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大勢の人が働いている会社の事務所にゴミが落ちていなかったり、大勢の人が出入りする施設の床やトイレがピカピカだったりするのには理由がある。毎日のようにクリーニングをする人がいるからだ。群馬県前橋市にあるサンユービルメンテナンス株式会社は、1974年の創業から半世紀にわたって、そうした事務所や施設のクリーニングを手がけてきた環境美化のエキスパート企業だ。(TOP画像:サンユービルメンテナンスのホームページに掲載されている工場内休憩所の清掃作業の様子)
「私の父親を含め3人の仲間で始めた会社だと聞いています」と、創業当時の状況を振り返るのは、現在の代表取締役を務める田中一敏氏。自身はまだ生まれていなかったため、当時のことを直接は見ていないが、「小学生になった頃もまだ、家族全員が手伝っているような会社でした。私も少し手伝っていました」(田中社長)と、初期の仕事の様子を話す。
大手ベアリング製造会社や自動車販売会社を顧客に持ち群馬県内の施設をクリーニングして回る
その頃は、別の会社から仕事を回してもらう下請けとしての活動がほとんどだった。やがて、独自に取引先を開拓するようになり、今はほとんどの仕事で、企業や事業所などから直接依頼を受けて作業員を派遣している。現場でクリーニングを担当する作業員は40人ほどで、このうち20人ほどが群馬県内にある日本で最大手のベアリング製造会社の工場に通って、事務所やトイレなどのクリーニングを行っている。
他にも自動車販売会社の店舗や生命保険会社の営業所、病院に福祉施設に教育機関と、幅広い取引先を持っている。群馬県内の各所に仕事先が散らばっている関係から、前橋市元総社町にある本社に来る人は、社長と幹部社員にとどまっている。だからといって、従業員に日々の仕事の内容や、会社からの連絡事項が伝わらないという心配は無い。2021年に、仕事に関連する情報をデジタル化してサーバーに蓄積し、共有化することで外部からでも閲覧できるようにしたからだ。
ネットワーク上に必要なデータを集約し、どこからでも見られるようになって、社内の問い合わせが減り作業員の直行直帰が可能になった
「会社の中にあるデータを、すべてネットワーク上のハードディスクに蓄積しクラウド上にもバックアップを取るシステムを導入しました。現場の責任者なら、外部からこのシステムにアクセスして、クラウドストレージにまとめて入れたデータを閲覧できます」(田中社長)。「以前は、その日の仕事に関する情報を本社で調べて、紙にプリントして持って行っていました。仕事先からどれだけの料金を受け取ればよいのかがわからない時は、本社に問い合わせていました」(田中社長)。今は、クラウドストレージにある取引データを仕事先で参照できるようになっている。
情報の共有化については、以前から検討を進めていたことで、データの電子化もそれに合わせて行っていった。クラウドストレージと連動していなかったり起動が遅かったりしたため、現在のものに置き換えることを決断した。使いづらいツールをいつまでも使っていてはストレスが溜まるだけ。せっかく入れたシステムだからと引っ張ることなく、必要に応じて置き換えを選択することが、DXの有効利用には欠かせない。
「データを閲覧する時は、ふだんは手持ちのスマートフォンを使っています。監督として一日中、仕事先に行っていないといけない場合は、持参したパソコンで見てもらっています」(田中社長)。仕事先に直行して、仕事が終われば直帰する従業員も現れた。働き方の改革にもつながる施策だったが、田中社長の仕事の効率化にもつながっている。
従業員にはしっかりと休みをとってもらっているが、経営者は緊急に対応しなくてはならない仕事や、平日にやり残していた仕事を休日にこなすことがある。「共有化する前は、休日や夜に問い合わせがあった場合、会社まで出ていろいろと調べていました。今は、家からクラウドストレージを開いて必要なデータを取り出せます」(田中社長)。事務的な仕事も、家に持ち帰ったノートパソコンでネットにアクセスし、必要なデータを取り出して作業できるというわけだ。
クラウドストレージには役職によって閲覧制限を設ける 外部からの違法アクセスにもファイアウォール構築で安全性を確保
ちなみにクラウドストレージには、「現場責任者ならここまでの情報が見られる」といった閲覧制限を付けて、仕事に直接関係のない情報が見られないようにしている。外部からの侵入に対しても、UTM(統合型脅威管理)の仕組みを取り入れ、ファイアウォールをしっかりと構築して、取引先の情報が漏れ出さないよう気を配っている。
