近頃は減損に関する記事をよく見かける。経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2019年3月期として747億円の特別損失を、同年4~6月期には514億円の特別損失を計上した。これらはいずれも「減損損失」だった。一体、「減損」とは何だろうか。
目次
減損とは?
減損とは会計処理方法の1つである「減損処理」のことだが、「減損会計」の総称として使われることもある。
減損会計とは、固定資産の資産価値が低下し、投資した金額の回収が見込めない場合、回収可能な価額まで下げる会計処理のことだ。固定資産から売上が回収されなくなっても、貸借対照表に計上されたままになっていると、投資家などが投資判断を誤ることがあり、信頼を失いかねない。そのようなことがないように、会社が保有する資産の価値の実態に合わせて帳簿価額を調整するのだ。
たとえば、A社が1億円をかけて建設したチョコレート工場があったとしよう。この工場は、会社の資産として貸借対照表に計上されている。
この工場は、他社ブランドのチョコレートを製造するために建設されたが、近年のダイエットブームの影響でチョコレートの消費が低迷し、A社に対する発注量は当初の想定を大きく下回っている。現在、10の製造ラインのうち稼働しているのは2ラインという状況の場合、A社のチョコレート工場に1億円の価値があると言えるだろうか。
工場の価値はいくらなのか?
チョコレートを製造するために建設されたA社の工場が5分の1しか稼働していない場合、このチョコレート工場の価値はいくらと考えるべきなのだろうか。
工場の価値を考えるときのお金の流れを押さえておこう。手元にあるお金を増やすために会社経営を行うという大前提に立てば、手元にあるお金を使ってモノを作り、それを販売(サービスを提供)してお金を得るというのが、商売の原理原則だ。
すなわち、100円の元手で作ったチョコレートを150円で販売して、150円を得るという流れだ。販売単価の150円と製造単価の100円の差額50円が、チョコレート1個あたりの利益だ。税金を考えなければ、利益を得る活動は手元資金を増やす活動と言えるだろう。
実際は、借入や株式発行によって資金を調達して事業を行うのだが、やはり「お金を資産に換えて、それを販売して、またお金に換える」という活動がベースになる。工場へ投下された資金は、製造ラインの稼働によって将来の売上(キャッシュ・フロー)を得るための製品を製造し、間接的に資金回収に寄与していると考えることができる。
では、本来の5分の1しか稼働していない工場は、どの程度投下資金を回収していると言えるだろうか。
20年で工場の設備投資を回収できると見込んでいたとしよう。実際の稼働が5分の1ならば、設備投資の回収は20年の5倍、100年かかることになる。その間には、設備の老朽化や新たな技術革新などにより、現在の設備は利用できなくなる可能性が高い。
この場合、工場に投資した1億円の実際の価値は、投資回収が見込まれる5分の1、すなわち2,000万円として評価され、その差額8,000万円が減損損失として処理されるという考え方が、減損会計の基本である。つまり、将来の投資回収の見込みを、現在の資産価値評価の判断材料とするのだ。
対象となる資産は?
減損会計の対象となるのは、土地や建物などの有形固定資産、営業権(のれん)や特許権、商標権、ソフトウェアなどの無形固定資産、投資その他の資産だ。
(※):投資有価証券なども減損処理が行われるが、別のルールに従って処理されるため、ここでの説明は省略する。
減損処理の手順は?
