国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)

目次

  1. 野心的な温室効果ガスの削減目標、地球温暖化に貢献
  2. ラッピング車を発案、SDGsアピールのために街中を走らせる
  3. BCP対策でソフトウェア導入 大災害後も持続可能な経営を実現へ
  4. 「関東一円で何でも仕事を実行する」社名に秘められた創業者の思い
  5. 社員あっての会社 資格取得を支援 年3回の賞与も
  6. ICTでごみの分別方法を的確に伝える
中小企業応援サイト 編集部
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脱炭素社会に向け、企業の持続可能な取り組みが注目されている。一般・産業廃棄物の収集運搬業、有限会社関東実行センター(栃木県小山市)は、日本で約600社しか認証されていないSBT(科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標の設定)を2023年12月に取得。さらに、クラウドを活用して災害時のバックアップ体制を強化するなど、サステナビリティ経営の実現を目指している。(TOP写真:関東実行センターの随所に「信用を築くは一生 無くすは一日 日々精進しよう」という社訓が目に入る)

野心的な温室効果ガスの削減目標、地球温暖化に貢献

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
「SDGsは現代社会に欠かせない」と話す山本久一代表取締役

山本久一代表取締役は創業者の父、二代目の兄の教えを受け継ぎ、「社員の生活を守る」という信念でサステナビリティ経営に努めてきた。その一つが2023年12月に取得した中小企業版SBTだ。SBTとは、2015年に設立され、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるために、科学的根拠に基づいた温室効果ガス排出削減目標の設定を企業に働きかけている国際的な目標基準。環境省によると、世界全体の認定企業は3,487社でこのうち日本企業は601社(2023年9月時点)。日本企業のSBT認定数は年々増加している。

山本社長は、足利銀行から熱心に勧めがあったことと、栃木県や小山市がカーボンニュートラルに力を入れていたことから取得に踏み切った。2030年の目標値で、温室効果ガスの総排出量を基準年(2021年10月から2022年9月)と比べて42%削減する目標を掲げた。削減目標を達成するために、社用車のハイブリッド車、EV(電気自動車)への入れ替えや、太陽光発電設備導入による排出量の削減などを行う。

削減目標を達成するための設備投資など費用負担もあり、経営面では厳しい目標値だ。「お客様でSBTを理解してくれる人はまだ少ない」(山本社長)という状況ではあるが、サステナビリティ経営が顧客との信頼関係の構築につながるという考えに揺らぎはない。

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
関東実行センターが所有する作業車

ラッピング車を発案、SDGsアピールのために街中を走らせる

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
SDGsアピールのため街を走る関東実行センターのラッピング車 地元のキャラクター、「おやまくま」が特徴のラッピング車

関東実行センターは2021年6月、とちぎSDGs推進企業に登録。(1)二酸化炭素排出量を増やさない(2)休業4日以上の労働災害の発生ゼロ(3)健康経営優良法人の継続認証などを重点的な取り組みとして掲げた。同年12月には、SDGs(持続可能な開発目標)をアピールするラッピング車を導入。このアイデアは山本社長が発案し、小山市公式キャラクター「おやまくま」を活用したデザインを採用した。国際規格の環境マネジメントシステムのISO14001や労働安全衛生マネジメントシステムのISO45001も取得している。

BCP対策でソフトウェア導入 大災害後も持続可能な経営を実現へ

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
事務所の風景 迷惑メール対策が万全になり、社員は安心して作業できるようになった

サステナビリティ経営のもう一つの柱はBCP(事業継続計画)対策だ。長男で取締役社長室長の山本翔也氏(31歳)は、社内データの保管方法について紙媒体からクラウドへの移行を進めていた。ちょうどそのタイミングで、システム支援会社からデータをクラウドにバックアップするソフトウェアを紹介された。このソフトウェアは、パソコンやサーバー内にあるファイルの変化を検知して、瞬時にクラウド上でバックアップを行う。

社内ではこれまで、廃棄物収集車両の回収ルートや、廃棄物の排出量・請求関係資料・マニフェストなどのデジタルデータをコピーしたものを紙媒体で保存していた。大災害時にデータが紛失、破損すれば、「今まで積み上げてきた信頼を含めてすべてがなくなってしまう恐れがあった」(山本取締役)。そこで、ソフトウェアの導入により災害時のバックアップ体制を強化。さらに、不正アクセスを遮断するファイアウォール、パソコンなどの端末へのコンピューターウイルスの感染を防ぐアンチウイルスなど様々な機能を併せ持つ「UTM(統合脅威管理)」も導入し、BCP対策は万全となった。

山本取締役にとっては、マルウェア対策になるメリットも魅力的だった。社内では迷惑メールなどが一時期からかなり増えており、とくに共有のメールアドレスからの迷惑メールが多く、社員はメールの消去を含めて大変な思いをしていたという。導入後は、迷惑メールフォルダに入るため、安心して作業ができるようになった。

「関東一円で何でも仕事を実行する」社名に秘められた創業者の思い

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
社訓の額縁  事務所では社訓が額で飾られ、理念の共有に役立っている。銅像は創業者の故・山本了照氏

山本社長の父、創業者の故・了照さんは戦後、中国・満州から九州、東京、栃木と移り住んできた。「東京から栃木県小山市にオート三輪で商売をするためにやってきた」(山本社長)という苦労人だ。1954年に山本商店を開業し、精米店、古物商など手広く商売をした後、1970年に関東実行センターを設立した。その後、タンカーの船員だった兄が2代目に就任。山本社長は2014年から3代目として経営を担っている。

