半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)

目次

  1. 創業者の引退に伴い、ワッティーの関連会社へ
  2. 電子制御盤製作や組立の強みを生かして大手企業の開発段階からの参加を目指す
  3. 生産管理のシステム化で、在庫管理や工場原価に関しての認識を新たにした
  4. 月1回、全従業員が参加する「品質会議」で不具合発生要因追及、再発防止 対策案提示はもちろん、品質保証維持の勉強会を実施
  5. 従業員数増加に対応し勤怠管理システムの導入と給与計算システムへの連携 電帳法の対応も進める
  6. 「社員全員が国家資格取得を」と自立型人材の育成を重視、女性活躍推進で「山梨クリスタルえるみん」に県内4番目に認定 きっかけはSDGs研修
  7. 自律した人材の成長とデジタル化への取組みを通じて「人と環境と新しい価値を創造する」
中小企業応援サイト 編集部
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株式会社韮崎電子は、半導体製造装置の設計・製造を主力とする山梨県韮崎市に本拠を置く電子機器メーカーで、制御盤設計・回路設計からケーブル加工、機器組立、基板実装までを一貫生産する技術力を強みとする。

2020年7月にワッティー株式会社(東京都品川区)の傘下入りしたことで、現在はそのシナジー効果を次の発展につなげることを経営目標に据えている。(TOP写真:韮崎電子の本社第1工場で半導体製造装置を組み立てる女性従業員)

創業者の引退に伴い、ワッティーの関連会社へ

半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)
22年12月完成 23年1月から本格稼働した 韮崎電子の本社第1工場

韮崎電子は1982年、創業者の井口民雄氏が個人事業として立ち上げた井口製作所が原点だ。1989年には有限会社韮崎電子として法人化し、当時は半導体製造装置が続々と製品化された時期で、大手企業と電気的な開発を手掛けるなどで1995年には本社工場(現在の神山工場)を開設した。その後も電子制御技術をベースに事業を拡大し、2006年に株式会社に組織変更した。 創立30年を過ぎ後継者問題は発生。ワッティー創業者の清水美知雄代表が韮崎市出身だった縁もあり2020年100%ワッティーの完全子会社となった。

親会社であるワッティー株式会社は熱事業部とセンサー事業部を展開しており 特に熱事業部は主に半導体関係の自社設計ヒーターやメカトロニクス等に強みを持っている。 韮崎電子が得意とする電子制御分野とのシナジー効果を期待したと推測される。

電子制御盤製作や組立の強みを生かして大手企業の開発段階からの参加を目指す

半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)
開発力を強化し、将来的には「取引先の開発段階からの参加を目指す」と話す韮崎電子の折居武彦代表取締役社長

韮崎電子は現在、ワッティーとの連携事業を加速する計画を立てている。大手半導体製造装置メーカーのプロセスエンジニアだった折居武彦代表取締役社長によると、「半導体製造装置の中で“熱”は非常に重要な内容で、ワッティーは装置に必要不可欠な熱制御を手掛けており、顧客からもその技術を重要視されている。韮崎電子は現在、その部分の製作・組み立てを協業として始めている」と言う。2024年についてはここまで1機種だった連携事業を2機種、3機種に増やす計画だ。当然、現在開発段階から業務を頂いているお客様には、より一層の積極的な提案型のアプローチでさらに強い信頼を得たいと考えている。半導体製造装置の大手でも電子制御系の開発要員は意外と少なく、専門的な知識を必要とする外注化の傾向が強い。そのため電子制御盤製作を得意とする韮崎電子は開発段階からの参加が可能と言う。

生産管理のシステム化で、在庫管理や工場原価に関しての認識を新たにした

半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)
資材部門の部品管理 (韮崎電子提供)

韮崎電子は、今まで製品を製作する事を優先するあまり、在庫管理などや工場原価を出すような管理は積極的に行ってこなかった。また日々変化する客先要求に対して製作に必要な部品など発注管理は 現場の判断に任せていた点が多く、各人のスキルに頼る事が多かった。