減損処理は、以下の手順で行われる。
1. 固定資産のグルーピング
グルーピングは、基本的に独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位で行われる。同じ用途の資産グループに分けるのだが、具体的には店舗や支店などでグルーピングをすることになる。
2. 減損の兆候の把握
まとめた資産グループに対し、減損の兆候の有無を確認する。減損の兆候とは、資産または資産グループを使用して行う営業活動によって発生する損益やキャッシュ・フローの赤字が続く場合や、資産の価値が低下するような資産の使い方をしている場合などが該当する。
また、「事業の廃止・再編成」「経営環境の著しい悪化」「市場価格の著しい下落」などがある場合も、減損の兆候があるとされる。
3. 減損損失の認識
減損の兆候を認めた場合、対象の資産グループについて減損損失をするかどうかの判断を行う。資産グループが将来獲得できるキャッシュ・フローの総額と、対象の資産グループの帳簿価額(注1)を比較し、帳簿価額が大きい場合は、減損損失を計算するステップに進む。
注1):資産を取得した時の価額を「取得価額」と呼ぶが、時間の経過とともに減価償却された残額が会計帳簿に記載されることから、この残額のことを「帳簿価額」と呼ぶ。
4. 減損損失の測定
回収可能価額よりも帳簿価額の方が大きく、減損損失をすべきと判断したときは、その資産グループの帳簿価額を実態にもとづいた回収可能価額(注2)まで減額し、減少額を減損損失として計上する。
(注2):回収可能価額とは、「使用価値」(資産グループを使い続けることや使用後に処分することにより得られると予想されるキャッシュ・フローの現在価値)と、「正味売却価額」(資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額)のいずれか高いほうの金額をいう。
5. 減損処理
減損処理をした資産については、減損損失を控除した帳簿価額から残存価値を控除した金額を、会社が採用している減価償却の方法に従って合理的に配分していくことになる。なお、減損損失の計上後は減損損失の戻入れは行わないため、減損損失を計上した後に当該資産グループの価値が向上したとしても、会計上は何の処理も行わない。
減価償却と減損処理との違いは?
ここで、「減価償却」と「減損処理」について確認しておきたい。
「減価償却」とは、時間の経過とともに資産価値を減少させていく会計処理のことだ。たとえば、工場は建物や機械装置といった資産であり、これらは「減価償却」の対象となる「減価償却資産」(注3)に該当する。工場が建てられて事業のために使用を開始した時点から「減価償却」が行われ、資産価値を減少させていく処理が行われる。
それに対して「減損処理」は、資産価値の低下が見られる資産の帳簿価額を切り下げる会計処理だ。資産の帳簿価額を減少させる点は同じだが、「減価償却」は計画的に行われる処理であるのに対して、「減損処理」は臨時的に行われる点が異なる。
また、臨時的に資産価値を減少させる「臨時償却」という処理もある。
(注3):減価償却資産
会社の資産は、大きく2つに分けられる。減価償却を行う「減価償却資産」と、減価償却を行わない資産だ。前者には建物、備品やソフトウェアなどがあり、後者には土地や特許権などがある。
臨時償却と減損処理の違いは?
2002年に公表された企業会計審議会の「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」によると、「臨時償却」とは、減価償却計算に適用されている耐用年数または残存価額が、予見できなかった原因などによって著しく不合理となった場合に、耐用年数の短縮や残存価額の修正に基づいて行われる減価償却累計額の修正とされている。
臨時的に行われる点は「減損処理」と共通するが、「臨時償却」が過去の修正であるのに対し、「減損処理」は将来予測に基づいて資産価値を減少させる点が異なる。
減損を行った後は?
減損処理が行われると巨額の損失が計上されるため、企業の業績が悪化するというマイナスイメージを与えることが多い。
一方、減損処理をすると帳簿価額が減少するため、それまで行っていた減価償却を継続するよりも、減損処理を行った後のほうが減価償却費の負担は軽くなる。つまり、減損にはその後の業績を向上させる効果があるのだ。
冒頭で紹介したジャパンディスプレイにおいても、減損を行った翌年は減価償却費が200億円減少すると見込んでおり、今後の業績回復が期待されている。
しかし、減損損失計上後の減価償却費軽減による業績回復は、計算上の効果に過ぎない。事業自体にお金を稼ぐ力がなければ、減損処理によるプラス効果はすぐに吸収されて、業績は悪化していくことになるだろう。
減損処理をする際は慎重に
減損が計上される事業でも経営者側からみると、今はあまりよくないが将来はもっと良くなるという自信がある場合も多い。そのため、減損が適用される場面では、監査を担当する監査法人が悪者になることがある。
手元にあるお金を使ってモノを作り、それを販売(サービスを提供)してお金を得るという商売の原理原則を考えると、減損処理が行われる会社は商売が成り立っていないのではないかと思える。それが主力事業なら、なおのことだ。
だからこそ必要な会計上の共通ルールとして、減損処理が活用されているのであり、それがニュースになっている際には、その後の会社業績が回復するように見えているのが実態なのか、それとも計算上にすぎないのか、を見極める必要があるといえよう。
文・風間 啓哉(かざま・けいや)