フェリング・ファーマ(以下、フェリング)は、6月3日からの世界夜尿症ウィークを前に、夜尿症をより深く理解してもらうくことを目的に、夜尿症との付き合い方、おねしょに悩む子どもへの寄り添い方をテーマとした、メディア向け夜尿症啓発セミナーを開催した。第1部では、「夜尿症」の疾患啓発に積極的に取り組んでおり、International Children's Continence Society(国際小児禁制学会)の理事でもある、順天堂大学医学部附属練馬病院 小児科 科長 教授の大友義之先生が、現役の小児科医として培った豊富な経験を元に、治療可能な「おねしょ」である「夜尿症」との付き合い方について講演を行った。第2部では、夜尿症に悩んでいた子どもとその母親へのインタビュー動画による、リアルな夜尿症患者の体験談を視聴し、元東京成徳大学 大学院 心理学研究科 教授であり、スクールセーフティネット・リサーチセンター代表理事の田村節子先生が、おねしょによる子どもの精神的負荷をはじめ、長引くおねしょが子どもの自尊心にどのような影響を与えるのか、夜尿症患児の自尊心向上のためにできることは何かなど、夜尿症患児の精神面にフォーカスした解説を行った。
第1部では、治療可能なおねしょ、「夜尿症」との付き合い方を考えると題し、順天堂大学医学部附属練馬病院 小児科 科長 教授 大友義之先生が講演を行った。「2歳ごろまでの乳幼児は、排尿習慣の自立前であるため、反射的な排尿として『おねしょ』をするが、その頻度は成長とともに減っていく。一般的に4歳くらいからは自立した排尿ができるようになり、『おねしょ』が消失する。この『おねしょ』の中で治療の対象となる『夜尿症』については、『5歳以降で月1回以上のおねしょが3ヵ月以上続くもの』として定義されている」と説明する。「夜尿症がある子どもの割合としては、5歳で15%、7歳で10%、15歳以上でも1~2%に夜尿症があるといわれている(日本夜尿症学会,夜尿症診療ガイドライン:11.2021)。小学校1年生においては1クラスあたり3.5人いる計算になる(わが国の日常診療で3/4を占める単一症候性夜尿症の有病率(7歳:10%、8歳:7%、10歳:5%、12~14歳:2~3%)から1学級を35人として算出,日本夜尿症学会,夜尿症診療ガイドライン2021)。さらに、日本の小学校低学年の子どもは夜尿症であっても受診していないことが多いとも報告されている(Nishizaki N, et al.:Int J Urol.2023 Jan 26.doi:10.1111/iju.15148)。夜尿症は自尊心やQOL(生活の質)にも影響するとの調査報告(Van Tijen NM,et al.:Br J Urol.81:98-9,1998)(河内明宏,他:夜尿症研究:4,21-23,1999)もあり、気にしていない様子でも、繰り返されるおねしょによって、子どもの自尊心は低下している恐れがある」と夜尿症の定義と自尊心との関連性について解説する。
「夜尿症による養育者への影響もあり、2019年にフェリングが実施した調査(フェリング・ファーマ社内資料-外部調査会社委託によるインターネット定量調査(n=507)2019年5月実施)によると、『最近1ヵ月以内で、朝、子どもを叱ったことがある』養育者の21%が、叱った理由として『おねしょをするから』と回答し、5番目に多いものだった。その反面、おねしょをした子どもへの接し方に悩む親も多く、『おねしょを理由に叱ったあと後悔したか』の質問には、約77%が『後悔した』と回答した」と養育者に与える影響について調査結果を交えながら紹介した。
