工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)

目次

  1. 新本社・工場への移転を機にコロナ禍にもかかわらず業績好調
  2. 量産部品の家内工業として父親が創業。小学生の頃から夜遅くまで手伝う
  3. 父親の機械設計と相互補完する電気設計を学び入社。32歳の若さで社長に。リーマン・ショックを乗り越え取引先増やす
  4. 製造設備事業と精密部品製造事業が2本柱。3D-CADで顧客に製作過程を見える化
  5. 小規模製造業向け生産管理システムを導入 事務部門の社員でも納期の変更受付が可能に
  6. 各種帳票類の作成・発行・承認・入金管理を行うクラウドサービスを導入 事務部門の効率化も進める
  7. エンジニアとして成長することが社会貢献につながる
中小企業応援サイト 編集部
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群馬県伊勢崎市にある有限会社高柳エンジニアリングは大手メーカーから頼りにされる、ものづくりのプロフェッショナル集団だ。機械系と電気系の両方の設計技術者を擁し、メーカーの製造現場で使われる各種設備機械・装置や治具といったオーダーメイドの一点ものを社内で一貫生産している。

ICT活用による業務効率化にも熱心で、生産管理システムの導入に続いて、新たに請求書などの帳票類を作成・管理するクラウドサービスの利用を始めるなど事務部門のデジタル化に乗り出している。(TOP写真:複合加工機やマシニングセンターなど最新鋭工作機械が並ぶ高柳エンジニアリングの工場)

新本社・工場への移転を機にコロナ禍にもかかわらず業績好調

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
2020年12月に移転を完了した新社屋(手前)と新工場

「ここに引っ越してから『日当たりがよくていい会社だね』『これから伸びるんじゃないの』とよく言われるのですが、まさにその通りで、この3年半はコロナ禍にもかかわらず、ずいぶん忙しく仕事をさせていただいて、すごく順調でした」。こう目を細めるのは高柳エンジニアリングの高柳直弥代表取締役だ。

同社が現在地に新社屋・工場を建て、同じ伊勢崎市内にあった旧社屋から完全に移転したのは2020年12月。移転に際しては、工場内の各種工作機械の配置や作業の動線を入念に検討した。その結果、「生産効率が上がるような仕組みを構築できて、仕事に専念でき、仕事を順調にこなせる環境になりました」と高柳社長は頬を緩める。国のものづくり補助金や事業再構築補助金を活用、工作機械の種類も拡充した。

量産部品の家内工業として父親が創業。小学生の頃から夜遅くまで手伝う

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
子ども心に「家業は辛い仕事だと思っていた」と話す高柳直弥代表取締役

高柳エンジニアリングは高柳社長の父親、高柳茂氏が1980年代半ばに創業した「高柳製作所」が始まり。夫婦2人で金属加工部品の量産品を製造する家内工業としてスタートしており、当時、小学生だった高柳社長は夜遅くまで製品の梱包作業を手伝わされたのを覚えている。「部品にさび止めの油を吹きかけてビニールで包んだものを箱に一つひとつきれいに並べて片付けるというのを、長男の私は夜の10時、11時まで、妹と弟も9時くらいまで手伝っていました」

下請けの下請けという立場に加え、製品が量産品なので利幅が薄かったことから、専用加工機が故障したのを機に、量産品の生産から撤退。1989年5月に会社組織にするとともに、地元の大手メーカーから生産現場で使う装置類や治具などの単品を製作する仕事を直接請け負うようになった。そのため、汎用の旋盤とフライス盤に加え、コンピューター制御で自動加工が行えるマシニングセンターを導入するなど大型投資を断行。中学生になっていた高柳社長は「父がものすごい借金をしたので、兄弟3人で電気代を節約しようと話し合ったのを覚えています。父の仕事を見ていて『大変そうだな、辛そうだな、将来はこういう仕事をやらないほうがいいな』と子ども心に思っていました」と語る。

父親の機械設計と相互補完する電気設計を学び入社。32歳の若さで社長に。リーマン・ショックを乗り越え取引先増やす

そんな高柳社長も大学に進学する際には、父親のアドバイスに従って電気工学系を選んだ。父親が機械系の設計技術者なので、電気系の設計技術者が加われば、大抵のものは外注に出さずに社内で一貫生産できるというわけだ。新卒で高柳製作所に入社して2年ほど勤務した後、設計の腕を磨くため他の会社で4年間修業して再び同社に戻った。この間の1999年3月、高柳製作所は従業員の増加に対応して社会保険を完備するとともに、「高柳エンジニアリング」に社名変更している。

リーマン・ショックの前年の2007年、父親から唐突に社長昇格を告げられる。役員経験もない32歳の若さだったので、「父の意図がわからず、『社長にさせられた』という思いでした」と高柳社長は振り返る。「今思えば、父が目の黒いうちに私を鍛えようと考えたのかなと思いますが、私が父の立場だったら同じことができただろうかと考えてしまいます」とも話す。

社長に就任するや否や厳しい不況に直面。父親と2人で営業に歩いたが、どこの取引先にも仕事がないという苦しい状況が続いた。ただ、この時に辛抱強く取引先に顔を出し続けたのが功を奏した。「2年ほどしてから紹介の紹介という形でどんどん取引先が増えていくようになり」(高柳社長)、経営を成長軌道に乗せることができた。

製造設備事業と精密部品製造事業が2本柱。3D-CADで顧客に製作過程を見える化

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
省力化設備の製作事例の一つ「NC両センター穴加工機」=ホームぺージより