しかし、「現在は月毎に システムを使用してその管理を行えるようになってきた」 と折居社長は振り返る。これを可能にしたのは部品表管理(BOM)をベースにした生産・販売管理システムの導入で、在庫管理から生産管理、工場原価の損益計算書(PL)など各部門のデータを一元管理することを特徴としている。 折居社長は「システム導入に当たって 従業員には何のためにシステム化に取り組むかを半年ほど説明し続け、理解を得られるようになった。理解したらみんなの行動は早かった。現在は従業員全員が責任をもって 管理業務に対応している」と語った。

更に「まだまだ 目標とすべき点までには到達していないが、日々生産管理システムの有効性が発揮されている。 業界の動きが非常に速いため、月毎の締めは非常に重要であり会社運営判断が必要な場合もその効果がしっかりと出てきている」と手ごたえを感じているようだ。

月1回、全従業員が参加する「品質会議」で不具合発生要因追及、再発防止 対策案提示はもちろん、品質保証維持の勉強会を実施

半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)
月1回、従業員全員が参加する「社内全体品質会議」の開催風景(韮崎電子提供)

韮崎電子は品質保証維持に向けて月1回、従業員全員が参加する「社内全体品質会議」を実施している。当初は経営側主導で実施してきたものの、この1年程前からは従業員主導とし、社員に限らずパート社員やアルバイトにもトラブルの事例などを発表する場としている。品質の不備は誤った対応をすると会社そのものの存続を危うくする恐れすらあり、品質会議が果たす役割を重視している。 韮崎電子では品質管理部門をあえて組織化していない。 この品質会議をベースにして すべて技術/製造部門で不具合対策を行っており 不具合を出した部署自身が責任をもって常に対応する事を重要視している。

この品質会議にも不具合の発生の内容をシステム管理しており、項目別、顧客別に問題点をファイル化し、発表時にはその内容を会場内のディスプレイに映し出す。品質会議の後は、新たな取り組みとして親会社であるワッティーの知見者との交流を行いながらさらに原因追及を深堀して対策検討を行っている。

従業員数増加に対応し勤怠管理システムの導入と給与計算システムへの連携 電帳法の対応も進める

管理業務面のデジタル化はこの数年で加速してきた。数年前は80人程度だった従業員数は現在95人と2割程度増えており、それまで手書きやエクセルで対応してきた給与・勤怠管理の業務効率化に迫られた。手書きでの管理は書類がかさばるばかりで管理業務は非効率で、労働基準監督署の求めにも即座に応じることができない。さらに、従業員の残業時間も月末に集計するまで正確に把握できないといった課題があった。勤怠管理システムの導入によって「パソコンで勤怠管理の集計表を見て、月半ばに残業時間が多い社員に気づくと『仕事に無理はないか、困ったことはないか』と声をかけ、結果的に業務の見直しに繋がるケースもあった」(折居社長)。

従来は、勤怠管理の情報を給与管理システムに手入力していたが、入力時間だけでなく間違いチェックにも時間がかかっていた。勤怠管理システムと給与計算システムを連携し課題をクリアした。

また、電子帳簿保存法への対応として請求書、納品書、領収書、見積書、検収書、注文書などの証憑をクラウド上で一元管理できる証憑電子保存サービスを採用し、保管体制を確立し始めている状況である。折居社長は一連の管理業務のシステム化について「法対応などやむにやまれぬ面はあるにしても、システム化によって業務の効率化とスピード化を実現し、働き方改革を進めるチャンスと捉えている」と話す。

「社員全員が国家資格取得を」と自立型人材の育成を重視、女性活躍推進で「山梨クリスタルえるみん」に県内4番目に認定 きっかけはSDGs研修

半導体製造装置の制御盤設計から基板実装までの一貫生産の強みと自律型人材の成長で次なる発展へ 韮崎電子(山梨県)
装置の束線作業。韮崎電子は装置に直接配線せずに装置配線を平面に置き換えて作業する