「一般的に、夜尿症は成長とともに自然に治癒するが(Forsythe WI,et al:Arch Dis Child.49(4):259-263,1974)(赤司俊二:夜尿症研究4:31-35,1999)、1週間で『おねしょ』が3回以上ある場合は、3回未満と比べて自然に治りにくいといわれている(Yeung CK,et al.:BJU Int.97(5):1069-1073,2006)。医療機関での受診、治療開始の目安としては、小学校1、2年生でほぼ毎晩『おねしょ』がある場合、小学校3年生以上で週数回以上の『おねしょ』がある場合とされている(服部益治、診療と新薬:52(1)3-7,2015)。夜尿症の治療を行うことで、治療開始から半年後までに80%の子どもで症状が軽快したという報告がある(Naitoh Y,et al.:Urology.66(3):632-635,2005)。治療後2年で治癒した子どもは75%以上と報告されていることから、早めに治療することで治癒率が高いとの報告もされている(池田裕一:Prog Med.37(2):231-235,2017)。夜尿症の治療について、生活改善のみでも1~2割は治る。早寝早起きや、規則正しい生活をし、夕食後から寝るまでの時間を2時間程度あけるなどの生活の改善のほか、食事や寝るときの習慣を改善することに取り組む。また、治療方法については患者によって様々であり、年齢や症状に応じて医師が選択する」と早期の治療という選択肢もあることを教えてくれた。
最後に、おねしょをしてしまった子どもへの対応やポイントについて「おねしょは本人の性格や、家族の育て方とは無関係であること。そして、起こさない、焦らない、怒らない、比べない、ほめることが大事、つまり治療の第1歩として患者に寄り添うことが大切となる」と話していた。
第2部では、夜尿症元患児とその親の体験談から考える「親子間でのおねしょの捉え方、感じ方の差とは」と題し、夜尿症に悩んでいた子どもとその母親2組のVTRが上映された。その後、おねしょが子どもの自尊心に与える影響、夜尿症患児の自尊心向上のためにできることについて、スクールセーフティネット・リサーチセンター代表理事・元東京成徳大学 大学院 心理学研究科 教授 田村節子先生が講演を行った。「おねしょが長引く中で、子どもは学業不振に陥ったり、兄弟姉妹からの嘲笑を受けたり、親の理解を得られないことがある。これは無力感や自責感、抑鬱感の増大、睡眠の質の低下につながる恐れがある。つまり、周囲の言動や親の対応によって、子どもの自尊心が低下し、学校生活の質にまで影響を及ぼすことがある」と夜尿症が子どもの心に与える影響について語る。
「夜尿症は母親のデイリーハッスル(日々の慢性的な煩わしい出来事)の一つとなる可能性がある。また、長引くおねしょの中で子どもは夜尿してしまっても平気な顔をしたり、嘘をついたりなど心理的防衛体制を張ることがあり、これは親の苛立ちを引き起こすことがある。さらに、夜尿症について『親の責任』と思い込み、悩みを深刻化してしまうというケースもある。夜尿症患児の親は嫌悪感、自罰感、自責感、母親失格という負の心理的刻印をして、抑鬱に感じたり、努力しても報われない無力感を感じてしまう。これらのことから、夜尿症を発症した子どもの親にも心理的ケアが必要なことがわかる」と夜尿症によって発生する母親のストレスについて説明していた。
世界には「おねしょ(夜尿症)」で悩む子どもと保護者が沢山いる。その悩みから一日も早く解放させてあげようという決意のあらわれとして、国際小児禁制学会(ICCS)と欧州小児泌尿器科学会(ESPU)によって「世界夜尿症デー」が2015年に制定された。2022年からは、実施期間を延長して、「世界夜尿症ウィーク」として、啓発活動を行っている。「世界夜尿症ウィーク」は、夜尿症は治療ができる疾患であること、夜尿症に悩む子どもたちのために医師に相談するなど、できることがあることを認識してもうらために制定されたもの。一般の人や医療従事者の夜尿症に対する関心を高めるための取り組みを、世界各地の関連学会や団体が呼びかけており、今年の「世界夜尿症ウィーク」は6月3日~6月9日に開催される。
フェリング・ファーマ=https://www.ferring.co.jp