日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)

目次

  1. 工事品質高めるための技術追求の企業風土が成長支える
  2. IT企業のシステムエンジニアから家業へ。建設業全体を俯瞰して見るため、4年の修業経て「スーパー職人」主体の技術型経営へ
  3. 技術者増員・育成で全国にも誇れる職人集団を形成
  4. 事業エリアを拡大 ユニフォームも現代の職人にふさわしいスタイルに変身
  5. 「メールを使わず、FAXが当たり前」にショック!原価管理システムを導入し、「どんぶり勘定」から脱却
  6. 工事進捗把握の精度高まり赤伝提示も 顧客との信頼関係強める
  7. プレ加工技術と職人技プラス提案営業の三位一体で工事品質向上と納期短縮を実現
  8. ICTリテラシーを高め、図面作成や技術者配置にAI活用も
  9. 気候変動対策で断熱が注目 熱絶縁技術者をあこがれの職業にする決意
  10. 日本トップクラスの熱絶縁技術者が若手を育成し、担い手不足解消と技能の伝承を
中小企業応援サイト 編集部
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全国にも誇れるスーパー職人集団として長野県でビルや工場などの断熱・保冷温施工事業をリードしている企業がある。南信地域の中心都市・飯田市に本社を置く株式会社ササキ保温工業だ。国家資格に裏打ちされた高い技術力を持つ施工技術者を多く抱えて高品質の工事を提供し、顧客の厚い信頼を得ている。東京のIT企業でSE(システムエンジニア)経験のある佐々木志郎代表取締役が2015年に就任してからは、業務のICT化によって古い業界体質から脱皮し、将来的には建設業界の担い手不足や技能の伝承に対応する技術者育成機関の開設を目指している。(TOP写真:職人技が光る断熱工事の施工現場)

工事品質高めるための技術追求の企業風土が成長支える

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
断熱面の施工品質が重要。ササキ保温工業が施工した断熱工事

ササキ保温工業は、断熱材商社に勤めていた佐々木社長の父・佐々木久雄氏(現会長)が1979年7月に個人事業として創業。1980年7月に有限会社として設立した。断熱材商社時代に取引のあったサブコン(元請けのゼネコンから設備関連の工事を請け負う事業者)から「断熱施工をやってみないか」といわれたのが起業のきっかけだったという。

ただ当時は断熱工事の認知度がまだ低かった時代。しかも、「鉄管やダクトにしても断熱面が仕上がり面になるため断熱施工の品質が重要になるが、長野県は断熱工事の技術力水準が低く、ノウハウもないことから工事品質を高めるのに苦労した」(佐々木社長)。久雄社長(当時)を先頭に工事品質向上への技術習得の日々が続き、次第にノウハウを確立し顧客の信頼を獲得してきた。この技術追求の企業風土が今日のササキ保温工業を支えている。

IT企業のシステムエンジニアから家業へ。建設業全体を俯瞰して見るため、4年の修業経て「スーパー職人」主体の技術型経営へ

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
「情報化社会ではお客さんから直接指名される時代になる」と語る佐々木志郎社長

佐々木社長の入社は2009年。東京のIT企業でSEとして忙しい日々を送っていた20代後半の頃、「父が病気がちなので、『帰って会社をやってくれないか』と言われ、結局父の求めに応じることにした」。しかし、2009年と言えば、2008年秋のリーマン・ショック直後の大不況期。ササキ保温工業の業績も年間売上高が1億5000万円程度にまで落ち込み、経営環境は厳しかった。

「建設業のことは何もわからないから断熱や施工の技術を学ぼうと思ったが、それではただの施工店で終わってしまう」と考えた佐々木社長は、「下請けとして断熱工事を請け負うだけではダメだ。コントローラーとしての役割を担える力をつける必要がある」として〝修業〟に出ることにした。