現在、会社の売上高の約9割は官庁関係。山本社長は「会社を盛り立ててくれた父、兄のおかげ」と感謝する。社名の「実行」には、関東一円で何でも仕事を実行する、という父の信念が込められている。「父からは、仕事を受けた時、すぐに『できません』ではなく、よく考えろと教えられた」(山本社長)。依頼内容が難しくても、どうやったら実行できるかを真摯に考え、やり遂げることで信頼関係を構築してきた。社訓「信用を築くは一生 無くすは一日 日々精進しよう」と書かれたのぼりは、駐車場やその他の場所にも設置され、従業員が毎日見ることで企業理念が共有されている。

社員あっての会社 資格取得を支援 年3回の賞与も

山本社長も苦労を重ねてきた。高校卒業後の1978年に父の会社に入社。遊び盛りの10代から20代だが、新しい作業車両の導入や新規事業に乗り出すたびに、新たな技術取得のため既に使用している業者へ丁稚奉公のような形で派遣され、激寒の宮城県、秋田県でも修業した。休みはほとんどない仕事一筋の生活だった。たまに帰省すると、無口だった父の姿から「修業の成果を求められる」という圧力を感じたという。

言いたいことをぐっと胸に納めてきた若いころ。山本社長は「身内からの指導だからこそ我慢できたが、本当はもっといろいろなことをやりたかった。大学にも行きたかったしね」と振り返る。

苦労人の山本社長だからこそ、手塩にかけた若手社員がわずか数年で退職してしまうことに心を痛めている。関東実行センターには、フォークリフト、ショベルローダーの運転から、1級土木施工管理技士、し尿処理、下水道管路管理主任技士まで多くの有資格者が在籍する。社員には資格取得費用の補助をしているだけに、若手社員が辞めてしまうのは経営的な負担が大きいが、「社員あっての会社。社員の幸せ、生活を守ることが第一だ。残ってくれる社員のために続けるつもりだ」と考えている。

「ごみ収集は、土曜、祝日にも業務があり、祝日も回収はありますが振替の休みを提供するのではなく、休みでも出てくれる社員に休日手当の支給をしています。祝日の出勤の際にはお昼のおにぎりや飲み物等も支給しています」「働き方改革の実施のための取り組みとしては、一人ひとりの時間外の時間を管理しており、現在はタイムカードが紙であるため、集計も紙で行っているが、今後はデジタル化を検討し、時間外の管理も強化していきたいと思っています」と山本社長。

現在でも時間外の勤務が多い社員とは直接面談を行い、業務効率(機械的な)の問題なのか、人的な点なのかを把握して改善に努めているそうだ。有給休暇の取得についても、管理表を作成し、全社員が5日以上取得し、プライベートの充実やカラダのメンテナンスに役立てている。有給休暇の取得率が悪い社員には、直接面談する時間を設けて取得率の向上を促している。

「コロナ禍では、作業中でのマスクの着用や業務中だけでなく、家庭内においても予防に協力をお願いしたため、社員に対して、コロナ対策手当の支給を行いました」「また、賞与についても年3回で、夏と冬に加えて決算賞与を支給しています。こちらについても、会社の利益を生みだしているのは、働いてくれている社員の働きあっての利益です。その利益を社員へ感謝の意味を込めて決算賞与という形で3回目の賞与を支給しています」と山本社長は語る。

さらに、社員の健康維持をサポートするうえで人間ドックの費用補助や産業医との月1回の面談等を実施し、これが2023年には健康経営優良法人を取得できたポイントになっている。

国際基準のCO2削減目標導入、災害時のバックアップ強化でサステナビリティ経営を実現へ 関東実行センター(栃木県)
認定証 健康経営優良法人の認定証

ICTでごみの分別方法を的確に伝える

ICTと廃棄物処理作業をめぐっては、ナビゲーション機能の付いたごみ収集ルートの作成や、パッカー車(ごみ収集車)の積載量を瞬時に測定できるシステムなど、すでに実用化されている。山本取締役は「SDGsやごみの排出量の減量化のためには、3Rの活動や排出される方々に正しい分別の知識を理解していただくことが大切です。そこで我々にできることは、ごみを捨てる際の分別方法を的確に伝える仕組みやパッカー車の収集状況を把握するシステムを作るなど、サービスの質を高めることが必要だ」と語る。

現在、山本社長の生い立ち、事業への理念や想いをまとめた社史の編集が大詰めを迎えている。山本社長は自社の将来について、「古いものに新しいものを掛け合わせていくことで地域への貢献とビジネスの幅が広がる」と話す。山本社長の目指すサステナビリティ経営と山本取締役の柔軟な発想でのICT活用の相乗効果で、次の時代のリーダー企業になる姿が想像できる。これからの関東実行センターに期待したい。

企業概要

会社名有限会社関東実行センター
本社栃木県小山市大字外城157番地3
HPhttps://kantou-jc.co.jp/
電話0285-23-3026
設立1970年3月
従業員数86人(2023年3月末時点)
事業内容 一般廃棄物収集運搬及び産業廃棄物収集運搬、下水道維持管理業、土木建築業、貯水槽清掃業など