現在の事業内容は各種製造機械や治具などを製作する「設備製造事業」とこれら機械や治具の部品を単品や少量生産で加工・製作する「精密部品製造事業」が2本柱。製造現場での人力による仕事を極力減らすための省力化設備へのニーズに応えて、NC(数値制御)装置付きの両センター穴加工機まで作っており、もはや工作機械メーカーでもある。NC装置のプログラムも自社開発している。治具については、取引先に自動車部品メーカーが多いことから、完成車のモデルチェンジに合わせて定期的に新しい治具の注文が入る。

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
アルミダイキャストのバリを取る治具=ホームぺージより

これまでに蓄積したノウハウを元に、取引先からの省力化設備や新製品製造用の治具についての「こういうものが欲しい」という漠然とした要望に対し、最適な提案ができるのが強み。毎回、新しい装置や治具を製作するので試行錯誤を強いられることも多いが、3D-CADを用いて、三次元画像であらゆる角度から完成後の形を確認してもらえるなど、「お客様に設備を作る過程を見える化している」(高柳社長)のも特徴だ。機械系と電気系のそれぞれの設計を担当する社員がいるので、「設計の段階からお客様の声をきちんと把握して、納得していただけるものを作れます」(同)。

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
3D-CADの3次元画像で完成後の形をあらゆる角度から確認

小規模製造業向け生産管理システムを導入 事務部門の社員でも納期の変更受付が可能に

自社の製造現場の効率化を狙いに生産管理システムを導入したのは2017年。まだ旧工場で仕事をしていた頃だ。小規模製造業向けに開発されたクラウド型のシステムで、原価管理、工程管理、図面管理などが簡単にできるのが特徴だ。

図面管理機能により、過去に製作した製品と同じものや類似したものを受注した際に、製作工程も含めて過去のデータを活用することで生産効率を高められるようになった。また、工程管理の画面をチェックして、複数の製品を同じ加工機械で別々の日に加工するケースがあれば、同じ日に済ませてしまうように変更するなどの選択もできるようになった。さらに「お客様から『納期を1日早められないか』という相談があった場合、(製造部門の社員はもちろん)事務員でもシステムの画面を確認すればすぐに回答できる」(高柳社長)など、重宝しているそうだ。

各種帳票類の作成・発行・承認・入金管理を行うクラウドサービスを導入 事務部門の効率化も進める

工場の製造装置・治具を製作するものづくりのプロフェッショナルが生産部門に続いて事務部門をICT化 高柳エンジニアリング(群馬県)
ICT化による事務部門の効率化が進む

2023年春には見積書や請求書など各種帳票類の作成・発行・承認・入金管理を行うクラウドシステムをシステム会社と契約。事務部門の業務改善に乗り出した。それまで、見積書や現品票、帳票類はすべて自社のフォーマットで作成したExcelシートに事務員が手入力していた。現品票というのは出荷・納品の際に製品に貼り付ける伝票のことで、宛先をはじめ製品名、数量、図面番号などが記載されている。各種帳票には製品名や数量など同一の内容が多いにもかかわらず、それぞれフォーマットが異なるので別々に手入力する必要があった。しかも、見積書だけでも月に200件以上を作成していたので、大変な作業量になる。

それが帳票類作成・発行クラウドサービスを導入したことにより、「見積書を作成すればすぐに現品票も納品書も請求書も自動的に起こせるので、入力の手間が大幅に減り、担当社員が喜んでいます」と高柳社長は満足げだ。「見積書も、お客様から『数量を変えてもう一度見積りしてください』と要求されることが多いのですが、そうした場合でも前に作成したファイルを開いて簡単に数量を変更した見積書に修正できるので、すごく便利です」とも。

同クラウドサービスの導入とほぼ同時期に証憑電子保存サービスと受領請求書サービスも契約した。証憑電子保存サービスは請求書、納品書などの帳票類を取引の行われたその時々に証憑としてそのまま保存するクラウドサービスだ。改正電子帳簿保存法の「電子取引要件」や「スキャナ保存要件」に準拠した電子保存ができる。一方の受領請求書サービスは電子データで受け取った請求書はそのまま、紙で受け取った請求書はスキャンしてクラウドにアップロードすると、振込・仕訳データを自動的に作成する仕組みだ。改正電子帳簿保存法やインボイス制度に対応。証憑電子保存サービスはもちろん、ネットバンキングや会計ソフトとも連携できる。

「最初は使い方がよくわからなくて、電子データや紙で送られてきた請求書を複合機のスキャナで読み取ってから、会社名と日付と金額を手入力で打ち込んでいました。しかし、請求書をAI付OCRで文字読み取りをするとそれらの情報が自動的にデジタルに変換されて保存されるとわかってから、すごく便利でとても助かっています」(高柳社長)

エンジニアとして成長することが社会貢献につながる

高柳エンジニアリングは「ものづくりのプロフェッショナル」を標ぼうするだけに、高柳社長は社員に対して常々、「自分自身がエンジニアとして成長することがすなわち社会貢献につながる。自分の技術を磨くために日々研鑽(けんさん)してほしい」と語りかけている。そして、中小製造業に共通する人手不足という悩みを抱える中、「仕事はたくさんあるので、仕事量が多すぎるのが社員に対して申し訳ないなと思っているところです。仕事を極力スムーズにできるように、効率が上げられるように工夫し、それでいて給与も増やせていける会社にしていきたいと思います」と結んだ。

企業概要

会社名有限会社高柳エンジニアリング
所在地群馬県伊勢崎市波志江町663-1
HPhttps://takayanagi-eng.com
電話0270-24-3633
設立1989年5月
従業員数役員社員合わせて常勤10人、非常勤4人
事業内容各種製造設備、治具、機械部品の設計・加工・製作・据え付け