取引先でもあったサブコンに4年間勤めた。「外から断熱業界を俯瞰(ふかん)的に見ることで、業界の全体像」をつかみたいと思った。世の中が情報化社会に進む中で、下請事業者であっても技術力があれば直接お客さんに指名される時代になる。幸い当社は技術力が高い。当時でも全国トップクラスの技術者は5、6人いた。このスーパーな技術者をどう見せるかで業界の良さを知らしめ、会社の発展性も生まれる」(佐々木社長)。自ら技術を身に付けることより高度な熱絶縁技術を広める経営に徹する意を固め、2014年に営業担当取締役として会社に戻った。

技術者増員・育成で全国にも誇れる職人集団を形成

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スーパー職人が活躍する断熱施工現場

2015年6月の株式会社への組織変更と同時に、代表取締役社長に就任。すぐに行動を起こしたのは、以前同社に在籍し、外に出ていた技術者を戻し、自社でほとんどの施工を行う内製化だ。技術者育成にも力を入れた。国家資格の取得や若手育成に積極的に取り組み、全国にも誇れる職人集団をつくり上げてきた。

現在、同社の現場技術者24人のうち、国家資格の1級熱絶縁施工技能士は18人、2級熱絶縁施工技能士は2人を擁する。「1社で18人の1級技能士が在籍するところは全国にもほとんどないと思う」と、佐々木社長は胸を張る。

事業エリアを拡大 ユニフォームも現代の職人にふさわしいスタイルに変身

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
新ユニフォームを着用した佐々木志郎社長

技術者を増やし、南信地域主体だった事業エリアも拡大した。2017年に長野営業所を開設し長野県全域に広げ、2022年には名古屋営業所も新設した。現在の年間売上高は7億円程度に成長したが、「地域による市況の波の影響を受けにくい体質にする」(佐々木社長)のが狙いだ。

建設現場にどうしてもつきまとう3Kイメージを払拭するために、細身でスタイリッシュなデニム生地のユニフォームに切り替えた。パーカータイプやベストもあり、色も選べる。ユニフォームの見本カタログから各自が好みで選択できる仕組みで、特に若い社員には好評だ。

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社員がユニフォームを選ぶカタログ

「メールを使わず、FAXが当たり前」にショック!原価管理システムを導入し、「どんぶり勘定」から脱却

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
真っ先に導入した原価管理システム

「メールは使っていない。FAXが当たり前。紙の請求書を上げるとなると、束になった日報を繰って電卓を叩いていた。ものすごくショックを受けたし、これはまずいと思った」。佐々木社長は入社当時を振り返る。

業務を効率化するICTの導入・活用が大きな課題だった。〝修業〟を終えてササキ保温工業に戻る際に、まず見積から実行予算、原価管理、支払管理、回収管理を一元管理する原価管理システムを導入。「事務員さんに日々日報を入力してもらい、オンタイムで工事の進捗(しんちょく)を把握できるようにした」(佐々木社長)。従来の「どんぶり勘定」からの脱却だ。

2018年には見積り段階で労務費と材料費を分けない「複合単価」という業界慣習に対応する機能を持つ原価管理システムも導入し、両システムを統合するための準備作業を進めている。「新システムの構築が完了すれば、より正確に見積りを出せるようになり、正確な実行予算の策定が可能になる」(佐々木社長)と期待する。

工事進捗把握の精度高まり赤伝提示も 顧客との信頼関係強める

とはいえ、現状でも見積りや実行予算、工事進捗把握の精度は格段に向上している。「工事進捗状況から、工事途中での見積り額修正も早い段階でお願いできるようになった。逆に過剰利益が見込める時は減額修正の赤伝を提示することもある」(佐々木社長)。実際には「赤伝を切る必要はない」とする請負先がほとんどだが、工期中に赤伝提示できるのは原価管理システムあってのものだ。見積りへの信頼度向上によって、顧客との信頼関係は飛躍的に高まるという大きな効果をもたらしている。

