小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)

目次

  1. 1977年創業、マンションや戸建てなど住宅の給排水設備工事・メンテナンスで40年あまりの実績
  2. 前社長の思いがけない逝去。会社をたたむか、続けるかで苦悩するも従業員の雇用を維持し、継続する道を選択
  3. 住宅着工数の減少、人材不足、物価高のトリプルパンチ。苦境だからこそ従業員を大切にしたいと技術力の確立に向けて支援
  4. 同業者も世代交代が進み、業務の進め方も進化。ICTの社会的普及にも対応すべく、外注していた申請業務を社内で行うためのCADシステムを導入
  5. 助けになったのは前社長が築いてきた「確かな仕事」の実績。築いてきた信頼が土台になり、未来への足がかりとなっている
  6. 設備もどんどん進化する。勉強し続けること、挑戦することが必要
中小企業応援サイト 編集部
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一戸建てやマンション、オフィスビルなど建築物に欠かせない空調や給排水設備。その施工やメンテナンスの多くは、小規模な事業所が地域の総合建設業や工務店から請け負うことが多い。しかし、設備工事業界では今、人材不足が社会的な課題となっており、小規模事業主のもとにはさらに人が集まらない。その上、住宅着工数は減少の一途。材料費の高騰も追い打ちをかける状況下、少ないマンパワーでの業務遂行を余儀なくされている事業所は数多い。

今回紹介する群馬県前橋市のニチレイ設備株式会社もまた、そんな設備工事業の一つである。同社は創業者である前社長の急死に伴い、妻の丸山みね子氏が2016年に代表取締役に就任。時代のニーズに応えICTの導入にも取り組んできた。先の見えない不安に駆られながらも事業を継続してきた丸山社長が信条としてきたのは、昔からの顧客を大切にしてコツコツと続けること、そして、新しいことに挑もうとするチャレンジ精神だった。(TOP写真:複雑かつ作業量の多い水道工事申請に特化したシステムを操作)

1977年創業、マンションや戸建てなど住宅の給排水設備工事・メンテナンスで40年あまりの実績

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
1977年に前橋市で設立されたニチレイ設備の社屋

群馬県前橋市でマンションや戸建て等の給排水設備工事を手掛けるニチレイ設備は1977年創業。当初は建築物の空調工事をメインとしていたが、次第に住宅の給排水設備工事がメインとなり現在に至る。創業当初から取引のある地元の総合建設業からは、今も数多くの給排水工事を請け負う一方、マンションオーナーから直接メンテナンスの依頼が来ることも多く、地元における長年の実績は同社への信頼につながっている。

現在代表取締役を務める丸山みね子氏は、2002年に家業の事務を手伝うために入社、2016年に創業者である夫から経営を引き継いだ二代目である。しかし、そのバトンタッチは思わぬ形で訪れた。

前社長の思いがけない逝去。会社をたたむか、続けるかで苦悩するも従業員の雇用を維持し、継続する道を選択

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
ニチレイ設備代表取締役の丸山みね子氏。夫の死去に伴い代表取締役を引き継いだ

2016年、心臓疾患により入院した先代の丸山社長は、治療の甲斐もなく入院5ヶ月後に帰らぬ人となった。

「まさか、亡くなるなんて思ってもいませんでした。退院してまた仕事に復帰するとばかり思っていましたから」と語る丸山社長にとって、まさに夫の死は青天の霹靂(へきれき)だった。しかし、悲しみに暮れる間もなく、丸山社長は会社の存続を決断する立場となってしまった。

住宅着工数の減少、人材不足、物価高のトリプルパンチ。苦境だからこそ従業員を大切にしたいと技術力の確立に向けて支援

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
マンションや戸建てなどの建築物における給排水管工事を手掛ける同社。設備更新やメンテナンスの際には、技術や設備における最新の知識も必要とされる

丸山社長が会社を引き継いだ2016年頃は、社会も曲がり角の時期だった。建築業においては少子化に伴う住宅着工数の減少、現場で働く人手の不足、そして物価高騰が追い打ちをかけ、小規模事業者は苦しい状況に追い込まれている。

そんな逆風の中でも雇用を守り、昨年度からは従業員の昇給にも取り組んできた丸山社長。「一人ひとりの技術力を確立させてあげたい」という思いから、スタッフに対して資格取得へのサポートも行っている。

「とにかく従業員を大切にしたいのです。長年お付き合いの続くお客様のおかげで、今のところ切れ目なくお仕事があります。だから若い人にはどんどん挑戦してほしいですね」(丸山社長)

同業者も世代交代が進み、業務の進め方も進化。ICTの社会的普及にも対応すべく、外注していた申請業務を社内で行うためのCADシステムを導入

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
給排水申請書類をまとめたファイル。申請業務の効率化を支援するCADシステムを使いこなすべく、さらなる勉強と実践が必要と語る丸山社長

