお金なのか。

より良い社会を実現させるためには、各企業や国民一人一人の取り組みが求められる。そういった取り組みにインセンティブを与えるのが助成金や補助金だ。ただ、「よりよい社会に向けた活動」は、必ずしも利益につながらない場合がある。利益にならない事業を民間の事業者が継続的に行うのは困難だろう。

そこで、そうした事業者の活動を支援するために国や地方自治体、または公共団体などがお金を供与するわけだ。これが助成金や補助金である。助成金や補助金は原則として返済が不要。返済の必要がないことで、各企業が大胆な社会貢献のための事業を展開することが期待できる。

もちろん、社会のための活動を行うのは企業だけではない。家庭向けにも助成金や補助金は用意されている。出産・育児に関するものや、住宅の取得など消費活動に関するものなどさまざまな種類がある。家計が改善されることで、国内の消費にも好影響を与える。返済が不要なのだから、積極的に活用してもらいたいところだ。

政府は雇用確保や起業支援を重視して助成金を用意

民間事業者が社会で果たす大きな役割の1つが雇用の創出である。国税庁の統計によると、2017年時点で国内の給与所得者は約5,800万人。生産年齢(15~64歳)人口約7,600万人の76%以上を占めている。雇用の維持・創出は社会にとって不可欠なことは言うまでもないだろう。

国は企業が雇用の維持・創出を目的として、主に厚生労働省を通じた助成制度を多く用意している。既存の企業や事業向けだけでなく、起業を支援する制度も少なくない。新規事業も将来的には雇用を生む可能性があるからだ。

もちろん、どんな企業も助成や補助を受けられるわけではない。一定の条件のクリアや審査を受けることが必要だ。厚生労働省が実施する「特定求職者雇用開発助成金」は、中小企業以外は助成額の上限が低く設定されているなど、大企業の利用が限定的、あるいは対象外となっているものもある。

中小企業の定義は、中小企業法によって資本金・従業員の数によって業種ごとに定められている。例えばサービス業であれば、資本金5,000万円以下・従業員100名以下が中小企業とみなされる。補助金や助成金の制度を利用するなら、まずは補助や助成の対象になっているかどうかを確認する必要があるだろう。

起業や地域振興を促す助成金ランキング

新規事業の立ち上げについては、特に地方での起業に対して助成する制度が多く用意されている。以下、起業に対して助成金がもらえる制度を金額順にランキングした。

①地域経済好循環推進プロジェクト(上限5,000万円)

地域に雇用を生む事業や分散型エネルギー事業に助成金を交付するプロジェクト。総務省が主体となり、国と地方自治体の財源から拠出される。

同プロジェクトの中で、地域に雇用を生む事業を助成する「ローカル10,000プロジェクト」では、最大2,500万円の支援が得られる。この支援額は、地域金融機関からの融資額が助成金の「1.5倍以上2倍未満」となる場合は最大で3,500万円、2倍以上の融資を受ける場合は最大で5,000万円まで増額。かなり規模の大きい助成金事業と言える。2018年末時点で、377の事業が実際に助成を受けており、110億円の助成金が支払われている。

このプロジェクトでは、以下の3つを重点的に支援する方針が掲げられている。

① 国などが開発・支援して実証段階にある新技術を活用した事業
② 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技の大会関連施設
③ 古民家などの歴史的資源を活用した観光まちづくり

この3つのいずれかに関する事業で、特に新規性・モデル性の極めて高い新規事業には助成金の全額を政府が負担するとしている(原則では国と地方の拠出割合は1:1)。

②ふるさと起業家支援プロジェクト(上限2,500万円)

クラウドファンディングを活用した「ふるさと納税」に取り組む地方の団体を支援するプロジェクトで、2018年にスタートした。クラウドファンディング型のふるさと納税を活用することで納税者を集める一方、地方自治体は集まったふるさと納税を財源に、起業に対して補助を行う。さらに、ふるさと納税を実施する総務省も、地方自治体の補助金を超えない範囲で補助を上乗せするため、同事業の起業家には嬉しい制度だろう。

施設整備費や設備費、備品などの経費が補助の対象となる。クラウドファンディングを活用したふるさと納税が財源になるため補助金の額は一定ではないが、最大で2,500万円が補助される。金額が目標に届かなかった場合の取り扱いを決める必要があるほか、募集金額の範囲で地方自治体が財源を組む際の取り決めなどが必要だ。

この仕組みでは、納税者(ふるさと未来投資家と命名)に対して継続的な関心を持ってもらえるような努力が事業者に求められる。事業報告書の作成はもちろん、事業が成功した際には納税者に新製品を贈るといった工夫が必要だ。

③創業支援等事業者補助金(上限1,000万円)

この制度は、地域の創業促進を目的とした事業の事業費や人件費などを補助する目的で、中小企業庁が実施した。2014年1月に施行された産業競争力強化法にもとづいた「特定創業支援等事業」か、「創業機運醸成事業」が補助の対象となる。同事業に認定されるためには、地方自治体への申請や審査が必要だ。