「お取引先様からはクリーニングを請け負っているだけで、内部機密まで持っているわけではありませんが、施設の中に入って仕事をしている以上、安心して利用していただけることが大切です」(田中社長)。セキュリティシステムを構築し、データの漏洩(ろうえい)に注意を払っている企業だと感じてもらえれば、任せてみようと考える新たな取引先も出てくるだろう。
現在の同社は、大手企業や地元の有力企業を取引先に持って、業績は堅調に推移している。新型コロナウイルス感染症の流行時も、クリーニングに出向いている施設は長期間の操業停止とならず、年間通して1割ほどの減収で済んだとのこと。逆に衛生面の強化を意識する取引先から、除菌の依頼を受けて即座に対応することで信頼を得ていった。今後もそうした取引先との関係強化に努めるが、一方で新規顧客の獲得も目指している。
ホームページでは項目ごとに事業を紹介しクリーニングの「ビフォー」「アフター」も載せて技術力の高さをアピール
そこで意識しているのが、ホームページを通した事業内容のアピールだ。「良い掃除」を意味する「e-souji.net」のドメインを取得し、検索結果に表示されやすいようにした上で、トップに「エアコンクリーニング」「オフィス・店舗クリーニング」「ハウスクリーニング」といった事業項目を掲載。それぞれどのような仕事をしているかを画像付きで紹介している。また、「NEXT. SOLUTION to CLEANING」という言葉をトップ画像に重ねて表示し、クリーンな環境を演出する企業であることをアピールしている。
その下には、「熟練スタッフによるお掃除と素人アルバイトによるお掃除、どっちがおトク?」というキャッチコピーを置き、短時間清掃が可能であること、提示契約数が120社に上ること、その取引先に大手企業や医療機関などが含まれ信頼されていることを伝えている。
各事業項目の情報も充実させている。「オフィス・店舗クリーニング」では、床のクリーニングについて「ビフォー」と「アフター」の画像を並べ、どれだけきれいになったかがひと目でわかるようにしている。顔が写るほどにピカピカに磨き上げられた床の「アフター」の画像が、同社の持つクリーニング技術の高さを感じさせる。同時に、順を追ってどのような作業を行うかや、どれくらいの費用がかかるかも公開して、仕事を頼みたいと考えている相手を安心させようと工夫している。
「実際に、ホームページを見てクリーニングを依頼してくるところがあって役に立っています」(田中社長)。それだけに、ホームページの維持と改良は常に考えていて、もっと紹介事例を増やしたり、どのような作業を行っているのかを見せたりして、世間に仕事ぶりをアピールしていく考えだ。
情報の共有化を進め、ホームページ充実で新規獲得を目指す さらにスケジュール管理や勤怠管理で効果的な仕事の進め方を模索していく
情報の共有化で従業員の働き方を効率化し、ホームページの拡充で営業面の強化も進める。今後の課題のひとつにスケジュール管理の一元化がある。現在は責任者が従業員のおおまかな配置を把握し、そうした責任者の動きを経営側で確認している程度に留まっているが、「誰がどこにいて何をしているかくらいは把握できるようになれば、もっと効率的に人を動かせるようになるのではと考えています」(田中社長)。
勤怠管理も検討課題だ。本社については、タブレットに出退勤を入力してもらうようにしているが、取引先に通っている従業員については、現場でタイムカードに記録してもらい、それを集めて集計する作業を今も続けている。パート従業員などは勤務時間が決まっているため、給与計算もそれほど複雑にはならないが、何十人もいるとやはり作業に手間がかかる。
加えて同社では、「もう少し人を増やすことで、より大きな規模の仕事を獲得できないかと考えています」(田中社長)。従業員が増えていけば、その管理にかかる手間も増えていく。会社が大きくなっていく上で必要なDX投資を決断するタイミングにあると言えるだろう。
2021年10月に田中氏が社長に就任し、本格的な代替わりを進めていく上で取引先の拡大と従業員の確保がやはり必須。そこに、業務の効率化につながる情報の共有化であり、会社の認知拡大につながるホームページの拡充といったDX戦略で挑んでいく。
企業概要
会社名 | サンユービルメンテナンス株式会社 |
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住所 | 群馬県前橋市元総社町929-18 |
HP | https://www.e-souzi.net/ |
電話 | 027-252-2771 |
設立 | 1974年10月 |
従業員数 | 40人(パート社員含む) |
事業内容 | 定期清掃全般、日常清掃員派遣、一般住宅清掃、貯水槽清掃、雑排水管清掃、空調機器清掃 |