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大手住宅メーカーの給排水衛生設備工事を専門に手掛ける五代工業株式会社は、顧客の住まいのライフラインを担う重要な仕事に従事する責任感を強く意識し、先を見据えた自律的経営を志向している。創業時から続くルール「経営陣の定年60歳」に沿って、次の世代へのバトンタッチのために、紙ベースで煩雑だった外部協力会社との取引書類管理を全面的にクラウド型業務管理システムに置き換えつつある。(TOP写真:宅地の下水桝(ます)取替工事)
業務管理の抜本改革に取り組み、50周年めどに次世代にバトンタッチ目指す
1978年に設立された五代工業は、異なる業種に勤めていた5人が出資して設立し「5人が実質的な“代表取締役”」という共同経営体制と、「60歳で定年」とし経営を退くというルールを定めた。社名の「五代」は文字通り、5人が代表であることを示している。中小企業としては珍しい経営体制だが、5人と奇数なのは多数決で即断できる意味があり、定年を60歳と定めたのは、厳密な線引きではないが還暦をめどに早めに後進に経営を任せることで企業の新陳代謝を早めるという狙いがある。
実際、5人のうち最年少役員が60歳になった2004年、自ら定めたルールに従って5人が一斉に経営を退き、澤田卓代表取締役社長と山口隆代表取締役専務ら3人(1人は後に退社)を後任に指名した。当時、澤田社長は39歳、山口専務は42歳だった。
山口専務は「そのときは2人とも独身だったので引き受けたが、結婚していたらどうだったか。会社は借入金もあるし経営責任を担うのは重い決断だった」と振り返る。4年後の2028年に会社は50周年を迎える。60歳半ばになる2人も50周年を機に、次の世代に経営をバトンタッチする腹づもりでいる。そのために取り組んでいるのが、先送りになっていた業務の抜本改革だ。
住宅の給排水衛生設備工事が主力 生活インフラ担い県内各地で施工実績拡大
同社は戸建て住宅や集合住宅の給排水衛生設備工事を主力事業とし、付随する建設・土木工事全般も請け負う。住宅新築に伴い水道本管から分岐して住宅に水道管を引き込む給水管取り出し工事や、省エネ需要に対応して住宅に再生エネルギー利用の給湯システム「エコキュート」の設置工事など多様な住宅関連のインフラ工事を手掛けており、横浜市を中心に県内各地に施工実績が広がっている。
令和6年能登半島地震による上下水道の被災で、給排水衛生設備は生活インフラとしての重要性が再認識された。先代経営陣から続く「仕事に感謝し、誠実であり、お客様の視点に立つ」という一貫した経営方針で生活インフラを支え続け、顧客からの安心と信頼を積み上げてきた。それが大手住宅メーカーからの安定受注に結び付いている。
社長と専務で完全分業制 施工は100%外注と割り切り協力会で施工技術の標準化推進
現在、澤田社長は現場全体を、山口専務は経営管理をそれぞれ担当する。「現場管理と事務で完全分業制をとっている」(山口専務)ことで、2人の代表取締役がうまく機能しているようだ。施工は100%協力会社に外注しており、個人事業主を含め19社が加入する「五代工業協力会」を組織し、施工技術の標準化や情報交換などに努めている。
しかし、施工業務の外注化で「利益管理がしやすい」(山口専務)半面、紙ベースで行っていた協力会社との取引管理業務が年々煩雑になっていた。例えば、協力会社が必要な部材を五代工業から購入する場合、手書きで伝票を起こして、月末にはそれをもとに受領者別請求書や元請け別請求書を転記して作成する作業量が膨大になる。
在庫表も別途作成し、在庫切れの部材は注文書を作成して仕入先に渡すなど別々の管理だったため、見積書番号や案件番号、受託先、施主名、現場住所、受領者名など転記項目も多岐にわたり、受注が増えるたびに作業負担が増大しミスの懸念も高まっていた。
「見積台帳、施工台帳、アフター(保守)台帳とすべて手書きだったので、3回は転記しなければならず、毎月の集計には紙と鉛筆と電卓で4日間かかっていた」(山口専務)。事務を管轄する山口専務が自ら業務の煩雑さと負担の大きさを改善するために2022年からシステム支援会社と検討を続けてきた。