具体的には、経営や財務、販路など営業面に関する知識を身に付けるための事業などが対象。また、創業の普及啓発を行う事業も対象となる。助成される金額は経費の3分の2以内で、上限は1,000万円。2019年5月15日~6月14日の公募期間で175件の応募があり、そのうち83件が認定されている。

新規雇用や雇用の維持を促す助成金ランキング

次に、「雇用を促す助成金ランキング」を支給総額順に紹介しよう。これは既存の企業が対象で、新規の雇用創出や雇用を維持するための取り組みを助成する制度だ。

①特定求職者雇用開発助成金

厚労省が実施する助成金。ハローワークや認可を受けた職業紹介事業者から雇用した場合に助成金を受け取れる制度だ。高齢者や障害者などの就労困難者を2年以上雇用することが条件となる。また、業種によって「5,000万円以下、100人以下」など資本金や労働者数の規模が定められている。

一般に就労が困難と考えられる人を雇用すればするほど助成金の額が大きくなる。例えば、60歳以上65歳未満を“短時間労働以外で”雇用する場合は1年で60万円、65歳以上だと70万円が1年間で支給される。「重度障害者等」を短時間労働以外で雇用した場合の支給額は3年で240万円だ。

ただし、支給対象期間中に当該対象人材を解雇した場合、以後3年間は助成金が支給されないペナルティがあるので要注しておこう。

②中小企業基盤人材確保助成金

中小企業が新しい分野、事業に進出する際にネックとなるのが人材の確保である。また、既存の事業において生産性を向上させるのも一苦労だろう。そのための人材確保を補助する目的で厚生労働省が設立したのが「中小企業基盤人材確保助成金」だ。新分野への進出や生産性の向上に必要な人材を「基盤人材」と位置付け、その雇用を行った場合に助成金が交付される。

助成を受ける条件は、作成した改善計画が都道府県知事から「雇用管理改善計画」の認定を受けること。基盤人材の雇用1人につき140万円、最大5人まで助成される。また、基盤人材の雇用に伴って「一般労働者」の雇用も必要な場合は、基盤人材の人数を超えない範囲で1人につき30万円が支給される。

なお、北海道や東北、中国、九州など雇用情勢が弱い「特定地域」に指定された道県だと、新分野への進出に向けた基盤人材1人あたり210万円、生産性向上に向けた基盤人材1人あたり180万円を上限に、助成額が引き上げられる可能性がある(一般労働者はそれぞれ40万円まで)。この場合、引き上げ額は該当する人材の雇用日数に応じて算出される。

③雇用調整助成金

景気の変動や産業構造の変化といった理由で収益が悪化した際、大企業であればそれまでの利益の積み上げである剰余金を活用または、他社へ出向させるなどして雇用を維持することは可能である。しかし、中小事業者となると話は別。結果として、従業員を泣く泣く解雇する羽目になりかねない。

そうならないための支援制度が「雇用調整助成金」である。労働者を解雇するのではなく、事業を休業したり、労働者を教育訓練に出すなど雇用を維持したりした場合に、厚労省から助成金が出る制度だ。具体的には、休業中に支払われる「休業手当」や労働者の「教育訓練費」「出向負担額」が助成される仕組みだ。

休業手当では、事業主が負担する額の3分の2が支給される。また、教育訓練のケースでは1人1日あたり1,200円が加算される。

環境への配慮を促す助成金ランキング

時代の流れとはいえ、収益を上げる必要がある事業者にとって、環境への配慮は難しい面があるのは否めない。そこで、政府はエコビジネスを促進させるために多くの支援制度を用意している。主導しているのは、やはり環境省だ。環境省管轄の組織、団体がさまざまな助成制度を設けている。当然、対象は環境への負荷を軽減するビジネスを手掛ける事業者だ。以下にその主なものを挙げてみよう。

①省エネ型浄化槽システム導入支援事業

集合住宅などにある既設の中・大規模の浄水槽に対し、二酸化炭素排出を抑制させる高効率な機械設備を導入させる事業が対象。経費の最大2分の1が助成される。一般社団法人「全国浄化槽団体連合会」が実施。

②低炭素型廃棄物処理支援事業

低炭素社会の実現に貢献する事業に対し助成金を交付する制度。廃棄物処理の方法や施設、また収集運搬車に関し環境負荷を軽減させる事業が対象で、経費の3分の1が助成される。公益社団法人「廃棄物・3R研究財団」が実施。

③省エネルギー設備投資に係る利子補給金

エネルギー効率の高い設備を新設・増設させる事業を提供している事業者を対象とする助成制度だ。一般社団法人「環境共創イニシアチブ」が実施。

環境共創イニシアチブが指定する金融機関から、対象の事業に関わる融資を受けている場合、その融資の利息の一部を最大10年間にわたって助成してくれる。金融機関からの貸し付け利率が1.1%以上なら1%分、1.1%未満なら貸し付け利率から0.1%分を引いた金額が助成される。

教育・育児に関する家庭向け助成金ランキング

ここまでは企業や事業者を対象とした助成の制度を紹介してきた。ここからは、家庭向けの助成金を紹介しよう。家計の中でも特に負担が大きい育児・住宅に関する助成制度をランキング形式でまとめてみたので、ぜひ参考にしてもらいたい。