「近年同業者の代替わりが進み、業務の進め方にもさまざまな変化が見られる」と話す丸山社長。特にICTの活用は人手不足を補い、業務の効率化にも寄与しているといえるだろう。こうした業務の中で、同社においても重要な課題となっていたのが、給排水工事を実施する際、各市町村に提出する煩雑かつ時間を要する申請業務だった。

「それまでは、専門に請け負う方に外注していましたが、丸山専務の進言もあり、ICTを活用して社内で申請業務ができる体制を整えることにした。

水道・土木・建設業界では、人手不足への対応や作業効率化への社会の要請から、工事現場の作業管理・報告・申請業務といった作業にもICTの導入が進みつつある。とりわけ給排水工事の実施においては、各市町村に申請する給水申請、排水申請、本管図面、施工図、建築図、プラン図に加え、材料集計や添付する申請書類をワンストップで作成できる水道申請に特化したCADシステムがあり、操作方法にさえ習熟すれば、これまで属人化していた作業を誰でも担うことができる。同社は2021年に補助金を活用してこのシステムを導入し、現在丸山専務が申請業務を手掛けているという。

「まだ数えるほどしか使っていませんので、まずは使いこなせるようにすることが目標ですね。でも、ICT関係は日々変わっていきますから、今後も新しいソリューションが出てきたら、導入する決断をしていかなければならないでしょう」と丸山社長は先を見据えている。そこで、同社はパソコン等ソリューションの購入窓口となるシステム支援会社を一本化。保守からトラブル解決まで迅速に対応してもらえるようになったという。

助けになったのは前社長が築いてきた「確かな仕事」の実績。築いてきた信頼が土台になり、未来への足がかりとなっている

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
まだ紙が多いが、ペーパーレス化に積極的に取り組んでいる

現在マンション等の定期メンテナンスのほか、細かいリフォームや修繕にも応じている同社だが、新たな開拓も行っている。専門学校で設備技術を学び、丸山社長とともに会社を支えてきた丸山専務は、最近同業の若い仲間たちと積極的に情報交換を行うなど、今後につながるきっかけ作りにも力を注いでいるという。そして、最近新たに工務店2社との取引を開拓、元請先の間口が広がった。また、エンドユーザー向けにホームページを立ち上げるなど発信にも積極的に取り組んでいる。

丸山専務は地域での仲間や取引先と関わる中で、父がかつて手がけた誠実な仕事ぶりがあったからこそ、今自分たちに仕事がもたらされていると、実感しているという。「息子は『親父がいたからなんだな』と言っています。父親から学んだみたいです」と丸山社長は眼を細める。丸山社長自身も40数年に渡って築いてきた実績と信頼を「夫の残してくれた財産です」と胸を張る。

設備もどんどん進化する。勉強し続けること、挑戦することが必要

小規模事業主にとってICTの導入は大きな決断 「挑戦する心」と「持続的な学び」を両輪に据え、失敗も糧にして時代の荒波を乗り越えてゆく ニチレイ設備(群馬県)
時代に応じて新しいソリューションを積極的に取り入れていく方針の丸山社長

前社長の残した実績が今なお顧客との信頼関係を結んでいるニチレイ設備。丸山社長は「今は世の中が大変な時期ですから時流をよく見て、欲をかかずにやっていければ」と慎重に構えている。とはいえ、「空調設備や給排水設備はどんどん進化していますから、常に勉強が必要」と認識もしており、情報へのアンテナを張りめぐらせつつ、新しいことへの挑戦心も忘れてはいない。

「続けるって本当に大変なことですけれど、何しろ時代についていかないといけません。それに、新しいこともやってみないことには、いいも悪いもわからない。とにかく必要なことなら何でも挑戦してみようと思っています」と意欲的だ。

新たな挑戦としては、同社ではペーパーレス化にも取り組みつつある。しかし、最適な運用にはまだ試行錯誤が続きそうな状況だという。それでも、少しずつ歩みを進めようとする姿勢は力強い。

「会社を手伝う前の主婦の私だったら、できなかったと思うことがたくさんあります。失敗も多くしましたけど、とにかくコツコツと続けていくことが大切ですね」と振り返る丸山社長。その眼差しは次なる担い手に注がれている。

スタッフの技術力の確立とともに、ICTの技術を使いこなしていくことで、今後相乗効果が生まれることは想像に難くない。コツコツと着実に歩みを進め、挑戦し続けるニチレイ設備の姿は、地元を支える中小企業の希望の星となるだろう。

企業概要

会社名ニチレイ設備株式会社
住所群馬県前橋市亀里町246
HPhttps://nichireisetubi.com/
電話027-265-4371
設立1977年
従業員数4人
事業内容管工事業、上下水道設備及び空調設備、換気設備工事