目指すのは自立型人材の育成で、自分で気づき自分で考え、自分で活躍の場を考える人材を育てるため、社内研修はもちろん社外研修も実施し、社員の自己研鑽を後押ししている。それを最も表しているのが電子機器組み立て1級・2級、および職業訓練指導員の国家技能検定資格を取得するための社内研修で、「夏場に学科と実技の試験があり、少なくとも社員みんなが2級を取れるように受験を促している」(折居社長)。合格した場合は資格取得費用を会社が支援する。正社員が対象ではあるものの、全く電気関係のことを知らなかったパート社員が資格を取って正社員になったケースも多く、現在は指導をする立場で活躍している。

韮崎電子は従業員のうち30人程度はパート社員で、近くに住む女性が多い。そのため従業員の6割近くは女性が占め、資格を取得してエキスパートとして課長やグループリーダーを務める女性もいる。製造部門ではグループが現在6つあり、半分は女性がリーダーを務めている。

こうした取り組みが評価され、韮崎電子は2024年3月4日、山梨県から女性活躍推進に取り組む企業として「山梨クリスタルえるみん」に認定された。この認定制度は、女性活躍推進企業を認定する「山梨えるみん」の上位グレードとして2023年4月に新設された制度で、韮崎電子は県内で4番目の認定企業となった。

これにはシステム支援会社が実施した SDGs研修がきっかけになった。自立型育成は韮崎電子内では当たり前の事として認識されていたが、SDGs研修発表会の中で外から見ると「この会社(韮崎電子)は女性への制度や支援が非常に充実しているのでは?」という声があがった。経営陣としては、自分たちの社会的な企業価値を認識し、その良さをどう伸ばすかという、内在する企業価値を引き出す研修の目的であったが、SDGs研修講師からは女性活躍という点で高い評価を受けた。システム支援会社から山梨県独自の認定制度である「えるみん」への申請を勧められた。申請したところ認定に必要な5項目をクリアして「山梨クリスタルえるみん」に認定されたという経緯があった。

従業員全員が自社の価値を再認識しその価値をさらに高めるきっかけとなる出来事だった。

自律した人材の成長とデジタル化への取組みを通じて「人と環境と新しい価値を創造する」

韮崎電子は、業務のデジタル化や生産現場のシステム化、一層の品質向上によって事業環境を大きく変えてきた。またワッティー株式会社との協業や山梨県の「やまなし水素・燃料電池バレー」の構想に沿って、水素エネルギーの研究にも取り組み出している。

ただし、取引先からの定評もある機械化できないケーブルを機器に据え付ける配線といった手作業による技能に見合った品質や絶対納期を守る韮崎電子としての強みについては「創業者から受け継いだところであり、そこはさらに生かしていくのが私の仕事。今や古い言葉だと思われるが、特に品質管理につながる2S(整理・整頓)⇒5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ=指導)の徹底が重要で、1日1回か2回は工場を回る」と折居社長は語る。また「トラブルがあった時の即時報告、即対応はお客様の信頼をいただくためにより重要であり 『七転び八起き』の精神で取り組んでほしい、そうすることで従業員も会社も成長する」と語った。

可能な限り従業員の声を実現したいという折居社長は、「社員食堂が欲しい」という声を受け、食堂を直ぐに設置する事は難しいが 冷凍/冷蔵の宅配を食堂で温めて飲食できるサービスの提供を行う事を決めた

自立した人材の育成を通じて「人と環境と新しい価値を創造する」という企業理念に沿って、更なる成長の歩みを加速しようとする姿が見えてくる。

企業概要

会社名株式会社韮崎電子
住所山梨県韮崎市大草町若尾359-1
HPhttps://www.niraden.co.jp/
電話0551-23-2111
設立1982年1月
従業員数95人
事業内容半導体製造装置、液晶製造装置、ワイヤーハーネスの製造