まずは育児に関する助成制度から。

①出産育児一時金

4ヵ月以上の妊娠期間が経過した健康保険者が出産(死産)した際に払われる一時金。支給額は原則42万円だ。ただし、産科医療補償制度の対象外施設での出産の場合は40.4万円となる。助成や補助の多くは役所への申請などが必要だが、この制度は医療機関への「直接支払制度」が利用できるのがポイント。

医療機関が一時金を健康保険へ請求してくれるため、一時金は直接医療機関へ支払われ、出産費用の支払いに充てることが可能だ。高額な出産費用を立て替える必要がなくなるので、負担が小さくなる。また、出産費用が出産育児一時金より少なかった場合、請求の手続きを行えば差額は母親に支給される。

②出産手当金

出産と育児のために仕事を休む場合、健康保険から支給されるのが「出産手当金」だ。支給額は出産手当金の支給が開始される前の12ヵ月間の「平均標準報酬月額」の3分の2。産前の42日と産後の56日間が対象となる。支給開始までに健康保険の加入期間が12ヵ月に満たない場合も、支給開始月以前の「標準報酬月額の平均」か「30万円」の低い方が採用される。

ちなみに、この出産手当金は休業中に会社から報酬を受け取っていないことが支給の条件。会社から報酬を受け取った場合は、出産手当金の額が減額されることになる。出産予定日を基に給付日数を計算するが、仮に出産日が予定日より遅れても、その期間もきちんと給付される。

③児童手当(子ども手当)

子育てのために支給されるのが「児童手当(子ども手当)」。子どもが中学校を卒業するまで長期にわたって支給される制度だ。

出産手当金は「母親の報酬月額の3分の2」であるため家庭によって給付額に違いがあるが、児童手当は子の年齢に応じて定額で支払われる。毎年2月、6月、10月に、それぞれ前月までに相当する分が支給される。

子の年齢 児童手当(月額)
0~3歳 一律1万5,000円
3歳~小学校卒業まで 1万円(第3子以降は1万5,000円)
中学生 一律1万円

ただし、児童手当には所得制限が設けられており、世帯の年収が一定以上だと支給が停止される。例えば専業主婦の妻と子2人の場合、世帯年収が960万円を超えると支給対象から外れてしまう。現在は特例で所得制限を超えても一律5,000円が支給されているが、“特例”であるだけにいずれは停止される可能性があるので注意。

住宅や自動車に関する家庭向けの助成金ランキング

次に、子育てと同様に家計の負担が大きい住宅や自動車に関する助成制度を紹介する。実施主体が地方自治体である場合、実施している自治体としていない自治体があるので留意が必要だ。

①蓄電池・燃料電池(エネファーム等)に対する助成金

家庭の省エネルギー対策として、蓄電池等を設置する家庭に助成金を出す制度。家庭のエネルギー消費の抑制に加えて、各家庭における非常時の電源確保という目的もある。各市町村が実施。

各自治体が実施の主体となっていて、自治体によって大きくばらつきがあるため募集期間や条件などを網羅的に述べられないが、例えば東京の場合、一般社団法人環境共創イニシアチブが認可した蓄電池システムを2019年4月1日以降に購入した場合は最大60万円が助成される。

②住まいの防犯対策補助金

住居に防犯カメラ等の防犯設備を設置した際にその費用の一部が補助される制度。自治体ごとに交付条件は異なるが、例えば東京都荒川区の場合は費用の2分の1が助成される。世帯ごとに交付する自治体もあれば、地域自治会や商店街の組合など団体向けに交付する自治体もある。

③次世代自動車に関する補助金制度

燃料電池自動車やプラグインハイブリッド車など、エコカーの普及に関する費用を助成する制度。エコカーの取得費用を助成する制度では、取得するエコカーの種類ごとに助成金額の上限が定められており、燃料電池車では最大225万円が政府から助成される。

車両の取得以外にも、電気自動車の充電インフラや水素供給設備の設置に対しても助成する制度がある。こちらは主に事業者が対象となりそうだが、共同住宅の保有者といった条件をクリアすれば個人でも申請することが可能だ。

また、こうしたエコカーの普及やインフラ整備に対する助成制度は各自治体でも行われているので、お住まいの自治体をチェックしてみるといいだろう。

助成金の活用がより良い社会につながる

ここまで、中小事業者や個人向けの主な助成、補助制度を紹介してきた。冒頭でも述べたように、こうした制度は単に“おトクな制度”というだけではなく、より良い社会を実現するための一助となる効果が期待できる。制度を実施している主体は政府や自治体、社団法人など多岐にわたっており、今回紹介できたもの以外にもたくさんの制度がある。残念ながら、「ここを見れば全ての制度が把握できる」というものはないだろう。

とはいえ、自分や自分の家族や関係している事業において、支援の対象となっているのに活用しないのはやはりもったいない。制度の背景にある社会問題を解決するためにも、自分の立場や事業に関してどのような助成制度を活用できるか、積極的にチェックしてみると思いがけない制度を発見できるかもしれない。

文・THE OWNER編集部