見積から受発注、仕入、在庫管理まで連携 請求書発行も自動化
クラウド型業務管理システムを軸としたICTソリューションによる仕入や売上データの一元管理プロジェクトが動き出したのは2023年初めから。夏場には稼動して、業務効率は格段に改善。見積から受発注、仕入、在庫管理までのデータを連携させて、受領者別、元請別請求書発行まで自動化した業務管理システムの一元管理が可能になった。
「今では毎日30分ほどの入力を行えば、月末は1日で集計できるようになり、デジタル化によって記録も残るようになった」と目に見える業務効率化を実現できて山口専務も満足そうだ。材料名なども番号で入力可能になるなどパソコン操作は容易で、比較的高齢の従業員でもすぐに覚えることができるため「電卓を確認のために何回も叩くより作業が早くなった」ことも気に入っている点だ。
今後は、すでに個別に稼働している勤怠管理システムや顧客管理システムとも連動する予定だ。スマートフォンと位置情報システムによる勤怠管理や取引先と物品管理の紐づけも実現し、業務管理全体の改革がほぼ完了することになる。
2024年4月に全社一斉の完全週休2日制導入 働き方改革推進し採用拡大へ
業務処理データの一元管理と同時に取り組んできたのが働き方改革だ。有給消化の励行に加え、2024年4月1日に全社一斉の完全週休2日制に踏み切った。住宅の設備工事は顧客都合によっては土日の施工も避けられないが、代休取得を徹底する方針だ。ただ、時間外労働の上限規制が厳しくなる2024年問題については「作業時間をさらに効率化しないと完全な達成は難しい」とみていて、今後の課題としている。
前経営陣は円高不況、バブル経済崩壊と景気の荒波にもまれ厳しい経営環境で銀行借入を受けながら会社を維持してきた。現経営陣の最大のミッションは「経営を安定させることだった」(山口専務)。固定費や経費、借入金返済などから逆算して売上高を5億円ラインに設定し、十分な利益を確保し、好業績の際には決算賞与による還元も行えるようになった。
しかし、業界を取り巻く環境は激変。資材高騰や人件費アップ、鉄道の相互乗り入れによる沿線商圏の変化や競争激化など不安材料は増えるばかり。「今は受注が堅調だが、このままでは利益は目減りしていく」という危機感をバネに、新たな成長の踏み台を作るべく業務改革を急いできた。
地域貢献活動に積極的な取り組み 全社で引き継がれる経営理念のDNA
現経営陣が腐心してきたのは、経営基盤強化だけではない。「事業をやらせていただいているこの地域にどう還元できるか」という姿勢で地域貢献活動にも積極的に取り組んでいる。地元小学校の子どもたちのための「こども110番の家」となり、水道工事や補修作業で地域を回りながら徘徊老人に声掛けをしたり連絡する「みまもりネット協力事業者」も登録。従業員にも地域貢献の精神は浸透している。
社長、専務とも代表取締役を退任した後は、先代と同様に経営には一切かかわらない方針だが、経営理念と企業としての姿勢は五代工業のDNAとして引き継がれそうだ。実情に合わせて「定年60歳は65歳に改定する予定」(山口専務)だが、経営陣の総入れ替えは変えるつもりはない。設立50周年のバトンタッチに向けた準備は整いつつある。
企業概要
会社名 | 五代工業株式会社 |
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住所 | 神奈川県横浜市戸塚区東俣野町1031番地1 |
HP | https://www.godaikougyo.co.jp/ |
電話 | 045-852-5731 |
設立 | 1978年11月 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | 給排水設備工事、建設業(管、土木、とび、石、鋼構造物、舗装、しゅんせつ、水道施設等の工事)、不動産賃貸業、産業廃棄物収集運搬業 |