佐々木社長は「見積りや工事進捗把握の精度が高まり、平均化されてきたことによって事業予測が見通しやすくなり、経営計画立案には非常にプラスになっている」と評価する。

プレ加工技術と職人技プラス提案営業の三位一体で工事品質向上と納期短縮を実現

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
CAD対応のデジタルカッター

同社は現場の生産性を高めるため、「職人技を究極までパッケージ化する」取り組みに力を入れている。現場で使う部材をあらかじめ自社工場で加工・製造するプレ加工技術と、職人技、提案営業のノウハウを組み合わせて、工事品質の向上と工期やコストの削減を実現している。

自社工場では断熱工事に欠かせないグラスウール断熱材を高速・精密カットするCAD対応の高機能デジタルカッターや各種板金加工機械などで部材を加工・製造しているが、今後はCADデータを認識して断熱材を自動で加工するシステムの導入も検討する考えだ。

ICTリテラシーを高め、図面作成や技術者配置にAI活用も

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
社内のICTリテラシー向上へ

業務のICT化推進には、「社内のICT文化の向上」が課題だ。高度なシステムを導入しても使いこなせないのでは意味がない。「当初情報伝達手段にスマートフォンのメールを使おうとしたが、誰もメールを見ないので愕然(がくぜん)とした」と話す佐々木社長。今はビジネスチャットツールで出退勤管理や休日などの申請業務をデジタル化しているが、今後はさらにICTリテラシーを高めていく必要がある。

その先の将来には、施工図面の作成や現場の状況を事前に認識した上での適正な技術者配置などへのAI活用を視野に入れている。

気候変動対策で断熱が注目 熱絶縁技術者をあこがれの職業にする決意

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
部材をプレ加工する自社工場内部

気候変動問題への関心が高まる中で、熱エネルギーを有効活用する断熱・保冷温対策への関心も高まっている。しかし、熱絶縁技術者の社会的地位は必ずしも高いとは言えない。

「IT業界は最先端のように見られるが、SEも建設技術者もやっていることは同じようなもので、泥臭い仕事だ。それなのにシステム系だけが格好良く見られるのは腑に落ちなかった。むしろ、システム系の日本のレベルは国際的には低いのに対し、建設技術は世界トップレベル。熱絶縁技術者を表舞台に引き上げるには、憧れられる職業にしなければならない」。佐々木社長が入社以来抱き続けている疑問と思いだ。

日本トップクラスの熱絶縁技術者が若手を育成し、担い手不足解消と技能の伝承を

日本トップクラスの技術とICTを活用した工事進捗把握の精度で顧客の信頼関係を築き 断熱・保冷温施工のスーパー職人集団として成長  ササキ保温工業(長野県)
ササキ保温工業の本社

スマートなユニフォームを採用したのも、「格好良い仕事にしたい」との思いからだ。「3Kイメージの払拭(ふっしょく)には熱絶縁技術者自らが変わる必要がある」(佐々木社長)として、現在策定中の経営計画の柱に技術者研修制度の整備と技術者育成機関の開設を盛り込む考えだ。「情報を一切外に出さないのが古き良き職人気質だが、デジタル化が進む今の時代だから、職人さんから情報発信して共有することが可能になると思う」。2024年度の新卒技術系社員3人を対象に、将来の技術者育成プログラム構築に向けた取り組みを始めた。8年計画で実現を目指す。

建設業界は将来の担い手不足と同時に、高い技術力を未来につなげていく技能の伝承という大きな課題に直面している。課題解決に向け「日本トップクラスの熱絶縁技術者がいる長野県飯田市だからこそ、人材育成ができる」(佐々木社長)として、熱絶縁施工技能士育成プランの具体化に動き出した。

企業概要

会社名株式会社ササキ保温工業
本社長野県飯田市松尾清水8104番地1
HPhttp://www.sasakihoon.co.jp
電話0265-22-7329
設立1980年7月
従業員数38人
事業内容  断熱・保温・保冷工事施工、グラスウールダクト工事施工、ウレタン吹付工事施工、ラッキング・板金工事施工、各種保温資材加工品製造・販売など